第四十話 覚醒青龍VS自由の機翼-フリーダム-
前回に引き続きボス戦です。
それでは本作品をお楽しみください。
『蒼から紅に……もう一段階あって金色になったり、歌い出したりとか言わないでよね!』
『人型になってもおかしくないっすよ!』
「……ふむ。これは、シールド発生装置を破壊したらこうなるということかな?」
『ま、シールド発生できなくさせてタコ殴りで終わりーなんて、そんな生易しいボスじゃないでしょうね!』
『ははは! 楽しくなってきたなぁおい! 覚醒ってのはロボのロマンだからなぁ!』
『敵側でそれをやられてもこっちが大変なだけなんだけどね!』
『敵側だけが覚醒するのは私的にはいまいちなんだけど……どっちにしてもやるしかない!』
宙に浮かび上がっていく青龍を見ながら会話を続ける。こういう展開なら私たちも覚醒したいところだけど、そんなスキルもアーツも持ってないからね。
現状の手札でなんとかするしかない。
幸い覚醒してシールド発生装置が復活! なんてことはないようだから、まだ戦いようはある。
ま、空を飛べる私があいつのヘイトを稼がないといけないわけだけどね。やっぱり飛行ユニットはさっさとみんなに配備したいなぁ。
『私がヘイト稼いでおくから、後はよろしく!』
「空を飛べるのはミオンだけだから仕方ないか……」
『任されました、ミオンさん!』
『覚醒して各種耐性が下がってると嬉しいんだけどなぁ!』
カノンの放ったビームが青龍に当たり、そのHPバーを、ほんの少しではあるけど削った。
私たちは顔を見合わせて、頷く。
『みんな、覚醒して属性耐性が下がってるみたい! 魔力兵器で攻め立てろ!』
『了解!』
『ダメージが通るならこっちのもんだ! しっかりとヘイトを稼いでくれよ、ミオン!』
『言われなくても!』
私はマギアサーベルをマギユナイト・ライフルに持ち替えて、青龍にダメージを与えながら空へと飛翔する。青龍の視線はシールド発生装置を壊したクラリスではなく、目の前を飛び回る私に向けられていた。
鬱陶しい羽虫……くらいの認識なのかな。ま、それでもいいよ。あいつの攻撃を私に惹き付けられるならね!
『ほら、こっちだよ!』
ライフルで顔を重点的に狙いちまちまとしたダメージを与えながら、青龍の視界内をこれみよがしに飛び回る。大きな咆哮を上げた青龍の腕が、私を掴もうと迫ってきた。
その巨体にしては動きは早いけど、その程度じゃこのブラッドライン・エクステンドは捕まえられないよ!
地上を見れば、みんな思い思いの遠距離武装で青龍を攻撃していた。さっきよりも早いペースでHPバーが削れていく。時たま鬱陶しそうに地上に意識を向けるけど、その度に私が強引に青龍のターゲットを取る。
覚醒青龍の基本的な攻撃パターンは、首元の極細のビームの照射、口内の巨大砲塔による広範囲高火力ビームの照射、二本の腕による格闘に、その巨大な尻尾による薙ぎ払いだ。
この中で最も厄介なのは、やっぱり広範囲高火力ビームだね。チャージ中は無防備になるとは言え、あんなもんに当たったら恐らく耐性の高い魔機人でも一瞬で耐久値とHPの全てを持っていかれることだろう。
ビームの属性は分からないけど、恐らく光と火の混合属性。掠っただけで致命傷になりうる攻撃ね。
尻尾による薙ぎ払いは基本的に地上に向けての攻撃だ。身体が大きいから尻尾の大きさも尋常ではなく、さらに的確にプレイヤーを狙ってくるので避けるのも一苦労だね。
一応薙ぎ払いの予備動作として尻尾を思いっきり丸めるので、その間に私がヘイトを稼ぎ切れれば標的を私に変えられる。空中での薙ぎ払いはそこまで脅威じゃないので、薙ぎ払いの予備動作が見えたら私の腕次第ってことだね。
敵の攻撃を避けつつこちらの攻撃を押し付けていき、青龍のHPバーが残り三本となった。レイドボスに限らず、全てのボスには得てして特定の量のHPが減ったら行う特殊行動があることが多い。
青龍もその例に漏れず、バーを一本削る度に特殊行動を行うようだ。今回は全身から銃口を突き出し、フィールドを無差別に攻撃するというもの。オールレンジ攻撃は避けづらいから勘弁したいところなんだけど!
