第四十四話 量産型魔導石
思った以上に工場編が長くなってしまったので、章のタイトルを変更させていただきます。
イベント終了後から次の幕間までを『ver.2.0』編。
その次の話から『第二陣』編とさせていただきます。
それでは、本作品をお楽しみください。
『いやいや、いやいやいやいやいやいや!』
「これは……また……」
『えっえっ? 私の耳がおかしくなってしまったのでしょうか……?』
『あたしも自分の耳がおかしくなっちまったのかと……』
『みんな、これはげんじつ。めをそむけないで』
『……現実かぁ』
目の前に広がるこの光景を見てると、自分が夢を見ているんじゃないかと不安になってくるね。
だって魔導石だよ? 量産されてるんだよ!?
おかしくないですか! そりゃ一個一個作られるペースはそこまで早くないとは言えですよ!
量産されてるってことは、質がそこまでよくないってことかもしれないけど……。
『ふむ。そう言えば君たちのパーツにはこの魔導石よりも質のいい魔導石が使われていたか』
『あ、あの量産型魔導石ってやっぱり質が悪いんですか?』
『うむ。あの量産型魔導石自体も改良を重ねてきた結果のものなのだ。マギアーノ・クライスドーラという人物がおかしかっただけでな』
『マギアーノ博士って、私たち魔機人の生みの親……ですよね?』
『そうだ。そして、私も彼に造られた。しかし君たちは、昔の魔機人たちよりもよほどいい武装を持っているな』
感心したように何度も頷くセイリュウオーさん。あ、そうだ。武装についてセイリュウオーさんに聞きたいことがあったんだった。
『セイリュウオーさんが青龍形態の時にビームとかバンバン使ってたと思うんですけど、あれって昔から使えてたんですか?』
『む? そうだな。この形態になると使えなくなるが、青龍形態であれば使用が可能だ』
『あー、やっぱ昔だとこうやって持ち運びできるビーム兵器ってなかったんですね』
『なかったな。いやはや、私もその武装は興味深いと思っていてね……見せてもらうことは可能だろうか?』
『いいですよ。あ、でもその前にこの施設の説明とか、諸々お願いしたいです』
『承った。では、この工場から説明していこうか』
セイリュウオーさんが歩き出したのを見て、私たちはその後ろをついて行く。
『先ほども言ったが、これは量産型魔導石を量産するための工場だ。質はよくないが、一日で百個ほどの魔導石を製造している。一日とは、君たちの住む世界の時間でということになるな』
『百個……』
「すごいね……」
『しかし、ゲーム内時間で考えると、三日で百個か……』
『多いと見るか少ないと見るか……』
『もっと質のいい魔導石を量産したいところだが、八八式以降の魔導石と魔力結晶炉のレシピはマギアーノ・クライスドーラ博士が唯一誰にも明かさなかったレシピと言われてる』
『量産型魔導石のレシピは?』
『それはもちろん工場のシステムにインプットされている。が、それではより上位の魔導石は作れないのだ』
『それもそうですね』
『そして、工場で生産された魔導石は、このメニューから受け取れる。君たちに渡せるのはこの工場の所有権を得た時から生産されてる物だけになるので、今は数が少ないがね』
『なるほど。ありがとうございます』
私はセイリュウオーさんに礼を言う。
セイリュウオーさんはそんな私を見て双眸を点滅させたあと、ふふふ、と笑った。
『では、次にこの工場への移動方法だな。毎回バカ正直にダンジョンを進むのは非効率的だ。というわけで、君たちの拠点とこの工場を繋がせてもらった。転移ポイントは、この部屋の入り口に設定しているが……』
『黄昏の戦乙女側に出入口となるポイントを設定してほしいと』
『そういう事だ。ハウジングメニューでポイントを設定できるので、やってほしいのだが』
『なら黄昏の戦乙女に戻ってるやつにチャット繋ぐわー』
『お願いします』
大剣使いの魔機人――レンさんにチャットを繋いでもらう。
すぐに話は伝わったようで、この部屋の入り口にヴォン、という音ともに転移ポイントが現れた。
話によれば、格納庫に転移ポイントを繋いでくれたそうだ。行き来しやすい場所を選んでもらって助かるよ。
『そうそう。この部屋にもハウジングメニューがあるから自由に弄ってみるといい』
『ああ。この部屋もギルドホーム扱いなのか……』
「しかし、我々のギルドがこの工場の所有権を得た……とあったが、この所有権というのは他のギルドに移るものなのかな?」
『その通りだ。ある条件を達成すれば、この工場の内装は初期状態に戻り、その条件を達成したギルドに所有権が譲渡される』
「その条件とは?」
『私を倒すことだ』
「なるほど……」
つまり、この工場がほしいってなったら、セイリュウオーさんを倒さないといけないわけか。
……チートみたいな魔機人でこんなに苦労したのに、他の種族で勝てるのだろうか?
