第六十話 第二回イベント5
第二回イベントの二日目続きです。
それでは、引き続き本作品をお楽しみください。
私がカナリアを空に放り投げた後に元いた場所に戻ると、そこは文字通りの蟻地獄になっていた。
ルフさんが中心になって三人に指示を出している。その指示は的確で、無数の蟻に襲われているのに未だに五体満足でいられているのがいい証拠だろう。
私は空中で人型形態に戻り、腕部パーツと武装を変えてうじゃうじゃと這い寄る蟻たちに砲撃する。放たれた光は地上の蟻たちを焼き焦がし、光の粒子に変えていった。
ルフさんたちは一瞬だけ頭上の私を見て、笑顔を浮かべながら再び蟻たちとの戦いに戻っていく。
うーん、ちょっと蟻の数が多すぎだね。スキルレベルがバンバン上がってるからちゃんと倒せてるのは間違いない。かといってこのままずるずると戦い続けるのは宜しくないね。
殲滅の手を緩めるのも悪手だ。それこそ無数に寄ってくる蟻たちに圧殺されてしまう。
私は地上に向かって砲撃を続けつつ、フルールさんにフレンドチャットを送る。
『あら、ミオンさんから連絡なんて珍しいですね』
『ちょっと大変なことになってね。フルールさんたちの方はどう?』
『んー、確かにそこそこの強さのモンスターはいましたが、それだけですね。それで、大変なことって?』
『なんて言ったらいいのかな。一匹一匹は弱いんだけど、無限に近い数の蟻たちが湧いてきててね……』
『えっと、確かそちらにはミオンさんのPTだけでしたか。六人でも厳しいんです?』
『残念。一人はPKだったから五人だね。しかも、その戦闘で私のENも結構使っちゃって。ぶっちゃけ二PTいても数の暴力で厳しそう。フルールさんやカンナヅキさんレベルの人が来てくれたら変わるかもしれないけど』
『分かりました。そちらの位置は分かっているので、複数PTをまとめて向かいます』
『助かるよ。それまでは頑張って耐えておく』
『お願いしますね』
フルールさんとのフレンドチャットを切り、私は少し高度を落とす。もう少し高度を落とさないと、フレンズたちが帰ってくる時の魔力が足りなそうだからね。
蟻たちから十分に離れている空中から、ビームによる援護を続ける。フレンズも使い、四人の負担を減らしていく。
目に見えて減っていく私のEN量を見て、そっとため息をつく。
『このままだと、私のENが尽きちゃいそうだ。せめてフルールさんたちが来るまでは持たせたいけど……』
ENの無駄をなくすためにも、蟻たちはヘッドショットで一撃死させることにする。胴体だと、二発必要な場合があるからね。なるべく消費量を抑えるようにしないと。
それと、四人に応援が来ることも伝えておく。そうすれば、終わりの見えない戦闘にも希望が見いだせるからね。
ENを節約しつつ蟻たちとの死闘を耐え抜く。しばらくすると、四人がいる方向とは別の方向に蟻たちが向かっているのが分かった。
上空から見てみると、蹴り飛ばされた蟻が宙を舞い、殴り飛ばされた蟻が木々をへし折る。どうやら、フルールさんたちが間に合ったようだ。
『四人とも、フルールさんたちが来てくれたよ!』
「やっとか!」
「もう少しの辛抱だな……」
「ミオンさ……んの攻撃はやっぱり美しい……」
『ぬんぬんがおかしくなってる!?』
「失礼ですね。これでも平常運転ですよ!」
「みなさん、無事ですか!」
どうやらまだ言い合いをするくらいの元気は余っているようだ。私はその様子に笑みを浮かべて(周りからは見えないけど)、四人と合流したフルールさんの元へと降りていく。もちろん、その前に周囲の蟻たちを殲滅するのを忘れない。
「相変わらずの強さですね、ミオンさん」
『もうENが空っ穴だよ。しばらくお休みをいただきたいレベル』
