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第五十九話 第二回イベント4

イベント編二日目続きです。ちょっと長めです。

それでは、引き続き本作品をお楽しみください。

『それじゃ、さっさと行きましょうか!』


 草原区域から大森林区域に戻ってきた私たちは、みんなに話し合いの内容を伝えて早速動き始めることにした。強力なモンスターがいるかもしれないエリアを探すということで、私たちはバランスよくPTを組み直すことになった。


 フリファンの1PT(パーティー)は六人で構成されているため、どのPTがそのエリアに行っても死に戻らないようになるべく戦力を均等にしている。また、明らかに実力の足りないと思われる第二陣プレイヤーにはまた別の仕事があるという。


 私たち【自由の機翼(フリーダム)】の第一陣メンバーや、フルールさんなどのある程度の実力を持つ、戦力になるプレイヤーをPTリーダーとし、まだ実力に乏しい第二陣のプレイヤーを振り分けていく。

 私のPTには、私を含めて第一陣が三人、第二陣が三人という形になった。


 大剣使いの前衛で狼獣人のルフさんに、魔法攻撃をメインにしているけど、杖ではなく(こん)を使うエルフのカナリアさん。この二人が私と同じ第一陣のプレイヤーだ。

 ルフさんは最初は口数が少なかったけど、色々と話をしていたらいつの間にか笑顔で話に応じてくれるようになった。見た目は強面だけど、中身はとてもいい人だ。


 カナリアさんは物腰が柔らかく、余裕のある態度を崩さないお姉さん。だけど、時々上の空になるみたいで、たまに話しかけると慌てたような様子を見せるのが気になる。恐らく、誰かしらとチャットをしているんだろうけど……一体誰と連絡を取りあってるのだろうか。気になる。


 そして第二陣のプレイヤーは、全身を漆黒に染め上げた防具をまとっている人間のシュヴァルくんに、翼人と同じくらい珍しい種族の魔人のぬんぬんさん。そして、我が【自由の機翼】の新人タクト。


 シュヴァルくんは珍しい《スネークソード》スキルの所持者で、片手剣と鞭の特徴を備えた武器を使用している。近中距離は俺の間合いだ、とは本人の談だ。

 ぬんぬんさんは、魔法能力の高い魔人らしく魔法型なんだけど、魔法を武器の形に抑え込んで扱うEX(エクストラ)カテゴリーのスキル、《魔法器術(マギアフォーム)》というスキルを持っている。


 このスキルは自身が使える魔法をイメージした武器の形にすることができるらしい。あくまでも本体は魔法だから、武器カテゴリーのスキルを取らなくてもダメージは与えられるという。

 ぬんぬんさんの使える魔法の属性は水、風、光、闇の四属性だそうだ。なので、スタイルとしては後衛もできる前衛型とは本人の談。


 タクトは説明するまでもないけど、スーパーロボットのようなパーツを装備している。親方たちと相談しながら作っているようで、新人が作ったと言ってもバカにできない性能をしてるんだ。

 主な武器は腰のリアアーマーから取り出せる変形、ビーム式のバスタードソードに、ワイヤー巻き取り式のブーストパンチ。ライフルに相当する武器はマニピュレーターを腕部に格納することで使えるようになる。


 第二陣と言っても、すでにこれだけの実力を持っているんだから驚きだ。これは、私もうかうかしてられないね。

 頼もしい仲間たちと挨拶を交わし、強敵エリアを探しに出る。一応私が空を飛び回った時に怪しいと思う場所にはいくつか印をつけてあるので、そこを重点的に探していこうと思う。

 ちなみにこの情報は既に共有しているので、他のPTも同じように印の場所に向かっていることだろう。


 もちろんPK(プレイヤーキラー)などの不法者に拠点を荒らされるわけにもいかないので、防衛のための戦力も残している。もしかしたら敵対プレイヤーだけでなく、モンスターたちも襲ってこないとは限らないからね。拠点はセーフティーエリアってわけじゃないし。


 襲ってくるジャングルモンスターを適当に倒しつつ、私たちは歩みを進める。第二陣の動きも悪くなく、これなら何匹か翼竜が出ても大丈夫じゃないかな? ルフさんも翼竜ならソロで倒せるらしいし、私とルフさんでタゲを取れば鴨だとは思うんだけど。

