第五十八話 第二回イベント3
第二回イベント二日目です。
それでは、引き続き本作品をお楽しみください。
みんなにとって楽しい楽しいBBQを終えた翌日。
朝も早いうちから集まった私たちは、今日の予定を確認するために会議を行っていた。
『……ごほん。で、今日は他の区域のプレイヤーたちのところに行くんでしたっけ?』
「ああ。掲示板経由ではあるが、草原区域の拠点と山脈区域の拠点のやつらと連絡が取れたからな。幸い草原区域との境い目に出てくるモンスターはそこまでの強さじゃねぇから、そこを突破して、草原区域の拠点で集まることになってる」
「できることなら草原区域の拠点にこの11サーバーのみんなを集めて、イベント攻略に挑みたいところなんだけどね」
「お前さんらを襲ったPK共や、他にもちょいちょい話の通じない奴らがいるからな。この拠点を空けるとそいつらが根城にしちまう可能性がある。それに、ここに建てた家々は動かせねぇからな。そんなやつらにここを使わせてやる義理もねぇってことだ」
『じゃあ、今まで通りここの拠点を使いつつ、少人数で草原区域の拠点に行くって感じです?』
「まぁ、そうなるだろうな。ここも結構な大所帯になっちまったってのもあるんだが」
確かに、昨日に比べてプレイヤーの人数が多い気もする。今回のイベントがどれくらいのサーバーに別れてるのかは分からないけど、私たちが11サーバーってことは少なくともこのサーバー規模の集団があと10個あるってことだ。
ちゃんと数えたわけじゃないけどここの拠点だけでも三百人近くいるはずで、仮に1つのサーバーにつき千人だと仮定しても第一陣だけで50個のサーバーが必要になるだろう。
もちろん、フリファンを遊んでいるプレイヤーの全員が参加してるわけじゃないだろうからそこまでの規模にはならないのかもしれないけど、それでもかなりの人数には違いない。
三百人近くのプレイヤーをまとめあげているカンナヅキさんは、やっぱりトップギルドのギルドマスターなんだなって思う。私じゃこうはいかない。
それで、草原区域に向かうメンバーには私も入っている。と言うより、私が行くのは確定だそうだ。
カンナヅキさんの話だと、私はここにいるプレイヤーの中で最も総合力に優れているらしい。オールラウンダーなロボを目指してる私としては嬉しい評価だね。
仮に翼竜クラスの敵に襲われても、私一人いれば問題ないと思われているようだ。いやまあ、翼竜くらいなら一度に五体くらい来ない限りはなんとかなると思うけど。一体ずつならカモだ。
そしてこの拠点を守るカンナヅキさんの代わりに、サブマスのフルールさんも同行してくれるそうだ。
格闘女帝とも呼ばれるフルールさんの近接戦闘はそれは凄いらしい。是非とも見てみたいものだ。
あとは草原区域に同じギルドのメンバーがいる人たちなどを連れて行くという。帰りは向こうから人を連れて帰る流れになりそうだね。
ヴィーンや親方は大森林でなにか怪しいものがないかを探すようだ。マップは埋まっても、実際になにがあるかは行ってみないと分からないからね。
個人的には失伝技術と呼ばれるなんかが見つかればいいかなって思ってる。
魔機人もその失伝技術の一つらしいし。あ、私たちの黄昏の戦乙女やセイリュウオーさんなんかもそれにあたるね。
まさか、このまま平和なキャンプ生活が続くとも思えないし……経過日数でなにかが起こるのか、それともなにかフラグを踏まないといけないのか。それを調べるためにも、フィールドの探索は急務と言える。
メニューからじゃイベントポイントは確認できないしね……どんな行動がイベントポイントに繋がるのか分からないけど、攻略に向かおうとする意志さえあれば大丈夫なはずだ。多分。
そんなわけで話し合いを終えた私たちは、食事を摂る必要のある人はご飯を食べて、それぞれのやることをやっていく。私はフルールさんたちと草原区域に向かうってわけだね。
道中のジャングルモンスターは出てきた瞬間に私のライフルに撃ち抜かれるか、フルールさんの拳や蹴りで爆発四散するかの末路を辿る。はっきり言ってしまえば、今ここにいるメンツの相手じゃない。
特にフルールさんの格闘はとんでもないの一言で、鋭い蹴りや拳が一瞬でモンスターに突き刺さり、気付いた時には爆散しながら光の粒子に変わっている。絶対にフルールさんとは戦いたくないね。
そんな、作業のような戦闘を続けていき、草原区域との境い目にやって来た。するとわらわらとどこに隠れていたのかと言いたいくらいの蜘蛛熊が現れる。
それら全ての目が血走っており、口からはドロドロとヨダレが垂れていく。しかもそのヨダレには腐食属性でも含まれているのか、触れた地面がしゅぅぅぅ、と溶けていくのが見えた。
……よし、殺るか。
「全員、構え! 数はすごいけど、案ずることはないわ。私たちには、神殺しの機神がついているのだから!」
「「「「「おおおおおっ!!!!」」」」」
ちょっと待ってちょっと待ってフルールさんや。その神殺しの機神ってのは私のことですかな!?
