第六十五話 第二回イベント10
第二回イベント、三日目続きです。
それでは、引き続き本作品をお楽しみください。
「いやぁ、大量大量!」
「翼竜のお肉がこんなに……今夜は焼肉ですね!」
「これで俺も翼竜装備の仲間入りかぁ……!」
「いい鉱石ですよ、こいつは!」
「いいスキル上げにもなった」
「新しい装備を考えるのはワクワクするぜ」
「ファンタジー鉱石キターーー!」
あれから大したトラブルもなく、今回の翼竜討伐と鉱石の採掘は無事に終了した。
討伐に参加したプレイヤーはみんな翼竜の素材を入手し、自分の武器の強化や新しい武器の作製に使うみたいだ。
翼竜と言えども竜には変わりないからね。そこらのモンスターの素材よりもいいものが作れるだろう。
採掘班の方は新しい鉱石を時間の許す限りこれでもかと採ってきたようだ。おかげで《採掘》スキルのレベルが上がったと喜んでいる。
この山脈で採れたのはお馴染み鉄鉱石に、新しい鉱石であるマギアリウム鉱石とミスリル鉱石。ミスリル鉱石は少量しか採れなかったみたいだけど、ようやく登場したファンタジー鉱石にみんなのテンションは爆上がりだ。
[素材・アイテム]マギアリウム鉱石 品質:B+
長い年月をかけて魔力が浸透した鉱石。ミスリル鉱石と相性がよく、黄金比率で作られた合金は魔力伝導率が引き上げられる。
[素材・アイテム]ミスリル鉱石 品質:B
魔法銀、聖銀とも呼ばれる鉱石。合金にすることでその力を100パーセント引き出すことができる。
あらゆる金属と合わせることが可能。
かく言う私も内心でかなりテンションが上がっていたりする。ミスリル鉱石と言えば、ファンタジー作品では魔力の通りがいい金属として有名だからね。
魔機人との相性もバッチリってわけですよ。まぁ、そのまま使うと強度がお察しレベルになるらしいので、合金で使うといいらしい。
新しい鉱石を使ってパーツを強化したい……ところだけど。
まずは悪魔に対抗するために搭乗型ロボットを作らないとね。
戦果は上々。あとは解放されたっていう工房が見つかればいいんだけど。
ま、それはとりあえずカンナヅキさんたちに任せて、私たちは休むとしましょう。
「ふむ。ミスリル鉱石がもっとほしいね」
「でもミスリルは少量しか掘れないんですよね?」
『んー、そこは回数を重ねれば行けると思う。同じように翼竜を倒して、鉱石を掘ってもらうだけだよ』
「採掘班がいるから武器も翼竜製のいいものにできるしね。みんなも文句はないはずだよ」
『それに戦い方も分かってきたっスからね。次はもっと効率よく倒せると思うっス』
「だな。もう少し武器が強くなれば翼竜とタイマン張れるってやつもちょくちょくいるし、そいつらの武器が強くなれば戦いが楽になるのは間違いねぇ」
「それでもミオン様には空で戦ってもらわなきゃいけないんですけどね……すみません」
『いいっていいって。あれ、結構楽しいし』
こう、私を倒そうと追ってくる翼竜を一匹ずつしとめていくのが結構気持ちいいんだよね。STGみたいな感じかな? まぁ、こっちはサーベルも使うんだけどね。
さてさて、ENもだいぶ前に回復したし、みんながよければもう一回戦いこうか。
そのことをみんなに伝えると、二つ返事でOKが返ってきた。
「やったるぞー!」
「もう少し鉱石がほしいな……」
「とりあえずギリギリまでは作ってやるから、まだ強化できてないやつはさっさと来いよー!」
「飯食ったやつから集合! 最適なPT組み直すぞー!」
みんなが二回目の翼竜討伐に向けて動き始める。
私はみんなの準備が終わるまでやることがないし、お喋りでもしてようかな。
『みんなは武器は大丈夫?』
「ふむ。私の分はあとで親方に作ってもらう予定だよ。今のこれでも十分に戦えるしね。むしろ、最近は親方の作る武器が前提なところがあるからね……無理に他の武器は変えられないよ」
「俺はミオンに作りなおしてもらったからなぁ」
「私もメインは魔法ですし……」
『俺も特にはっスね』
『私も特に更新する必要はないからねぇ』
「とりあえず、準備が終わったらもう一度、だね」
その後、もう一度ポップした翼竜たちをひたすらに狩りまくり、大量の翼竜素材・食材と、鉱石二種を手に入れることに成功した。
その時点で日が暮れかかっていたので、山脈区域のプレイヤーを拠点まで送り届けて私たちは大森林区域に戻ってきた。
