第五十話 第二陣 4
とうとう新たな艦の名前が明らかに!
それでは、本作品をお楽しみください。
ギルド【自由の機翼】と【黒の機士団】のメンバーを乗せた我らが機動戦艦、黄昏の戦乙女は現在西の湿地帯を越えて奥地である沼地帯へとやってきていた。
ダリベさんの撮ったスクショの場所に向かい、上空から地上のその地点を確認する。
……うん、確かに沼地にあるにはおかしいであろう人工物のようなものが見えるね。見たところ、艦首部分が飛び出してる感じかな?
艦首から予想できる大きさとしては、黄昏の戦乙女よりは小さい。それでも、各浮遊大陸で使われてる大型飛空艇と同じくらいの大きさはある。
黄昏の戦乙女が艦首から艦尾までおよそ500mほどだから……300mくらいかな? 実際にその長さを見たわけじゃないから詳しいところは分からないけどね。確か、ホワイトハーバーで使われてた大型飛空艇は大体それくらいの大きさだったはず。
でも、一番の問題はその艦体のほとんどが沼に沈んでることなんだよね。想定できる重さだと、魔機人の力じゃ何人集まっても引き上げられそうにないし。
しかも沼地だから足を踏んばることもできない。ホバー移動か飛行が必須だから、無駄にENを消費しちゃうし魔機人で持ち上げるのは却下。
なら、黄昏の戦乙女で引き上げるしかないかな?
頑張ってあの艦首部分だと思われる場所にアンカーを引っ掛けて、黄昏の戦乙女を上昇させて引き上げる。
……引き上げられるのかな?
ま、引き上げるにしても、引っ掛けるためのアンカーと、引き上げる際の艦の重さに耐えうる強度を持ったワイヤーを作らないといけないね。
私たちは黄昏の戦乙女をその艦首部分の上空で待機させて、アンカーとワイヤーを作っていくことにする。今回の作業は【黒の機士団】との合同作業だ。
お互いの手持ちの素材で、強度の高いワイヤーとアンカーを作らないといけないわけだけど。
『ワイヤーを作るなら金属糸しかないですよね?』
『うむ。強度を高めるならそれしかないだろう。《パーツクリエイト》を使って各々が金属糸を作製、それを生産スキル持ちで束ねていくしかなさそうだ』
「長さもある程度必要だろうな。この中で一番素材が余ってて強度の高いものってぇと……魔鉄鉱石か」
『魔鉄でワイヤーを作って、アンカーは魔鉄とアーティファクト・インゴットの合金で作る感じでいこうか』
『では、我々の方でアンカーを作ろう。ワイヤーの方は任せても問題ないか?』
『任されました!』
「待て待て。ワイヤーとアンカーだけじゃ足りねぇだろう。ワイヤーを固定するための台かなんかも必要だ。巻き取り装置は黄昏の戦乙女が上昇するから要らねぇとは言え、固定しなかったら引き上げられねぇぞ?」
『じゃあ固定台の方も任せちゃって大丈夫です?』
『無論だ。では、健闘を祈る』
「おっし。じゃあお前ら! さっさと作業開始めんぞ!」
そう言うとダリべさんは必要な素材を持って作業場へと向かって行った。さて、私たちも作業開始しないとね。
親方の掛け声で動いていく整備班改め第五部隊のみんな。各々が必要な素材を使って金属糸を作っていく。
私がなにもしてないのもあれなので、ワイヤー作りに参加する。《パーツクリエイト》を起動させて、素材を突っ込んで糸状に加工していく。
この作業自体はとてもスムーズに進んでいる。特に難しいことはしてないからね。あ、もちろん第二陣のプレイヤーにも手伝って貰ってるよ。この作業はいいスキル上げになるからね。
《パーツクリエイト》自体にはレベルはないんだけど、その作業に応じたスキルに経験値が入る仕組みになっている……らしい。今回のだと金属加工になるので、関連する《鍛冶》スキルや《細工》スキルが上昇することになる。
第二陣のプレイヤーたちは慣れない《パーツクリエイト》に苦戦しながらも、ワイヤーとして使える形のものを生み出していく。きちんと魔力も馴染ませてるみたいだ。うんうん、呑み込みが早いね。
好きなロボットの話やお気に入りのアニメの話など、駄べりながらも作業を進めていく。みんなが一緒に作業してるのに、黙って黙々と作業するのはきついものがある。一人の時だとあまり気にならないんだけどね。
見ていると、徐々に第二陣の動きがよくなっていく。作業に慣れてきたっていうのと、生産スキルが上がっているからかな。特にうちのマノン、タクト姉弟と【黒の機士団】のミラさんの動きはみるみるうちによくなっていった。
どうやら三人はよく一緒に行動していて、フレンド登録もしてるみたいだ。他のギルドに仲のいいプレイヤーを作るのは大事だね。人脈は大事。
……まぁ、なぜか私のフレンドには三大ギルドのギルドマスターやらサブマスターやらがいるわけなんだけれども。人脈って大事だよね、うん。
そうそう、掲示板経由でヴィーンから西の屋敷についての情報を聞いた。
やっぱりボスは白虎だったみたいだね。しかも【極天】のプレイヤーたちは私たちと同じく完全攻略したのでら西の屋敷の所有権を貰ったようだ。しかも薬草系の採取ポイント付き。これは、私たちで言うところの量産型魔導石と同じ扱いって所かな?
