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第六十一話 第二回イベント6

第二回イベント、二日目の続きです。

それでは、引き続き本作品をお楽しみください。

 ボスである超巨大蟻を倒した私たちは、ボスを倒したことで現れた謎の扉の先を探索するために、消費したHPなどを回復しようと休憩していた。

 ちょうどいいタイミングだから、ドロップアイテムでも確認しようか。インベントリを開き蟻の素材を探す。


 私たちが倒したのは兵隊蟻と女王蟻で、兵隊蟻の素材は兵隊蟻の顎刃、甲袋、甲殻の三種類。女王蟻の素材は女王蟻の大顎刃、大甲袋、大甲殻の三種類だ。話を聞いてる限りだと、女王蟻の貢献度アイテムは蟻刃(ぎじん)双華終(そうかつい)という双剣カテゴリーの武器だそうだ。


 素材の話に戻るけど、顎刃は武器に使える素材で、第一陣からしたら物足りないものの、第二陣からしたら破格の性能を持つ武器を作れるという。

 甲袋、甲殻はどちらも防具用の素材で、甲袋は盾に、甲殻は軽装に使えるという。


 軽くて意外にも丈夫なため、第二陣の装備を整えるにはちょうどいい素材のようだ。

 ただ、今回は生産職プレイヤーはこちらには来ていないため、新しい武器や防具を作るのは一度拠点に帰ってからとなる。


 まあでも、簡単な補修くらいならできる程度に生産スキルを伸ばしているプレイヤーはいるので、応急処置程度なら問題ない。

 私も、シュヴァルくんのぼろぼろになったスネークソードをこの蟻素材を使って補修、強化していく。


 シュヴァルくんが使っていたのはアイアンスネークソードで、そろそろ買い換えようと思っていたようだ。この機会だから、顎刃を使って補修していこう。

 ルフさんが携帯鍛冶キットを持っているそうなので、ありがたくお借りする。スキルレベル的には私の方が上だから、PT(パーティー)分の補修は私がやろうかな。


 顎刃は虫の素材なのに、鉱石のように精錬することでインゴットにすることができる。アントインゴットとして生まれ変わったそれをシュヴァルくんが使っていたスネークソードの形と同じように成型していく。


 スネークソードの刃の部分を作ったら、次はワイヤー部分だ。ワイヤーの強度やしなり具合、長さなどでスネークソードの使いやすさが段違いに変わってくる。

 これには強度と柔らかさがいいバランスの甲殻と、とにかく硬い甲袋を少量使用することにした。

 それらをインゴット化して、シュヴァルくんのスネークソードのワイヤーを参考に精製していく。


 ワイヤーを完成させて、シュヴァルくんのスネークソードから持ち手を取り外す。その持ち手にワイヤーを取り付けて、ギミックを確認する。

 うん、問題なく動いてるね。じゃあこのワイヤーにさっき作った刃を通してっと。

 アントスネークソードの出来上がり!


『はい、どーぞ』

「……感謝します」

『いえいえ』


 アントスネークソードを受け取った時、シュヴァルくんの口元がわずかにニヤけるのが見えた。ふふ、喜んでくれてるようでなによりだよ。

 他にもルフさんの大剣も耐久値が減っていたので、翼竜(ワイバーン)の爪をワイバーンインゴットに精錬して補修する。


 スネークソードと違って特殊なギミックもないからすぐに作業は終わった。これで少しは戦力が上がるはずだ。

 私のEN(エネルギー)もある程度回復し、いよいよ扉の先へと向かうことになる。

 先行するのは私たちのPTとフルールさんのPT。残りのプレイヤーは拠点との連絡役や緊急時の交代要員などで、寄ってくるモンスターがいれば倒す役目を与えられている。


 扉の高さは2mちょいで、横幅は人が三人ほど並べるくらい。私はショートライフルを片手に扉に手をかける。隣ではフルールさんが同じく扉に手をかけていた。

 その後ろで、なにが起こっても大丈夫なようにルフさんたちが待機している。


「行きましょう」

『ええ。せーのっ』


 二人で力を入れて扉を開けた。

 外開きの扉はスーッと開いていき、私たちが扉を開けるのと同時に内部の照明に明かりが点きはじめる。

 やっぱりこの施設は生きてるんだ。となると、なにが残されているのか。


 ライフルと刀身を出していない状態のサーベルを構えながら中を進んでいく。見た感じの内装は黄昏の(トワイライト)戦乙女(・ヴァルキュリア)暁闇の(デイブレイク)戦乙女(・ヴァルキュリア)に似ている。