帰りにもゴレオンが出てきたけど、パワーアップしたみんなの前では障害にもならず、経験値となりましたとさ。
『ただいまー!』
「おう、おかえり。まずはお互いの情報共有といこうじゃねぇか」
「どうやら大変なことになってるみたいね。こっちに座りましょう」
帰ってきた私たちを、既に戻っていたカンナヅキさんたちが出迎えてくれた。
みんなは各々の家に戻ったり、こちらに残った生産職プレイヤーに素材を渡しに行ったりしているようだ。
ヴィーンたちに先に戻っているように伝えて、私はカンナヅキさんとフルールさんの後ろをついて行く。
いつもの会議場についた私たちは、各々好きな席に座った。
「とりあえず、全ての設計図の解放おめでとう……で、いいのか?」
『設計図の解放が、封印の解放になっているんでなんとも。まぁ、ここまではこのイベントの既定路線だろうなっていうのが、みんなの意見ですね』
「だろうな。ここからなにをどうするかで、イベントポイントの増加量も決まってくるだろう」
「イベントポイントが見えないから、どんな行動がどれだけのポイントになってるか分からないのが辛いところですね」
『そこまで低い順位じゃない……とは思いたいですけどね。ま、ランキングのことは一回置いときましょう。それよりも、今はロボットです!』
「そ、そうだな? まずは翼竜討伐と鉱石採掘の話から聞こうじゃねぇか」
カンナヅキさんはインベントリから取り出したお茶を一杯飲んで話を進める。
翼竜討伐と鉱石採掘の話かぁ。特筆して話すことはないし、普通に報告でいいかな?
『まぁ、特になにかが起こったわけでもなく、誰かが死に戻ったりすることもなく、順調に終わりましたよ。休憩を挟んで二回ほどやったから、翼竜討伐の素材と食材は余るほど手に入れました!』
「つまり、翼竜の肉が?」
『食い放題です』
「いよっしゃあ!」
「いつも食べてるお肉より美味しいから、好きなだけ食べられるのはいいですね」
さすが翼竜の肉。すでに二人の心を掴んでいたみたいだ。
私も、早く食べられるようになりたいよ。
『あはは……次に新しい鉱石ですね。山脈区域で掘れる鉱石は三種類で、一つは普通の鉄鉱石です。残り二つが新しい鉱石で、一つがマギアリウム鉱石。もう一つが、ミスリル鉱石です』
「ミスリル……ついにきたか! それで?」
『はい。基本的にミスリルはそのものを使うより、合金にして使うのがいいですね。特にマギアリウム鉱石との相性がいいみたいです。ですが、ミスリル鉱石は掘れる数が少ないので、ロボットに使う分を考えるとあまり余裕はないですね』
「なるほどなぁ……しかし、ファンタジー金属ってのは夢が広がるな。ミオンがいなくても鉱石が掘れるならいいんだが……」
『それに関しては、今日でだいぶ装備も整ってきましたし、なんとかなるんじゃないかと思ってますよ。カンナヅキさんかフルールさんのどちらかが率いてくれるなら、安心です』
「それはいいことを聞いた。早速俺の装備も更新させてもらおう……と言いたいところだが、こちらの話もしなくてはな」
私の話が終わり、次はカンナヅキさんの話に移る。カンナヅキさんは今日は草原区域の扉の方に行っていたから、そっち側での話と、最後の封印と工房の話を聞こうか。
私はまだ、設計図の話しか聞いてないからね。
「設計図についてはもうある程度話してあるはずだから、あとで設計図のデータを確認しておいてくれ。で、この浮遊大陸の中心に現れたっていう最後の封印だがな。場所は草原区域で、大きさとしてはそこまで大きいもんじゃねぇ。大体10mちょいくらいだ」
『封印されてる本体の大きさがそれくらいって認識でいいんですかね?』
「だな。その悪魔の本体とやらは、分厚い結晶の中にいやがる。ただ、ところどころひび割れてるから、封印の外での干渉はそこからだな。元々封印とやらが緩んでいたんだろう」
『わたしもそう思います。カンナヅキさんが……というより、クラッドさんですか。クラッドさんが設計図を解放した時に悪魔は……あの女性はなにか言ってましたか?』
「ん、そうだな。まだ取り繕ってる感じはしたが、こっちを見下している感じで気分は悪かったな。斧をぶん投げたが透過して当たらなかったぜ……」
いやそんなことしてたんですかあなたは。