「ならみなさんはここで休んでいてください。さぁ、行きますよ!」
フルールさんはそう言うと手近な蟻の頭部に膝を入れる。膝の一撃を受けて頭が爆散した蟻は光の粒子に変わっていった。
……どうやったら格闘でここまでの威力を出せるんだろう。
フルールさんに率いられたプレイヤーたちはそれぞれの強みを活かして、前線を押し上げていく。
私のENが六割方回復した時には、既に蟻たちを巣の手前まで押し込んでいたようだ。
しかしその分蟻たちの抵抗も激しく、ここから先には進めないという。
休ませてもらったし、ここからは私の出番ですかね。
私はスラスターを噴かせて飛び上がり、蟻たちが守っている巣を視界に収めた。
私は両手でそれぞれのライフルを構えて、照準を合わせる。今度二つのライフルが合体して一つのライフルになるようなのも作ってみようかな。任務了解、的なね。
《遠視》スキルで標的たちを確認。プレイヤーが巻き込まれない位置を見つけて、ENチャージ後にトリガーを引く。
放たれたチャージビームは狙い通りに蟻たちに突き刺さり、多数の蟻を巻き込んで爆発する。
『今のうちに巣を!』
『突撃!』
広域チャットでぼうっとしているプレイヤーたちにフルールさんと一緒に指示を出し、巣の中をフルールさんたちに任せて私は巣に侵入したプレイヤーたちを追いかける蟻を潰していく。まったく、黒光りのGじゃないんだから、こんなにいなくてもいいと思うんだけどな!
プレイヤーたちが巣に侵入してしばらくすると、蟻たちの侵攻がピタリと止まる。
私はゆっくりと地面に降り立ち、ルフさんたちの元へと歩いた。
『お疲れ様』
「ミオンか。いや、助かったぜ」
『どういたしまして。で、どう?』
「俺の方はまだ戦えるが、三人は厳しいかもな」
二人で地べたに座り込んで肩で息をしている三人を見る。
シュヴァルくんのスネークソードは見ただけで分かるほどぼろぼろで、あと数回戦闘をしたら壊れてしまうんじゃないかと思うくらい。
ぬんぬんさんはorzの体勢でぜーぜー言っていて、防具がぼろぼろだからか妙に露出が多い。
周りの男性プレイヤーの視線が集まってしまうのは仕方のないことだろう。いい胸部装甲を持ってるぜ。
タクトは関節部を中心にバチバチと火花が散っており、限界を超えて頑張ったのだということか分かる。これは全体的に修理しないと戦闘は無理そうだね。
三人の様子を見て、しばらく戦うこともないだろうと戦利品の確認に入る。
あの蟻たちは兵隊蟻……ソルジャーアントという名前で、入手できた素材は兵隊蟻の顎刃、兵隊蟻の甲袋、兵隊蟻の甲殻の三つだ。
顎刃は武器の素材に使えるようで、素材としての質はそこそこ。第一陣だと物足りないかもしれないけど、第二陣にとっては貴重な素材となるだろう。
甲袋と甲殻は防具用の素材で、甲袋は盾に、甲殻は軽装に使えるんだとか。素材としてはかなりあまり気味なので(ひたすら倒しまくった私なんかは、三桁以上の素材がある)、価格もそこまで上がらないものと思われる。
しばらく三人が落ち着くのを待ちながらルフさんと雑談していると、フルールさんからのフレンドチャットが入った。
『どうしました?』
『緊急事態よ。ルフを連れて巣の中に来て』
『ルフさんだけですか?』
『戦力的にね。もう外には蟻たちはいないんでしょう?』
『了解です。ルフさんと一緒に向かいます』
『私たちは一番奥にいるから、できれば早く来てね』
そこでフルールさんとのフレンドチャットを終える。どうやら、結構な事態が起こってるみたいだね。
私はルフさんにチャットの内容を伝えて、すぐに巣に向かうことになった。
『三人とも、疲れているのは分かるけどここからは私たちがいないから、気をつけてね』
