第五十二話 第二陣 6
続きです。
それでは本作品をお楽しみください。
やって来ました翌日。今日は日曜日ですよ、日曜日! 絶好のゲーム日和ってやつだよ!
兄さんと一緒に朝ごはんを食べたあと、早速フリファンにログインする。学校の宿題? そんなものは既に終わらせている! 充実したゲーム生活のためには、宿題なんて残しておくわけにはいかないのですよ。ええ、そうですとも。
ログインして黄昏の戦乙女内の自室で起き上がった私は、早速暁闇の戦乙女のある散華の森の奥に移動する。今日も今日とて黄昏の戦乙女は散華の森の入口近くに停めてあります。
今日は第二陣のプレイヤーたちは上層のダンジョンで戦闘スキル上げとアーティファクト・インゴットの素材を集めるとのことで、絶賛周回中だ。
ソードマン先生との戦闘かぁ……今となっては懐かしいね。最初は倒されまくったっけ。私がパーツを作ってからは楽勝になっちゃったけどね。
中層、下層を抜けて最奥にたどり着いた私は、既にログインして周りに指示を出していた親方に話しかける。
『おはよー親方』
「おう、おはようさん。ログイン早々で悪いんだが、ここのところの修繕を頼めねぇか?」
親方に手渡されたのは、どうやら暁闇の戦乙女の修繕箇所を記した図のようだ。いつの間にこんな精巧な図を書いていたのか分からないけど、なおす箇所が分かりやすいのは嬉しいね。
スクショを撮って保存しておくのを忘れない。
『えっと……おけおけ。なおすのに必要な分の鉱石は貰ってくねー』
「持ってけ持ってけ」
『それにしても、寝てた間に随分と進んだね』
確か私がログアウトする時にはここまで綺麗にはなってなかったはずなんだけど。そのくらいの時間に深夜組がやってきたから、彼らのおかげかな?
「ああ。深夜にログインしてきた連中が張り切ってくれてな。そのまま連続ログインの時間に引っかからない程度にやってくれたんだよ」
『なるほどね。この勢いだと今日中には終わりそうかな』
「まぁ、ゲーム内で三日だからな。それくらいあれば終わるだろう。特に俺たちは一度通った道だ」
黄昏の戦乙女を修理したのが結構前に感じるけど、現実時間でまだ一ヶ月も経ってないんだよね。それだけこのゲームをプレイしてるってことなんだけど。
『この調子で他のギルドにも戦艦が行き渡るといいんだけどね』
「全くだ。NPCから購入できる飛空艇も悪くはないが、戦艦を知っちまうとどうもな」
『だよねぇ。っと、このまま親方と話続けてるわけにもいかないか。とりあえず指示された場所は任された!』
「おう。行ってこい!」
親方と別れた私はスクショを漁って該当部分の修復作業に入る。魔鉄鉱石をインゴットに変えて、《パーツクリエイト》や《鍛冶》スキルを駆使して装甲を作っていく。
ゲーム的な処理なのか、明らかに違う素材で作られた装甲が綺麗に取り付けられるのは不思議だ。多分、戦艦の装甲を剥がして素材として使うのを防ぐ目的があるんだろうけど。
その後もどんどんとプレイヤーが増えていき、暁闇の戦乙女の周りではプレイヤーたちの声や鎚を振るう音などで騒がしくなっていく。この騒がしさもMMOの醍醐味って感じがするね。
休憩や食事を挟みつつ修復作業を続けた結果、見事に暁闇の戦乙女はそのかつての姿を取り戻した。
完成祝いのために第二陣のみんなを呼び戻して、【自由の機翼】と【黒の機士団】の全ログインメンバーの前で暁闇の戦乙女のお披露目会だ。
ブリッジクルーは既に決めていたらしく、ダリべさんに指名されたプレイヤーたちが意気揚々と乗り込んでいく。それ以外のメンバーも順々に乗り込んでいく。中はダリベさんが案内しているようだ。
このまま飛び上がる瞬間を下で眺めてるのもいいけど、どうせなら上から見たいよね?