確かに滅神機姫とか言われてましたけど、別に本当の神を殺したとかそういうんじゃないんですけどね!?
プレイヤーたちの雄叫びに反応したのか、蜘蛛熊たちも咆哮を上げて突進してくる。強靭な爪がこちらを引き裂かんばかりに振るわれ、背中から生える蜘蛛足から動きを止めんと糸を吐き出す。
私は右手にサーベル、左手にライフルを持ってそれらと対峙する。飛んでくる糸はライフルで撃ち落とし、振るわれる爪はサーベルを振るうことで切り落としていく。
切られたことで痛みに声を上げる蜘蛛熊を、その隙をついて首を刎ね飛ばす。急所へのクリティカルヒットで一撃死だ。
ボス以外の生き物系のモンスターは、首を刎ねられればHPのほとんどを消滅させるし、心臓を突けばこれまた同じくHPのほとんどを消滅させる。まぁ、熊とかが首を跳ね飛ばされても動いてたら、それはもう違う種類のモンスターだろう。
一体一体を確実に処理していき、危ないプレイヤーがいればライフルで援護を行う。そして三十分もしないうちに、全ての蜘蛛熊が光に変わった。
フルールさんは疲れを感じさせない声音で言う。
「ふぅ。これだけの数だと疲れちゃうわね?」
『いやいや。多分フルールさんだけでも余裕でしたよね?』
「あらあら。それはどうかしら。ミオンさんがいてくれたからこんなに早く殲滅できたんですよ?」
『いやいやいや』
「あらあらあら」
「あの、とりあえず蜘蛛熊がリポップする前に草原区域に向かいませんか?」
『それもそうだね』
共にやって来たプレイヤーに注意された私たちは、その後も大して苦戦することなく草原区域のプレイヤーの拠点に辿り着くことができた。
先ず見えてきたのは、モンスターを中に入れないための外壁だろうか。土魔法で作られたと思われる石壁が円形に拠点を囲っているのが分かる。
外壁の上には物見櫓が建てられていて、そこにプレイヤーが常駐することで事前にモンスターの接近などを把握しているのだろう。
今回は私たちプレイヤーがやってきたので、笑顔で手を振ってくれている。
そんなプレイヤーたちに手を振り返していると、外壁に守られた拠点の中から魔機人の次に珍しいと言われる翼人プレイヤーが現れた。
翼人はゲームを始める時に選べる種族の一つで、鳥のような翼と鉤爪を持つのが特徴的な種族だ。他の種族に比べて初期パラメータが低いとされており、空も自由に飛べるわけではないため魔機人の次に不遇な種族と言われている。
目の前のこの人は、どうやら白い翼の翼人みたいだ。
「大森林からよく来てくれた。俺はクラッド。ここの拠点を仕切ってる翼人種のプレイヤーだ。ギルド【天翼騎士団】のギルドマスターもしている」
「これはどうもご丁寧に。私はギルド【モフモフ帝国】のサブマスター、フルールです。今回は、ギルドマスターカンナヅキの代わりとしてやって来ましたわ」
「おお、貴女が噂に聞く格闘女帝か。そして、その隣にいるのは……滅神機姫だな?」
『ええ。その二つ名はあまり好きじゃないんですけどね。私はミオン。ギルド【自由の機翼】のギルドマスターです』
「存じているとも。君がいるのは心強い。……既に山脈区域のプレイヤーたちは来ているから、早速話し合いといこう」
「ええ」
クラッドさんにうながされるまま私たちは拠点の中を進んでいく。ここまで連れてきたプレイヤーのみんなは既にこの拠点にいる仲間と合流しているようだ。
ちなみに、その話し合いとやらには、フルールさんと私が出席するみたい。
ぶっちゃけ私も行かなくていいと思うんだけど、いるだけで意味があるからいてほしいって言われたらね。ま、なるようになるか。
大森林の拠点と違って、こちらの拠点は建物がほとんどない。私たちの拠点と違って木材がほとんどなく、山脈区域と違って石材もないっていうのもあるんだろうけど。
代わりと言ってはなんだけど、毛皮などで簡易的なテントを作っているみたいだ。骨組みなんかは獣系のモンスターの骨を使っているんだろう。
土魔法では壁は作れても、家は建てられないからね。土魔法で家を建てることができるのは異世界ファンタジーの特権だ。