「向こうを片付けてすぐに戻ってくる。それまで死ぬんじゃないぞ」
三人は私たちの言葉に頷き、どうにか立ち上がる。とりあえず、三人は大丈夫そうかな。
「ミオン、さっきの飛んでた時みたいになれるか?」
『モードシフトのこと? パーツを差し替えればなれるけど……』
「なら、それで俺を巣の一番奥まで連れてってくれ。少しでも早くフルールの姐さんの元に行かねぇと」
『……持ち手なんかはないから、私の背中に立つかしがみつくかしてもらうけど、大丈夫?』
「おう。頼む」
ふぅ、と息をつく。確か、さっき見た巣の入り口の大きさは結構大きかったな。中もあれくらいの大きさなら、モードシフトしてもぶつかることはないか。
私はニッ、と笑いその場で腕部パーツを変更してモードシフトする。
『ほら、乗って。超特急で送り届けてあげるから!』
「ああ!」
ルフさんが背中に乗ったのを確認した私は、スラスターを噴かせて一気に速度を上げる。プレイヤーにぶつからないように加速させて、巣の中へ突入した。
巣の中は薄暗かったけど、魔機人の目には関係ない。途中で襲ってくるモンスターを全て轢き殺しながら奥へと進んでいく。
「ははっ、こいつはいいな。風になったみてぇだ!」
『そう? じゃあもっとスピード上げるよ!』
「どんとこい!」
ルフさんも大丈夫そうなので、さらに出力を上げる。回復したENを使い切るつもりでスピードを上げていく。ルフさんの言う通り、さっさとフルールさんのところに行きたいしね。
目の前に邪魔になりそうな大岩があったけど、ショートライフルの連射で岩を砕き、無理やり道を作る。
そうして飛ばすこと十五分。
私たちはとても大きな扉の前に立っていた。
その扉には荘厳な装飾が施されていて、明らかにボスのいる部屋だということが分かる。
……まぁ、その扉は開いてるんですけどね。
『って、ボス戦かよ!』
「ミオン、助かった。お前は少しENを回復してから来な!」
ルフさんは大剣を構えると、雄叫びを上げて扉の中に突っ込んでいってしまった。
さて、私はどうしようか。扉の外からだと中は見えない仕様になっているらしく、中の様子を窺うことができないので。んー、とりあえず中に入っちゃおうか。
私がゆっくりとボス部屋の中に入ると、そこでは超巨大な蟻と戦っているフルールさんたちの姿があった。超巨大蟻の周りには取り巻きと思われる先ほど戦った蟻よりも強そうな蟻が何匹もいて、複数のPTでそれらと対峙している。
ルフさんは一目散にフルールさんのところへ行き、その大剣で超巨大蟻の顎を弾いていた。
私が言うのもなんだけど、ルフさんも大概強いよね。牙狼とかの二つ名が似合いそうだ。
さて、飛ばしてきた分のENには足りないけど、少しは回復できたかな。ここからは私も参戦させてもらおう!
すぐさまパーツと武装を変更し、参戦を祝う祝砲の代わりに超巨大蟻の顔面に向けてチャージショットをお見舞いする。
「ギュイィィィィィィィィッ!」
視界外からの一撃は思った以上に効いたらしく、耳障りな叫び声を上げて頭を振った。お、ちゃんとHPバーも減ってるね。
撹乱のために私は空へと飛び上がり、超巨大蟻の周りを飛ぶ。ライフルでチクチクとしたダメージを与えながら、私にヘイトを集めていく。
視界の端をちょろちょろとしていたのが目障りだったのか、超巨大蟻の標的は私になったようだ。
超巨大蟻の口から黄色い液体が飛んでくる。それを余裕を持って躱すと、背後の壁からジュウ、となにかが溶ける音が聞こえてきた。
……蟻酸ってやつかな。てか、壁がドロドロに溶けてるんですけど。あんなのくらったらさすがのブラッドラインの装甲でもヤバそうだ。
いや、ヤバそうどころかあれ腐食属性の攻撃だよね? そんなの魔機人の天敵じゃないか!
