第六話 初めてのフレンド
基本的にはこれくらいの文章量になりそうです。
本作がある程度進んだらもう一作品なにか投稿する……と思います。
そちらはロボットものとは関係の無い作品になりそうですね。
とんでもない素材をボス部屋の隠し部屋から手に入れてしまった私は、重い足取りでダンジョンを後にした。今はすぐにでもガレージに帰りたかったんだ。
このゲームではプレイヤーキルは推奨はされていないが禁止もされておらず、やろうと思えば誰でもできる。ベータテスターにもPK(プレイヤーキルを自ら行うプレイヤーのこと)が何人もいたらしく、最強のPKともなると攻略組のトッププレイヤーと同じくらい強いんだとか。ソースはいつもの兄さん。
プレイヤーキルの利点としては、キルした相手のアイテムを奪えること。ランダムではあるが、インベントリに入っている譲渡不可アイテム以外のアイテムの中から三分の一ほどがPKの懐に入るようだ。
まだサービス初日でPKはいないとは思うが、警戒するに越したことはない。ぶっちゃけて言えば今の私はカモがネギどころか金塊を背負って歩いているようなものだ。それくらいインベントリの中に入ってるものがやばい。
ダンジョンの入口であり出口である青い膜を通り過ぎ、外へ出る。キョロキョロと周囲を見渡すが、人影はない。よし、このままガレージを置けそうなところへ――
「ふむ? モンスターではなさそうだね。うん、プレイヤーかな?」
ビックゥゥゥゥ、と背筋が伸びる。心臓がバクバクと鳴り、冷や汗が止まらない。アバターじゃなくて、中の人のね。
慌てて声のした方を向くが、誰もいない。ど、どういうこと?
「ちょっと頭上がお留守じゃあないかい? えーっと……魔機人は性別が分かりづらいね。失礼だけど、君、男性? 女性?」
『あ、女性です』
「ありがとう。私は木の上だよ、お嬢さん」
澄んでいて、ずっと聞いていたくなるような美しい声。ハッ、と頭上を見上げると一際大きい枝の上に彼女は立っていた。
毛の一本一本が透き通るような金髪。宝石のように煌めくツリ目がちな瞳。美しいとはこの人の為に存在する言葉なのかと錯覚するほどの顔立ち。
首元には扇情的な鎖骨が見えていて、そこからストーンとした絶壁がよく見える。とてもスレンダーな体型をしていた。肌は色白で、黒っぽい色合いの革鎧との対比が素晴らしい。
なにより目を引くのは、美しい金髪から伸びる尖った耳。
私の目の前に現れたのは絶世の美女、エルフさんだった。胸は、絶壁だけど。
「ふむ。なにかとても失礼なことを考えてないかい?」
『いえ、そんな、滅相もありませんです』
「挙動不審だね……」
挙動不審なのはとんでもないアイテムを持ってるからです! なんて言えないしなぁ。
そんなことを思っていると、頭上からスタッ、と降りてくるエルフさん。結構な高さから降りたのに、平気な顔をしている。思ったよりステータスが高いのかもしれない。
このゲーム、ある程度高いところから飛び降りるとステータスとの対抗で高所ダメージが入る場合があるんだよね……。
「まあいいか。君に聞きたいことがあるんだ。そのダンジョンにどうやって入ったのかな?」
『? どうやってって、普通にですけど』
「……まさか。普通に入れるわけがないね。現に私がここにいる」
『?』
私が頭に疑問符を浮かべでいると、エルフさんは私の後ろを指さし……つまり、ダンジョンの入口を指さした。
「私もそこのダンジョンを見つけてね。入ろうとしたところ、資格がないと言われた」
『はぁ……』
私のその反応に肩を竦めるエルフさん。
エルフさんはその惚れ惚れするような美声で続けた。
「だが、君はそこのダンジョンから出てきただろう? つまり君は、このダンジョンに入るための資格を持っているわけだ」
