第六十四話 第二回イベント9
第二回イベント三日目続きです。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
この地を襲ったという巨大な悪魔。
その悪魔についての情報は以下の通りだ。
どこからやって来たのかは定かではないが、ここではないどこかの浮遊大陸からやって来たのは間違いないだろう。
悪魔の名前はグレモリー。女性の姿をした悪魔だ。
この地を襲ったグレモリーは姿かたちを自在に変えることができ、戦闘時には巨大な女の姿を取る。
グレモリーは女への執着がすごく、狙った相手は必ず手に入れるとのこと。この地へはグレモリーが気に入った女を手に入れるために襲ってきたと言われている。
もしグレモリーがその女を手に入れていたとしたら、やつの姿はその女の姿になっているだろう。
ここに女の特徴を記しておく。もしいつかの時代にこの女と瓜二つの女に出会ったら、そいつがグレモリーだ。
なぜなら、これを読んでいる者たちがいる時代でその女は生きているわけがないからだ。
できることなら、そんな未来がやってこないことを切に願う。
著者、ルルリル・ララナーラ。
ルルリルという人が残したグレモリーという悪魔についての記述。
私たちが戦った悪魔は全員男だったけど、ここで出てくるのは女性の悪魔なんだね。
それにしても、女性の悪魔かぁ。
「……えっと、この女性って」
「ああ。間違いなくさっきまで映っていた女性だろうな。特徴が一致している」
「しかし、あれはホログラム映像だったはずだ。グレモリーと決まったわけではないのでは?」
シュヴァルくんの言うことも分からなくはない。
でも、この一文を忘れちゃいけないよね。
『いや、グレモリーは姿かたちを自在に変えることができるって書いてあるし、もしかしたらホログラム映像に変身したのかもしれない』
「そんなのあり!?」
『でも、本人は封印されてるはずっスから、やっぱりただの映像なんじゃないっスかねぇ?』
「一理ある。が、もしかしたら封印が解けかけていて、戦闘はできなくてもこの大陸を自由に行動すること自体はできるのかもしれないな」
「草原区域の扉をまだ開けていないのならば、映像かどうか確かめることはできるが……」
〈プレイヤー:クラッドたちにより古代の設計図③が解放されました〉
〈第11サーバーの全プレイヤーの生産カテゴリーで生産できるアイテムの数が増えました〉
〈プレイヤー:ミオンの《パーツクリエイト》で作れるアイテムの数が増えました〉
〈全ての封印を解放したため、大陸の中央に最後の封印が現れました〉
〈全ての設計図が解放されたため、工房の機能が解放されました〉
「……遅かったようだ」
『やっぱり封印だったかぁ』
「これって、私たちが封印を解いてたってことですよね……」
「しかし、封印を解かねば設計図は集まらないし、ここまでは既定路線だろう」
「むしろここからが本番だろうね」
『しっかし、プレイヤー側が設計図を集めずにイベント最終日を迎えたら、なにか起こったんスかね?』
「その場合は、悪魔が自然と目覚めてそのまま戦闘に突入……なんてこともありえそうだね」
『ま、たらればは気にしても仕方ないよ。とりあえず全員と情報を共有して、今後の方針を練らないと』
「どの道翼竜は狩らないといけないけどね。素材のために」
『ですよねぇ』
まあそのために集まってくれたプレイヤーもいるわけだしね。私としても、搭乗型ロボットは気になるから、作製のための素材もほしい。
結局これからやることは変わらない、かな?
『まずはここから出て全員に情報共有。そうしたら翼竜共を片っ端から狩るよ!』
「ふふ、楽しみだ」
これ以上この部屋で手に入るものもなにもないので、私たちは扉の外へと向かう。
そのままダンジョンを脱出し、外で待っていたプレイヤーたちと合流。詳しい内容は後で話すことにして、軽くなにがあったかを説明する。
そして、翼竜討伐は予定通りに行うことを説明した。
「なら、余計にさっさと翼竜を倒さねぇとな!」
「はっ。翼竜を一番倒すのは俺たちだ!」
「いいや、俺たちだね!」
「なに言ってんのよ。私たちに決まってるじゃない」
「いやいやいや、ミオン様が一番倒すに決まってるじゃないか」
「そうそう」
「でござるな」
そう言って張り合うプレイヤーたちに混ざっていく見覚えのある三人。ああ、あのコンビネーションのよかった三人だね。
なんでそこで私の名前を出すのかは分からないけども。
いやまあ、私自身倒せることは否定はしないけど……喧嘩はよくないよ?
「親衛隊か……いやまぁ、さすがの俺たちだってミオンさんに勝とうなんて思っちゃいないぜ?」
「ああ。あの人は殿堂入りだからな」
「私たちは常識の範囲内で張り合ってるだけだから」
「なるほど!」
「それなら安心です」
「でござるな」
おい。納得して安心するな三人娘。
私が常識の埒外にいる存在みたいになってるからね!
否定はしないけど、っていうかできないけど! 今までやってきたことがことだから!
