第四十七話 第二陣 1
いよいよ第二陣がやってきます。
それでは本作品をお楽しみください。
ダリベさんとフレンドになった翌日。
十二時間に及ぶ長時間のメンテナンスを経て、私は再びFreedomFantasiaOnlineの大地を踏みしめていた。
私たちは始まりの浮遊大陸にいる時はいつも散華の森の最奥にいるんだけど、始めたての、しかも不遇状態の魔機人にここまで来いと言うのは流石にありえない。
と言うわけで、私たちは久しぶりにいつものダンジョンの前に集まっていた。ここにいるのはいわゆる面接担当と言うか……私たちのギルドへ入りたいプレイヤーの選別担当のメンバーたちだ。
私を筆頭に、サブマスのヴィーン、カノン、クラリス、親方、配布予定のパーツを実演してくれるカイルとヤマト、それにギルドメンバーを募集している【黒の機士団】ギルマス、†漆黒の叛逆者†ことダリベさんが集まっている。
ダリべさんは私たちのギルドに入らなかったプレイヤーの中で自分たちと波長の合うプレイヤーを勧誘するという。
ダリベさんの方でも私たちのアーキタイプマギナのようなパーツを作ってきたらしく、そのパーツを装備した【黒の機士団】のメンバーも待機している。
そのギルド名に合う漆黒の塗装。ところどころが金色で装飾されていて、どこかダリベさんのパーツを彷彿とさせるデザインだ。
正直、かっこいい。めちゃくちゃかっこいい量産機だ。そのカラーリングで量産機はどうなのって思うけど。
『俺たちのも結構かっこよく作ったつもりなんだけどな……』
『やはり色か? 色なのか?』
『私としては量産機で全身黒色はちょっと派手じゃないかなとは思うんだけど……』
『性能面でもアーキタイプマギナとほぼ変わらないな。これならいい感じにバラけてくれるんじゃないか?』
『こっちも、よほど酷い人じゃない限りは受け入れるつもりだけどね』
「ミオン、こっちはとりあえず掲示板にギルドメンバー募集のコメントをしておいたよ。ゲーム外掲示板の方には事前に載せてあるから、新規魔機人プレイヤーや整備班志望の生産職プレイヤーが来るはずさ」
『サンキューヴィーン!』
「熱きロボット魂を持った魔機人よ、集え……と書いておいたけど、どれくらいの魔機人がやってくることやら」
『ロボット魂を履き違えた人たちには来てほしくないけどね』
『それには同感だ。では、我らは向こうに行っていよう。お互いによき出会いのあらんことを』
『ダリベさんもありがとうごさいます!』
『気にするな、友よ』
私たちはがっしりと握手を交し、ダリベさんは少し離れた場所へ、私たちはダンジョンの近くに寄る。
すると、早速ログインしたてのボロボロの姿の魔機人たちがゆったりとした足取りでこちらに来ていた。あー、最初は動き辛いよね。《敏捷強化》を取ると結構マシになるんだけど。
彼らの方からくぐもったような、少し聞き取りづらい声が聞こえる。
『お、おお! 本当にいる!』
『うわぁ、かっこいいなぁ!』
『しかし事前に知ってたとは言え、これは酷いよな』
『どうやらギルドが二つあるみたいだね』
『あれが【自由の機翼】か……へへっ、楽に強くなれそうだぜ』
『ああ。俺たちの時代が来るかもな』
『ロボットに興味はねーが……強くなるためだからな』
『ん、お前らなんか言ったか?』
『いや、なにも?』
『あっちは【黒の機士団】……でいいのかな?』
『あっちもかっけー! いやぁ、悩むな!』
『いやいや、断然【自由の機翼】でしょ!』
『なにを言うか。妾に相応しいのはかっこよく凛々しい、究極の黒き機士よ』
『そ、そっか……』
『うん……』
『とりあえず邪魔にならないように集まっとくか』
ワイワイガヤガヤと、第二陣のプレイヤーが集まっていく。このダンジョン前がいくら広いとはいえ、結構集まってるね。このままのペースで増えると場所が足りないかもしれない。
「おいミオンよ。ガレージでも出して場所作んねぇときついんじゃねぇか?」
『だよねぇ。こんなに集まるもんなんだね』
「そりゃあ、フリファンで一番有名なプレイヤーつっても過言じゃねぇからな、お前さんは。新しいPV見たか?」
『見た見た。結構魔機人の戦闘シーンが映ってて、かっこいいなあってなったよ』
「おいおい。あの映像で魔機人プレイヤーになろうって決めたやつもいるだろうよ。もしかしたら想定以上の人数がやってくるかもな」
『うーん、早めに対処しといた方がいいか。カノン、クラリス! ちょっとガレージの展開をお願い!』
『『りょーかーい!』』
私を含めた三人でガレージを展開する。カイルとヤマトは配布パーツの見本だからね。二人のところに行ってもらわないといけない。