 機械チックな内装に慣れている私やタクトは特に思ったことはなかったけど、フルールさんや他のプレイヤーたちはこの内装を見て感嘆の声を上げていた。


「凄い……近未来的ね」

「この光景を見てると、剣と魔法のファンタジーな世界なのを忘れそうだぜ」

「でも、タクトくんたちは見慣れてそうだね?」

『そりゃまぁ、ギルドホームが戦艦っスから』

「そういえばそうだったね」

「それを言うと魔機人も謎だよなぁ。NPCでもいるって話だけど、見たことないぜ」

「ベータでは結構見たって話ですけどね」

『まぁまぁ。簡単に言っちゃえば、魔機人は自立型のゴーレムみたいなものだからね。大昔に作られたものではあるんだけど』

「ああ。だから最初があんななのか」


 みんなで雑談しつつもモンスターに備えて警戒は怠らない。

 通路は一本道で左右の壁面に時たま扉を見つけるものの、進入禁止区域なのか開くことはなかった。フレーバー的なものなのかな?

 しばらく進んでいくと突き当たりにロックされた扉があり、その手前には手を置けるような形の直方体の台が置かれていた。


「ふむ?」

『扉は……開かないね』


 ドアノブや取っ手などが付いていないのっぺりとした扉を押してみるけど、もちろん開くことはなかった。となると、やっぱりこの台になにかをして開けるってことかな。

 フルールさんがぺたぺたと台を触ってみるものの、なんの反応も起こらない。


「うーん……?」

「お、謎解きか?」

「しかし、謎解きとは言っても謎なんてどこにも書いてはいないぞ?」

『ミオンさん、触ってみるっスか?』

『え、私?』

「あー。ミオンさ……んが触ったらなにか起こりそうな気がします!」


 ぬんぬんさん、まだ私の名前のさん付けに慣れてないのね……。

 いやでも、私が触ったからってなにかが起こるとは限らないんだけど……。

 周りのプレイヤーを見てみると、私に対してなにやら期待するような眼差しを向けている。

 いやいやいや。さすがの私でも触ったくらいで扉が開くわけ――


 私が台に手を乗せるとピピッと台から音が鳴り、ゴゴゴという音を立てて扉が開いていく。

 無言でみんなを振り返ると、うんうんと頷かれていた。解せぬ。


「やっぱりミオン様は最高です!」

『ああ様付けに戻っちゃった……っていうかなんで私が触れたら開いちゃうの……?』

「まぁ普通に考えたら、魔機人(マギナ)だったからとか?」

「あー。この機械チックな感じとかそれっぽいよね」

『なんか納得したっス』

『いやいや、魔機人がいないとここから先に進めないって……』

「多分だけど、草原区域と山脈区域にも似たような場所があって、そっちはまた別の種族じゃないと開けられないとかありそう」

「特定の種族が触れることでしか先に進めない仕掛けがあるって言うのは、他の拠点のプレイヤーにも伝えておきましょう」


 フルールさんがチャットで誰かに連絡をする。その間に完全に開き切った扉の先を見てみると明かりが点いておらず、薄暗い空間が広がっているようだ。

 フルールさんのチャットが終わるのを待ち、フォーメーションを決めて扉の先へと進む。

 前衛は私、ルフさん、フルールさんのスリートップで、残りのメンバーは攻撃射程に応じた配置につく。


 私たちが中へと入ると、暗かった室内に明かりが点き、その全貌が見て取れるようになった。

 だだっ広い空間。高さはどれほどあるか分からないけど、目算で30mはあるのではないかと推測する。

 奥行きも100m以上はあると思われ、部屋の最奥にはオレンジ色の粒子を吐き出す大きな球体が鎮座していた。


 その粒子はキラキラと輝いており、さっきまではその輝きが見えていなかったことから、どうやら私たちが部屋の中に入ったことで起動したようだ。

 その球体の傍にはモニターと思われる液晶と、キーボードが置かれている。

 やっぱり魔機人が関わるとファンタジーが消滅してしまうのだろうか。私は内心で頭を抱える。


「へぇー。綺麗なものですね」

「でけぇな、あれ」

『モニターにキーボードって……完全にあれパソコンっスね』

「あ、じゃあもしかしたらこのイベント浮遊大陸(ファンタジア)についてなにか分かるかもしれませんね? さすがはミオン様です!」


 ああ、もう様で固定されちゃった……まぁ、いいか。

 でも貴重な情報源になるかもしれないっていうのは同意する。ひとまず、電源を入れてみようか。

 私たちが最奥で鎮座する球体に近付くと、ヴォン、という音とともに一人の女性の姿が映し出された。ホログラム映像だ。


『新しき者よ。あなた達がここに足を踏み入れているということは、ここの封印が解け、悪魔の手先が地上を蹂躙したあとなのでしょう』

「封印? 悪魔の手先?」

「ああ、もしかしてあの蟻のことじゃないか?」

「なるほど」