 道中はモンスターと戦う以外やることもないので、雑談に花を咲かせる。

 私がぬんぬんさんを呼ぶと、ぬんぬんさんは震える声で話に応じてくれた。


「ミ、ミオン様……?」

『どうしたのぬんぬんさん。私のことはミオンでいいって言ったはずだよ?』

「いやいやいや。ミオン様と言えばフリファンで一番有名と言っても過言じゃないプレイヤーです! 恐れ多いってもんですよ……」

『んー、そんなに有名かなぁ。私よりも、ユージン兄さんやナインさん、カンナヅキさんの方が有名だと思うんだけど』

「もちろん極人(エクストリーム)時空の魔術師(クロニクルマジシャン)戦斧皇帝(アックスカイザー)の御三方も有名ですけど、滅神機姫(ルインプリンセス)も負けず劣らずなんですよ」


 ……そもそもその三人にそんな大仰な二つ名がついてたのが初耳なんだけど。チラッと他の第二陣の二人を見ると、二人ともうんうんと頷いていた。

 マジか……私ってそういう扱いだったんだ。うーん、これはからもう少し周りの目を気にした方がいいんだろうか。


 それでもミオン様って呼ばれるのは嫌だから、せめてミオンさんって呼んでほしいとお願いした。話しかけただけでぬんぬんさんはその場で平伏しそうな勢いだったけど、これはぬんぬんさんが特殊なんだよね……?


 んー、まぁ、自分が楽しんでこそのゲームだから、他の人に迷惑がかかってないなら今のままでいいのかもね。

 ただ、その二つ名だけはなんとかならないものだろうか。せめてもう少し柔らかい感じの二つ名がいいんだけど。


 そう思うと、【モフモフ帝国】のマスターズって戦斧皇帝と格闘女帝(ケンプファー)って二つ名なのか……うん、すごい強そう。実際に強いのは一緒に戦って分かってるけどね。

 しばらく歩くと、そろそろ印をつけた地点の近くまで来ていた。適度な緊張感を持ちながら進んでいくと、先行していたルフさんが足を止める。


「静かに。近いぞ」

『じゃあここからはPTチャットで行きましょう。どうです?』

『ああ。モンスターの臭いだ。この臭いからすると……虫系だな。うじゃうじゃいるぞ』

『虫系かぁ……』


 あまり苦手ってわけじゃないんだけど、人のサイズ以上の虫を見るとビクってなるよね。なんというか、言葉に表せない気持ち悪さがある。

 ルフさんの種族である獣人は他の種族よりも鼻がよくて、ゴーレムなどの無臭なモンスター以外なら臭いを嗅ぎ分けることができるんだ。

 慣れてくれば、臭いだけで大体の強さや数まで分かってしまうと言うんだから、他の特徴と併せていい種族だと思う。ちょっと使い方に癖はあるけどね。


『強さは……ああ、油断しなければ大丈夫だろう。ミオンに前衛を任せてもいいか?』

『もちろん。じゃあ前衛は私とルフさんのツートップ。中衛にシュヴァルくんとタクトで、ぬんぬんさんとカナリアさんは中衛よりの後衛でいこうか』

『異論はない』

『問題ありませんよ』

『が、頑張りましゅ!』

『了解っス!』

『中衛の二人とも、抜けていく敵は任せたぜ?』

『では行くぞ。スリーカウントだ。スリー、ツー、ワン……ゴー!』


 私たちは得物を構え、ルフさんのカウントに合わせて飛び出していく。

 そこは木々が少し開けた場所で、視界を埋めつくさんばかりの蟻の群れがいた。

 大きさはだいたい軽自動車くらいで、鋭い顎がギチギチと音を立てている。

 想像よりも体長が大きいのに一瞬だけビビるものの、蟻がなんぼのもんじゃいと気合いを入れ直す。

 まずは数を減らすことに専念しよう。


『ルフさん! いくらこちらが強くても数で圧倒される可能性があるので、ひとまず数を減らすことを優先したいんですけど!』

「頼めるか!? 俺には広範囲の攻撃手段がない! くそ、明らかに感じた臭いと数が違うぞ……!?」

『分かりました! ぬんぬんさん、悪いけどあの密集してる蟻たちに範囲魔法を……って、なにやってるの!?』


 サーベルで蟻の首を落としながら振り返ると、そこには見慣れぬ複数のプレイヤーに取り囲まれる()()の姿。そして、取り囲んでいるプレイヤーに指示を出しているのは、PTメンバーのカナリアさんだ。

 一体なにが起こってるの?


