第四十六話 †漆黒の叛逆者†ダークリベリオンとの邂逅
第二陣参戦前の最後の新キャラ登場&戦闘回です。
それでは本作品をお楽しみください。
第二陣の受け入れを明日に控えた今日。
メンテナンスの時間は深夜から昼にかけてなので、私たちは最後の準備をしていた。
量産型魔機人、アーキタイプマギナシリーズの量産も順調で、メンテナンス前には一五〇体分くらいはできるという。今までに作った分を合わせれば、ざっと四〇〇体分くらいかな?
……うん。張り切って作りすぎちゃった感はあるね。おかげでスキルレベルなんかはかなり上がったんだけど。
ちなみに量産型魔導石に関しては、ハウジングメニューで工場を強化してゲーム内時間で一日百個の量産体制になった。量産型魔導石はいくらあっても困らないから、使わない資材やお金なんかを使ってひたすら強化したね。現状これ以上の施設の強化はできないし、品質も上げられないけど。
そんなこんなで私は学校の友達とフレンド登録をしたり、散華の森の下層で作った武装の試し打ちをしていた。
複合兵装ディ・アムダトリアやマギユナイト・セントールウィング……Cウィングの使用感はバッチリで、変形後のブラッドライン・セントールの使い心地も上々。
セントール形態から人型形態に戻ってしばらくしたところで、聞き覚えのない声に話しかけられる。
『君が、殲滅機姫か?』
『そう呼ばれるのはあまり好きじゃないけど、そうみたい。あなたは?』
声をかけられた方を向くと、そこにいたのは黒き魔機人。
全身はつや消しの黒で、ところどころメタリックゴールドで装飾されている。
全体的に鋭く、指の先なんかそれだけで武器になるんじゃないかと思うくらいに尖っていた。
ここからでも背部パーツのウィングが見てとれる。まさか、【自由の機翼】以外の魔機人が飛行ユニットを持ってるとはね。
私のじろじろと眺める視線を受けても黒い魔機人は気にすることなく話を続けた。
『我が名は†漆黒の叛逆者†、ダークリベリオン。反ではなく叛だぞ。そこは重要だからな』
『確かに名前のこだわりは必要よね。そんでそのダリベさんは私になにか用?』
『ダリベ言うな! ……ごほん。なに、ここに一大勢力を築いた魔機人がいると聞いてな。ぜひ戦ってみたいと思い、手合わせをしに来た』
『つまり、PvPをしたいってこと?』
『如何にも』
大仰に頷くダリベさん。なるほどね、こういうタイプか。
私的には嫌いじゃないタイプね。有無を言わさず襲いかかってこないところを見ると常識とかはありそうだし。
厨二……なりきりで言動が残念なタイプとみた。それに、見たこともないパーツに心が躍る。
ここはPvPを受けてもいいかな?
『ここじゃ戦いにくいだろうし、こっちに来てもらっていい?』
『無論だ。我は本気の勝負を求める』
『おけおけ。じゃあついてきてー』
私はダリベさんを伴って散華の森の最奥へ行く。あそこなら広いし、なにがあってもみんながいる。
ま、私自身負ける気はしないけどね! それだけ自分の作ってきたものに自信があるのです。
ダリベさんを連れてきた私を見て、偶然近くにいたせい……ヴィーンが近寄ってくる。
「彼は?」
『野良の魔機人のダリベさん。私と手合わせしたいんだって』
『ダリベ言うな! 我は†漆黒の叛逆者†、ダークリベリオンだ。反ではなく叛だ。そこは間違えないでくれ』
「……なるほど。で、そのダリベさんとなにを?」
『PvP。私と戦ってみたいんだって』
『ダリベではないがな。如何にも』
「分かったよ。場所は空けておこう」
ヴィーンはみんなに私がPvPを行う旨を伝えて、場所を開けてもらった。私とダリベさんはその中心に立つ。
みんなはギャラリーとして観戦するみたい。既に横になって寛いでる人とかいるし。
各部の調子を確かめつつ、私はダリべさんに聞く。
『勝負の方式は?』
『どちらかのHPが尽きるか、降参するか』
『了解。んじゃ、決闘の申請を送るよ』
『助かる』
私がメニューを操作して、ダリベさん……って、プレイヤーネームをよく見たら、この人の名前クロトじゃないか。全然ダリベじゃない!
