第三十九話 シールドを壊せ!
もしかしたら過去一長引く戦闘になるかもしれません。
それでは、本作品をお楽しみください。
『まずは耐性の確認からっ!』
パイルバンカーでシールドを割った私たちは、一斉に青龍へと襲いかかる。私は耐性の確認のために物理武器ではなくマギアサーベルを展開していた。
青龍のHPバーは六本。一筋縄ではいかないだろうけど!
『せいっ!』
掛け声と共に一閃。青龍の身体は巨大なため外すことはなかったけど、ビームの斬撃は表面に焦げ痕を残すばかりで大したダメージにはなってはなさそうだ。本体自体にもかなりの属性攻撃耐性があるらしい。さすがはこの工場のボスってところかな。
私はそれをみんなに共有した後に、インベントリから魔鉄鉱石で作られた直剣を取り出す。
急造品だからそこまでの品質はないけど、この戦いに使うくらいなら問題ない。
『これはどう!?』
直剣での攻撃は確かな感触と共に青龍の蒼い鱗を切り裂く。んー、思った以上にスパッと切れたね。もしかしてこの魔力結晶のような綺麗な鱗は、属性攻撃には強いけど物理攻撃には滅法弱いってことかな?
そのまま攻め続けて頭上のHPバーを削っていく。一本目が三割ほど削れた辺りで青龍は咆哮を上げる。
青龍の背中の棘が激しく明滅し、その身体が再び薄い膜のようなシールドに覆われた。またパイルバンカーでシールドを割らなくちゃいけないわけだね。
どうにかして背中の棘を壊したいところだけど、そのためにはあいつの背中を取らないといけない。
でもあいつのヘイトを一番集めてるのは私なわけで……飛んで背中を取ろうにも、攻撃する隙がないんだよね。
さて、どうしようか。とりあえずパイルの数はまだあるし、もう一度シールドを割りますかね!
再び青龍は首元から小型の銃口を伸ばし、私に向けて極細のビームを放ってくる。私はそれをみんなに当たらないようにしながら避け、パイルバンカーの射程圏内に近付いて行く。
「くっ、援護することもできないか……!」
『ミオンさんを信じろ。僕たちにできるのはそれくらいだ』
『……もしかしたら、"あれ"が使えるかもしれません』
『あれ?』
『上手くいくかどうか分からないので、ミオンさんに相談してみます!』
「なるほどね。とりあえず今は、攻撃あるのみだ!」
ヴィーンたちは後方でなにやら話し合いをしていたようだったけど、私が二回目のシールドを破壊したところで攻撃に集中する。どうしたんだろう……って、クラリスからのフレンド通信?
私は青龍に微々たるダメージを与えながらクラリスとのフレンド通信を繋ぐ。
『どうしたの?』
『もしかしたら、私なら背中のシールド発生装置を壊せるかもしれません』
『本当!? クラリスもパイルバンカーを作ってたり……?』
『いえ、そういうわけではないんですけど……親方さんと相談して作ったパーツがあるんですが、もしかしたらそれならパイルバンカーよりも威力が出るかもしれないと思って』
パイルバンカーよりも威力が出るかもしれないパーツ?
一体なんなんだろう……とっても気になる。私のロマンセンサーがビンビンに感じてるんだよね。
これはもう、見せてもらうしかないでしょ!
『詳しくは聞かない。私が次にシールドを割った時に合わせられる?』
『大丈夫です! やってみせます……いいえ、やってやります!』
『よし! なら背中の棘はクラリスに任せるよ!』
『任されました!』
クラリスとのフレンド通信を切り、次のシールドが展開される前になるべくダメージを与えていく。
青龍のHPバーの一本が残り四割になったあたりで咆哮、シールドが展開される。
背中の棘を壊せないと延々とこの戦い方を続けなきゃいけないけど、それはちょっとごめんこうむりたい。戦いもまだ始まったばかりだから、賭けに出ても問題はないでしょう。
なによりクラリスのパーツが気になる! 一体どんなパーツを使ってくれるんだろうね!?
私はクラリスに目配せして、三本目となるパイルをセットする。クラリスは頷くとローラーを回転させて私のいる位置と反対側……つまり、青龍の背中側へと回った。
対する青龍は後ろに回ったクラリスに見向きもせずに私だけを狙っているようだ。今回ばかりば好都合だね。
『さて、お手並み拝見!』
私の方は慣れたもので、私に向けて放たれるビームを無駄のない無駄な動きで避けていく。一度こういう避け方やってみたかったんだよね!
