第三十七話 謎の工場の探索 2
今回も引き続きダンジョン(工場)探索回です。
それでは本作品をお楽しみください。
私たちがキラーゴーレムを倒してから、ゲーム内で三時間ほど。工場の奥地を目指していた私たちは、道中のセーフティーエリアで休憩をしていた。
ここに来るまでにも何回か戦闘があり、戦った結果この工場に出てくるモンスター全てに光属性耐性があることが分かった。おかげで攻略ペースはそこそこ。ヴィーンの火力に頼る結果になってしまった。
現状の魔機人の弱点が浮き彫りになった形だね。
『んー、やっぱりそろそろ物理武器も作っていった方がいいかな?』
『必要なのは分かるんだけど、強くしようとするとどうも魔力兵器に比べて作成難易度が高いというかなんと言うか……』
『ちゃんと作ろうとしたら素材の質がまだ足りねぇんだよなぁ』
『分かります。せめて魔鉄鉱石がもう少し集まれば、最低限のものは作れそうなのですが』
『マギアサーベルとかに慣れすぎるのも問題だね』
「ま、それはおいおいこのギルドの課題として話すとして、今はこの工場……いや、ダンジョンについてだね」
『このまま奥に進むのか否か、か……』
『十中八九、ボスには魔力兵器が効かないと思っていいもんなぁ……』
『多くのPTで入れてる以上、ボス戦には複数PT必要だろうしな』
『あはは……ボスとタイマンしすぎてどうにも感覚が薄れちゃうね』
「それは君だけだよ」
『えへへ』
「褒めてはないんだけどね」
ヴィーンが肩を竦める。だって仕方ないじゃない? ボスとのタイマンは成り行きってやつだよ。
……一番最初のダンジョンに関しては、言い訳できないけど。
まあでも、あのダンジョンを死に物狂いで攻略したおかげで今があるんだから、分からないものだよね。
そうしみじみ思っていると、ギルドチャットに反応があった。
『こちらペペロン班、工場の最奥と思われる場所に到達しました!』
『お、早いね。道中のモンスター、結構キツくなかった?』
『そりゃあ魔力兵器の効きが悪かったのでキツかったんですけど……秘密裏に作ってた物理武器が役に立ったんですよ』
『あー』
なるほどね。やっぱり実体剣なんかを使えば突破は可能なのか。
パイルバンカーを使った方がいいかな?
んー、でも、パイルバンカーはボス用に取っておきたい。弾になるスチーム・パイルもそんなに数があるわけじゃないしね。
私が考え事をしていると、ヴィーンがペペロンに話しかける。
「それで、最奥……だったかな。そこにはなにが?」
『それがですね……ま、想像通りというかなんというか。ボス部屋に繋がると思われる大きな扉がありましたよ。ただ、開けようと思ってもロックがかかってるとかで開けられませんけどね』
『工場内で鍵を探せってことか……』
「そこに鍵の在処を示すなにかはあるかい?」
『ちょっと待ってください――これですかね。アクセスキーは徘徊する亡霊が握っている……と書いてあります』
『徘徊する……亡霊?』
「ふむ」
私たちは一度ギルドチャットを切り、顔を見合わせて考える。言葉通りに受け取るなら、この工場には亡霊がいて、そいつが鍵を持ったままさまよい歩いてる……って言う風になるわけだけど。
実際、アンデッド系統のモンスターはこのゲームにも存在するから、言葉通りの亡霊がいる可能性は十分にある。あるんだけど……。
『これってなにかの比喩……だよね?』
「……まさか、本当に亡霊系のモンスターがいるわけじゃないだろうね。なにかを亡霊に見立てていると考えるのが普通だ」
『そうなると……大昔から動いている機械なんかが怪しいでしょうか?』
『なるほど、確かにそれなら亡霊と言ってもいいかもしれないね』
『でもよぉ……ホントのホントにモノホンの亡霊ってオチはねぇのか? ここは工場だし、昔には働いてた奴もいるんじゃねぇかって思うんだよ』
『しかし、本当に亡霊がいるとして、鍵を持っている……と言うことは、少なくとも鍵を触れるくらいには実体があるってことだろ? ここの警備ゴーレムがそんな存在を無視するとは思えないんだが……』
「ふむ。そうなると、カイルが言っていた昔働いていた工場員であれば、警備ゴーレムに襲われることはないのかもしれないね」
『でも、それを言い出すとキリがありませんね……』
『んー、ならとりあえずペペロンたちはそこで後続が来るのを待ってもらって、私たち動けるプレイヤーでその徘徊する亡霊とやらを探せばいいんじゃない?』
このまま話し合っていても埒が明かないため、とりあえずの指針を示す。動かずにじっとしているより、多少なりとも動いていた方がいい案も浮かぶかもしれないし。