んー、実体はまだ封印の中にいるから、攻撃しても意味がないってところかな。
えっと、イベントは一週間で、今は三日目。悪魔が目覚めるのが七日目だとすると、猶予はあと三日と少しか。
その間になるべく戦力を整えて、来る日に備えろってことなのかな。
考え込んでいると、カンナヅキさんが「そうそう」となにかを思い出したように話し始めた。
「今まで探索してなにもなかった場所に、急に宝箱が現れたらしいんだ。中にはレアアイテムが入ってたってことで、草原区域の連中は宝箱探しに没頭してるぜ」
『宝箱ですか?』
「ああ。しかも結構分かりにくいところだったり、モンスターの巣があったりと、入手するのもそう容易いことじゃないみたいだ。中には謎解きみたいなのもあったらしい」
『ふむ。サバイバルも忘れるなっていうことですかね。宝探しがサバイバルかはどうかはともかくとして。悪魔の情報を聞けば、そればっかりになるでしょうし』
「かもな。一応今回のテーマはサバイバルだからな」
「もしかして、サバイバルっぽいことをしていればイベントポイントが貰えたりするのかしら?」
『それはありそうだけど……それで悪魔に対抗できなかったら元も子もないような気がする』
「どっちも頑張れってことかね。うちの連中も、草原区域の話を聞いて宝探しに出るやつが増えそうだ」
『あるかどうか分からない宝と、倒せば倒すほど、掘れば掘るほど得をする翼竜討伐……どっちに人が集まりますかね?』
「さあな。バトルジャンキーどもは言わずもがなだが、中には翼竜と戦えないやつらもいるしな。棲み分けはできてると思うが」
『ですかね。あと、解放された工房についてなんですけど』
「おお、忘れるところだったぜ。工房……作った本人たちからすれば工房ってことらしいが、場所としては簡単だ。大森林区域の扉の先だよ」
というと、最初に設計図を解放したあそこか。
確かにだだっ広い空間が広がってるなとは思ってたけど、フラグを踏んで解放されるタイプの場所だったみたいだね。
「まぁ、生産スキルと設計図を持ってればロボットのパーツが作れるようだな。俺たちは素材を持ってなかったからなんもできなかったけどよ」
『じゃあ明日の予定は、宝箱を探しつつ工房でロボット作製ですかね』
「俺はどうすっかな……宝箱探しの方でもいいし、翼竜討伐の方でもいいし……」
「じゃあ、私が翼竜の方に行きますよ。ギルマスは宝箱探しの方で」
「んじゃあそうするか。PKどもも大人しくなったし、ここに誰かがここに残る必要もなくなったからな」
どうやらこのイベントフィールドのPKをまとめていたのが私が空に放り投げたカナリアだったらしく、今では散り散りになっているという。襲ってこない限りは手を出さない方向で決めたようだ。
さて、話し合う内容はこんなもんかな。
『じゃあ、そろそろ行きますね。ちょっとやりたいことかあるので』
「おう。長々と悪かったな。明日もよろしく頼むぜ!」
「じゃあね」
『さよならです!』
私は会議場をあとにして、ヴィーンたちが先に戻っているであろう家に向かう。
道中同じグループにいた生産職プレイヤーと出会い、翼竜の素材が欲しいということで翼竜の素材と鉱石をトレードした。私としては鉱石素材の方が大事だからね。これで少量だけどミスリル鉱石が確保できたよ。
もちろん、報酬としてミスリル鉱石はもらってるけど、これはロボットに使う分だからね。自分用のミスリル鉱石が欲しかったんだ。
そんなことがありつつ私が家に戻ると、親方が一人でお茶を啜っていた。
『ただいま親方ー』
「おう。おかえり。随分と楽しくやってたみたいじゃねぇか」
『まあね。親方は明日は鉱石を採掘しに行くんでしょ?』
「おうともよ。新しい鉱石を手に入れねぇとな。あと、ロボットを作るのにも必要なんだろ? なら、いっぱい掘り出しておかねぇとな。ミオンは明日どうするんだ?」
私は明日は工房の確認と、その通り道で宝箱がないかを探すことを伝える。
「機材の確認は大事だな……あとは、実際に作ってみてどうなるか、ってところか。なら、余計にいっぱい掘り出さねぇとな」
『それでなんだけど、事前に新しい鉱石を試したいから鍛冶キット貸して貰えると嬉しいかなって』
「いいぞ。持ってけ」
インベントリからトレード画面を開き、親方から携帯鍛冶キットを受け取る。
おかえしにと、私は有り余ってる翼竜の肉などを押し付けた。
