第三十六話 謎の工場の探索 1
今回は謎の工場の探索回になります。
それでは、本作品をお楽しみください。
「……これは確かに工場としか言えないね」
隠された浮遊大陸を発見し、その上にどデカい工場が建っていることを報告した私は、黄昏の戦乙女に乗ってその浮遊大陸の上空にいた。
モニター越しに見てもその工場は大きく、その浮遊大陸の面積をほぼ使って建てられているのが分かる。
『ここに青龍……いるのかな?』
「どうだろうね。もしかしたら、この大陸のあれそれが全てミスリードだった、ということも考えられる」
『龍型のゴーレムなりロボットなりが出てくれると、いい素材になるんだけどなぁ』
「……君はブレないね」
『ま、これが私ですから』
『艦長、ギルマス。下の方に艦が着艦できそうな入り口を見つけました!』
「ふむ」
言われた箇所を見てみると、確かにその部分だけが来訪者を歓迎しているように口を開いていた。中は広そうで、黄昏の戦乙女が丸ごと中に入っても余裕がありそうだ。
「しかし、中に入っていいものか……」
『さすがに大丈夫だと思うよ』
「その心は?」
『あからさまに降りてくださいって言ってる場所に降りれなかったら、そもそもこの工場を探索することができないでしょ?』
「……それもそうか。よし、着艦準備!」
『了解! 本艦はこれより謎の工場へと着艦いたします。着艦時の揺れに注意してください』
黄昏の戦乙女は高度と速度を落とし、何事もなく無事に謎の工場の入口に着艦することができた。
えっと……耐久値の確認よし、持ち物の確認よし、武装の確認よし。さ、外に出てみようか。
後部ハッチを開き、そこからタラップを下ろしてみんなで降りる。今回はヴィーンたちブリッジクルーたちも探索に参加するみたいだ。
親方たち生産組は残って色々と作ってみるとのこと。上手くいけば、飛行ユニットが作れるかもしれないとのことなので期待して待ってようかな。
『じゃあみんな、それぞれのPTに別れて各自工場探索、なにか見つけたらギルドチャットの方で報告してね。あとは……機械系かゴーレム系のモンスターが出てくると思うから、新しい素材を手に入れたら共有よろ!』
『あいさー』『よーし、やるぞー!』『お前らこっちに集まれー』『しゅーごー!』『やったるでぇ』『武装の確認すっぞー』
各自の返事を聞いた後、私はヴィーンたちに向き直る。今回のPTは私とヴィーン、カノンにクラリス、それとカイルとヤマトだ。
……忘れてる人がいるかもしれないから言っておくと、彼らはギルド【自由の機翼】の最古参メンバーだ。
量産機をこよなく愛する二人はギルド内でも有名で、私たちが作ったワンオフ武装を量産機でも扱いやすいように改造してくれたり、このギルドの発展のために色々してくれている。半分整備班に足を突っ込んでる二人だ。
二人の主な武装はマギアライフルとマギアサーベルで、それらは威力よりもENの効率を考えて改造されている。
あとは拡張パーツとして両足にローラーと、彼らがクラリスと協力して作ったハーケンが両腕に装備されているね。ハーケンは巻き取り式で、アイアンゴーレムの質のいい鉄インゴットでワイヤーを作ったとか。
私のブラッドラインにも組み込みたかったんだけど、時間がなかったんだよね。あと、腕のキャパシティは他の装備で埋まっちゃってるから装備できないって言うのもある。
クラリスは二人とは違ってクライシスの胴体パーツにハーケンを追加しているようだ。立体機動に磨きがかかってるらしいので、どんな動きをするのか今から楽しみだね。
他に武装の変更点で言うと、カノンのヴォルカニクも少し変わっている。
全身の装甲が前よりも分厚くなって、マギアライフルに加えて新しくマギアキャノンという武装が増えているようだ。
マギアキャノンは背部パーツに直接装備されていて、使用時にはアームが伸びてちょうど右脇腹の辺りに展開されるようになっているとか。
口径が上がっている分反動も大きいようだけど、装甲を増やして対応してるみたいだね。
ヴィーンは親方謹製の弓、アローに加えて、多種多様な矢を用意しているとの事。アローはさらに機能が追加されたらしく、属性鉱石を利用した属性矢を生み出すことができるようだ。本当に魔機人の武装みたいな感じだよね。