というわけで私たち【自由の機翼】は黄昏の戦乙女の元に戻り、一足早く空を飛んでいた。上からだと、暁闇の戦乙女の大きさがよく分かるね。
ちなみに私はFウィングを待機させて黄昏の戦乙女の上部ハッチの上に立っています。Fウィングなら黄昏の戦乙女の速度にも負けてないし、魔力の補充もバッチリだ。
それにCウィングも翼形態なら空を飛べるし、魔力切れで落下することはない。
下の様子を眺めているとふわり、と暁闇の戦乙女が浮かび上がり、黄昏の戦乙女がいる高度と同じ高度まで上がってくる。
私はいてもたってもいられずに空へと飛び出した。スラスターを噴かせて、黄昏の戦乙女と暁闇の戦乙女の前に出る。
すると暁闇の戦乙女の方から見覚えのある黒い鳥が飛んで来た。ダリベさんの黒き神鳥だ。
ダリベさんは私の隣に来ると変形し、人型の姿をとる。
『やはり、考えることは同じか』
『ええ。とても、いい景色です』
『うむ。壮観だな……我も言葉が出てこない。素晴らしい、としか言えないな』
『私もですよ。既に何枚もスクショを撮ってます』
『そうだな。我も撮っておこう』
そのまま戦艦の速度に合わせて飛びながら、無言でスクショを撮り続ける。
……並び立つ白と黒の戦乙女。どれだけの時を離れ離れで過ごしたのか、私には分からないけど。
少なくとも、彼女たちの願いは叶ったんだと、そう思いたかった。
〈戦乙女の願いを叶えました〉
〈ギルド【自由の機翼】の全員がEXスキル《黄昏の戦乙女》の取得条件を満たしました〉
〈ギルド【黒の機士団】の全員がEXスキル《暁闇の戦乙女》の取得条件を満たしました〉
〈ギルド【自由の機翼】と【黒の機士団】によって、失われていた戦艦についての情報が復活しました。それにより、失われた技術が復活しました〉
お、おお。どうやらこの二つの戦艦を修理して飛ばすことによってなにかしらのフラグを達成したようだ。新しいスキルが取得できるようになったね。
思わずダリベさんを見ると、ダリベさんも私の方を向いていた。
『……いやはや、君と出会ってから驚かされるばかりだな』
『いえいえ。むしろこれはダリベさんのおかげでは?』
『なにを言うか。暁闇の戦乙女をなおせたのは君のおかげだよ』
『ダリベさんのおかげです。ダリベさんの情報があったからですよ。私たちだけでは暁闇の戦乙女をなおすことはできませんでした』
『いやいや』
『いやいや』
『いやいやいや』
『いやいやいや』
『いやいやいやいやいや』
『いやいやいやいやいやいやいや』
『……ふぅ。止めよう。不毛だ』
『……それもそうですね』
お互いに一息つき、改めて戦乙女たちを見る。うん、とっても綺麗だ。個人的には、それぞれに武装が付いていれば完璧だったんだけど。
『ふむ。お互いにEXスキルを取得可能になったんだ。お互いのスキルを見比べてみるのはどうだろう?』
『いいですね! じゃあ早速……』
私はスキルメニューを開いて、たった今解放された《黄昏の戦乙女》の説明を見る。
《黄昏の戦乙女》
C:EX Lv.1
戦乙女に認められた者の証。
物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性が上昇し、生産スキル使用時に補正が入る。
また、武装による攻撃力、パーツによる防御力が上昇する。上昇幅はスキルレベルによって変化する。
ほほう。普通に使いやすいスキル……と言うよりも、かなり強力なスキルだね。このスキル内容でカテゴリーがEXだから、パッシブカテゴリーの上昇値制限に掛からないのもグッド。
そしてなによりも、黄昏の戦乙女に認められたっていうのが嬉しい。
ちなみに《暁闇の戦乙女》のスキルは、後半のパーツによる〜の部分が速度になっていた。ダリベさんの速度がさらに上がると思うと、ちょっと怖いね。
お互いにスキルの確認をした後に、それぞれのスキルを取得する。
特別なスキルのため、取得に必要なSPが30になるらしいけど、私のSPは有り余ってるので関係ない。ポチッと取得ボタンを押した。
このスキルのレベル上げ方法はよく分からないけど、今まで通り黄昏の戦乙女と一緒にこの世界を冒険すれば上がるだろう。
スキルを取得すると、雑音のような、ノイズのようなものがザザー、ザザーと聞こえ始めた。一体どうしたんだろう?
ダリべさんに聞くと、ダリベさんにも聞こえているようだった。
『ザザーッ、君たちが本当の、ザザッ、を取り戻した時、ザザッけの可能性を手に入れる。ザザーッ、能性がどのような形であれ、それザザーッだけのものだ。願わくば、その可能性がザザッ、とってよき可能ザザーッ、ることを、切に願ザザーーーーーーッ』
ノイズで聞き取りづらかったけど、確かに男の声がした。なにかを伝えようとしている? その声が聞こえなくなると、雑音やノイズも次第に聞こえなくなった。
『……今、のは』
『男の声……だったか』
『ダリベさん、今の声に聞き覚えある?』
『ないな。そういう君はどうだ?』
『私もない。でも、スキルを取ってから聞こえたんだから、戦艦に関係のある……いや。むしろ私たち?』
『君たちが本当の……本当の、なんだ? なにを取り戻すと言うんだ?』
『取り戻す……本当の……うーん、なんだろう?』
『これは、すぐに戻って皆と話さねばなるまい』
『そうだね。私たちだけで話し合ってても分からないか……』
戦乙女の再会。そして聞こえた謎の男の声。
あの声の主は……もしかして、マギアーノ博士なのかな。
だとすれば、私たちになにを言いたかったんだろう? なにを伝えたかったんだろう……。
モヤモヤした気持ちを抱えながら、私たちはそれぞれの艦へと戻って行った。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