さすがに青龍も学んだのか、さっきよりも銃口の数が多い。そんなふざけた避け方をしていると、狙いすました一撃が私を襲う。間一髪のところで左腕部のシールドを展開して攻撃を防いだ。こういう動きはもう少し機体性能を上げてからだね……。
それ以降は特に青龍の攻撃に当たることもなく、懐に潜り込んだ。もはや手馴れた手つきでパイルバンカーの照準をシールドに合わせ、トリガーを引く。
爆発音と共に射出されたパイルはあっという間に青龍のシールドを割り、その身体に傷痕を残していった。
私は新しいパイルをセットしながらクラリスに呼びかける。
『クラリス!』
『行きます! 【即時換装】!』
クラリスがアーツ名を叫ぶとクラリスの左腕が輝き、その装備が変わる。
特徴的なのは、その巨大な手だろうか。鉤爪のように鋭利な五指を持ち、その手のひらの部分にはなにかしらの射出口が見て取れる。
手だけでなく、その腕の長さも特徴的だ。クラリスのクライシスの通常の腕部パーツの長さのおよそ1.5倍。太さも一回りほど太くなっており、クラリスが腕部パーツの一部を開いてなにかのアイテムをセットしているのが見えた。
『強襲戦闘用左腕破撃爪を装備した新たなクライシスの力、見せてあげます!』
どうやらあのかっこいい左腕の名前は強襲戦闘用左腕破撃爪と言うらしい。色味といい形といい、某紅の機体を思わせる感じになってるね。さぁ、それでどうする!
『廻転魔導炉起動……Dモードで展開!』
クラリスが左腕を天に掲げる。すると、破撃爪の手のひらからエネルギーが溢れ出し、そのエネルギーが魔力の塊となって一つのドリルを形作っていく。なるほど、DモードのDはDrillのDか!
『ホロマギアドリル、スタンバイ! ……もっとです、もっと大きく!』
魔力で作られたドリルがさらに大きく、存在感を増していく。その大きさがクラリスの左腕を超え、その全長すらも超えていった。
やがてその大きさがクラリスの全長の二倍ほどに達した辺りで質量の増大が止まる。
『これが私の! 新しい【マギアドリルブレイク】だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
アーツの宣言。ホロマギアドリルが凄まじい速度で回転し、クラリスはスラスターを噴かせ、ローラーで加速しながら青龍に急接近する。
シールドを割られたことで無防備になった青龍の背中に吸い込まれるようにしてドリルがぶつかり、凄まじい音を立てながら背中の棘を削っていく。
やはり弱点扱いなのか、さっきまでの攻撃とは比べ物にならないくらいにHPバーが削れていく。一本目のバーが完全に削り切れた辺りで、ボスの行動として薄い膜のようなシールドが徐々に復活していっている。
このままじゃクラリスのドリルが弾かれてしまうかもしれない。
でも。
『邪魔をさせるかぁぁぁぁぁぁっ!』
私は復活しつつあるシールドに接近し、そのシールドに向けてパイルバンカーのトリガーを引く。
もはや三度も壊してきたシールドだけあって、復活しかけのシールドはパイルにぶち抜かれ、大きな音を立てて消滅していった。
『クラリス! いっけぇぇぇぇ!』
『ミオンさん……! 行くよクライシス! あれを、ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇっ!』
二本目のHPバーが完全に削り切られるのと同時にクラリスのドリルが青龍の背中を穿ち、シールド発生装置である棘を完全に破壊した。
一際大きな咆哮を上げる青龍は、その蒼い鱗の色を紅に変えていく。どうやら、あちらさんも本気モードみたいだ。
紅い結晶となった鱗が開き、中から紅い光が漏れ出す。全身から紅き光を輝かせた青龍は、その鱗の合間から翡翠色の粒子を吐き出しながら宙へと浮かんでいく。この粒子の色って……やっぱり私たちの魔力結晶炉と同じ?
爛々と輝く双眸は私を、クラリスを、この場にいる全てのプレイヤーを睥睨し、壊れたはずの背中から無数の銃口を生み出し、私たちへと向けていった。
さらに鱗の合間から格納されていたであろう巨大な腕が二本現れ、私たちへの挑発なのかその拳を音を立ててぶつけ合わせる。
さてさて、こっちはシールド発生装置を壊して好き放題に攻撃が可能。向こうは覚醒状態で、残りのHPバーは四本分。
ギルド【自由の機翼】と本気モードになった青龍との戦いが、始まろうとしていた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