でもまぁ今さら変えるのも面倒くさいからダリべさんって呼ぼう。
ダリベさんの名前を選択して、決闘の開始のボタンを押す。
するとカウントダウンが現れ、その数字を減らしていく。
『どっちが勝っても恨みっこなし、行くよ!』
『かかってくるがいい、殲滅機姫!』
カウントダウンが0になった瞬間、私はマギアサーベルを抜いてスラスターを噴かせる。まずは先手必勝! さぁ、どんな手で来る!?
『来い、死刻剣デスキャリバー!』
ダリべさんがそう言うと、彼の手のひらに魔法陣が現れ、そこから一振りの剣が姿を現した。柄から刀身までが全て赤黒く塗りつぶされた剣で、鍔の部分だけが金色に輝いている異様な剣。
ダリベさんはそれを振るい、私のマギアサーベルを受け止める。
――ことなく、私のマギアサーベルの刀身は消えていった。
『!?』
『我が前に光は無力と知れ!』
『ちっ!』
振り下ろされるデスキャリバーをすんでのところで躱し、距離を取る。離れたところでマギアサーベルにENを込めると、再びビームの刀身が現れた。
マギアサーベルが壊れたわけじゃ、ない。
『我が死刻剣は君に死を刻む。この剣から逃れることなどできない!』
私との距離を詰めてくるダリベさん。くっ、あの剣には光属性無効化かなんかでも付いてるのか!?
このままマギアサーベルで受けるのはダメだとディ・アムダトリアを握り、ギミックを可動させて実剣状態にする。振り抜かれるデスキャリバーをディ・アムダトリアで受け止めた。
『ほう!』
『これならなんとか受け止められる……けど……!』
『その程度の武器で我が死刻剣を止めるなど……できぬと知れ!』
『ぐぅっ!?』
段々と押し込まれていく。私、これでも魔力結晶炉を二つ積んでるんだけどな! 組み込み方が甘かったかな……!
仕方ない、と私はCウィングを起動させ、ブラッドライン・セントールとなる。
『なに!?』
『まさかいきなりこれを使わされるとはね!』
『この力の高まり……押し返されるか!』
出力を上げてデスキャリバーを押し返していく。しっかりと大地を踏みしめ、スラスターの推力も合わせて押し返す。ダリベさんを逆に追い込んでいく。
瞬間、ダリベさんがニヤリと笑った気がした。
『ならば見せるとしよう。我が真の姿を!』
ダリベさんはディ・アムダトリアの実剣を受け流し、後方に距離を取る。デスキャリバーを魔法陣の中にしまい込むと、スラスターを噴かせて飛び上がった。
『転じて成せ! 転成!』
そう言うと、ダリベさんの背部パーツがパカっと開き、ぐるりと背部に肩ごと可動した両腕をホールドする。さらに胸部装甲が開き、頭部パーツが中に格納されるのと同時に鳥の頭のような機首が現れた。
脚部は太ももの部分が膝から下のパーツに入り込み、くるぶしから先がぐるりと反対を向いて鳥の爪のような形に変化する。
飛行ユニットがバサリと羽ばたき、黒き鳥がそこに現れた。
『これぞ我が姿、我が魂! 黒き神鳥!』
『っ、もしかして可変機!?』
『我が永久の闇に沈め! ダークネス・ディストピア!』
機首となる鳥のくちばしが開き、そこから黒い光弾が発射されて私を狙う。私は展開した四足で地上を駆けて難なくその攻撃を避けていく。
ギャラリーのみんなは変形したダリベさんに大興奮だ。私もそっちにいたら同じ反応をしていただろう。
しかし、本当に可変機って作れるんだ。よし、この戦いが終わったら早速考えてみよう。まずは、この戦いを通してあの機体の全てを見てやるぞ!