蟻酸のお返しとばかりにビームのシャワーをくらわせる。重点的に目を狙ったおかげか、ビームの集中砲火をくらった左の目が潰れたようだ。
その好機をフルールさんが逃すはずもなく、のたうち回る超巨大蟻に攻撃を集中させた。
……フルールさん、その人の胴体よりもデカい足を引きちぎるとか、どんな力してるんですか。今のでHPバーががくんと減ったよ。
さて、私は今のうちに取り巻きの数を減らしておきますか。武装をショートライフルに変更して、ビームをばら撒くように連射する。
取り巻きの蟻たちはろくな抵抗もできないまま光に変わった。やっぱり上空からの攻撃は強いね。一方的だ。
やがて取り巻きたちは全て光に変わり、残るは超巨大蟻だけとなる。左目を失った超巨大蟻は変わらず私を標的にしているみたいだ。ま、その目奪ったの私だもんね。
右の視界まで奪うと手がつけられなくなりそうなので、超巨大蟻のヘイトをコントロールしつつ、武装をディ・アムダトリアとマギユナイト・ライフルに変えてダメージを与えていく。
急に飛んでくる蟻酸が厄介だけど、それ以外の攻撃は私には届かない。蟻酸も、よく見ていればくらうことはないからね。私としてはやりやすい相手だろう。
そろそろ飛ぶためのENが怪しくなってきたので、チャージショットで超巨大蟻の左側の足を撃ち抜く。フルールさんも足を引きちぎってくれて、左足がなくなりバランスの取れなくなった超巨大蟻が派手にすっ転ぶ。
私はマギユナイト・ライフルを左の肩にしまい、ディ・アムダトリアをサーベルモードに変更する。もちろん、リングで強化するのを忘れない。
強化倍率が下がったとはいえ、その力は健在だ。私は加速をつけて、超巨大蟻の頭に向かって飛翔する。
『【スパイラルブレイカァァァァァァァっ!】』
スラスターを駆使して回転を加え、アーツ名を叫ぶ。
一筋の光となった私は超巨大蟻の頭蓋を貫通し、そのまま地面に突き刺さる。
断末魔の叫びを上げた超巨大蟻が、そのHPの全てを失って光になっていく。
私はサーベルを消して地面に降り立ち、武装やパーツを元の状態に戻した。
ボス戦が終わり息を一つついたところで、フルールさんが駆け寄ってくる。
そして、その豊満なボディで私のことを抱きしめた。あの、機械だけど感触自体はあるんですよ……?
「ありがとう、ミオンさん」
『お礼を言われるほどのことじゃないよ。それよりも、あの、周りの視線があるから、離してくれると……』
「あ、あら、いけない」
顔を真っ赤にして離れるフルールさん。うん、可愛い。
どうやらそう思ったのは私だけじゃないようで、周りのプレイヤーたちがにやにやしている。それも、女性男性関係なく。
私もその様子ににやにやしたいところだけど、抱きしめられた時の感触が残っていて別の意味でにやにやしそうだ。
「それで、ここのボスは倒しましたけど……」
『ああ。どうやら先があるみたいだね』
私が入ってきた扉とは別の方向に、明らかに機械チックな扉が現れていた。超巨大蟻と戦っている時はなかったから、間違いなくイベントに関係ある場所に繋がってるんだろう。
中がどうなっているのか気になるところだけど、このまま進むわけにもいかないよね。
「どうします?」
『少し休憩してから向かいましょう。外にいる人たちも呼ばないと』
「なら、俺らが連れてくる。ボスを倒したとはいえ、道中にはまだモンスターが出てくるからな」
そう言ったのは、大剣を肩に乗せているルフさんだ。ルフさんなら人間的にも実力的にも適任か。
ルフさんたちに三人を含むみんなを連れてきてもらうことにして、私たちは休憩をとる。
私以外のプレイヤーはインベントリに入れてあった料理などを食べているようで、わいわいと賑やかな様子が伝わってきた。
さてさて、あの扉の先にはなにがあるのかな。
ここの運営のことだから、面白いものがある気がしてるんだけどね。
扉の先がどうなっているのか考えつつ、私はENを回復させることに専念した。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




