第四十一話 合体変形バンク中は手出し無用
終盤戦開始です。
それでは本作品をお楽しみください。
『後二本だぞー! 押し切れー!』
『やぁぁぁぁぁってやるよ! うぉぉぉぉぉぉうわぁぁぁぁぁぁぁ!?』
『ってお前がやられてどうすんだドアホ!』
『流れ弾には気を付けてね!』
覚醒青龍のヘイトを買うように目の前をウザったらしく飛んでるけど、全ての攻撃を私に集中させることなんてできないからね。そっちに行っちゃった分はそっちでなんとかしてほしいかな! これでも八割くらいの攻撃を私が受け持ってるからね!
私を握り潰そうとする腕を回避し、まだ残っている砲台をライフルで片付けながら空を舞う。ウィングのENが切れないうちにマギアタンクを付け替え、ENを補充していく。
残りのタンクも少なくなってきたし、私が飛べなくなったらそのまま押し切られそうな感じがするね……。
このペースでこっちのメンバーが倒されるのは宜しくない。さて、どうするべきか。
『っ、しまった!』
青龍の分かりやすい予備動作を見逃して地上への薙ぎ払いを許してしまう。結構な時間戦ってるから集中力が切れてきちゃったかな……?
『まかせて。あんかーしゃしゅつ。しーるど、えいっ』
地上全てを薙ぎ払おうとする青龍の尻尾を、飛び出してきた小さい体躯の魔機人が受け止めた……って、え? 拮抗してる?
あんな小さな身体にどんなパワーが……って、ゲームだから身長とかはあまり関係ないんだけどね。
ビームシールドのようななにかを両の拳から発生させて、尻尾を押さえつけている。じりじりと押されてはいるけど、どうやら脚部のパーツからアンカーを地面に突き立てて耐えてるみたいだね。
『そのまま押さえといてくれよ!』
小さい魔機人の後ろから身の丈ほどもある大剣を構えた魔機人が躍り出る。振り下ろされた一撃は尻尾に確かな傷痕を残していった。
『はやく。きつい』
『わかってるって!』
『……もういい。やる』
『あ、ちょま!』
大剣を持った魔機人が何度も尻尾に切り付けている横で、小さい魔機人は片手のシールドを消し、その手にメイスのようなものを握りしめる。力を込めて尻尾を押し込み、ほんの少しの余裕ができた瞬間に両手でメイスを握って迫り来る尻尾に向けて振りかぶった。
『だいいちだー。どーん』
ガキィン! という重い金属同士がぶつかり合う音が響く。驚いたことに、振りかぶったメイスは青龍の尻尾を確実に押し返していた。しかし、まだ尻尾の勢いは止まらない。
『む。だいにだ。どぅーん』
再び振りかぶったメイスの一撃が青龍の尻尾にクリーンヒットする。さっきよりも派手な音が鳴り響くものの、まだ尻尾は地上を狙っているようだ。
『いいかげんに、ふっとべ。かっきーん』
第三打。少し不機嫌そうに言いながら放った魔機人の一撃は尻尾の表面を砕き、完全に尻尾を押し返した。
『おお! やるぅ!』
『まだ。むかついたからもういっかい』
『おし! あたしも行くよ!』
そう言うと、小さな魔機人はメイスを構えて走り出す。大剣持ちの魔機人も彼女に続き駆け出す。
二人が狙うのは、メイスに割り砕かれて垂れ下がっている尻尾だ。
『タイミングは合わせるよ! 好きにやりな!』
『おけ。ぐるぐる〜』
小さい魔機人は尻尾に向かいながらもぐるぐると回り始める。その回転数は徐々に増していき、尻尾にたどり着くと同時に、ズドン、と地面を蹴った。
……今、地面割れなかったかな?
『――いん、ぱくと』
速度と威力の乗った一撃が尻尾にぶち当たり、甲高い音を立てて割れ砕ける。うわ、ヒビまで入ってるよ……もしかしてあの形で超パワーファイター?