『まぁ……そうなりますよね』
「君には、このダンジョンに入るための方法を教えて欲しいんだ」
『教えてほしいと言われても……』
「情報を秘匿したい、というのであれば、私も素直に手を引くよ」
『むむむ』
と言っても、本当に特別なことはしてないんだよなぁ。普通にモンスターを狩りながら歩いてたら偶然見つけて、そのままの勢いでダンジョンアタックしてたし……。
資格、資格ねぇ。中は近未来チックで機械的、ボスは古代のロボット、隠し部屋は魔機人の動力炉の生みの親の研究室のようなもの……。
もしかして、種族制限? あのダンジョンは魔機人しか入れない設定になっているとか。もしかしたらPTメンバーに魔機人がいれば入れるかもしれないけど。
『信じてくれるかはわからないけど、多分このダンジョンには種族制限がかかってる……と思う』
「ふむ? その根拠は?」
『エルフさんが入れなくて魔機人である私が入れたこと、かな。モンスターを狩る以外に特別なことはなにもやってないし、エルフさんもこの森のモンスターくらいなら沢山狩ってるでしょ?』
「ふむ……」
顎に手を当て、思案げな表情を浮かべるエルフさん。綺麗だし、絵になるなぁ。お胸は、あれだけど。
「では、少し私に付き合ってくれないか? 仮にそのダンジョンに種族制限がかかっていたとして、他種族が同じPTにいても入れるのか入れないのかが知りたい」
『んー、まあそのくらいなら大丈夫ですよ。エルフさんはPKってわけでもなさそうですし』
「まだサービス初日だぞ? そんな時期にPKなど……いや、有り得なくはないか」
『有り得なくないんだ……』
「ま、PK連中のことはいい。仮にダンジョンに入れなくても周辺で共に狩りでもしよう。申請を送るよ?」
『あ、はい!』
〈ヴィーンからPT申請が届いています。受理しますか?〉というメッセージウィンドウが浮かぶのではいをタッチ。すると、自分のHPゲージの下に新しくHPゲージが現れる。これはPTメンバーのHPゲージだ。
「おっと、自己紹介がまだだったね。私の名前はヴィーン。森と共に生きるエルフさ」
『私はミオンです。見ての通り、ロボットを愛しています』
「事前情報を得ていて尚魔機人を選んだ猛者か……ふふ、実力の方は期待できそうだね」
私はエルフさん改めてヴィーンさんと握手を交わす。本当は他のプレイヤーに会う前にこの錆び朽ちた装備をどうにかしたかったんだけどなぁ……仕方ないか。
『そうだ。ダンジョンに入る前に、そこに出してるガレージに寄っていいですか? ちょっと預けたいアイテムがあって』
「ふむ。別に構わないが、ダンジョンに入ったあとではダメなのかい?」
『モノがモノでして……一刻も早く倉庫にしまっておきたいんですよ』
「レアアイテムか……なるほど。PKを警戒していた理由がわかったよ。そういうことなら仕方ない。先にミオンの用事を済ませてしまおう」
笑顔で了承してくれるヴィーンさん。ヴィーンさんは見た目だけじゃなくて行動もよいエルフさんだった。
私は断りを入れてガレージの中へと入り、アーティファクトの残骸と魔導石、作成途中の魔力結晶炉を倉庫の中へと預ける。ふぅ、これでやっと肩の荷が下りた気がするよ。
ヴィーンさんは律儀にもガレージの入口で待ってくれていた。
「では行こうか?」
『はい!』
と言ったものの、結果はダメ。魔機人がメンバーにいてもあのダンジョンに入る事はできなかった。その後PTを解除して私だけが入れることを確認し、再びPTを組み直した。
そして十数回ほどモンスターの群れを狩り、現在は木陰で休憩をとっている。私は魔機人だから気にしてなかったけど、それ以外の種族には満腹度というステータスが存在していて、一定の行動で満腹度が減っていき、それがゼロになるとHPが減っていく。