『三人とも、すぐ助けに……くっ、邪魔だ!』


 私が囲まれている三人を助けに行こうとすると、蟻たちのヘイトが私に集まる。それらを倒すために、止まらざるをえない。

 その間にも、三人を取り囲んでいるプレイヤーたちは三人に攻撃をしかけていく。いたぶるように攻めているし、三人とも弱いわけじゃないからしばらくは持ちこたえてくれるだろう。


 見たところ三人も必死に抵抗しているようだけど、取り囲んでいるやつらは第一陣のプレイヤーだ。いくら三人が特殊なスキルを持っていても、基本的な装備の質が違う。

 そこでふと、私とルフさんを囲んでいる蟻たちが、後ろへ抜けていかないことが気になった。

 三人を取り囲んでいるプレイヤーたちは、蟻のモンスターに構うことなく三人を攻撃し続けている。もしかして、あいつらにはモンスターが近寄らないのか?


「ミオン、一体どうなっている!?」

『分からない! でも、シュヴァルくんたち三人がカナリアさんと正体不明のプレイヤーに囲まれてる!』

「どういう……はっ、まさか、カナリアがそうなのか?」

『こっちはまるで理解できてないから、説明プリーズ!』

「カンナヅキさんからは、身内に不法者を手引きしているやつがいるかもしれないから気をつけろと言われていたが……」

『……なるほど。オーケー。アイツらがそうなのね』


 自分でも、私の声が冷たくなっていくのが分かる。

 恐らく、カンナヅキさんは不法者に繋がってるプレイヤーに気付かれないように色々やってたんだろうけど、こっちからしたらもう少し早くその情報がほしかったところだ。相談してくれれば、もしかしたら色々手伝えたのかもしれないのに。


 ……まぁ、多分だけど、私に情報を渡すと反応でバレると思ったのかもしれない。確かに私は隠し事とか苦手だけど……これはおしおき案件だね。

 カンナヅキさんのおしおきはフルールさんに任せるとして……この蟻たちをなんとかしつつ、三人を助けなきゃいけないわけだけど。

 ……やってやるぜ。これでも私、結構怒ってるんだからね!


「ほらほら、どうしたの? もっと抵抗してみせなさいよ! アッハハハ!」

「くっ、どうしてカナリアさんが……!」

『今はそんなことを考えてる場合じゃないっス。俺たちがやるべきは、なるべく攻撃を耐えて生き残ることっスよ!』

「で、でも、生き残ってもどうしようもないよ? ミオンさ……んと、ルフさんは蟻の相手で手一杯っぽいし……」

「それに、こいつらはまだ本気じゃない。カナリアだっている。とてもこの状況をひっくり返せるとは思えないが……」

『大丈夫っス。俺たちのギルドマスターは、仲間想いで、仲間のピンチには必ず駆けつけてくれるっス。そういう人だって、聞いてるっスから』

「ふふ、なにそれ……でも、うん。耐えるだけなら、なんとかなるかも」

「今はごちゃごちゃ考えずに生き残ることが先決か……死ぬなよ、お前ら」

『ヴァルに言われたくないっス』

「ヴァルくんも気をつけてね?」

「ふっ、俺を誰だと思っている。変幻自在のスネークソード使い、シュヴァルだ!」

「ガキが、なにごちゃごちゃ言ってんだよぉ!」

「カナリアさん、こいつら、もうやっちゃっていいんじゃないっすか?」

「まだよ。どうせ助けは来ないんだもの、もう少しいたぶってから殺しましょう?」

「げへへ、さすがカナリアさんだ」


 うっわ、カナリアさん……カナリアの表情が愉悦に歪んでいく。あれが本性ってわけね。道中で時々上の空だったのは、あいつらと連絡を取っていたからか。

 どうやら、タクトたちも持ちこたえてくれているみたい。それにしても、私ってそんな風に思われてたんだね……。なんだか恥ずかしいや。

 なら、その期待には応えないとね。私を怒らせたこと、骨の髄までたっぷりと後悔させてやるぜ!


