第四話 ダンジョンボス攻略戦
MMORPGはドラクエ10、FF14、PSO2くらいしかやったことないですね。
1番やった(やってる)のはドラクエ10です。
改めてログインした私は、何度かボスのロボットに挑んだ。負け続けはしたものの、スキルレベルはかなり上昇している。このゲームのデスペナルティは所持金の半減と装備している武器防具の耐久低下なんだけど、どちらも私には関係ない。森の中じゃお金なんて使わないし、装備してるパーツや武装は初期装備だ。耐久値の低下を心配する必要はない。
何回か戦ううちに相手の行動パターンも読めてきた。このゲームのモンスターのAIはかなり賢いはずなのだが、あのロボットだけは決まった行動を取り続ける。こうされたらこうする、あれをされたらあれをする、みたいな感じって言えばいいのかな。受けた攻撃に対して反撃のパターンが一定だから、ある程度ダメージを抑えることができる。
でも、あくまで抑えるだけ。完全に避けたり、見切ったりはできない。装備がよければ違うかもだけどね。
現状のスキルレベルはこんな感じだ。
[所持スキル]
《魔機人》Lv.21(6up↑) 《武装》Lv.22(4up↑) 《パーツクリエイト》Lv.-- 《自動修復》Lv17(4up↑) 《自動供給》Lv.10(3up↑) 《刀剣》Lv.25 (6up↑)《鑑定》Lv.-- 《感知》Lv.10(2up↑) 《直感》Lv.21(6up↑) 《敏捷強化》Lv.19(5up↑)
残りSP36
《刀剣》スキルはLv.30を超えると様々な派生スキルが取得可能になる。そこから各々の好みにあったスキルになっていくわけ。ただし、派生先のスキル以外の武器は使えなくなるから注意ね。もし派生スキルにして他の派生スキルを取得したい場合、また一から《刀剣》スキルを育てることになる。それはちょっと非効率だ。
私の場合、《片手剣》スキルと《刀》スキルになるわけだけど、そのどっちかを取ったらもう片方の武器種は使えなくなっちゃうって感じ。今は右に剣、左に刀を装備してるけど、片方しか装備できなくなっちゃうわけね。現状それはいただけないので、スキル派生は武器の目処がたってからかな。
ま、スキルがなくなるとはいえ、《刀剣》スキルで覚えたアーツはそのまま使えるんだけどね。
そうそう、アーツについて。
アーツとは、MPを消費して放つ必殺技のようなもの。某大作RPGで言えば特技ね。これらは、武器カテゴリーのスキルを育てていけば覚えることができる。でも、私は使えない。
元々魔機人は武器や防具を装備できず、《武装》スキルのおかげで種類が武装になっている武器なら装備できる。それが理由なのかは知らないけど、本来使えるはずのアーツが使えない。ボス相手に火力の欲しい私にとっては大問題ね。現状、ちまちま殴っていくしか方法がないもの。
ただ、もうほとんど行動パターンも読めた。次で決めてやる!
私は確認のために表示していたスキル画面を閉じて、ガレージの外へと歩いていく。そのままの足でダンジョンへと進む。そろそろ夕ご飯も食べたいし、ここで倒したい。
青い膜を通り、機械的な装飾が施された殺風景な通路を進む。今度こそあいつを倒す。ボス部屋に近づくにつれてその想いは強くなっていく。
『散々私を死に戻りさせてきたんだから、その落とし前はきっちりと、ね!』
そしてダンジョンの主、ボスロボット(私命名)との戦いが始まった。
『ふっ!』
ボスロボットは私がボス部屋の中心あたりに来ると、床に突き刺さった剣を抜いてこちらに走ってくる。そして、振り下ろし。
それを余裕を持って横に回避し、右の剣を叩きつける。そうすると攻撃の判定が打撃判定になって、ボスロボットに効くようになる。最初の時は一撃で1%しか減らなかった一つ目のHPゲージが2%ほど削れている。たった1%でも大きな進歩よ。単純に威力が二倍になったようなものだもの。
ダメージを受けたボスロボットは鋭い連撃を放ってくる。私はボスロボットの後ろに回り込むように回避し、その背中を剣で打ちつける。基本的にはこの行動の繰り返しね。
何度もその工程を繰り返し、一本目のHPバーが半分を切った。するとボスロボットの動きが変わり、大きくバックステップして私との距離を空ける。剣を床に突き刺したボスロボットはおもむろに両の手のひらを私の方へ向けてきた。そこから伸びるのは銃口。
ここからが第二ラウンド。銃口から発射される魔力弾を躱してボスロボットにダメージを入れないといけない。ま、私は躱さないけどね!