満腹度を回復するためには食べ物を食べればいいので、今はその為の休憩というわけだ。ヴィーンさんが木に背中を預けながらご飯を食べていて、私は地べたに座り込んでいる。ここは森の中のセーフティーエリアになっていて、モンスターから襲われる心配がないからね。
「(もぐもぐ)狩りとは言ったが、ミオンもこの付近のモンスターは敵ではなさそうだな」
『あー、まあスキル上げの為にデストロイしましたから。もうほとんどスキルも上がらないし、要らないドロップアイテムだけが増えていきますよ』
「(ごっくん)私もこの森に入ってからは街へ戻っていないからな。私にとってもドロップアイテムは旨みがない。食べられるわけでもないしな」
『ヴィーンさんは食べ物はどうしてるんです? 街に出ないと食料を用意するのも大変だと思いますが』
「そこはエルフらしく、木の実や果物、食べられる野草などを採取している。さっき食べていたのは、街で買ったものだけどね」
『街かぁ……行きたいけどなぁ』
「ん? ミオンは私みたいにロールプレイをしているわけでもないんだろう? 行けばいいじゃないか」
『いえ、せめてこの錆び朽ちた見た目をなんとかしないことには街へは行けません。これは私の信念と言っても過言ではないのです』
「なるほど。君も大概難儀な性格をしているな」
『単に見栄をはりたいだけですよ。まあ、その為の道筋は既に見えていますから』
「ふむ……」
思案げに顎に手を当てるヴィーンさん。はぁ〜、スクショ撮りたくなるくらい綺麗だなぁ。お願いしたら取らせてくれるかな?
思わず目を奪われてしまう瞳が私に向けられる。機械の身体でよかった。生身だったら今頃顔真っ赤だよ。
「ミオンさえよければ、これからもPTを組み続けないか?」
『ふぇっ?』
「初期の魔機人にしては動きがいい。恐らく、君ほどにその使いづらい種族を使いこなせるプレイヤーもいないだろう。将来性も感じられる。なにより――」
『なにより?』
「――恥ずかしい話、私にはあまり友達がいなくてね。こんなに人と話したのも久しぶりなんだ」
と、手を差し出しつつ頬を赤らめさせて話すヴィーンさん。アンタ可愛すぎか!? そんな綺麗な顔立ちでそんな顔されたら本気になっちゃうよ! 私そっちの趣味はないのに!
「だから、その……友達になってくれると……嬉しい」
『はいッ! 喜んでッ!!!』
差し出された手を両手でがっしりと掴み、ブンブンと振る。私にとってもありがたい話だ。なんて言ったってこのゲームはVRMMO、一人で遊ぶより多人数で遊んだ方が楽しいに決まってる。
「ふふ、そんなに喜んで貰えるとは思わなかったな。では、ミオン。早速何をしようか?」
『そうですねぇ。とりあえずパーツ作成に使えそうな素材とヴィーンさんの装備に使えそうな素材を集めましょう!』
「そうなると生産カテゴリーのスキルが必要になるな。よし、なら私は《木工》と《伐採》でも取ろうか――」
『なるほど。じゃあ私は鉱石を集めるために《採掘》ですかね――』
ヴィーンさんとフレンド登録を行い、私たちは森を駆ける。私は錆び朽ちた装備からの脱却。ヴィーンさんは、よりエルフらしい装備の製作。
頼れるフレンドを得た私のフリファン生活は、まだまだ続く。
[所持スキル]
《魔機人》Lv.26(1up↑)《武装》Lv.25《パーツクリエイト》Lv.--《自動修復》Lv22《自動供給》Lv.12《刀剣》Lv.30(MAX)《鑑定》Lv.-- 《感知》Lv.14(1up↑)《直感》Lv.25(1up↑) 《敏捷強化》Lv.23(1up↑)《採掘》Lv.1(New)
残りSP42
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
続きもお楽しみください。




