第六十三話 第二回イベント8
第二回イベント三日目です。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
第二回イベント三日目の朝。
ベッドから起き上がった私は、寝るのに邪魔だったパーツ類を装備し直してリビングへと向かう。
リビングに繋がる扉を開けば、そこには私以外の全員が朝食を食べていた。
もちろん、食べ物を食べる必要がない魔機人であるマノンとタクトは、テーブルから離れて各々作業している。
『おはよー』
「やあ。おはよう」
「おはようさん」
「おはようございます」
『おはようございます!』
『おはようございますっス』
今日のメニューはジャングル・スパイダーの足肉ボイルに、翼竜のステーキ。
ボイルはともかく、朝からステーキは重くないのかと思うところだけど、さすがはゲームの中。朝はそんなに食べられないと言っていたヴィーンでさえ綺麗に平らげている。
ちなみにジャングル・スパイダーの足肉はカニの足と同じような味わいらしく、カニよりも旨みが詰まってて美味しいらしい。
見た目があれだから敬遠されてたっぽいけど、今ではその味を知ったプレイヤーたちに乱獲されているようだ。美味しいものは正義だね。
「さて、ご飯も食べたことだし早速向かおうか」
『おっけー。親方たちはどうするの?』
「そうだなぁ。俺らは設計図と素材が届くまでやることねぇからなぁ」
『あ、じゃあボスの素材渡すからなにかしら作っておいて。このまま死蔵させるのは勿体ないし』
「おお。俺からしたらありがてぇが、ミオンは使わねぇのか?」
『虫の素材はちょっとねー。虫型のロボットとかなら全然いいんだけど、リアルのはちょっと。武装に使うならいいけど、身体には使いたくないなぁって』
「なるほどな。じゃあ遠慮なく使わせて貰うぜ」
『あ、なら俺のも渡すっスよ。俺もこの素材は使う予定ないので』
「助かるぜ。新しい素材はいくらあっても足りねぇからな。おいアル。さっさと飯食って行くぞ!」
「お、親方! そんなに急かさないで……ああ、行きます! 行きますから!」
新しい素材にインスピレーションが湧いたのか、アルを連れて家を出ていく親方。アルは残っていたステーキを全部口に放り込んで親方に引っ張られて行った。
残ったマノンは、今日は他のPTに誘われているらしく、この後スキル上げを兼ねた狩りに行ってくるそうだ。
「さて、行こうか」
『はいっス』
『おー』
家を出た私とヴィーン、タクトは集合場所である一際大きい建物の前に向かう。
今日は向かうのは山脈区域だ。頭上を飛ぶ翼竜はなにもしなければ地上にいる私たちを襲っては来ないけど、その分周りの敵も強いらしい。
ま、強いっていっても第一陣の戦闘職プレイヤーならなんの問題もないらしいよ。数は少なくて単体で動くやつらが殆どみたいだ。
第二陣でもパターンさえ覚えれば囲んで倒せるんだとか。攻撃力が足りなくて時間がかかるらしいけどね。
そんな山脈区域に行くのは扉を開けられるであろうぬんぬんさんのいる私が率いるPTに、私たちが設計図を手に入れた後翼竜に挑むPT。
そして、翼竜が他のPTと戦っている間に採掘ポイントで採掘をするPTだ。
翼竜を倒さんと立ち上がったのは、翼竜の肉の味にすっかり虜になってしまったプレイヤーの皆さんです。中には普通にトップ層のプレイヤーが混じってたりするので、死に戻る心配はないだろう。実力は申し分ないからね。
そのPTが計十PT。全てのPTが最大人数なので、翼竜と戦うプレイヤーはおよそ六十人となる。
採掘するプレイヤーは計三PT。最大人数で十八人となる。結構な大所帯だ。
私たちはまず山脈区域の拠点を目指し、そこで醤油差しさんたちと合流。
山脈区域から何PTか翼竜討伐に合流する予定だ。
翼竜討伐は設計図を手に入れてからなので、最初に私たちのPTが扉を解放。設計図を手に入れたらチャットで連絡して、討伐開始だ。
私は翼竜と空中戦をすることになるけど、ヴィーンやルフさんたちも地上で翼竜討伐に参加するようだね。
まぁ翼竜ならヴィーンとルフさんがいれば倒せるだろうし、ぬんぬんさんやシュヴァルくんたちのスキル上げや勉強にもなるかな。
共に山脈区域へ行くプレイヤーたちと合流した私たちは、寄ってくるモンスターを蹴散らしつつ山脈区域の拠点へと向かう。
しばらく歩き山脈区域との境い目が近付いてきた辺りで、私はみんなに戦闘準備をさせる。さ、ここの門番はなんじゃろな?