 私は周囲を囲む蟻たちをショートライフルを連射モードにして一掃し、余裕を作って腕部パーツと装備を変更する。

 右手にはディ・アムダトリアを、左手にはマギユナイト・ライフルを構えた。その照準は、全て蟻たちに向けられている。

 また、背部のウィングから砲塔を伸ばして、その照準も蟻に合わせる。


『ルフさん、私の射線から退避してください!』

「分かった! ぶちかましてやれ!」

『軸線上の敵を一掃する! フル、バースト!』


 マギユナイト・ライフルのチャージショットに、ディ・アムダトリアの強化ビーム、ウィングバレルからの極太ビームが、迫り来る蟻たちに降り注ぐ。

 絶え間なく撃ち出されるビームの雨あられが、蟻たちの身体を貫き光の粒子に変えていく。


「な、なんつー火力だ……」

『……これでも、足りない!?』


 さっきから結構な数の蟻を倒してるけど、一向に減る様子が見えないね。もしかしたら近くに巣があるのかもしれないけど、今はその巣を潰してる余裕はない。

 今は結構な数を消滅させたから蟻の姿が少ないけど、またすぐに同じくらいの数になるだろう。それじゃ、三人を助けてる余裕がない。

 とうとうあれを使う時がきたね。


『ルフさん、ライフルで援護するんで、蟻たちの相手を任せていいですか!?』

「それはいいが……あいつらはどうするんだ!」

『それに関しては、私に任せてください!』

「……分かった。絶対助けてくれよ?」

『私を誰だと思ってるんですか。神をも滅した機姫(おんな)ですよ?』

「……ふふっ。そうだな。ああ、その通りだ。俺の背中と、あいつらのこと、頼んだ」

『任されました!』


 私の返答を聞くと同時に無限に湧き出してくる蟻たちへ飛び出していくルフさん。その身体が赤く輝いていることから、なにかしらのスキルを発動しているのが分かる。

 私は蟻を次々に切り伏せていくルフさんをライフルで援護しながら、イメージ固めていく。

 ……よし、行ける!


『フレンズたちよ、我らが敵を貫け!』


 私はウィングに装備された遠隔誘導無線兵器……フレンズを起動させ、射出していく。

 私のウィングは二対四枚。一枚につきフレンズを三基取り付けてあるので、合計数は十二基。

 その全てに極小サイズのゴーレムコアを搭載していて、遠隔操作を可能にしている。


 フレンズの内訳は、マギアサーベルの機能を持たせたソードフレンズが六基に、マギアライフルの機能を持たせたライフルフレンズが六基だ。

 フレンズは充電ならぬ充魔式で、一回のフル充魔でソードフレンズなら十分ほどサーベルの維持ができて、ライフルフレンズなら五回の射撃が可能。

 フル充魔にかかる時間は三十分くらいだけど、私やパーツのEN(エネルギー)を使えば即フル充魔が可能だ。


 射出されたフレンズたちは、三人を囲んでいるプレイヤーに攻撃をしかける。

 ソードフレンズにはまず相手の武器を重点的に狙わせ、ライフルフレンズには三人に攻撃をしようとしているプレイヤーを優先的に狙わせた。

 突然現れた謎の物体に、慌てふためく不法者たち。


「な、なんだぁこいつらは! 新手の魔物か!?」

「なんてこった、俺の武器が一瞬で壊れちまった……!」

「ぐぁっ、なんだこのダメージ量は!?」

「腕がぁ、腕がぁー!」

「一体なんなの!? モンスターなら私たちを襲わないはず……まさか!」


 瞬間、向こうの様子をチラ見していた私とカナリアの視線が合う。カナリアの表情は愉悦を感じていたそれから憎悪を滲ませた醜悪なものに変わっていった。

 いくら見目がよくても、肝心の中身があれじゃあ勿体ないよね。私はカナリアに向けて『ハン』と鼻で笑い、視線を切ってルフさんの援護に集中する。


 フレンズたちは思った通りに敵プレイヤーたちを蹂躙し、魔力が切れる前に私の翼に戻ってくる。

 ゆっくりと充魔している時間も余裕もないので、ENを流し込んで急速充魔させ、再び敵プレイヤーの嫌がらせに向かってもらう。


 第二陣の三人も好機とみて、取り囲んでいたプレイヤーたちを攻撃し、包囲に穴を開ける。私はフレンズで彼らを援護し、私たちの元まで連れてきてもらった。

 蟻との戦闘はまだ終わっていないので、みんなには申し訳ないけどルフさんの援護に回ってほしいと伝え、改めてカナリアたちに向き直る。


 フレンズたちによってカナリアを含めた十九人中三人が既に死に戻っており、四人が武器を全損。カナリア以外の全員も身体のどこかに攻撃を受けており、全くダメージを受けていないのはカナリアだけだった。