バババババババババ、と発射される魔力弾を後目に私は真っ直ぐボスロボットへ向かっていく。魔力弾が私の装甲に当たりダメージを与えていくけど、《自動修復》スキルによってすぐさま回復していく。
そう、スキルレベルの上がった《自動修復》スキルのおかげで回復量が相手の攻撃を上回った。だからこんな無茶な動きをしてるってわけね。そうでもなきゃやってられないけど。この弾幕を一人で突破するなんて無理ゲーよ無理ゲー。ここを突破するには《自動修復》スキルの回復に任せてのゴリ押ししかないわ。
『やぁぁぁぁぁぁぁっ!』
ボスロボットの与えてくるダメージを無視して何度も剣と刀で殴りつける。でも、初期装備に耐久値がなくてよかった。これでも強引な戦い方をしてる自覚はあるからね。
私がどれだけ近づいてもボスロボットは銃撃を止めることなく撃ち続けている。近づけば近づくほどダメージは増えていくけど、私のHPが減るよりも相手のHPバーが削れる速度の方が速い。それに、《自動修復》スキルのスキル上げにちょうどいいんだよね、この攻撃。あ、また1上がった。
一つ目のHPバーを削りきると、ボスロボットは銃口をしまい、再び剣を構える。私も一度距離をとって呼吸を整える。アバターは機械の身体だけど、中の人はそうじゃないからね。
ここからが第三ラウンド。攻撃の密度は下がるけど一撃一撃が洒落にならない威力の斬撃をお見舞してくる。気を抜いたら一瞬でHPを刈りとられてしまう。
『――ふっ!』
私はボスロボットの重い斬撃を一つ一つ丁寧に躱しつつ、カウンターを叩き込んでいく。ダメージを与える頻度は落ちてしまうけど、ここは安全第一。確実にダメージを入れていく。
二本目のHPバーが半分を切り、ボスロボットの行動パターンが変わった。重い一撃重視の動きから軽い連撃重視の動きになり、猛攻を仕掛けてくる。息吐く暇もない連続攻撃に防戦一方になる私。
『でも、その動きには慣れた!』
少しずつ敵の攻撃を躱せるようになり、それに合わせてカウンターを叩き込む。ノーダメージとはいかないけど、こちらのダメージをかなり抑えて戦うことができている。前回はこの連撃ラウンドの最中で死に戻っちゃったからなぁ。頑張らないとね。
また、このラウンドから本格的に敵がアーツを使い始める。初回の時に使われたアーツはこちらの体力が半分を切ったら自動発動するアーツだった。ボスロボットが使ってくるのは《刀剣》スキルの【スラッシュ】と【スライサー】。【スラッシュ】はアーツの光を纏いながら敵を切るスキルで、一撃の威力と振りの速度が高い。初回の時に使ってきたのはこれね。【スライサー】は高速移動しながら敵を切りつけるスキルで、移動しながら敵にダメージを与えられる優れものだ。ま、どちらも私には使えないけどね。
ふと、眼前の剣に光が集まる。アーツが来るか!
ボスロボットは上段に剣を構え、真っ直ぐ振り下ろしてくる。何とか右に避けることで難を逃れたけど、【スラッシュ】を受けた地面は無事ではない。剣先から放射状にヒビが入っており、威力の高さを物語っている。でも、ビビってられない!
奔る剣閃。頬を掠める刃。地を割るアーツ。致命傷となりうる攻撃を避けてダメージを叩き込んでいく。
こちらのHPはまだ安全マージンを保っているけど、まともに攻撃を食らったらアウトだ。豆鉄砲ならともかく剣はやばい。アーツなんてもっての外ね。
精神とHPを削る戦いが続き、ようやく敵の二本目のHPバーを削り切る。バックステップしながら確認するが、ボスロボットの動きは変わらないようだ。なら、このまま同じようにHPを削り切ってやる!