各自の準備も整ったところで、早速工場の探索に入ろう。着艦場所から向かえるのは五つの扉。その内の一つを選んで進んでいく。
扉の先にはホコリ一つない清潔感のある空間が広がっていて、この工場が今も生きているということが分かった。おそらく、清掃用のゴーレムなんかがいるんだろう。それがモンスター扱いで私たちを襲ってくるかまでは分からないけどね。
しばらく進んでいくと、道の左右に扉が等間隔で配置されているのが見てとれる。中を覗けば、扉の先には個人用の部屋のような内装が広がっているようだった。
「見た目は工場だが、中はまるで違うような感じがするね」
『どちらかと言えば……黄昏の戦乙女の内部のような感じがするよね』
『そうだね。ここら辺にある部屋が全て客室のような感じだから余計にそう思っちゃうよ』
『この壁とかひっぺがせればいい素材になりそうだよなぁ』
『破壊不能オブジェクトだからな。仕方ないさ』
『二人とも……確かにその通りなんですけど……』
「っと、早速の歓迎みたいだよ」
ヴィーンの言葉に、私たちはそれぞれの武器を構える。この通路はそこまで広くないから、魔機人だと二人並ぶのがやっとってくらいだね。カノンにいたっては横幅も大きいから、この中だとヴィーンとしか横に並べない。
通路の先から現れたのは、まさに警備ロボットと言わんばかりの外見の大きなゴーレムだ。足は四脚で、胴体からは六つの腕が伸びている。その腕にそれぞれ種類の違う武器を構えていて、その内訳は剣が二振り、モーニングスターが二つ、短槍が二本だ。
私たちを視認した四脚の警備ゴーレムのメインカメラと思われる部位が、ヴン、と音を立てて緑の光から赤い光へと変わった。
侵入者を見つけた、って感じだね。
「幸い一体だ。安全マージンをとって戦っていこう」
『じゃまずは私から行かせてもらおうかな!』
私はマギユナイト・ライフルを構え、四脚の警備ゴーレムへと照準を合わせる。
トリガーを引き発射されたビームは真っ直ぐ四脚の警備ゴーレムに吸い込まれていき、その身体にぶち当たった。
しかし表面の装甲が少し焼け焦げた程度で、あまりダメージは入っていなさそうだ。
『んー、困った。これは属性耐性持ってるね』
『見たところ、光属性の耐性は持ってそうだね』
『どうする?』
「なら、次は私がやってみよう」
ヴィーンはおもむろに属性鉱石を取り出すと、アローの一部を開きその中へと属性鉱石を突っ込んだ。そのまま弓を構え弦を引く動作をすると、なにも持っていないのにも関わらず火で形作られた矢がその手に現れていた。
なるほど、これが属性鉱石を利用した属性矢ってやつなのね。
「ファイアアロー!」
弦を引き絞り放たれた矢は空気を燃やしながら進んでいき、四脚の警備ゴーレムの左胸に命中する。その矢は四脚の警備ゴーレムの身体を貫き、消滅した。
「ふむ、これなら通るか」
『じゃあメインの火力はヴィーンに出してもらうとして、私たちは近接であいつの注意を引こうか』
『そうですね。今の攻撃で完全にヴィーンにヘイトが向いています』
『じゃあ前に出るのは二人に任せるか』
『俺たちが前に出ても邪魔になるだけだしな。後ろからチクチクと援護させてもらうぜ』
『十分!』
私はスラスターを噴かせて、クラリスはローラーを回転させて一気に四脚の警備ゴーレム……名称、キラーゴーレムに突撃する。
キラーゴーレムは近付いてくる私たちを視界に収めると、手に持つ武器のうち、二つの剣を私に向けて投擲してきた。私はそれらをマギアサーベルで後方に弾き飛ばす。
『この程度!』
『いけない! ミオンさん、後ろです!』
『っ!』
クラリスの言葉に私は咄嗟にその場でしゃがみ込む。その一瞬の後に頭の上をなにかが通過する。見れば、さっき弾き飛ばした剣がキラーゴーレムの手元に戻っていくところだった。
『……なにも繋がってない、よね?』
『おそらく、なにかしらの手段で遠隔操作しているのかと』
『なるほどね』
つまりあの剣は私のリングと同じで、ゴーレムコアが内蔵されてるってことね。これまた厄介な。
そうなると、他の武器もそれぞれ飛んでくるって考えた方がよさそうかな?
