幕間その十二 日常2
リアル回です。
それでは本作品をお楽しみください。
ホームルームの終了を告げるチャイムが鳴り響く。
先生が教室を出ていくと周りの空気が弛緩し、席を移動する音や生徒たちの話し声で騒がしくなった。
そんな中で私はいつも通りに持って帰るものを鞄にしまい、席を立つ。
「あれ? 紫音ってばもう帰っちゃう感じ?」
「ふふ、違うよ。ちょっと聖武院会長に呼ばれてるの」
「あー。金曜も呼ばれてたね」
「なになに? 紫音ってば会長とどんな関係なの?」
「んー、秘密!」
そう口に人差し指を当てて言うと、クラスメイトたちはヒソヒソと話し始める。
「どう思うよ、あれ」
「恋する乙女……って感じじゃないね」
「そもそも会長と紫音に接点なんかあるぅ?」
「どうだろう……でも生徒会の人たちは個性的って聞いてるから、紫音もそういうところあるでしょ?」
「確かに」
みんなは小声で話しているようで会話の内容までは分からないけど、なんとなくむず痒いような、変な感じがする。
さて、今日の放課後にはVRゲーム部の活動が始まるということだけど、他の三人の部員はどんな人なんだろう。
「まぁいいか。じゃ、お先っ!」
「ちょっ、また明日話聞かせてよー!」
私はクラスメイトの声には答えずに教室を出て、生徒会室を目指す。階段を一段飛ばしで登っていき、生徒会室のある三階にたどり着く。
えっと、確か部活は生徒会室の隣でやるって言ってたよね?
ということで生徒会室をスルーし、その隣の部屋の扉をノックする。
「どうぞ」
綺麗で、凛とした声。聖武院会長の声だ。
私は「失礼します」とガラガラ音を立てるスライド式の扉を開ける。すると、そこには聖武院会長の他に三人の生徒がいた。
「おっ、あんたが最後の一人か」
最初に声をかけてきたのは、小麦色に日焼けした黒髪ショートカットの女子生徒。一言で言えば、健康的。
胸のリボンの色から二年生の先輩であることが分かる。
体型はスレンダーだが、お尻は少し大きいように思える。鍛え上げられた太ももや、引き締まった二の腕から元々は運動部だったのだろう。快活そうな先輩だ。
でも初対面のはずなのに、聞いた覚えのある声なんだよね。
「きょうからおなじぶかつ。よろしく」
次に声をかけてきたのは、一言で言えばロリっ娘。しかしリボンの色から三年生の先輩だということが分かる。
身長は小学生高学年の女児よりは大きいか……くらいで、その幼い容姿も相まって制服を着ていると不思議な感じがするね。ロリータ系のファッションがとても似合いそうだ。
でも、この喋り方、この声もどっかで聞いた覚えがあるんだよねぇ。
「なかなか可愛らしいお顔ですね」
最後の一人は、一言で言えば清楚。リボンの色は二年生。この人も先輩か……。
全体的な雰囲気が柔らかく、全身を包み込んでくれるような母性を感じてしまう。スタイルもよく、こういう人が男子にモテるんだろうなぁと思ってしまった。
黒髪のストレートロングで、まさに大和撫子といった様相だ。
他の二人と違って、この先輩の声は聞き覚えがない。
「おっと。紫音、いつまでそこに立っているつもりだい?」
「あ、す、すみません! 私は一年D組、琴宮紫音って言います! よろしくお願いします……!」
聖武院会長に注意された私は先輩方の方へ移動して自己紹介をする。
その後みんなの視線が健康的な先輩に向く。
「ん、じゃあ次はあたしか。あたしは新井蓮華。二年B組だ。呼び方は好きに呼んでくれて構わないよ」
「わたし、あいかわゆり。さんねんえーぐみ。ゆりっぺってよんで。よろしく」
「最後に私ですね。私の名前は氷沢花穂です。これから仲良くしてね、紫音さん」
各先輩方の自己紹介が終わる。
えっと、レン先輩にゆりっぺ先輩、花穂先輩だね。よし、覚えた!
私たちの自己紹介が終わると、この部活の部長である聖武院会長が口を開く。
「これでお互いの名前も分かったところで……FreedomFantasiaOnlineでの名前と所属も明かしていこうか。まずは私から。私はゲーム内ではヴィーンと名乗っている。所属ギルドは【自由の機翼】だよ」
「うっそだろぉ!?」
聖武院会長がヴィーンと名乗ると、レン先輩が素っ頓狂な声を上げる。見てみれば、レン先輩だけでなくゆりっぺ先輩や花穂先輩も驚きを隠せないようだ。
この場で驚いていないのは、事前に正体を知っていた私だけだね。
「会長がサブマスかよ……世間は狭いねぇ」
おや、ヴィーンをサブマスって言うことは、レン先輩はうちのギルドのメンバーなのかな?