避ける。避ける。殴る。避ける。殴る。避け――
『ぐっ!?』
集中力が切れてきて、避けられる攻撃も避けられなくなってきた。時間の感覚が曖昧で、どれだけこのロボットと戦ってるかわからない。
すぐさま体勢を立て直してボスロボットと対峙する私。大丈夫、着実にHPバーは削れている。勝てない相手じゃない!
深呼吸の後に集中力を再動員させ、的確にカウンターを決めていく。幾度となく鳴り響く金属を打ちつける音。相手に疲労はないはずだけど、確実に弱ってるのがわかる。少しずつ、少しずつだけど相手の動きが遅れてきているからだ。
最後のHPバーが半分を切ろうという時、相手の行動パターンが変わる。ここから先は未知の領域だ。さて、何が来る――?
『ぐっ!』
右手には今まで通り剣が握られている。しかし、こちらに向けられていた左手には見覚えのある物体が存在感を放つ。
第二ラウンドで見た銃口がこちらを狙っていた。あの時は魔力弾だったが、今回は実弾だ。威力も実弾の方が上のようで、一発食らっただけでこちらのHPを一割も削っていった。そうか、魔力弾だと《魔機人》スキルの魔法耐性で威力が下がるのか!
カラン、と薬莢の転がる音が聞こえる。実弾で、しかも一発一発が重いタイプのようだ。先ほどのような連続射撃をしてこないだけマシと考えるべきかな……?
『っ、あっぶ!』
ダン、と発射される弾丸を間一髪のところで避ける。しかし、避けた先より振り抜かれた剣が迫ってきた。右の剣で何とかそれを受け流し、体勢を崩されながらも左の刀で反撃しダメージを与える。
ダメージを受けずホッとしたのもつかの間、体勢の崩れた私に向かって弾丸が放たれた。避けようとするも回避には至らず、HPを一割削りとられる。
隙ありと言わんばかりに間髪を入れず剣を振り下ろしてくるボスロボット。それをクロスさせた剣と刀で受け止めた。耳障りな金属音が響く。
互いに力を込めて押し合う。両手を使ってる私の方が押されてるってなんて力だ。さすがボスってところかな!
『ちぃっ!』
咄嗟に顔を逸らした私の頬を弾丸が掠める。あの野郎、こんな状態でも撃ってこれるのか!
私は脚に力を込めて、思いっきり相手の胴を蹴りつける。僅かに力が緩んだ隙に相手の剣を弾き、密着状態から抜け出した。危ない危ない。危うくまた死に戻るところだったよ。
息吐く暇もなく剣を振りかぶってくるボスロボット。少しは休憩させて欲しいな、っと!
余裕を持って相手の攻撃を躱し、カウンター。何度も繰り返してきたからか、この動きにも無駄がなくなってきたね。
その後は大した事故もなく順調にHPバーを削っていく。やがて、そのHPバーのメモリがほんのわずかになった瞬間。
ゾクッ、と背筋が凍るような感覚を覚える。目を凝らして見てみるものの、相手の行動に変わりはない。このまま相手の攻撃を躱してカウンターを決めて終わり。そのはずだ。
なのにこの感覚。つまり――
『――《直感》スキルか!』
私は何も考えずに右に飛ぶ。身を投げ出した緊急回避。そのすぐ後に私のいたところを鋭い衝撃が駆け抜けていく。
あれは、《刀剣》スキルのアーツ【ソニックブレイク】かな? 剣を振り下ろしてその剣閃を相手に飛ばす《刀剣》スキルの中でも珍しい遠距離アーツだったはずだ。しかも、ダメージを与えた相手を少しの間硬直させる追加効果があったはず。瀕死になってまた行動パターンが変わったのか! ってことは、このまま寝てちゃまずい!
連続で飛来する【ソニックブレイク】。私はそれを全力で避け続ける。とりあえずあれは食らっちゃダメだ。一度でも食らったらダメージの硬直が入ってそのまま切り殺される!
『しまっ――』
幾度となく襲いくる【ソニックブレイク】だったが、それを全て避けることはできなかった。避けそこねた左足に衝撃が直撃し、私は宙を舞う。HPが急激に減り、アーツを食らったことによる硬直が私を襲う。その好機を逃すまいとボスロボットの剣がアーツの光を纏った。
あの予備動作だと、【スライサー】!? 身動きの取れない状況でそのアーツはヤバすぎる! なにかない!? なにか――!