『追撃ぃ!』
小さい魔機人が下がったのを確認して、その巨大な剣を振りかぶる魔機人。息の合ったコンビーネーションは硬いはずの青龍の装甲をものともせずに断ち切った。うぇぇぇ!? 先端の方とはいえ尻尾をぶった切っちゃったよ!?
『おまけ』
メイスを背部パーツに戻した小さな魔機人はその拳を輝かせて目にも止まらぬ速さで青龍の尻尾に突撃する。少なくないダメージを受けている青龍は彼女を脅威と見て尻尾を空中に戻そうとしていた。
『にがさない』
ズドン、と地面を割り砕く勢いで踏み込む。飛び上がった小さな魔機人はその場で拳を振り抜こうとするが、すんでのところで青龍に逃げられてしまう。
『仕方ねぇ。使いな!』
すると、地上にいた大剣を持つ魔機人があろうことか小さな魔機人に向かって大剣をブーメランのようにして投げる。あっという間に彼女の元にたどり着いた大剣を小さな魔機人は足場にして、さらに高く舞い上がった。
『わたしのこぶしが、かがやきうなる。おまえをくだけと、かなしみなげく。ひっさつ、【しゃいにんぐ・ぶろー】』
思いっきり振りかぶられた輝く拳の一撃が、青龍の装甲を貫き、爆ぜる。ちなみに、彼女の拳にはなにも浮き上がってはきてないよ?
ガクン、と目に見えて減るHPバーに驚きを隠せない。
『ふう。まんぞく』
青龍の尻尾を粉々にした小さな魔機人はそのまま地面に落ちていき、大剣を持っていた魔機人に受け止められた。
『よっと……全く、無茶しすぎだ』
『ぶい』
『って、ああ! あたしの剣がぁぁぁぁぁ』
『とうといぎせいだった……』
『……はっ、各機、攻撃再開!』
青龍のHPバーは残り一本と三割。彼女たちのおかげでだいぶダメージが稼げたね。いやー、いいもん見れたよ。
名前は……って、戦闘中にすることじゃないね。後に回そう。
尻尾の先を失ったとはいえ、巨大な青龍。その威力の高い攻撃は健在だ。口元にエネルギーをチャージし、地上を焼き払うかのようにビームを照射する。
そのビームに当たった者はそのHPを全て刈り取られて死に戻った。しかも、青龍は連続でチャージビームを地上に向けて放っている。それはちょっと見逃せないな!
『……でも、私にヘイトが向かなくなってきてる』
なんとかヘイトを取ったけど、どうやら同じ戦法は許してくれないようだ。どうにかして私にヘイトを向かせておきたいんだけど……。
大ダメージを与えることができれば、私を無視できなくなるとは思う。けど、あの二人のコンビネーション以上の火力を出せるかって言われると、厳しいものがあるね。
もちろん、出すだけなら出せるよ。ただ、それをすると青龍の攻撃が全部地上のみんなにいってしまうことになる。ダメージを与えられたとしても、仲間がやられていては意味がない。
さて、どうしようか。
なにか使える武器やアーツは……アーツ?
そう言えば、始めたばっかの頃にアーツを獲得してたような……あった。
【スパイラル・ブレイカー】……これなら、いけるか?
確かあの時は両手に剣を持って放ったんだよね……うーん、パイルバンカーで、いけるかな?
マギアサーベルでやるよりも威力は上がると思うんだけど……ぶっつけ本番って言うのがね。
ま、やるしかないか。こうなるなら、左腕用のパイルバンカーも用意しておけばよかったかなぁ。
私は青龍の上を取り、パイルバンカーを青龍に向ける。あの時よりもあらゆるステータスが上がってるから、威力は出るはず。
信じてるぜ、私のブラッドライン!
『はぁぁぁぁぁっ!』
スラスターを噴かせ、勢いをつけて落下。パイルの先端を青龍に向けながら、私は側面のスラスターを噴かせて回転を加えていく。
ぐるぐると回る視界の中、青龍だけを捉える。
左手で右腕を押さえ、着弾点がズレないように調整。
――くらえ!