「GRRRRRRR」
唸り声を上げながら出てきたのは、背中から翼を生やした、獅子の顔を持つゴリラの身体を持ったモンスターたち。翼は既に退化しているのか飛ぶ気配はない。
翼には鋭利な鉤爪がついていて、二本の逞しい腕と共に振るわれるであろうことが想像できる。
うーん、これもキマイラの一種なんだろうか。それともただのキメラなのか……分からない時は《鑑定》スキルに相談だ!
[モンスター・キメラ]ゴレオン
大昔に造られた人造モンスターが野生に適応した姿。
獅子の頭とゴリラの身体、ワイバーンの翼を持つことからそれらの名前を取ってゴレオンと名付けられた。
一見とても強そうに見えるが体内の構造バランスが悪いため、元々のモンスターよりも弱くなり製作者に捨てられた。
それでも、強靭な腕と鋭い鉤爪の一撃は強力。
お、おう……なんかすごい可哀想なモンスターだな、こいつら。
それでも、私たちの前に出てくるなら容赦はできない。
『腕と翼に注意して戦って! 姿を見てビビってる人もいるかもしれないけど、あれ、こけおどしだから気にしなくてもいいよ! 翼竜の方が強いから!』
「「「おう!」」」
『非戦闘員は少し後ろに下がっててね! 自衛くらいできるわ! って人はよろしく!』
「「「任せとけ!」」」
『みんないい意気だね! さ、みんなの力を見せてくれ! 総員、戦闘開始!』
「「「おらぁ、死にさらせぇ!」」」
プレイヤーの振るう剣と、ゴレオンの振るう鉤爪がぶつかり合い、火花を散らす。
なぜだか士気の高いプレイヤー陣は、複数人でゴレオンを囲んで一匹ずつ処理して行った。
私も両手にサーベルを持って戦ってるけど、確かに翼竜よりは弱いね。見た目だけは強そうなのに……。
「ミオン様が見てる! ミオン様が見てくれている!」
「滾るぅ! 燃えるぅ! 濡れるぅ!」
「ぬんぬんに負けるなでござる! あと濡れるのは止めておいた方がいいでござるよ!? BANされても知らないでござるからな!」
あの一角、第二陣のプレイヤーなのに第一陣顔負けの活躍をしている。三人のコンビネーションが凄まじく、ゴレオンになにもさせずに倒してるね。
……でもぬんぬんさんもそうだけど、どうして私のことを様付けで呼ぶのかな?
まぁ、別にどう呼ばれてもいいんだけどさ。悪い人たちじゃないっぽいし。私がちょっと恥ずかしいだけで。
「うおおっ、危ねぇ! 今耳元掠ったぞ!?」
「でも迫力はあるけどさ、そんなに痛くないよな」
「まあな」
「いや、俺しか戦ってねぇじゃねぇか! お前らも戦えよ!?」
「「うぃー」」
確かにぶっとい腕を振るわれるとビビるけど、実際は私でも受け止められるくらいの力しかない。そのまま反対側のサーベルで腕を切り落として、怯んだところを首チョンパで終了だ。
鉤爪で襲ってきた時も同様で、サーベルで翼を切り落としてあとは同じ流れ。ぶっちゃけ弱い。
第二陣のPTでも余裕で倒せてるからね。まあ、区域を行き来するモンスターが強すぎちゃ意味ないの……かな?