でも白虎がケモ耳美人になったとは……セイリュウオーさんは男性型だったから、残りの北と南も男女一人ずつなのかな。朱雀の方がイメージとしては女の子っぽいけど。
玄武が女の子なのは……うーん、ちょっとイメージが湧かないかな? イメージすると亀の甲羅を背負ったサングラスかけたじっちゃんが出てきてしまう。超なシリーズでかっこよかったことを覚えてるけど。
ま、他の方角のボスについてはそれぞれのギルドに任せちゃおう。私はとりあえず目の前の艦に集中だ!
駄べりながらも手は止めず、しばらくして手持ちの鉱石から大量の金属糸を作り出した。あとはこいつらを束ねていこう。
生産スキルの高い第五部隊のみんなでワイヤーを束ねていく。かなりの素材を使っただけあって、長さおよそ100mほどのワイヤーが四本作製できた。あとはこれを【黒の機士団】の人たちが作っているアンカーと固定台と併せて艦首を引き上げるだけだね。
ダリべさんたちの様子を見に行くと、どうやらちょうど作業が終わったところらしい。小さい隙間からでもしっかりと引っ掛けることのできるアンカーと、かなりの重量に耐えられるように作られた固定台がそこにあった。
ブリッジのヴィーンたちに連絡して後部ハッチを開けてもらう。外部とのギリギリのところに固定台を四つ設置し、ワイヤーとアンカーを取り付ける。
そのまま高度を下げてもらい、アンカーがちょうど沼地の艦首に当たるくらいの高さまで高度を下げてもらった。
ここからはアンカーを人力で取り付けないといけない。
ホバー移動のできる拡張パーツを取り付けたメンバーと、空を飛べる私、クラリス、ダリべさんで降下しそれぞれのアンカーを引っ掛けて固定していく。
……ぶっつけ本番だけど、このワイヤーとアンカーで引き上げれられるのを期待するしかないね。これでダメだと、素材集めからやらなくちゃいけなくなるし。
現状魔鉄よりも上の非属性鉱石はまだ見つかっていない。そろそろファンタジー金属の一つくらいは見えてもいいとは思うんだけどね。運営は焦らし上手だ。
しっかりと引っ掛かったのを確認して、ヴィーンたちに引き上げてもらう。私たちは邪魔にならないように少し遠くの方へ避難している。
ゴゴゴゴゴ、という音と共に地面が揺れた。地面っていうか沼なわけだけど。
最初はピクリとも動かなかった艦首部分だったけど、徐々にそこから波紋が広がっていき、ズズ、と持ち上がり始める。そして、その全貌が見え始めた。
引き上げられたそれは、全体を見れば楔状の形をしている。艦首から少し手前側に射出用のカタパルトハッチらしきものが二つ。あとは側面や艦底辺りに多くスラスターが取り付けられてるかな?
ブリッジらしき場所は楔状のちょうど中心点の辺りに設置してあるようだ。
背部には巨大なスラスターが三つ。側面や艦底のスラスターを考えると、この艦は恐らく高速艦だろう。黄昏の戦乙女よりも速いスピードが出せそうだ。
しかしやっぱりと言うべきか、沼に沈んでたわけだから全体的にとても汚れている。今もぽたぽたと泥のようななにかが滴り落ちてる状態だ。
まずは降ろせそうな場所に降ろして外側の洗浄作業から始めないといけないかな。
マップを確認して、近くに艦を下ろせそうな場所がないかを確認する。んー、見たところこの辺りは沼しかなくて下ろせそうな場所がないね。
湿地帯も……ちょっと遠慮したいかも。ということは、西側以外の場所に下ろさないといけないわけだ。
散華の森は……ちょっとキャパオーバーかも。いや、黄昏の戦乙女にずっと浮いててもらえばいいかな?
