第四十九話 第二陣 3
第二陣編の続きです。まだまだ新キャラは増えますね……。
それでは、本作品をお楽しみください。
『じゃあ、うちの艦内を案内しますよ』
『頼む』
私はギルド【自由の機翼】の新人プレイヤーたちとダリベさんたち【黒の機士団】の面々を引き連れて、黄昏の戦乙女の艦内を案内しているところだった。
黄昏の戦乙女で西の湿地に向かうために〈散華の森・上層〉から〈散華の森・最奥〉まで新人プレイヤーを護衛することになったんだけど、私たちのギルドの第一陣メンバーはともかくダリベさんのところの第一陣の人たちも強かった。
【黒の機士団】のみんなは私たちとは違って実体剣を使って戦っていて、その剣にそれぞれ色んな属性が付与されている。マギアサーベルよりも威力は下がるものの、様々な属性を網羅しているのが魅力的だね。
こっちは光属性を対策するだけで大半の武器が無効化できるけど、あちらさんは多種多様な属性を扱えるし。
なんと言っても、ダリベさんの死刻剣デスキャリバーが一番凄い。
偶然手に入れた"死属性"の鉱石を使って作った一点物だそうだ。デスキャリバーの効果は低確率で斬った相手に即死を与える効果と、聖属性半減、光属性無効の三つ。
どうやら死属性は闇属性の上位属性、暗黒属性のさらに上位の属性だという。そりゃ二段階も下の光属性は無効化されるわって話だね。
私が手に入れた魔導石と同じか、単体性能で見たらさらに上かもしれない素材で作られた剣。弱いわけがないよね。
しかも、その死属性の鉱石もマギアーノ・クライスドーラ博士の関連施設で手に入れたものらしい。やっぱりマギアーノ博士について調べていけば色々な素材やらなんやらが手に入るのかもしれないね。
ダリベさんたちには艦の施設となる格納庫とブリッジを、新人たちには追加で彼らの自室となる客室を案内した。格納庫には私たちの所有になっている自由工場への転移ポイントがあるんだけど、そこはハウジングメニューで一目見ただけだと分からないように細工がしてある。
ま、私たちのギルドメンバー以外は通れないようには設定してあるけど、念には念を入れてってやつだ。ダリベさんたちがいい人なのは理解してるけど、リスク管理はしっかりとね。
【黒の機士団】の主要メンバーをブリッジに集めて、それ以外のメンバーは格納庫で情報交換や親方たちによる生産スキル向上のために作業をしてもらうことにした。ブリッジにいるのは私、ヴィーン、ダリベさんを含む数名のプレイヤー。それにブリッジクルーだ。
『どうです、私たちの艦は?』
『いやはや……素晴らしいものだな、この艦は。西にも同じようなものがあると考えると、震えるよ』
『全く同じかは分からないですけどね。でも、私たちも楽しみにしてるんですよ?』
「私も最近は分かるようになってきたんだけどね。黄昏の戦乙女を見てると、他の艦も気になって仕方がないんだ」
『どんなフォルムをしているのかとか、どんな大きさでどんな用途で使われていたのかとか……あと、この艦と撃ち合いをしたらどうなるのかな、とか!』
『艦戦か……ふむ。確かにそれは魅力的だ。しかし見たところ、この艦には武装の類はついていないようだが?』
『そこなんですよねー。魔機人の武装を作るのとはサイズが違いすぎて、作ろうにも作れないっていうのが本音です。ある程度以上の大きさのものは《パーツクリエイト》が弾いちゃうし……』
黄昏の戦乙女を修理した時は、本体のパーツは普通の生産スキルでもなおせたから気にはしてなかったけど……武装は作れそうになかったんだよね。
やっぱりどこかに戦艦の武装を作れるようにできるなにかがあるはずなのは間違いないとは思うんだけど。
『難しいところだな』
『てなわけで、艦の武装を手に入れる手段を探すのもうちのギルドの目的の一つになってますね。ここの運営か開発なら絶対にその手段は用意してあるはずです』
『なるほどな。と、ところで……』
話をしていると、急にダリベさんがソワソワし始めた。落ち着きがないというかなんというか……いや、ダリベさんだけでなく、【黒の機士団】の面々もソワソワしてるね?
……ああ、なるほど!