「そうだね。そうしてみようか」
『じゃあ早速ギルドチャットを繋いで……あーもしもし? ペペロン?』
『はいはーい』
『ペペロン班はそのままボス部屋前で待機しといて。これを聞いてる他のメンバーは、さっき話に上がった徘徊する亡霊を探しつつペペロン班と合流する感じで動いていこう!』
『了解!』『あーい』『おけおけー』『ういー』『へーい』
みんなからそれぞれ了承の返事が飛んでくる。よし、これで私たちが空振った時の保険ができたね。
私はギルドチャットを切ってみんなに向き直る。
『じゃ、とりあえず現状の素材でちゃちゃっと作っちゃいますか』
『作るって……なにをです?』
『そんなの、物理武器以外にないでしょ!』
「しかし、ここで作れるのかい?」
『ふふふ、こんなこともあろうかとってね!』
私はインベントリから一つのアイテムを取り出した。
『これは……携帯鍛冶キット?』
『そう。外でも急に生産活動をしなきゃいけない場合があるかもってイベントの後に始まりの街で買っておいたんだ!』
目の前に広げたのは、セーフティエリアであればどこでも展開が可能な鍛冶キット。生産施設で作るよりも完成品の質は落ちちゃうけど、拠点に戻らなくても生産活動ができるのはいいよね。
『とりあえず私とカノン、クラリスと……』
『そういうことなら、俺らのことは心配しなくていいぜ』
『俺たちも携帯鍛冶キットは持ってるからな。俺たちの分は俺たちで作るさ』
『そう? なら私はパパっと三人分作っちゃうね』
『おう!』
カイルとヤマトは少し離れた場所で携帯鍛冶キットを展開し、早速炉に火を入れ始めた。さて、私も始めますか。
『クラリスは直剣でいい?』
『はい、問題ありません』
『カノンは……流石に実弾銃は作れないから、メイスとかでいいかな?』
『全然問題ないよ。ありがとう』
『いいって。むしろ、適当に作るのが申し訳ないくらい』
『大丈夫ですよ。私たちからしたら、作ってもらえるだけでありがたいくらいです。二人とも携帯鍛冶キットを持っていませんから……』
『やっぱり、いざと言う時のために買っておいた方がいいよね。ここから帰ったら買いに行くことにするよ』
『その方がいいかもね。んー、とりあえずクラリスの直剣からかなー』
私は魔鉄鉱石を取り出して炉に突っ込んでいく。
鉱石を溶かすのは手馴れたもので、ちゃちゃっと魔鉄鉱石から必要な数の魔鉄インゴットを作製する。
今回は手早く済ませたいので、直剣の形の型をパーツクリエイトで作製し、そこに魔鉄インゴットを溶かして流し込む。
魔力を込めながら流すことで、本来なら落ちてしまう強度を補うことができる……らしい。理由は分からないけど。
生産活動に関しては、私たちのギルドに親方ほどの筋金入りの生産職プレイヤーはいないので、困った時は親方に相談するようにしている。
そんなこんなで魔鉄製の武器を作り終えた私たちは、工場の探索に戻る。まずは亡霊を見つけるところからだからね。
ギルドのメンバーとマップを共有し、穴埋めをしていく。見た感じ、踏破率は大体70%くらいかな?
私はメンバーとギルドチャットで連絡を取りつつ、まだ行っていない箇所を重点的に探していく。
しかしマップの踏破率が89%を超えても、徘徊する亡霊を見つけられていなかった。
『んー、あとはボス部屋の先くらいしかなさそうだけど……』
『ん、マップの踏破率が90%になったね』
「これでなにか起きたりしてね」
『まっさかー』
『すみません。あの、あれ……』
クラリスが指さした方を見てみると、明らかにこの工場のモンスターとは違うであろう存在がそこにいた。
見た通りに言うなら、本当の亡霊のような姿をしている。ボロボロの白衣を着ていて、髪の毛どころか皮膚もところどころ欠けているところがあった。
って、これ亡霊と言うよりも……ゾンビなんじゃない? グロイのが苦手な私としてはちょっと直接見るのは遠慮したいかな……?
『……あれか、亡霊?』
『どっちかっつーとゾンビ……じゃねぇのかなぁ』
「白衣を着ているところを見ると、工場員というより、研究員のような感じに見えるね」
『はぁ。仕方ないか。とりあえず私がコンタクト取ってみるよ』
『じゃあ僕たちはいつでも割って入れるように準備しておくね』
『ありがとー』
私は五人をその場に残して謎のゾンビもどき? へと向かっていく。んー、近くで見るとさらにグロいなぁ。
……ええい、女は度胸! たかがグロいゾンビもどきくらいで、止まっていられるかよ!