私の目標は既にPvPに勝つことじゃなくて、ダリベさんの機体の全てを見ることにすり変わっていた。どうせなら勝ちたいけどね!
お返しとばかりにディ・アムダトリアをライフルモードに変更し、ビームを放つ。やはりと言うべきか、空を自在に飛ぶ機動性でこちらの攻撃も難なく避けられてしまう。
『当たらないか……!』
『これならどうだ? 我が神鳥の裁きを受けよ! ジャッジメント・フォーゲルゴッド・エンデ!』
ダリベさんは空中を速度を出しながら旋回し、ある程度の速度が乗ったところで私に突っ込んでくる。機首のくちばしから漆黒のビームサーベルが現れ、それがダリベさんの全身をコーティングしていく。
恐らく、光属性無効化はデスキャリバーにしか付いていないはず。ならば、リングで!
『スモールリング、展開!』
ディ・アムダトリアの銃身に備え付けてあるリングを四つ全て起動させ、銃口をダリベさんに向ける。
『来るか!』
『マギブラスター! シュート!』
トリガーを引いてビームを放つ。放たれたビームは四つのリングを通過しその威力を上昇させ、空からやってくるダリベさんに向かっていく。
ビームはそのまま向かってくるダリベさんにぶち当たるものの、その勢いを弱めることしかできなかった。それでも、あと一発当てれば確実に勢いは止まる!
『ちぃっ、もう一撃は洒落にならん!』
もう一発を警戒したのか、まとった光を消したダリベさんは再び空へと舞い上がっていく。少しだけでもダメージを与えられたけど、このままじゃ埒が明かない。でも、あの形態ならデスキャリバーは握れないよね!
私はCウィングをたたんで人型形態に戻し、CウィングとFウィングの全てのスラスターを噴かせて一気に加速をかける。リングは一つを残して銃身に戻し、ライフルモードからサーベルモードに切り替えた。
リングを通して強化されるマギアサーベル。こいつで貫く!
『はぁぁぁぁぁぁっ!』
『この黒き神鳥であれば死刻剣を握れないと、本当にそう思うか? 我が前に現れよ、死刻剣デスキャリバー!』
ダリベさんの口元に魔法陣が現れ、くちばしで柄を挟むと一気に刀身を引き抜く。その視線は確実に私を向いていた。
すれ違いざまに強化マギアサーベルを一閃。しかしタイミングを合わされ、デスキャリバーに当たった強化マギアサーベルの刀身は消え去ってしまった。
私はリングを銃身に戻し、ダリベさんの周囲を旋回する。
『ほう、空をも飛ぶことができるか!』
『貴方だけが空を飛べるわけじゃないのよ!』
『然り。だがしかし、死刻剣には貴様の攻撃は通じぬものと知れ!』
血を吸ったかのように、怪しく輝くデスキャリバーの刀身。正直あの剣の攻略法なんて浮かばないけど……いや、待てよ?
私はディ・アムダトリアを右肩にしまい、インベントリを操作してマギユナイト・パイルバンカーを取り出す。こいつなら、もしかしたら打ち勝てるかもしれない!
パイルバンカーを展開し、スチール・パイルをセットする。これなら光属性でもないし、威力なら負けてないはず!
『私はこの一撃に賭ける!』
『ほう。ならば、我もこの一撃に賭けるとしよう!』
お互いに速度を上げ、互いを視界の端に入れながら加速する。ダリベさんの総EN量がどれくらいか分からないけど、魔力結晶炉を二つ繋いでる私より多いとは思えない。結構余裕そうに見えて、実はENがギリギリかもしれないね。私の方も、思った以上にENを使ってるし。
だからこそ、この一撃で相手のENを使い切らせて、カウンターを決める!