どうやらダリベさんの方でもガレージを展開したようだ。流石に人数が多すぎて大変なことになってるからね。
『とりあえずそれぞれのガレージで採用面接……って言うとあれだけど、メンバーの選別しちゃおっか?』
『ですね』
『僕に務まるか不安だけど……やってみるよ』
『じゃあクラリスのところにカイル、カノンのところにヤマトで行こう。私のところにはヴィーンで、親方は適宜各ガレージを回ってもらう感じで。人数の調整とか諸々お願いします』
「へっ、任せな」
「任されたよ。さて、トラブルなく終わってくれるといいけど」
『よろしくお願いします、カイルさん』
『よろしく、クラリス』
『頼んだよヤマトさん』
『頼まれたぜ、カノン!』
各人がそれぞれ持ち場につく。私は親方に頼んでそれぞれのガレージの前に「【自由の機翼】に入りたい方はこちらへ」と書かれた立て看板を取り付けもらう。
自分のガレージに入ってしばらくすると、第二陣のプレイヤーたちがガレージ内に入ってきた。
ガレージはそれなりに広いとはいえ、二百人ほどのプレイヤーが集まると圧迫感がある。
「本日はギルド【自由の機翼】の新人勧誘会に来てくれてありがとう。私はサブマスターのヴィーン。知っているプレイヤーは多いかもしれないけど、現在FreedomFantasiaOnlineで唯一の機動戦艦である黄昏の戦乙女の艦長も務めている。よろしくね」
『で、私がギルマスのミオンです。どうぞよろしく!』
私が前に出て挨拶すると、ガレージ中から『おぉ……』と感嘆の声が上がった。
『うわぁ、うわぁ!』
『あれが本物の殲滅機姫か……』
『もう殲滅機姫って呼び方は古いぜ。今は滅神機姫って言うんだとよ』
『なんでも、四神である青龍をギルド総出で倒したとか』
『私はタイマンでぶっ倒したって聞いたわ?』
『ボスとタイマンで、しかも勝つなんてさすがだな……』
なんだろう。いまいちちゃんとセイリュウオーさんとの戦いが伝わってない気がする。でも、間違ってもいないから否定しづらいっていうね。
全部が全部タイマンで戦ったわけじゃないけど、セイリュウオーさんとの戦いではタイマンだったし……それに呼ばれ方も変わってる。
滅神機姫って……いや、確かに青龍は四神だし間違ってはない……のかな?
自分の呼ばれ方に内心で頭を抱えていると、似たデザインの二人のプレイヤーが前に出てくる。錆び朽ちてるから分かりづらいけど、小さい方が男性型で大きい方が女性型だから、姉弟かな?
『それで、ギルドに入るのに試験かなにかをやるんですか?』
『ん、ああ。特に試験は設けてないんだけど……私的には、どれだけロボットに対しての愛や熱意があるかで判断しようかなって思ってるよ』
『愛や熱意……ですか?』
『そう。私や、他のギルドメンバーもそうなんだけど、第一陣の魔機人プレイヤーって本当に少ないの。理由は分かるよね?』
『これ、ですよね』
彼女は自分のボディを指す。
『そう。その錆び朽ちたパーツからの脱却が難しいのは、ベータテスターが教えてくれた。それでも私たちは、不遇と呼ばれているこの種族を選んだんだ。そこにはやっぱり、ロボットに対しての愛や熱意があったからね』
『なるほど……』
『だから私たちは、ゲームが上手くなくてもその二点を重点的に見ることにしてる。だから、ゲームが上手くて手っ取り早く強くなりたいからっていう人はお断りしてるんだ。もしこの中にそういう人がいたら、悪いことは言わないからキャラを作り直してきた方がいいよ』
『なんだよその言い方は!』
怒鳴り声が聞こえる。
その声の主は歩きづらそうにしながらも、プレイヤーをかき分けて前に出てきた。
『こちとら強くなるためにわざわざ魔機人を選んだんだぞ! じゃなきゃこんなロボットなんて使うわけないだろうが!』
『なら使わなきゃいいんだよ。このゲームには魔機人以外にも魅力的な種族がいくつもあるし』
『でも魔機人ほど強くねーじゃねぇか他の種族は! 俺はこのゲームのてっぺんを取りに来たんだ! なら最強の種族を選ぶのは間違いじゃねぇだろ!?』
『それはそうなんだけど……そもそもの間違いが一つね。別に魔機人は最強の種族じゃないよ』
『……最強じゃない?』
『うん。弱点だってあるし、そうだね……ある意味、魔機人は特化型種族みたいなものだから』
そう言う私の脳裏には、マギアサーベルを消滅させたデスキャリバーが浮かんでいた。
そう、魔機人は確かに現状は強いかもしれない。でも、それがいつまでも強いとは限らないんだ。
今の主武装は光属性の武装。じゃあ、相手が光属性に耐性のある武器や防具、もしくは光属性を無効にする装備を整えてきたら?
