幕間 その十 日常 1
今回は幕間として、リアルサイドの話になります。ロボットは出てきません!
それでは本作品をお楽しみください。
『一年D組琴宮紫音さん、生徒会室までお越しください』
今日授業で使った教科書等をカバンにしまっていたところで、校内放送が流れる。ん、私を呼んでるの? しかも生徒会室って……私なにかしたかなぁ?
フリファン内では色々とやってる自覚はあるけど……こっちで誰かに迷惑とかはかけてないと思うんだよね。
「ねーねー紫音、なんかやったの?」
「なんもやってないし。でも、呼ばれたからには行かないとねー」
「ゲームの時間が減って残念だったねー」
「そうだ。今度フレンド登録しようよ。まだゲーム内で紫音に会ったことないわ」
「あ、あーしも!」
「あー、今第二陣の人たち向けに色々やってるから、散華の森に来てくれればいるよー」
「おっけー。南の森ねー」
「さんきゅー」
「あ、紫音〜。今度パーツの相談にのってよ〜」
「おけおけ! その話は向こうでね。じゃ、行ってくる!」
「いってらー」
持ち帰るものを全てカバンの中に入れ終わった私は、先生に注意されないくらいの早さで生徒会室に急ぐ。一年生の教室は一階、生徒会室は三階にあるので、少し時間がかかる。
この程度で息が上がるってことはないけど、ダルいのは確かだね。
生徒会室の前に着いた私はドアを三回ノックして、「一年D組の琴宮紫音です」と名乗る。
扉の向こうからは「どうぞ」という綺麗な声が返ってきた。
「失礼しまーす」
昔ながらのガラガラと音を立てるスライド式のドアを開けると、そこには優雅にお茶を飲みながら書類を確認している美しい一人の女子生徒がいた。
その女子生徒は私を一瞥すると、フッと笑いかけ、書類を置いた手で着席を促してくる。私はそれに従って入り口からほど近い庶務と書かれた札のある席に座った。
「すまないね、急に呼び出したりして」
「い、いいえ。でも、聖武院会長がなんで私を……?」
目の前のスレンダーな美人は、聖武院美希。私の一個上の先輩にして、この高校の生徒会長を務めている。
彼女に関する噂については、学校の七不思議よりも多いと言われている……らしい。
私自身まだ入学して五ヶ月ほどだから、まだよく分かってないんだよね。ただ一つ言えるのは、聖武院会長はかなりスペックの高い人だということ。男子生徒だけでなく女子生徒からの人気も高い。その、そっち系の女子生徒からも人気という話だ。
「ふふ、本日来てもらったのは他でもなくてね……」
聖武院会長は引き出しから一つの書類を取り出すと、私の方へ歩いてくる。そのまま私の真隣に来た会長は、身を寄せながらこの書類を差し出してきた。
あ、すごいいい匂い……じゃなくて! なにこの状況!? こんなの会長ファンクラブの人たちにバレたら大変なことになるよ!
「私と共に、この部活を立ち上げてほしいからなんだ」
「部活って……まぁ、私自身帰宅部ですけど、私にはやることが……」
と、そこまで言いかけて目の前の紙に書かれていることを確認する。
そこには、『VRゲーム同好会』の文字があった。
……えっと?
あの聖武院会長が、VRゲーム?
「……くくっ、はははっ」
私が混乱していると、隣にいる聖武院会長がもう耐えられないといった感じでお腹を押さえていた。ちょ、そこまで笑わなくてもいいじゃないですか!
私が非難の目を向けていると、目尻に涙を浮かべた会長が「いや、すまないね」と口元に笑みを残しながら涙を拭う。
「ふむ。ここまで気付かないのも面白いものだね、ミオン?」
「……えっ、その声、その話し方……もしかしてヴィーン!?」
「正解さ。ふふ、まさかここまで気付かれないとはね」
聖武院美希。聖武院。せいぶいん。ぶいん。ヴイン。ヴィーン……ってそういうこと!?
「いや、いやいやいや、気付かないって普通。むしろ、よく私がミオンだって分かったよね」
「なに、雰囲気がとても似ていたし……ゲーム内の方でも確認を取っていたからね」
「確認?」
いつの間にそんなことを?
うーん、なにかそれっぽいことを言ってたっけ……って、あ!
もしかして、ブラッドラインを作った時に言ってた……。
「「そろそろ夏休みも終わるっていうのに」……?」
「おや、よく覚えていたね」
「それはまあ、記憶に残る一日……一日? でしたから」
「口調が戻っているよ、紫音」
「いやだって……聖武院会長にタメ口とか……会長自身が許してもファンクラブの子たちに殺されますって」
「大丈夫さ。あの子たちはいい子だからね。それより、その入部届けに署名をしてもらえるととても嬉しいんだけど?」
「……これ、ぶっちゃけフリファンを遊ぼうってだけだよね?」
ファンクラブのことはもう考えないことにする。会長を信じてないわけじゃないけど、その時はその時だ。せめて悪あがきとして私と会長の関係を誤解させてやるぞ。
「ん、そうとも言うね」
「はぁ……いやまぁ、書きますけど」
すらすらすらっと、はい署名。
私の名前が書かれた入部届けを持った聖武院会長が上機嫌に戻っていく。意外ところころ表情が変わる人だね。
「今日のところはこちらの準備ができていないから、活動開始は休みをはさんで月曜日からだ。ちょうど第二陣が参戦してからだね。部室は生徒会室の隣をすでに確保してあるから、月曜日の放課後はそこに来てほしいな」
「はいはい……って、フリファンを遊ぶならデータはどうする気? さすがに学校に筐体を持ってきたくはないんだけど」
「そこはきちんと考えてあるよ。フリファンが遊べるこのVRセットには、あるお得な機能が付いていてね。ネットで繋いでおけば、違う端末からでもログインができるようになっているんだ」
「あー、なるほど。それで自分の端末にアクセスして、自分のデータでログインするって感じなんだね」
「その通り。というわけで、君を含めて五名の部員が集まったわけだ。VRゲーム同好会から、VRゲーム部に昇進というわけだね」
「私たち以外の三人っていうのは?」
「気になるかい?」
「気になる」
「ふふ、秘密だ。月曜日のお楽しみというやつさ」
「ちぇー」
私が不貞腐れていると、会長はにこやかに笑いながら頬に手を添えてくる。
ちょっ、こんな間近に聖武院会長の顔が……あ、すごい気持ちよさそうな唇……って何考えてるんだ私は!?
「ふふ。やはり君は可愛いな。さ、早く帰ってログインしてくるといい。やることがいっぱいあるんだろう?」
「あ、あの……はい……」
「ふふふ、しおらしい君もいいものだね」
私は終始会長にいじられながら、生徒会室を後にした。
くそう……私はロボット一筋なんだからね!
でも、聖武院会長すっごい柔らかくていい匂いだった!
人気になるのも、分かる気がするね……。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