『確かに悪魔のように恐ろしいやつらだったっス』

『新しき者っていうのは、私たちプレイヤーのことでいいんだよね?』

「多分そうじゃない?」


 突然話を始めた女性の言葉を一言一句聞き逃さないように耳を澄ませる。後でログを見ればいいじゃん、とは言わないお約束。

 女性は、淡々とした口調で話を続けた。


『この浮遊大陸には、三つの封印が施されています。それぞれの封印を点とし、線で結ぶことで中心に眠る悪魔を封印していました。しかし、その封印が全て解かれると、伝説の悪魔が甦ってしまうのです』

「なるほど……つまりこのイベントの最後には、その悪魔とやらを倒さねぇといけねぇのか?」

「悪魔っていうと、第一回イベントの時に倒したボスも悪魔だったような?」

『そうそう。確か名前は、サブナック、ブエル、アンドラスだったっけ』

「その三体はソロモン七十二柱の悪魔ですね。となると、今回封印されているという悪魔もソロモン七十二柱の悪魔なんでしょうか?」

「分からないが……その悪魔とやらを倒さないと、サーバーランキング上位には上がれなさそうだな」

『ま、やるしかないってね』


 黒幕……ではないけど、最終的には倒さなきゃいけないやつの目星はついたね。もしかしたらだけど、イベントには悪魔が関わってくるのかもしれないね。

 第三回イベントの時にも悪魔が出てきたら、確定的だろう。


『その悪魔は非常に巨大で強力です。かつて悪魔を打倒せんと集まった英雄たちでは、相打ちで封印するので精一杯でした』

「……どれくらい大きいんだろうな?」

『私が戦ったサブナックは最後に巨大化したけど……非常に巨大で強力かと言われると微妙なところかもしれないね』

「それ以上の敵が出てくることも視野にいれておかないとか」


 女性の話は続く。


『私たちの力では、悪魔を倒すことはできませんでした。ですが、新しき者たちならば、かの悪魔を完全に滅ぼすことができるのではないかと、期待しています』

「つまり、悪魔を完全に倒すのが一番ベストってことだな」

「他の拠点の連中とも話し合わないとな……」

『せめてもの贈り物として、私たちが生きていた時代より昔時代の大天才、マギアーノ・クライスドーラが遺した設計図を渡します。私たちでは作り上げることができなかったそれを、あなた方なら作り上げられると、信じています』


 女性がそう言うと、さっきまで消えていたモニターに光が点き、なにかの設計図のようなものが表示される。私はそれを《遠視》スキルで見て……え、嘘、本当に?


『この世界の未来に、幸があらんことを』


 女性がそう言うと、空中に映し出されていた女性の姿が消え、全体アナウンスが入った。


 〈プレイヤー:ミオンたちにより、古代の(アンティーク)設計図(・プラン)①が解放されました〉

 〈第11サーバーの全プレイヤーの生産カテゴリーで生産できるアイテムの数が増えました〉

 〈プレイヤー:ミオンの《パーツクリエイト》で作れるアイテムの数が増えました〉


 古代の設計図①、ね。つまり、他の区域の封印のところにも同じようなのがあって、恐らく②と③があるはず。

 その全てを揃えるのが最低条件……かな。設計図を見てる感じだと。

 むしろ、全てを揃えないといけない。これは早々に他の区域の人たちに頑張ってもらわないとね。


「なにか解放されたな?」

「んー、スキル見てるけどイマイチ分からん」

「ミオン様、どうです?」

『とりあえず、あの設計図①とやらを詳しく見てみる必要がありそうだけど――』

「だけど?」


 首を傾げて聞いてくるぬんぬんさんに、《遠視》スキルで見えた設計図の一部を教える。そう、あれは。


『――あれ、パイロット搭乗型ロボットの設計図かもしれない』

「……へ?」


 ぽかんとした表情を浮かべるぬんぬんさん。それを聞いていた周りのプレイヤーも、信じられないようなものを見る目でモニターの方をガン見していた。

 第二回イベント、二日目はまだ終わらない。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

続きもどうぞ、お楽しみください。

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― 新着の感想 ―
[一言] ファンタジー世界観にSF叩き付けた現地人マギアーノ・クライスドーラという異形の天才www
[一言] 設計図揃っても、日数と材料が圧倒的に不足しそう。 まぁ、それ以上に生産スキルのレベルを要求値まで上げれるかどうか、ってのも鬼門(ミオン?とっくにクリアしてると踏んでます
[良い点] あーもう趣味に走っているなー 戦艦が変形はロマンですね
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