クラッドさんに案内された先には他のテントよりも大きいテントがあり、そこでは数人のプレイヤーが待っていた。
「どうも。山脈区域から来た醤油差しと言います。ギルド【加工製品】のギルドマスターをしています。今日はよろしくお願いしますね」
「いえいえ、こちらこそ。私は【モフモフ帝国】のサブマスター、フルールです。よろしくお願いしますね」
「ほほう。となると、後ろにいるそちらの方が【自由の機翼】のギルドマスターさんですか」
『はい。ミオンです』
「ンンっ。ここで話すのもいいが、せめて座って話さないか?」
「そうですね。そうしましょう」
私たちはテントの中に入り、車座になる。
そうして今回の話し合いは始まった。二時間ほどの話し合いになったけど、内容としては以下の通りだ。
とりあえず各拠点の繋がりを強化して、イベントの攻略に尽力することが決まった。
どうやらこのイベントフィールドには翼竜の飛び交う場所や、他にも強力なモンスターが棲息しているエリアが複数あるらしく、そこになにか隠されているのではないかということ。
各区域に強敵エリアがあるから、各拠点のメンバーでそれらのエリアを探索して情報を共有しようということになった。
……翼竜の話になった時に視線が私に集まったけど、私が翼竜を倒したことが広まってるんだろうか。広まってるんだろうな……。
ひとまず、戦力の整っている大森林区域の強敵エリアから探索していくことになった。まぁ、翼竜くらいの強さのモンスターならなんとかなるかな。
話は各拠点にいるプレイヤーの話に移り、移動を希望するプレイヤーは自由に移動させようという話になった。私としても、知り合いや同じギルドのメンバーを集めたいから問題はない。
最後にPKやイベント攻略に非協力的なプレイヤーに関しては、こちらを邪魔するようなら死に戻りさせるということで話はまとまったようだ。
ま、これに関しては仕方ないでしょう。純粋にイベントを楽しむならともかく、イベントを楽しもうとしているプレイヤーを明確な意志を以て邪魔してるわけだからね。私としても、容赦する気はない。
「これから六日間、よろしく頼む」
「ええ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いね」
『あ、じゃあこれをお近付きの印に。翼竜の肉をみんなで食べてください』
私がインベントリから余っている翼竜の肉を出すと、大森林区域所属以外のプレイヤーたちから驚きの声が上がった。
「おお、これが例の!」
「いただいても、よろしいので?」
『え、ええ。これからも仲良くしましょうということで』
「「「「「よっしゃー!」」」」」
えぇ……あまりのテンションの高さに引くんですけど。例のってことは、多分掲示板かなんかで話に上がったのかな。
いやまぁ、とっても美味しいのは分かるんだけど、まさかここまでの反応になるとは。恐るべし、翼竜の肉!
こんなに喜んでくれるなら、もう少し乱獲してもいいかもね。山脈区域にお邪魔する時は翼竜狩りといきますか。
草原区域と山脈区域にそれぞれ数頭分の翼竜の肉を贈呈し、私はこの草原区域にいる【自由の機翼】のギルドメンバーを回収する。話を聞いてると山脈区域にはうちのギルドメンバーはいないようだから、残りのメンバーは他のサーバーで頑張っていることだろう。
『戻ったらカンナヅキさんたちに話を共有して、昼ご飯を食べたら探索に移りましょうか』
「そうね。ミオンさんがマップを埋めてくれたおかげであとは問題のエリアの探索だけだから、メンバーを選出して向かいましょうか。もちろん、手伝ってもらいますよ」
『ははは……ま、できる限りのことはやります』
「ふふ、期待させてもらいますね」
フルールさんとそんなやり取りをしつつ、私たちは大森林区域の拠点に移動するメンバーを引き連れて、草原区域の拠点を後にするのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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