私は左腕のシールドを展開し、右手にマギアサーベルを持ち直してビームを防いでいく。それでもビームが装甲の端々に当たるけど、ダメージは微々たるものだ。
他のみんなはと地上を見ると、大したダメージを受けていないのが半分、かなりのダメージを受けたのが半分ってところかな。
青龍は鱗の中に銃口を格納せずに、そのまま射出する。本体から離れた銃口……移動式の砲台って言った方がいいかな。移動式の浮遊砲台になったそれらは一斉に、私と地上にいるみんなに向けてビームを放った。だからオールレンジ攻撃はきついって……!
『あれも破壊しないとダメみたいだね!』
「これは、少々厳しいか……?」
『諦めてんじゃねぇ。僕たちならできる、やってやるさ!』
『強襲戦闘用左腕破撃爪の力は、こんなものじゃないですよ!』
クラリスが頭上の砲台に左腕を向けると、その五本の爪がそれぞれ射出されて各々の標的を食い破る。ワイヤーが伸びてるところを見ると、あれもハーケンの一種なのかな?
目標を貫いた五本の爪は糸が巻き取られるようにしてクラリスの左腕に戻っていく。
『強襲戦闘用左腕破撃爪の機能の一つ、有線式遠隔誘導爪……追射爪です!』
『かっこいい!』
ひゅう、と口笛を吹きたくなるね。クラリスは私の知らないうちにすんごいパーツを開発してたみたいだ。もしかして親方に相談してたのってこれのことかな?
頼もしく、かっこよくなったPTメンバーにニヤニヤしつつ、青龍に対して攻撃を重ねていく。マギブラスト・リングを使おうかとも考えたけど、まだ使うべき状況じゃないだろう。
切り札は取っておかないと。後で取り返しのつかないことになっても困るしね。
『いいね。ならこっちも出し惜しみなしと行くかぁ! 武装腕展開!』
カノンの背部パーツがパカりと開き、そこから銃口が取り付けられた腕が四本現れる。それぞれが砲台を狙っているようだ。
『フルバースト! 持っていけぇ!』
両腕のライフル二本と武装腕の四本、計六本の腕からビームが放たれる。その全てが砲台に命中、破壊していく。
『そらそらそらそらぁ!』
何度も放たれるビームが耐久の低い砲台を片っ端から破壊する。しかも、カノンはホバー移動しながら敵のビームを避けつつ攻撃しているようだ。まさに移動砲台だね。
背後からの攻撃もすぐさま武装腕が反応し、撃たれる前にカウンターのビームを撃ち込んでいく。あれどうなってんの?
『どデカいのもぶっ放す! 武装腕、マギアキャノンに接続!』
背部パーツからカノンの脇腹に構えられたマギアキャノンに、伸びてきた武装腕が接続されていく。四つ全ての武装腕と接続したマギアキャノンの砲身が上下にぱっくりと割れ、その中でバチバチと音を立てた。
『圧縮魔力解放、マギアバースト!』
ゴウ! という音と共に発射されたマギスティアライフルの一撃に勝るとも劣らない砲撃は、青龍の周囲に展開されていた砲台を巻き込んで青龍の身体に直撃する。
少なくないダメージを受けた青龍が咆哮を上げ、残りの砲台がその場で爆発した。なるほど、一定HPを削れば数も減るのか。
『各機、砲台からの攻撃を避けつつ火力を青龍に集中!』
「ダメージを入れれば入れるだけ砲台が自爆していくぞ!」
『やったらー!』
『どんどん攻撃しろー!』
『あっちょ、ま、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?』
『マーーーーイク! って、ちょっと俺まで!?』
『くそっ、二人やられた!』
『砲台の攻撃が厄介すぎる!』
『……仕方ない。砲台の数を減らしつつ、なるべく火力を青龍に集中!』
『了解!』
『……思ったんだけどさ。あれ、青龍って言うか、紅龍じゃね?』
『あんたはもう……ったく、今はそんなことより生き残ることを考えてよ!』
『あいさ』
『ながれぼし、きれい』
『あんたはもうちょい緊張感を出しな!』
どうやら砲台の連続攻撃をくらって二人ほど死に戻ったみたいだ。やっぱり一筋縄にはいかないか……!