『ま、戦うといってもまた青龍戦から始まるわけではない。このセイリュウオー自身と戦ってもらうことになる』
『タイマンでってことですよね』
『うむ』
「……それならば、仮にセイリュウオーを超えるプレイヤーが現れるとして、我々は貴方の勝利を願うことしかできないのか?」
『ははは。そんなわけがなかろう。私とて、いつまでも同じままとは言わせんよ。君たちの手で、私を強化する事ができる』
『つまり、私たちが作った武装を使ったりできるってことですか?』
『うむ』
『ビルド系か……いやしかし、運営も……いや、これは開発かな? どっちでもいいけど、分かってるねぇ!』
『このことを親方に伝えたら大変なことになりそうですね』
『あー、おやっさんの狂喜乱舞する姿が目に浮かぶようだぜ……』
『おやかただけじゃなく、めかにっくのみんなもそうなりそう』
『アイの言う通りだな……と言うか、そもそもここにいるメンツですらあの昂り様だからなぁ』
『やっぱり、むねのところにはりゅうのかおをもしたぱーつがひつようだとおもうの』
『さっすがアイちゃん分かってるね!』
『あとはうでをあわせてきょだいびーむをうったりとか』
『いいね! あー、アイデアが止まらなーい!』
『って、アイ、お前もなのか……』
レンさんが脱力したように肩を落とす。いやね、セイリュウオーさんの強化プランが色々ありましてね……。
と、そんな話をしていると、入り口に設置された転移ポイントが輝き出す。輝きが収まると、そこには死に戻りしたギルドメンバーや、様子を見に来た整備班プレイヤーたちがいた。もちろん、その先頭にいるのは親方だ。
「こりゃすげぇな……」
『あ、親方こっちこっち』
「どうしたミオン」
『こちら、整備班をまとめてる親方。んで、こっちがこれから仲間……うん、仲間になるセイリュウオーさんです』
『私の名前はセイリュウオー。君たちからすれば、古代兵器と言うことになる』
「どうもご丁寧に。俺は親方。整備班つっても、まあいわゆるただ生産職プレイヤーだ。よろしく頼むぜ」
『ああ、よろしく頼む』
がっちりと握手を交わす両者。うんうん、仲よきことは美しきかな、だね。
そのまま親方にこの施設の話や、セイリュウオーさんの強化プランなどの話を共有する。
すると、親方の方からも私に報告したいことがあるそうだ。
「驚くなよ? まずはこいつを見てくれ」
『これって……重力鉱石!? しかもこんなにいっぱい……』
「質は悪いけどな。メカ鳥のドロップアイテムから抽出した人工的な重力鉱石だが、メンバーの飛行ユニットを拵えるくらいならこれでなんとかなるだろ?」
『もちろん! 質が悪い分燃費とかは悪くなっちゃうだろうけど、みんなの分の飛行ユニットは作れそうだね!』
「あと道中のゴーレムたちの素材もなかなかに使い勝手がよさそうでな。魔機人以外の種族でも使える遠隔誘導兵器ができるかもしれねぇ」
『ホント!? もし完成したら、ヴィーンに渡してあげてほしいんだけど……』
「当たり前だろうが。うちのメンバーで前線に出る魔機人以外のプレイヤーはあいつしかいねぇからな。今はあいつの意見を聞いて作ってるところだ」
『んー、夢が広がるねぇ……』
「そんでよ――」
その後も親方と二人で、私たちの話を聞いて続々とメンバーが集まっていき、最終的にはほぼほぼ全メンバーで色んな話し合いをした。主に武装やパーツの話と、セイリュウオーさんの強化についての話だ。
色々な話を聞いて私自身のモチベーションもうなぎ登りだから、早く色んな武装を作りたい!
……っと、その前に左腕を修理しないといけないね。この際だから新しい素材を使ってさらに強化しちゃおうかな。
『……はは。楽しいものだな、こういうのも』
『なに言ってるんですか。これからはセイリュウオーさんも一緒ですよ』
『……そうだな。ああ、そうだな』
私たちがそれぞれ差し出す武装を一つ一つ試しながら、時間は過ぎていく。
FreedomFantasiaOnlineに新たな風が吹き込むまで、そう時間は残されていない。
第二陣が来るまでに、もう少し色々と考えないとね。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