「貴女……よくもやってくれたわね!」

『やってくれたはこっちのセリフだよ、カナリア。私はすっかりとあなたの演技に騙されてたってわけだね』

「ええ、そうよ? うふふと笑っていれば物腰が柔らかくて笑顔の素敵なお姉さんになれるんだから、私ってすごいでしょ? 女優にもなれそうじゃない?」

『ま、その分今の表情と高低差がありすぎてびっくりだけどね。おばさん』

「お、おばっ……言うに事欠いてこの私をおばさん!?」

『ルール無用のPKに手を染めてるあなたなんかおばさんで十分だよ。ほら、そこにいる君らも。全員でかかってきなよ。それでも、勝てるとは思わないことだね』


 私はその場でパーツと武装を交換し、F(フリューゲル)・ブラッドラインに戻した。ああ、挑発ってやってみると結構楽しいもんだね。

 どうやらあちらさんは私の挑発に耐えきれなかったみたいだ。カナリアや付き従うプレイヤーたちはプルプルと身体を震わせて、血走った目で周りのプレイヤーに命令する。


「あのクソアマをぶち殺しなさい!」

「俺たちを舐めやがって!」

「ぜってぇ許さねぇ!」

『できるもんならやってみるといいさ!』

「減らず口を!」


 私はショートライフルを連射モードで固定し、迫り来る敵プレイヤーを片っ端から撃ち抜いていく。

 なんの抵抗もなく胴体に風穴を空けられたプレイヤーから順に、光の粒子に変わっていった。

 ライフルのENが切れたら、腕部パーツからENを供給する。腕部のENが尽きたら脚部から、脚部のENが尽きれば胴体からENを供給していく。


 そして私がライフルの連射を止めた時、そこにはカナリア以外のプレイヤーは立っていなかった。

 カナリアは指示を出した姿勢のまま、金魚のように口をパクパクとさせ、驚愕の表情を浮かべていた。


「な、な、な……」

『さて、残るはあなただけだけど……覚悟はオーケー?』

「の、ノーサンキュー!」


 脱兎のごとく私に背を向けて走り出すカナリアだけど、私があなたを逃がすわけがない。私はライフルを腰にしまい、その場で飛行形態にモードシフトしてカナリアを追う。

 スラスターで加速した私はすぐにカナリアに追いつき、腕だけを可動させてカナリアの身体をがっしりと捕まえた。


「は、離しなさい!」

『だーめ。離してあげない。さて、ここで問題です。このFreedom(フリーダム)Fantasia(ファンタジア)Online(オンライン)には落下ダメージは存在するでしょうか?』

「落下ダメージって……え、ちょっと待って、貴女まさか!?」

『私を怒らせたあなたを、ただ死に戻りさせるだけだと本気で思ってたのか、なっ!』

「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 私はカナリアを掴んだまま空へと飛翔する。スラスターを全力で噴射させて、イベントフィールドが一望できるくらいの高さまで飛び上がった。


「ああああああなたまさかこのまま地面に突き落とす気じゃ……!?」

『やだなぁ。そんなひどいことしませんよ』


 下を見ていたカナリアがぎゃーぎゃー喚いているけど、別に私はこのまま地面に叩き落とすなんて非道な真似はしないよ?

 このイベントフィールドだって浮遊大陸(ファンタジア)なんだから、空の旅を楽しむなら地面のないところに落としてあげないとね。


『というわけで、これから地面がある方とは反対側に投げ飛ばすので、今度私と会う機会が会ったらスカイダイビングの感想を教えてくださいね?』

「え、あの、その待って、後生だから、お願いだから待って――」

『空の彼方で反省しろぉぉぉぉっ!』

「いぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 私はなにもない空に向けて急降下し、そのままカナリアをぶん投げる。

 空に投げ飛ばされたカナリアは絶叫を上げながらどんどんと落下していき、やがてその姿は見えなくなった。


 ……ふぅ、スッキリした。これに懲りて悪質なPK活動なんて止めてくれるといいんだけど。

 ま、もし懲りないようなら同じことをやってやるまでさ。真っ当なPK活動……って言うとあれだけど、節度を持ってPK活動をしているプレイヤーに迷惑だからね。


 私は今も蟻たちと戦っているだろう四人の元へと急ぐ。その最中に、カンナヅキさんにカナリアが不法者を指揮していたこと、若しかしたら他にも仲間がいるかもしれない旨をメールで送るのも忘れない。

 さ、戻ってありんこ退治の続きだ!

ここまで読んでくださりありがとうございます。

続きもどうぞお楽しみください。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミオン(飛行モード)による「高い高い」から 自由落下による「他界他界」
[一言] 高所恐怖症だったらヤバいね(知りようがないが
[一言] 蟻達はトレインしてきやがったな(ʘᗩʘ’)蟻系はリンクしてゾロゾロ追ってくる奴多いし(-_-メ) 無双前提なら地球防衛軍で散々駆除したんだが(◡ ω ◡) まさか昨日の今日で更に悪質なPK…
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