『ありがとう。はいこれ、お返しの翼竜のお肉とテール肉』
「おお! やっぱ肉と言えばこれだよなぁ! ご飯と食べてもよし、酒のつまみにしてもよしの万能食材だぜ」
『喜んでもらえてなによりだよ。じゃあ、ちょっとやってくるねー』
「行ってきな」
私は家の裏手に回り込んで、携帯鍛冶キットを展開する。さすがにこれを家のど真ん前で展開するわけにはいかないからね。
早速新しい鉱石、マギアリウム鉱石とミスリル鉱石を魔力を込めながら精錬してインゴットにしていく。
スキルレベルは足りているようで、特に失敗するようなことはなかった。レベル自体はガンガン上がってるんだけどね。
イベント中はスキル習得にデメリットがあるから、レベルがMAXになってもそのままだ。イベントが終わってから派生させよう。
手持ちの鉱石を全部インゴットに変えたら、次は翼竜の爪と牙をワイバーン・インゴットに変えていく。
くすんだ青色のようなインゴットを魔力を込めながら量産していき、ある程度作ったところで整形に入る。
整形には《パーツクリエイト》を使用して、ブラッドラインに似た頭部パーツを作っていく。
今装備しているブラッドラインのパーツと違うのは、マスクの下に女性のような顔があることだろう。この顔には生体素材である獅子の皮を使っている。
レオネルは、ゴレオンの頭を担当しているモンスターだね。単体で出てきた時に倒して、素材を回収していた。ゴレオンの素材は元のモンスターの素材よりも品質が悪いからね……そこは妥協できないところだ。
口は開閉可能にして、味覚を司る部分にはイノホーンのタンを使用している。
タン塩にしたら美味しそうな見た目だったけど、食材アイテムじゃなくて素材アイテムだったことから、酒飲みプレイヤーたちからのブーイングを浴びていた。
素材アイテムだったらと、こうしてパーツ作製に使っていたりする。
ちなみに口に入れた食べ物は、魔力結晶炉からエネルギーを引っ張って喉を通った瞬間に燃やすように作ってあるよ。さすがに食べ物をエネルギーに変えるとか、そういうのは作れないからね。
フリファンなら将来的に作れそうな気もするんだけど。
装甲はマギアリウムとミスリルの合金で、黄金比率にはなっていないけど、現状で今の頭部パーツよりも性能が高い。
さすがは新素材って感じだね。
あとは頭部パーツを入れ替えて、ツインテールユニットを取り付けて完成っと。
見た目はなんにも変わってないけど、食事をする時にはマスクがガシャコンと開いて、口が露出するようになっている。しかも、喋る時に口元がリンクするように作ったから、違和感もない。
いやはや、ようやく作れたよ。あとは、マノンとタクトの分も作ってあげないとね。まぁ、それは二人が戻ってきてからでいいだろう。
『あれ、ミオンさん家の裏でなにやってるっスか?』
『生産活動ですか?』
『お、いいところに来たね。ところで君たち。美味い肉は食いたくないかい?』
二人の目の前でギミックを作動させて、口元を見せる。
キラン、と二人の目が光った気がした。
『『食べたいです(っス)!』』
『よし、ならばスキル上げを兼ねて君たちの顔を作ってあげよう! 目の前で美味しそうにご飯を食べられる毎日とはおさらばだ!』
『『やったー!』』
『ほぅら、マノン、タクト。新しい顔だよー』
『『わーい!』』
二人の分の頭部パーツを作り終わった私は携帯鍛冶キットを畳み、家のなかでくつろいでる親方に返した。
えっと、今日の夕飯は翼竜の肉のステーキに、ジャングル・スパイダーの足肉のボイルか。
さてさて、今日の夕飯が楽しみだな!
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『『『…………』』』
「なるほど、口はそういう作りになっているんだね」
「……おい、肉を口に入れた途端固まっちまったぞこいつら。大丈夫か?」
「お口にあいませんでしたかね?」
「それとも味覚の機能がちゃんと再現されてなかったのか?」
「……いや、これは」
『『『〜〜〜〜っ、うっまぁぁぁぁぁい!!!』』』
人生で最高の夕飯が食べれました。いや、マジで。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞ、お楽しみください。