『はぁぁぁぁぁっ、くらえ! オーバーラピッド・パイルバンカー!』
『死を刻め! シュニツェン・デス・エンデ!』
一際大きい魔法陣のようなものが剣から現れ、ダリベさんはその魔法陣に突っ込んでいく。すると、ダリベさんの全身が紫色の輝きに包まれた。
魔機人は魔法が使えない。ならあれはアーツか、もしくは剣の機能の一種かな。名前的に剣の機能っぽい感じはするけど。
私たちは速度を出しながら、お互いに向けて飛翔する。私はパイルバンカーを振りかぶり、ダリベさんはデスキャリバーを振りかぶった。
ぶつかり合う杭と剣。凄まじい衝撃がパイルバンカーを通して腕に、身体全体に伝わってくる。
だけどパイルバンカーは、杭を打てる!
私はトリガーを引き、パイルを打ち出す。
ドガン! と大きな衝撃を以てデスキャリバーとぶつかり合うパイル。
そして。
『……くっ!』
『我が死刻剣に、斬れぬものなどない!』
パイルとパイルバンカーを断ち切られたものの、なんとか身を捻りこちらのダメージをほぼ0に抑える。パイルバンカーは真っ二つに断ち切られ、空中で光の粒子に変わってしまう。
私自身は体勢を崩しており、次の攻撃に耐えられそうにない。EN切れは起こさなかったか!?
『――次は避けられない!』
こちらの武装を断ち切ったダリベさんは好機とばかりに追撃のために旋回して突撃しようとするが――
『ちっ、もうENが持たん!』
そう言うと死刻剣を上に放り投げ、その場で人型形態に戻っていくダリベさん。放り投げた死刻剣を掴むと、地上に降りていく。
それを見た私は、光の粒子に変わっていったパイルバンカーに今までありがとうと告げて地上に降下する。
『今の勝負、ダリベさんのENが残ってたら私の負けでしたね』
『ダリベではない。しかし、実際には攻撃する分のENは残らなかった。我の負けだ』
デスキャリバーを魔法陣にしまいながら、腕を組んでそう言い放つダリベさん。
『いやいや、私の負けですって』
『我の負けだ』
『私です』
『我だ』
「なら、引き分けでいいんじゃないか?」
ギャラリーに混ざっていたヴィーンが言う。
お互いに負けって言い続けるよりかは建設的……なのかな?
『私はそれでもいいですけど、ダリベさんは?』
『だから我は……はぁ。もうそれでいい。こちらも引き分けでいいぞ』
本人からダリベさんと呼ぶことを許可された。よし、これで心置きなくダリベさんって呼べるぞ!
私たちはお互いに降参を宣言し、ドロー……引き分けとなった。
PvPも終わったので、早速ダリベさんに詰め寄る。
『ダリベさん! さっきの変形、どうなってるんです!? それにあの剣! 付いてる効果は光属性無効化ですよね!? 最後のシュニツェン・デス・エンデってどういう効果があるんですか!? あとあと――』
『ええい! いっぺんに聞かないで! きちんと答えるから、少し待って。それに、僕……我も君にも聞きたいことは色々とあるぞ。あの人馬形態のことや、空を飛ぶリングのことなんかを――』
『それはですね――』
『こちらは――』
そのまま私たちはお互いの機体の気になるところを交互に聞いていく。これで可変機の情報も手に入れたし、早速作ってみよう!
と、思ったんだけど、夜から明日の昼まではメンテだし明日の昼からは第二陣がやって来るし……作ってる時間がないね!
仕方ないから時間に余裕ができたら別パーツとして作っていこうと思う。もちろん名前はブラッドラインシリーズでね。
ダリベさんをギルドに誘ったものの、彼は自分のギルドを持っているらしく、今は人数は少ないけど第二陣から魔機人プレイヤーなどを引き入れる予定だと言う。【黒の機士団】と言う名前で活動をしているそうだ。
私はダリベさんとフレンド登録を行い、お近付きの印にと、量産型魔導石を五十個ほど渡した。そうしたら思いの外喜んでくれて、タダで貰うのは忍びないといくつかの素材とお金をくれた。
魔機人以外にも需要があるなら、量産型魔導石を売るのも視野に入れてもいいかもね。
そして私は、ダリベさんという友を得て、第二陣がやって来る日を待つのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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