どうやら私には気付いていないみたいで、ゾンビもどきはゆったりとした足取りでその場を歩き回っているようだ。声をかけてみよう。
『あのー、すみませんー』
「これは……生者の匂い……ん、生者? ん? んん?」
私の声に反応して振り向いたそのゾンビもどきは一瞬嬉しそうな表情を浮かべた後に困惑の表情に変わる。あーうん、一応生者ではあるね。生き物じゃないけど。
『どもども。一応生者です。魔機人って言って分かりますか?』
「おお……この時代にも動く魔機人が……しかも、ここまで状態のいい魔機人がいるとは……」
『もしかして、昔の魔機人についてなにか知ってたりします?』
「もちろんだとも。マギアーノ博士と共に魔機人の研究をしていたのは私だからな」
マギアーノ博士。マギアーノ・クライスドーラ……魔機人の生みの親。このゾンビもどき……研究員でいいか。研究員はマギアーノ博士についてなにか知ってるっぽいね。聞き出してみたいところだけど、まずは鍵のことを聞かないと。
『なるほど。それで、お話は変わってしまうんですけど、この工場の奥に入るための鍵かなにかを持ってたりします?』
「ん、鍵か。確かに私が持っているぞ。我々が生み出した超兵器を封印するためにな」
『超兵器……ですか』
「いかにも……ん、どうした。知りたいのか?」
目の前の研究員はすごく語りたそうな表情を浮かべている。ボスの情報も大事だし、ここは聞いておこう。それに、この工場のボスってことはゴーレムのはず。どんな耐性を持っていて、どんな攻撃をしてくるのかが分かるだけでもかなり攻略は楽になるだろうからね。
『はい! とっても知りたいです!』
「そうか。そんなに知りたいか。ならば答えてやろう。少し長くなるのでな、私はここに座らせてもらうぞ」
『なら、私の仲間を呼んでもいいですか? 一緒に話を聞いてもらおうと思うんですけど』
「いいだろう。来たまえ」
『ありがとうございます!』
と言うわけで私はみんなの方を向いて手招きをする。その様子に大丈夫そうだと思ったのか、ぞろぞろとこちらへ歩いてきた。
『じゃあ、お願いします!』
「どこから話すか……そうだな。我々が生み出してしまった超兵器。その名も、マギアスタル・ガーディアン・ゴーレム。我々の中では、青龍と呼ばれていた」
「……なるほど、ここで青龍か」
「ちなみに、青龍とは
Battle-
Legion-
Unbeatable-
Eliminate-
Dragon Artifact
のArtifact以外の頭文字を取って付けた名前だ。まぁ見た目がそれっぽかったと言うのもあるがね。ふむ、我ながら惚れ惚れする名前だな」
『……ちなみに、その訳は?』
「む。確か……軍勢を殺し尽くす無敵の龍型戦闘用兵器……だったか。言葉の響きで決めたものでな、訳は少々適当なのだ」
なんかそれっぽい訳が出てきた……これは開発陣に好きな人がいるね? 分かるよ、その気持ち。
それにしても、軍勢を殺し尽くす無敵の……か。これまたとんでもないボスが出てきそうね。
とりあえず他にも聞けそうなら聞いちゃおうか。
『どんな攻撃をしてくるかとか、どんな耐性を持っているかとかは分かります?』
「ふむ。かなりの昔に作ったものだからな……少々記憶が曖昧だが……あらゆる属性攻撃を無効化するシールドを常時展開するようにしたのは覚えているな。そのシールドは強い衝撃の物理攻撃を当てれば砕け散ったはずだ」
『……なるほど』
属性攻撃の完全耐性……それなんてラスボス?
でも、強い衝撃の物理攻撃なら、パイルバンカーが使えるかもしれない。
パイルバンカーでシールドを割って、本体に攻撃……って感じで倒せるかな?
「そうだった。シールド発生装置も本体にくっついていてな。それも強い衝撃を与えると壊れる仕組みになっている。完全無敵では面白みがないのでな。この仕様も私が付け足したのだよ」
『ありがとうございます!』
「なぜお礼を言われるのかが分からないが……頑張ってくれたまえ。残念ながら、どのような攻撃をさせるように作ったかは覚えてないがね……っと、忘れるところだった。これが最奥の部屋を開ける鍵だ。持っていくといい」
そう言って研究員はボロボロの白衣から青い龍の意匠が施された鍵を渡してきた。私はそれを受け取りインベントリへとしまう。
よし、これでボスと戦うことができるね。
『本当にありがとうございます!』
「私などに礼を言うとは、おかしな魔機人だ。私はついぞあやつを封印することしかできなかったが……お前たちならばアレを倒せると、信じているよ」
研究員はその肉のそげ落ちた顔でニヤリと笑うと、少しずつ透明になっていき、やがて完全に消え去った。
……なんか、言葉遣いはあれだけど普通にいい人だったね。
あ、しまった! 魔機人とマギアーノ博士のことを聞くのを完全に忘れてたよ! ボス部屋の奥になにかしらの情報があるといいけど……。
『さ、これでボス部屋の鍵は手に入れたね』
「もちろん、攻略するだろう?」
『当たり前!』
『ま、僕たちもボス戦は楽しみにしてたから』
『無敵の龍型兵器ですか……強そうですね』
『それな。しっかしよ、その無敵のシールドを割る手段はあるのか?』
『確かに。その手段がないことには、挑みようもないけど』
『ふっふっふ。こんなこともあろうかとってね! シールドをなんとかする手立てはあるよ。ただ、最後にちょっと調整をしたいから、ボス部屋前で一回休憩だね』
「なら、ギルドチャットで連絡しておこう。鍵は手に入れた、とね」
『じゃあボス部屋前目指してしゅっぱーつ!』
『『『『「おー!」』』』』
私たちはこの工場型ダンジョンを攻略するために、最奥の部屋へと向かった。青龍……一体どんなゴーレムなんだろうね!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