『【スパイラル・ブレイカぁぁぁぁぁぁぁっ!】』
ガギィン! と青龍の背中に突き刺さるパイル。回転しながらの突撃で青龍の装甲を削っていく。ある程度深いところまで刺さった状態で、トリガーを引くよ!
『スパイラル・パイルバンカー!』
起動したパイルバンカーがパイルを発射し、青龍の身体に押し込んでいく。回転と落下による位置エネルギーが加わったパイルバンカーの一撃は容易に青龍の装甲を、鱗を貫いていき、青龍の身体を完全に貫通した。
声にならない叫びを上げる青龍。さっきの私の一撃により、青龍の残りのHPバーは一本となった。
『さて、蛇が出るか鬼が出るか……』
地面に降り立った私はインベントリからパイルを取り出し、パイルバンカーにセットしていく。残りの本数も少ないし、乱用は避けたいところだけど。
青龍の特殊行動を見るために、ヴィーンたちと合流する。
『なにが来ると思う?』
「さてね。私は君たちほどロボットに精通しているわけではないからね。どうなると思ってるんだい?」
『私としては、人型になるんじゃないかなーと。こう、ガッシャンガッシャン変形して』
『でも、尻尾の先も胴体も貫かれたり壊されたりしてますけど……無事に変形できるんです?』
『どうだろうね。変形じゃなくて、ハイパーモード的なやつかも』
『覚醒の上にさらに覚醒されたらたまったもんじゃねぇな』
「こちらの人数もかなり減ってきているしね」
話している間に特殊行動が進行していたようで、青龍の首から上の頭部パーツが切り離され、離れていく。
そのまま空に浮かんでいき、眩いほどの光を放った。
思わず腕で目を庇ってしまう。
『まぶし!』
「くっ、目を開けていられない」
『さて……なにが来るかな』
『光が収まります!』
目を開けると、空には変わらず青龍の首が鎮座していた。なにも変わってない……?
「ん、あれは……青龍の胴体か?」
ヴィーンが指さす方を見てみると、青龍の胴体からいくつかのパーツが浮かび上がり、その場で組み立てられていく。
それは、私たちがよく使うライフルに酷似していた。
しかもそのサイズは、私たちの使っているライフルとほぼ変わらないくらいのサイズ。
『見てください! 青龍の首が!』
クラリスに言われて見てみると、ちょうど青龍の首が変形を始めたところだった。
青龍の口がぱかりと開いていき、中から私たちを苦しめた巨大な砲塔が現れる。さらに砲塔が中心から縦に割れ、それぞれの砲塔が青龍の顔の側面に移り、腕となった。
青龍の下顎も真ん中から二つに割れ、邪魔な牙が格納されていく。下顎の先端がそれぞれ可動し、足を作り出した。
上顎は縦二本の線が入り三つに割れ、端の二つは人体で言うところの胸部にVの字を描くように回転し固定される。残りの真ん中の部分はくるりと半回転し、首と一体化した。後ろに突き出した突起の反対側に顔が生まれる。
腕になった砲塔部分はその先からは回転しながら手が展開され、先ほど組み立てられたライフルを握った。
無防備な敵の合体変形バンク。だがしかし、私たちのギルドにこの合体変形バンクを邪魔するような無粋な輩はいなかった。私たちはその場でジッとその合体変形が終わるのを待つ。それが、礼儀であり敬意の証。
最後に青龍の胴体から翼状のパーツが飛んでいき、人型に変形合体した青龍に装着される。瞬間、その双眸に光が宿り、全身が青く輝く。まるで自分の存在を誇示するかのように、その口は産声を上げた。
『――セイ! リュウ! オー!』
こうして青龍は……いや、セイリュウオーは、私たちの前に真の姿を現した。
いやー、ロマンだね、これは。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
合体とか変形などを文章にするのは大変ですね……しっかりと伝わる文章で書けているのか心配です。頭の中ではどんな感じで動くのかイメージはできているのですが……。
続きもどうぞお楽しみください。