それから三十分ほどでゴレオンの群れは狩り尽くされ、私たちは山脈区域へと足を踏み入れた。
山脈区域に出てくるモンスターはどデカい一本角が特徴的な牙もどデカいイノシシ、イノホーンに、俊敏な動きが特徴な獅子、レオネル。強靭な肉体で攻撃も防御も行うゴリラ、ゴリランドに、お馴染みの翼竜の四種類だ。
恐らくゴレオンの元のモンスターはレオネル、ゴリランド、ワイバーンの三体だろうか。
実際に戦ってみると、確かにレオネルもゴリランドもゴレオンより強い。
レオネルの素早さは想像以上で、あまりの素早さに第二陣プレイヤーでは攻撃が当たらないこともあった。
ゴリランドの肉体もゴレオンとは比べ物にならず、生半可な武器では傷を付けることもできなかったようだ。
でも、ゴレオンが失敗作ってことは、成功した個体もいるのだろうか。フリファンのことだから、成功個体はボスになってるとかありそうだよね。
実際、その三匹のモンスターのいいとこ取りをできるなら、かなり強いモンスターになるだろう。
襲ってくるモンスターを蹴散らしつつ、私たちは山脈区域の拠点に辿り着いた。
どうやら山脈区域の拠点は他の二箇所と違って、洞窟の中に造られているようだ。
洞窟の前で警備をしてしたプレイヤーに話を通して、中に入れてもらう。
山脈区域には拠点にできるような平地がなく、あったとしてもすぐに近辺のモンスターが襲ってくるという。だからこうやって洞窟を拡張して、拠点にしているのだという話だ。
確かに、あのモンスターたちに四六時中襲われるというのはきついものがあるね。特にここのモンスターは強いから。
そんな話を山脈区域のプレイヤーから聞きつつ、私たちは醤油差しさんのいる穴の前に案内された。
『これからしばらくはこの拠点でゆっくりしといて。あなたたちの仕事は、これからだからね』
「「「おう!」」」
『じゃ、解散』
翼竜討伐と採掘に来たプレイヤーたちは早速この拠点を見て回るようだ。知り合いがいるかもしれないしね。
残ったのは私のPTだけなので、みんなを連れて醤油差しさんの寝泊まりしているという穴へと入っていく。
「ミオンさんですか。ようこそ、山脈区域の拠点へ」
『どもども。それで、早速ですけど大丈夫ですか?』
「もちろんですよ。まず、こちらが扉の位置のマップデータになります」
『助かります』
醤油差しさんから送られてきたのは、この山脈区域のマップデータ。きちんと扉のある部分には印が付けられていて、とても分かりやすい。
扉のある場所に行くまでにはダンジョンがあるらしいけど、ボスは既に倒されてるからね。道中のモンスターは山脈区域のモンスターと同じくらいの強さだというので、まぁ問題はないだろう。
ちょうどいいからと、醤油差しさんのところで翼竜討伐と採掘に参加するプレイヤーがいないか聞いてみたところ、そこそこの人数のプレイヤーが同伴することになった。
それぞれ討伐隊に三十六人、採掘班に十二人だ。
翼竜討伐との戦闘では死に戻りが出るかもしれないっていう話はしてあるんだけど、どうやら掲示板で聞いた翼竜の肉を食べたいらしく、プレイヤーたちのモチベーションはうなぎ登りらしい。
大森林区域のみんなが翼竜の肉の味を語ってたっていう理由もあるみたいだけどね。
準備もそこそこに、私たちは扉のあるダンジョンへ向かうことにする。ダンジョンは洞窟タイプで、出てくるモンスターは麻痺の状態異常を付与してくるケイブバットというコウモリに、毒の状態異常を付与してくるケイブスネークというどデカい蛇。石化の状態異常を付与してくるケイブリザードというトカゲの3種類らしい。