魔力結晶炉の残存魔力量が気になるところだけど……まぁ、大丈夫でしょ。
黄昏の戦乙女には散華の森の最奥に向かってもらう。アンカーの取り付け作業をしていた私たちはすでに収容済みだ。
さすがに徒歩(飛行ユニット有り)でこの大陸を横断するのはよろしくない。というかしたくない。それこそゲーム内時間でも一日くらいは必要そうだ。
行きはゆっくり帰りは急いで。ワイヤーやアンカーが耐えきれるギリギリのスピードを出して西の湿地帯から南の森へ急ぐ。
……そのタイミングで私の知ってる人からフレンド通信が来てるけど、私は知らない。後でちゃんと説明するよ。うん。きっとね。
行きよりも早い時間で戻ってきた私たちは、高速艦を地面に横たわらせてアンカーを外す。外したアンカーとワイヤーは回収して、二セットずつをお互いが管理することになった。また使わないとも限らないからね。
黄昏の戦乙女に最低限の人員を残して降下する。森への移動中に作った清掃用具で、汚れた艦体を磨いていく。あ、磨いてるだけでも生産スキルに経験値って入るんだ……。
ちなみに艦体の掃除に必要な水は、急遽来てもらった【唯我独尊】の水魔法持ちの人たちに出してもらっています。さっき言ってたフレンド通信はナインさんからだったよ。きちんと事情も説明した。その上で手伝ってもらってるんだよね。ほら、魔機人は魔法が使えないから……。
「貴女は本当に面白い人ですね」
『なんか褒められてる気がしないんですけど……これはうちのじゃないですからね。あくまで他のギルドのものですから』
「【黒の機士団】……でしたか。ギルドマスターの彼は相当やりますね。いつかお相手をお願いしたいところですが」
『はいはい、ナインさんって意外とバトルジャンキーだよね。私とも戦いたいんでしょ?』
「それはもちろん」
『PvPはまた今度ね。しばらくは新しい艦に付きっきりになるだろうから』
「楽しみにしていますよ。【黒の機士団】の彼にもよろしく言っておいてください」
『おろ、帰っちゃうんです?』
「私はリアルの方で少し用事がありまして。ああ、うちのメンバーはこき使ってもらって構いませんよ。これもいいスキル上げになりますし」
『リアルの用事は仕方ないですね。また今度です』
「ええ。また今度殺り合いましょう」
いい笑顔で言うナインさん。なんだろう、やり合うのニュアンスがちょっとおかしかったような気がする。
ま、ギルドマスターからお許しは出たんだし、【唯我独尊】の人たちには頑張ってもらうとしますか。
泥を落としていくと、その艦体のカラーリングが見えてくる。
黒を基調とした艦体。ところどころに金や黄の装飾が入ってるところが、なんともダリべさんそっくりだ。と言うか激似だね。
外装は思った以上に劣化していなかった。沼に沈んでたから表面が沼でコーティングされて劣化しにくかったとかかな?
まぁ、運営の設定次第だからなんとも言えないけど。
さすがに中にまでは泥は入っていなかったようで、内装は結構綺麗だ。中身自体は黄昏の戦乙女と変わりないね。もしかしたら製造系統が同じなのかも?
系統が同じなら、もしかしたら黄昏の戦乙女と同じような場所に名前が書いてあるかもしれない。えっと、黄昏の戦乙女の名前が書いてあったのってどこだったっけ。
……って、そんな事しなくても《鑑定》使えばいいじゃん。いやー、ついつい存在を忘れちゃうんだよね、《鑑定》。便利ではあるんだけど……基本的に戦闘でしか使わないからなぁ。
というわけで、早速《鑑定》!
[武装・ホーム] 暁闇の戦乙女レア度:U
かつてこの空を支配していた高速戦艦。魔機人の開発者である稀代の天才発明家、マギアーノ・クライスドーラ博士が提唱した「魔機人を効率よく戦場に運搬する方法」に則り製造されたもの。
大昔に大戦で使用され、この浮遊大陸ファンタジアの大地に沈んだ。
かつて共に飛んだ姉と再び飛ぶ日を待っている。
インベントリ不可。譲渡不可。移動不可。
ふむふむ。名前的にもやっぱりこの艦は黄昏の戦乙女の姉妹艦みたいな感じかな。フレーバーテキストにも姉ってあるし。これって黄昏の戦乙女のこと……だよね? 他にも姉妹艦があるかもしれないけど。
製造者もやっぱりマギアーノ博士だし……なんだがいつものって感じだね。
それにしても、魔機人用の戦艦が二つも始まりの浮遊大陸にあるのは……なにか設定があるのかな。ちょっと気になってくるね。
とはいえ、この暁闇の戦乙女はいまだ飛べる状態にはないかな。魔力結晶炉は空だし、黄昏の戦乙女と比べて綺麗っていうだけで外装に問題がないわけでもない。
それでも黄昏の戦乙女に続く二つ目の戦艦とあって、私たちのテンションはうなぎ登りだ。【唯我独尊】の人たちでさえも我がことのように喜んでくれている。
……さ、まだまだ私たちの仕事は終わらないよ! 次はこいつをちゃんと動かせるようにしないとね!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