でもまぁ、険悪な雰囲気にならなくてよかった。私一人の犠牲で済んだね……うん……。
私が内心でめそめそ泣いていると、ヴィーンに肩を叩かれる。
『ヴィーン……』
「さ、早く翼竜狩りに行こうじゃないか。その気持ちを全部翼竜たちにぶつけてくるといい」
『……そうだね。そうするよ』
このなんとも言えない気持ちは、全て翼竜にぶつけることにしよう。そうしよう。
私は頬をガチャンと叩き、みんなに指示を出す。
『お昼休憩をした後に、翼竜討伐に向かいます! 各自、準備を怠らないように!』
「「「おう!」」」
威勢のいい返事が返ってきたところで、休憩に入る。
私はご飯を食べる必要がないので、今のうちにカンナヅキさんとチャットを繋ぐ。
『お疲れ様です』
『おう、お疲れ様。しかし、俺たちが封印を解放してたとはな……』
『封印を解放しないと悪魔への対抗手段が手に入らないので、仕方ないですよ。私たちにできるのは、悪魔が完全に目覚める前にこっちの準備をどれだけ進められるかですね』
『とりあえず真ん中の封印と工房に関してはこっちで調べてみるから、翼竜と鉱石については頼むぜ。ちなみに設計図③には背部パーツとコックピットについてだったな』
『ほうほう。動力源はどうなってる感じですかね?』
『見てみたところ、搭乗者のMPを消費して動くらしいぜ。効率は品質しだいだとよ』
『じゃあ、動力炉があるわけじゃないんですね』
『みたいだな。ま、動力炉になりそうなものがこの浮遊大陸にあるとは思えねぇが』
『そこら辺の工夫はイベント終わってからですかねー。了解です。翼竜討伐と鉱石採掘が終わったら戻りますね』
『おう。頼むぜ』
カンナヅキさんとのチャットを終えた私は、みんなの休憩が終わるまでそこら辺に寝転んで英気を養っていた。
ご飯が食べられない以上、こうやって少しでも休んでおかないとね。目を瞑るだけでも疲れってのは取れるもんですよ。
みんなの休憩が終わったら、早速翼竜の住まう山脈へと足を進める。
頭上の翼竜の数は段々と増えてきていて、これ以上登ってくるなという意志を感じるね。
翼竜が襲ってくるかこないかのギリギリのところで止まった私たちは、改めて作戦とも呼べない作戦を説明する。
『さて、これから翼竜討伐を始めるよ。まずは私が上空に昇って翼竜のヘイトを集める。その後にみんなで翼竜の領域へ侵入。私にヘイトが向ききらなかった翼竜の討伐をお願いするね。もちろん、みなさんで倒せるだけ倒しておっけーです! そうして全員で翼竜を引き付けている間に採掘班が片っ端から採掘ポイントを掘っていく! なにか質問は?』
訊いてみるけど、特に質問はないようだ。
それじゃ、早速やりますかね。
私は改めて装備がF・ブラッドラインであることを確認する。
ヴィーンが録画開始したのを見て、私も録画を開始するよ。さて、どんな絵が撮れるのやら。
私は飛行形態にモードシフトし、スラスターを噴かせて空へと飛び上がる。
頭上の翼竜たちは急激に高度を上げる私を見て慌てて身構えようとしているのが見えた。でも、それじゃあ遅い。
翼竜たちが私に対して身構えた時には、すでに私は翼竜たちの頭の上。
自分たちよりも上にいられるのが嫌なのか、周囲の翼竜たちが慌てて私を追いかけ始める。
私は迫り来る翼竜の爪や噛みつき、尻尾の一撃を旋回して躱し、反撃とばかりにライフルの連射をお見舞いした。
さすがにライフルの連射だけでHPを削り切るのは現実的じゃないので、ウィングバレルも使用することにする。
翼に格納されている砲塔が動き、正面を狙う。旋回しつつ照準を合わせて……今!
発射された極太のビームが手傷を負っていた翼竜にぶち当たり、光の粒子に変えていく。
翼竜たちも今の攻撃をくらったらやばいことが分かったのか、さっきよりも早く、鋭く攻撃を仕掛けてくる。それでも、このブラッドラインには届かないよ!
バレルロールで翼竜の追撃を躱し、減速して翼竜の後ろを取る。そのまま極太のビームを撃ち込み、アイテムに変えていく。
……む、今度は二匹同時か。フレンズはまだ使いたくないから、腕を伸ばしてサーベルでも使おうかな。
二匹が突っ込んでくるタイミングを読んで、ライフルをしまいサーベルを抜き放つ。
手首に格納されていたサーベルがギュインと刀身を伸ばし、翼竜の首を落としていく。やっぱり生物系のモンスターだと急所があって楽だなぁ。一部効かないモンスターもいるけど。
再びライフルに持ち替えて翼竜とのドッグファイト。基本的に一対一を心掛けてるから、ピンチになることはないね。しかもなぜか周りの翼竜が集まってくるから、ヘイトコントロールもしなくていいし。
チラッと地上の方を見てみると、戦況はプレイヤー側が優勢のようだ。
基本的に一PTで一体の翼竜を相手にしていて、絶対に無理はしない。倒したあとも一度周りのPTの様子を確認してから次の翼竜との戦闘に入るようだ。
いのちをだいじに、だね。
ショートライフルで削り、サーベルや極太ビームで翼竜を倒すパターンで何体もの翼竜を屠っていく。
そして倒した数が三十体を超えた頃、私の周囲から翼竜がいなくなった。
おや? と思った私は人型形態にモードシフトし、周囲を見回す。
地上では未だに戦っている場所はあれど、すでに戦い終わっているPTがちらほらと見える。
なんとか無事に終わったみたいだね。
私はふぅ、と一息ついて、翼竜のリポップに備えることにした。もしこれで気を抜いて、採掘班がリポップした翼竜に襲われでもしたら嫌だからね。最後まで気は抜かないよ。
私はもういいだろうと、そっと録画終了のボタンを押した。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