アーツが発動し、ボスロボットが駆ける。目指すは硬直中の私。くっ、このまま黙って切られるしかないの!? まだ、できることがあるはず。私はゆったりとした時間のなかで必死に頭を回転させる。
アーツは――使えない。アイテムは――持ってない。硬直は――解けない。パーツギミックは――意味がない。
……? 待って、パーツギミック? そう言えば、アバター作成時に作ったギミックがゲームでも普通に使えてた。アバターを作った時に、腕の開閉ギミック以外に何を作った……?
『――スラスター!』
そういえば後ろ腰にスラスターを、脚部と肩のところにバーニアを取り付けたはず。実際に使えるかわからないけど、これに賭けるしかない!
でも、どうやって動かす? 腕のギミックは意識すれば動くけど、スラスターはどうかな。
スラスターを噴射させるイメージで動かしてみるものの、何の反応もない。力を込めてみても同様だ。やばい、もうすぐ近くまできてる!
どうすれば動く? なにで動く? スラスター……噴射……エネルギー?
でもそんなエネルギーなんて……。
ふと、視線が自分のHPゲージに向く。正確には、その下に伸びる一本のゲージ。
そうか、ENゲージだ!
私は目を閉じ(感覚的に)身体の中で循環しているエネルギーの流れを感じる。その流れを意識してスラスターに向ける。急いで、でも焦っちゃだめ。
そしてアーツ【スライサー】によって加速したボスロボットの剣が私の胴体を薙ぐその瞬間。
『いっけぇぇぇえおぉぉぉぅぉぉ!?』
腰の辺りに集まったエネルギーがスラスターを起動させ、私を宙へと打ち上げる。おかげで【スライサー】は躱せたけど、空中では四肢を投げ出して無防備な姿を晒している。このままだとボスロボットに切り殺される未来は変わらないか!
えっと、スラスターが推進器だから姿勢制御は、バーニア!
『ぐっ!』
スラスターにENを送る要領でバーニアを噴射させ、姿勢を整える。スラスター含めてこれだけでENを半分も消費してしまったけど、背に腹はかえられない。床と平行になった私には、ボスロボットの姿がよく見えた。どうやら空中から落ちてくる私をそのまま切るつもりらしい。剣を上段に構える姿が見てとれた。
重力に引かれ、徐々にボスロボットへと近づいていく。あまり時間はないか!
相手のHPバーもほんの少し。先に一撃当てられれば勝てる!
私は両腕の剣と刀をボスロボットに向け、スラスターを噴射させる。さらにバーニアをそれぞれ別方向に噴射させて回転を加えた。今の私はさながら空から落ちてくるドリルか弾丸か。残りのENを全て消費するくらいの気持ちでボスロボットに吶喊する。
『これでも食らえぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!』
ぐるぐる回る視界の中で、ボスロボットの姿を中心に捉える。三半規管が乱れて気持ち悪さを覚えるものの、相手の一挙手一投足を見逃さない。少しでも逃げる素振りを見せるなら、私はそれを追いかけるだけ!
ここで、決めてやる!
『貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!』
私自身が弾丸となったその一撃は振り下ろされた剣を真っ二つに折り、ボスロボットの胴体すらも貫通する。
そのまま突き抜けた私は床に突き刺さった状態でその回転を止めた。ENが足りず、制動のためのバーニアすら吹けない状態だったからだ。とりあえず、床から抜け出さないと。今の格好はその……酷く滑稽だからね。
なんとか突き刺さった剣と刀を腕の中へとしまい、床へと着地する。そんな私の目の前には上半身と下半身が分かたれたボスロボットの残骸と、勝利を告げるドロップアイテムのウィンドウが表示されていた。
勝てた。その感慨もひとしおに私はその場で座り込む。今は、ちょっと休まないと。疲れたし、なによりHPがやばい。無理して姿勢制御した結果身体に負担がかかったのか、HPは残り数ドットほどしか残っていなかった。
いくつか確認したいログもあるんだけど、全部後回し。HPの回復と呼吸が落ち着くまでは、休憩だね。
私は一人でボスを倒した達成感と絶え間なく襲いくる疲労感に包まれて、その場に座り込んだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きは近日中に投稿する予定です。