となると、まずはあの六本の手をどうにかしないといけないわけか。本体の装甲と違ってこっちの攻撃が通ればいいけど。
『まずはあの腕を叩く!』
『了解です!』
私とクラリスはそれぞれマギアサーベルを構えて、キラーゴーレムに再度突撃をかける。今度はクラリス目掛けて剣が二本飛んでくるものの、クラリスはそれをキラーゴーレムに向けて打ち返した。
打ち返された剣はすんでのところで止まってしまうものの、その隙に私はキラーゴーレムの懐まで潜り込んでいた。まずはその剣の腕、貰った!
私は右のマギアサーベルを振り上げ、その左腕の一つを切り落としにかかる。もう少しで届くと言ったところで、マギアサーベルの刀身は左のモーニングスターに防がれてしまう。
……切り裂けない。なるほど、武器の方も耐性持ちってわけね!
『でも、それじゃ足りないんだよね!』
私は右のマギアサーベルで左のモーニングスターを押さえたまま、左のマギアサーベルでキラーゴーレムの左腕の一つをを突く。
腕は胴体ほど耐性がないのか、あっさりとマギアサーベルで貫くことができた。私は突き刺したマギアサーベルを振り、キラーゴーレムの左腕の一つを切り落とす。
その瞬間キラーゴーレムの周りを浮いていた剣の一つが音を立てて床に落ち、光の粒子に変わる。
『よし! あと五本!』
『いえ、あと四本です』
横を見れば、クラリスが右のモーニングスターを持っていた腕を切り落としたところだった。やるね!
ハーケンを壁に突き刺して攻撃を避けた後に、キラーゴーレムの腕にハーケンを絡ませて動きを制限したのか。上手い使い方をするね!
『いや、三本だね!』
『なんの、二本さ!』
私たちの背後から狙い済ましたようなビームの光が二度煌めき、キラーゴーレムの腕を二つ撃ち落とした。なるほど、腕の方ならライフルでも落とせるのか!
『くらいやがれぇ! マギアキャノン、バースト!』
カノンが脇腹に構えた砲からどデカいビームが放たれ、キラーゴーレムの腕を消し飛ばす。これで残りは左の短槍だけだね!
私とクラリスはお互いに頷き、二人がかりで残りの短槍を押さえ込む。これでヴィーンの矢は邪魔できないね!
「さて、属性鉱石が燃え尽きるまでに終わらせてもらうよ。ファイアアロー、セット……【ガトリングアロー】!」
ヴィーンが火の矢を引き絞りながらアーツの発動を宣言する。弓から放たれた火の矢は空中で分裂し、その数をどんどん増やしていく。
燃え盛る無数の火の矢がキラーゴーレムの胴体を貫き尽くしていき、その最後の矢がキラーゴーレムの頭部を貫いた瞬間、その身体が光の粒子に変わった。
「ふぅ……なんとか勝てたか」
『もしかしてだけど、その属性矢ってアーツも使えるの?』
「その通りさ。水の属性鉱石を使えば水の矢で、風の属性鉱石を使えば風の矢でアーツを発動することができるのさ」
『私が言うのもなんだけど、それも結構チート武器だよね……』
『いやほんと、僕たちは人のこと言えないよね』
カノンが肩を竦めて言った。ほんともう、おっしゃる通りです。
キラーゴーレムのことをギルドチャットで共有した私たちは、そのドロップアイテムを確認することにした。
「おや、ゴーレムコアだね」
『俺も出たぜ、ゴーレムコア』
『俺もだ』
『僕も出たね』
『私も出ました』
『ってことは、キラーゴーレムはゴーレムコアが確定ドロップってこと?』
「その可能性が高いね」
『他には……キラーゴーレムが使ってた武器の残骸だね』
『これを溶かして使えば耐性のある武器とか作れるかな?』
『どうなんだろうな。やってみなきゃ分からないとは思うが』
『ひとまずインベントリに入れて置いて、後々確認するでいいんじゃないかな?』
『それもそうだね』
私たちはドロップアイテムの確認を終え、警戒しながら通路を進む。キラーゴーレムに不意打ちされるのは避けなきゃいけないからね。
他のメンバーからは、違うモンスターの情報や工場内の様子が送られてくる。それらを確認しながら、私たちは工場の奥地へと向かった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