当然魔機人には状態異常は効かないし、他の四人も状態異常をくらうほど弱くもない。
このダンジョンのモンスターは状態異常は強いけど本体の強さはそこまで強くないので、ぱっぱと倒して先に進む。
マップの通りに進めばすぐにダンジョンの終点に辿り着き、角の描かれた扉の前にやってくる。
『じゃ、ぬんぬんさんお願いね』
「むっふん。任せてくださいよぉ!」
鼻息が荒いけど大丈夫かな? 大丈夫だよね。うん。
ぬんぬんさんが扉の前の台に手を置くと、扉の角の絵が光り輝き、ゴゴゴという音と共に開き始めた。
無事扉が開いたことにホッと息をつき、私たちは扉の先へと足を進める。
中は私たちが解放した機械チックな内装ではなく、私たちが通ってきた道と変わらない洞窟のような内装だ。それでも、部屋の広さは設計図を手に入れた部屋と同じでかなり広そう。
私たちが中へと入ると、奥にオレンジ色の輝きを放つ球体が見て取れた。
その近くには、洞窟の内装に不釣り合いなモニターとキーボードが置かれていて、私たちが近付くと最初に設計図を手に入れた時のように女性のホログラム映像が浮かび上がる。
『また会いましたね、わ……新しき者よ』
『あら、てっきり同じようなことばがかけられるのかと……』
「でも今噛まなかった?」
『気のせいです。そこまで手抜きはしませんよ。しかし、一つ目に続き二つ目もですか……悪魔の手は早いですね』
「ふむ。そういえば醤油差しさんに悪魔の手先のようなモンスターがいたかどうか聞くのを忘れていたね」
『この部屋を守っていたのが、その悪魔の手先で間違いないでしょう。よほど設計図を解放されたくなかったのでしょうから』
「なるほど……?」
悪魔の手先が封印を解いていたのに、その悪魔の手先が部屋を守ってる……?
うーん、なんだろうこの違和感。とてつもない勘違いをしてる気がする。
『さて、そろそろ設計図を渡してしまいましょう。これを受け取りなさい。これで、あの憎き悪魔を倒してください。お願いしますね』
私が考えていると、モニターに胴部と頭部の設計図が表示される。その設計図におかしいところはない……はず。
私が設計図を《遠視》スキルで見ていると、女性の声が聞こえる。
『それでは、汝の歩む未来に幸があらんことを』
そう言うと女性のホログラム映像は消えてしまい、全体アナウンスが入った。
〈プレイヤー:ミオンたちにより古代の設計図②が解放されました〉
〈第11サーバーの全プレイヤーの生産カテゴリーで生産できるアイテムの数が増えました〉
〈プレイヤー:ミオンの《パーツクリエイト》で作れるアイテムの数が増えました〉
これで設計図は手に入ったかな。じゃああとはキーボードをちょちょっと操作してなにか情報がないか探してみますか。
みんなに少しだけ待ってもらうように言って、私はキーボードへと向かう。
前のところだと設計図を拡大表示させることしかできなかったけど、ここはどうかな……お、この地を襲った悪魔について?
『おーい、なんかこの地を襲った悪魔についてっていう項目があったんだけど』
「少しでも情報になりそうだし見てみようか。その映像だか文章だかは分からないけど、投写はできるかい?」
『できるよー。じゃあポチッとな』
私はキーボードを操作して、この地を襲った悪魔についての項目を選択する。それを空間に投写させ、私もその中身を見る。
……もしかしたらこの地を襲ったっていう巨大な悪魔は、結構やばいのかもしれないね。
そんな感想を抱きながら、私はその中身を見続けた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