『ブレスビーム来るぞー! 射線上から退避しろー!』
『了解! ……って、おいこら砲台野郎! 邪魔すんじゃねぇ!』
『ちょ、こっちに撃ってくるなよ! なぁ、誰かあの砲台を!』
『分かった……って、もう間に合わねぇ!』
『『そんなー!』』
チャージの完了した極太ビームをくらってさらに二人が死に戻り。しかもこの極太ビームは発射したあともぐるんぐるん首を振り回してくるし、攻撃対象にヘイトも関係ないから大変だ。
覚醒したからか威力も太さも上がっているみたい……ああ、また一人捕まった!
ビームが収まったところで、攻撃を再開する。
『ちょっとこれは、まずくなってきたかも』
『四本目のHPバーがそろそろ削り切れるけど……』
『削り切った! さあなにが来る!?』
もはやお決まりとなった咆哮。それが収まると同時に青龍は口を天へと向けた。そして始まるビームのチャージ。
これってもしかして……拡散ビーム!?
『恐らく敵の行動は上空にビームを放ってからの拡散ビーム!』
『どうすればいい?』
『気合いで避けろ!』
『ですよねーーー!』
『全員シールド装備! 持ってないやつは頑張ってサーベルで対処!』
『うおおおおお! やってやらぁ!』
『武装腕、シールド展開!』
「それ、そんな使い方もできるんだね……」
地上の様子はまさに阿鼻叫喚。それでも、ここを乗り切ればまだチャンスはあるよ!
青龍の様子を確認する。ビームのチャージが終わり、その巨大なビームが天へと放たれた!
天井近くで留まったビームは、パチン、と弾けて散弾となり、地上に降り注ぐ!
『あ、これ青龍の下にいればくらわないんじゃね?』
『それだ!』
『天才か!』
『ふぅ、これでなんとか……って、やばい! 青龍が落ちてくるぞ!』
『ちょ、聞いてないってそれは!』
『やばいやばいやばいーーー!』
『踏まれたら即死だぞ多分!』
『あっ』
『あ』
『さすがに助けられん』
『そんなところで躓くやつ、おりゅ……?』
『一撃一撃が重いぞこのビーム!』
『シールドの耐久値バリ減ったが?』
『サーベルで……って、うぉぉぉ……物理的にも重いぃ!』
『……しまっ』
『かっきーん』
『――よくあんな重いの打ち返せるね。でも、助かった!』
『ぶい。……ん、あぶない。とりゃー』
『いや、なんであんたビーム殴り飛ばせんの……?』
『きあいで?』
『そこ疑問形なんだ……』
少なくない被害を出しつつも、どうにか拡散ビームの嵐を耐えきってくれたようだ。まずは体勢を立て直すところからかな。
私はライフルをマギスティアモードに変更し、青龍の目を狙う。あまりチャージに時間をかけていられなかったのでそこまで威力は出なかったものの、ヘイトを買うことはできたようだ。
『今のうちに体勢を!』
『HPと耐久値がやべーやつは気を付けろよ! 五割以上残ってるやつはこっち、残ってないやつはそっちだ!』
『EN回復待ちと耐久やばい人はこっちに! 防御固いので集まってるからある程度回復するまでは守ります!』
『急げよ! ギルマスが落ちたら終わりだからな!』
「ミオンの負担を軽くするためにも、なるべく早く動いてくれ!」
死に戻りは多く出ちゃったけど、まだまだこれからだ。うちのギルドのメンバーの闘志は、未だに消えてはいない。
青龍との戦いは、終盤戦に突入しようとしていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