確かに、さらにそれを見て新しい武装を作ればいいかもしれない。でもそれは別に種族的に最強ってわけじゃない。ただ対応してるだけ。
それに魔機人は魔法耐性が高いってあるけど、それは全ての属性に対してじゃないしね。雷属性の攻撃には弱いんだ。って、これは種族説明を見てたら分かるか。
今まで雷属性を使ってくる敵がいなかっただけで、根本的な問題はなにも解決してないんだ。魔機人は魔法も使えないしね。
それに魔機人はその強さが素材に左右されやすい。それが、私が魔機人を特化型種族みたいなものって言った理由。
私たちは運よく、本当に運よくこうやって強い装備を作れてるけど、普通の魔機人じゃここまでたどり着くのにどれくらいの時間がかかるか分からないからね。
そう言ったことを伝えると、彼は『ふざけんな! クソがっ!』とガレージを出ていってしまう。
彼に続いて何十人ものプレイヤーが出ていく。きっと彼らは魔機人の強さしか見てなかったプレイヤーたちだろう。悲しいけど、中途半端な人たちは入れられないからね。
「気に病むことはないよ、ミオン。これはゲームだ。全員が全員、君の思うような人間じゃない。第一陣が特殊だっただけでね」
『分かってる。分かってるよ。大丈夫だから』
ヴィーンが私を見る。そんな心配そうな表情はしないで。綺麗な顔が台無しだからさ。
これはもう、プレイスタイルの問題だ。それでも、残ってくれた……二十人くらいかな。かなり少なくなっちゃったけど、彼らには感謝しないと。
『ギルドマスター!』
先頭の姉弟プレイヤーを筆頭に、残りの魔機人プレイヤーがいっせいに手を頭の上に挙げる。敬礼のポーズだ。
『私たちは、ロボットが好きです! 大好きです! だから……だから、えっと、頑張ります!』
凛々しい女性の声が、ガレージに響き渡る。もしかしてこれは、励まされてる?
私はチラッとヴィーンを見る……って、いつの間に親方がそこに? いやいやサムズアップしないで。
その場ですーはーと深呼吸をする。
『心配してくれたんだね。でも大丈夫。残ってくれたみんなもありがとう! 私たちは、【自由の機翼】! 魔機人のためのギルドです! 私たちはあなたたちを歓迎します!』
私がそう言うと、そこにいた二十人ほどのプレイヤーがお互いの肩を抱き、喜んでくれた。
そうだよね、別に、人数は少なくたっていいんだ。
たとえ人数が少なくても……いや、人数が少ないからこそ燃えるものもある。
ロボットアニメにはよくあることだ。主人公側の人数が少ないなんてね。
むしろ少数精鋭の方がかっこいい。
だから、問題はないんだ。
私は笑みを浮かべてみんなに呼びかける。
『じゃあ、残ったみんなにはうちのギルドで頑張ってもらうことになります。魔機人プレイヤーには量産型魔機人、プロトマギナのパーツを渡すよ。それ以外のプレイヤーは、親方の元で色々と作ってもらうことになるから、頑張ってね。もちろんギルドに縛り付けるわけじゃないから、このゲームを自由に遊んでくれて構わないよ』
「ふふっ。なにより、我々は【自由の機翼】だ。もちろんハメを外しすぎるのはよくないが、ノルマやら規律やらはないから自由に過ごしてほしい」
「整備班志望のやつらは俺んとこに来い。色々と教えてやるからよ」
『と言うわけで、みんな。これからよろしくね!』
『『『「「よろしくお願いします!」」』』』
こうして、ほんのちょっとのトラブルはあったけど、無事にトラブルも解決(?)し、私たち【自由の機翼】は新たな人材を獲得するのだった。
カノンやクラリスの方も同様で、それぞれ十五人ほど残ってくれたという。ま、少数精鋭で行きましょうか!
ちなみに、【黒の機士団】にはダリベさんと感性の近い人が沢山入ったんだとか。私的にはあの妾口調の人が気になったね、面白そうで。
あ、ちなみに作りまくって余ったアーキタイプマギナは初心者プレイヤーの手本に使ったり、分解して作り直すことになったよ。今さらだけど、こんなに作らなくてもよかったよね……反省。思った以上に残らなかったし。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