……ん、レン? うちのギルドにも同じ名前の大剣使いの魔機人がいたはずだけど……。
「ということは、君は【自由の機翼】のメンバーなのかな?」
「そうだぜ。あたしはレンって名前でプレイしてる。所属ギルドは言わずもがな【自由の機翼】だよ」
「……おどろいた。まさか、れんげがれんだったなんて」
「つーと、ゆりっぺ先輩もうちのギルドの……いやちょっと待てよ。その喋り方……もしかしてアイか!?」
「ぶい」
「マジかよ……リアル合法ロリじゃねぇか……ああいや、まだ高校生だから合法でもないのか。ってあたしはなにを言ってるんだ? まあいいか。てっきりアイは小学生かと思ってたぜ」
「ざんねんむねん。ぷりちーなこうこうせいです。えっへん」
「そうだな。ぷりちーだな」
「……ん、なでなで?」
「あっ、つい弟たちにやるようにやっちまった……いやなら止めとくよ」
「んーん。もっとやって」
「はいはい……」
うーん、このなんとも言えない雰囲気。
でも二人のやり取りはいつもギルドで見てる二人のやり取りとなんら変わらないね。仲がいいようでなによりです。
「次は私、ですね。私はフリファンだとフルールって名前です。ギルドは【モフモフ帝国】で、サブマスターをやっています」
「マジかよ……! フルールって言えば、【モフモフ帝国】の裏のギルドマスターとか、格闘女帝とか言われてるトップ中のトッププレイヤーじゃねぇか……!」
「うふふ、そう言われると照れますね。向こうだとキャラを変えているので、違和感はあると思いますが……」
「確かに、向こうだとできる姐さんって言うか、頼れる姐御って言うか、少なくとも今みたいに柔らかい感じじゃないからなぁ……」
「ぎゃっぷもえ」
「いえいえ。萌える、というのはゆりっぺ先輩のような人のことを言うんじゃないでしょうか?」
「うーん、あたしにはそう言うのは分かんないけど、ゆりっぺ先輩と花穂とじゃ萌えのベクトルが違うんじゃねぇかな?」
「そういうものですかね?」
フルールさん……ああ、じゃんけん大会の時に見た気がする。あの体格のいいカンナヅキさんを片手で引き摺ってたプレイヤーさんだよね。あと掲示板で格闘系スキルを一番鍛えてる人って言われてた人だ。
すごい人が同じ部活の部員なんだなぁ。
「さ、次は紫音の番だぜ」
「わくわく」
「紫音さんはどんな方なんでしょうね?」
うわぁ。みんなこっち向いてるよ。って、一人ずつ話してるんだからそりゃそうか。
私はチラッ、と聖武院会長を見てみると、会長は笑いを堪えるように口元に手を当てていた。この状況を一番面白がっているのは会長だろう。
はぁ、と一つ息をついて、私は口を開く。
「聖武院会長は既に知っているんですけど……私の名前はミオン。ギルド、【自由の機翼】のギルドマスターです!」
「……あら」
「わお」
「な、なんだってぇ!?」
花穂さんは口元に手を当てて驚いたように目を見開いた。ゆりっぺ先輩は表情が変わらないからよく分からない。
そしてレン先輩は、心底驚いたと言わんばかりに飛び上がっていた。何気にレン先輩の反応を楽しみにしていたのは内緒だ。
「ギルマスって、マジか……?」
「マジです。信じられないかもしれませんが、私はミオンですよ」
「これは驚いた……いや、マジで今年で一番驚いたかも……いや、今年で一番じゃねぇな。二番目に驚いたぜ」
「今更ですけど、私すごいアウェーですね」
「かほいがい、みんなおなじぎるど」
「……集めた私が言うのもなんだけど、世間が狭いということを実感させられるね」
聖武院会長が椅子から立ち上がり、こちらへ歩いてくる。そのまま私たちの横を過ぎ去っていき、VRゲームをするために横になる用のベッドに腰をかけた。
「自己紹介は終わったし、そろそろゲームとしゃれこもうじゃないか」
「学校でゲームをするのって、慣れないですね」
「そうか? あたしとしては学校でもフリファンができるのは嬉しいけどなー」
「わくわく」
みんながそれぞれのベッドに腰かけ、VRギアを装着していく。ここにあるのは全て部費で揃えられた筐体なんだとか。今更だけど結構お金かかってるよね……。
私もベッドに腰かけてVRギアを付けようとした時に、ふと扉の鍵をかけてないことを思い出した。締めに行こうとVRギアを置いたところで、聖武院会長に呼び止められる。
「鍵のことなら心配いらないよ。この後にこの部の顧問であり生徒会の顧問の先生が来てくれるからね」
「分かりました」
私は再びベッドに腰かけVRギアをセットする。そのまま横になってFreedomFantasiaOnlineを起動させる。
さ、今日も色々作るとしますかね!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