『発進シークエンスは省略しないので、落ち着いてください』
『う、うむ。やはり戦艦には発進の儀式がつきものだからな』
『てなわけで、ヴィーン! そろそろ待ちきれないみたいだから、よろしくお願いするよー!』
「よろしくお願いされたよ。さて、始めようか」
ヴィーンは自身の定位置である艦長席へと座り、ブリッジクルーたちに目配せをする。
「魔力結晶炉、起動! 各部に魔力供給開始します!」
『魔力の流れ、正常値! オールグリーンです!』
「推進機関に異常なし! 魔力結晶炉の稼働率、正常!」
「現在ログインメンバー全ての収容を確認!」
「ダリベくん、君のところのメンバーは全員いるかい?」
『! もちろんだとも。全メンバー搭乗完了だ!』
『黄昏の戦乙女の各機関、正常に稼働中!』
「目的地設定、始まりの浮遊大陸西部、西の湿地帯!」
『システムオールグリーン。発進、いつでも行けます!』
ヴィーンが私をチラっと振り向く。
私はそれに頷いた。
「黄昏の戦乙女に搭乗している全乗組員に通達。これより、黄昏の戦乙女は発進します。上昇後の揺れに気を付けてください」
「【自由の機翼】旗艦、黄昏の戦乙女! 目的地へ向けて、上昇後、前進微速!」
『了解! 上昇後、前進微速!』
ゴゴ、という小さな衝撃と浮遊感が私たちを襲う。
ゆっくりと空へと飛翔する黄昏の戦乙女は、発進シークエンスに感動している【黒の機士団】の面々を連れて目的地まで進んでいく。ここからしばらくは私たちの出番はないね。
『今回はゆっくりと進んで行く予定なので、格納庫の方へ行きませんか?』
『む、それはいい。ついでに格納庫の一角を借りてもいいかな? 我のガレージを出したいのだが』
『それは構わないですけど……』
『この滾る熱き想いをパーツにぶつけたいと思ってな。少しばかり創造の許可をいただきたい』
『なるほど。いいですよ。私も作りかけのパーツがあるから作業しようかな』
「作業するのはいいけれど、目的地に着いたらちゃんと外に出てきてね?」
『分かってるって』
私はダリベさんたちを連れて格納庫へ向かう。
格納庫ではいたるところで先ほどの発進シークエンスの話がされていた。ああ、ヴィーンたち艦内放送を使ってたのね。
『では、ここら辺に出させてもらおう』
『あ、我らが漆黒の盟主! こんなところに!』
『盟主……ああ、ギルドマスターってことね』
ダリベさんのことを漆黒の盟主と呼んだのは、格納庫でマノンやタクトと一緒に生産スキルのレベル上げを行っていた【黒の機士団】の新人プレイヤー。
彼女が装備しているパーツは、【黒の機士団】で配布されたシュヴァルツシリーズの女性型だね。既に短時間で少し改造もしてるみたいだ。
『おっと、滅神の盟主にははしたないところを見せてしまいましたわね。妾は黒影の機姫、名はミラですわ。よろしくお願いしますね』
『待ってよ、プリンちゃん!』
『マノンさんっ、プリンちゃんと呼ばないでくださいまし! 妾は黒影の機姫、ミラですわ!』
『そうだぜ姉さん。この人には黒影の機姫っていうかっこいい名前があるんだからさ』
『タクトさんも! 妾の名前はミラですからね!? 黒影の機姫はあくまでも二つ名ですの! そこは間違えないでくださいましね! お願いですから!』
なんだろう、このやり取りの既視感。
これを見てると、【自由の機翼】と【黒の機士団】って感じがするよ。すっかりと馴染んでるね。
私やダリベさんが苦笑いをしながらその光景を見ていると、ミラさんたちは一礼した後に言い合いをしながら戻っていった。ミラさんは単純に挨拶をしに来たって感じかな。
……最初に妾ちゃんって思ったのは内緒だね。
『では、我は気を取り直してパーツの創造に励むとしよう』
『時間には気をつけてくださいね』
『君もな』
私たちはそれぞれのガレージに入っていき、各々生産活動をすることになった。とりあえず時間までは新しいブラッドラインのパーツでも作っていきますかね。
ダリベさんのダークリベリオンを参考にしつつ……私なりのギミックを搭載していこう。
ま、ギミックを考えていたらいつの間にか目的地に着いちゃってて、生産活動はできなかったんだけどね……。いやー、いろいろ考え始めちゃったら止まらなくて。
今度生産用にまとまった時間を作らないとね。まずはダリベさんが見つけた艦らしきものを探すとしますか!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




