第二十九話 アップデートver.2.0
まずは、この作品を読んでくださった方に感謝を。
皆様のおかげで、一ヶ月前に投稿し始めてからは想像もできないほどに読んでいただけているようで、とても嬉しいです!
これからも自分が面白く、また皆様に面白いと思っていただけるような作品にしていきますので、どうかこの先もお付き合いください!
そんなこんなで、イベントが終わって一週間後。
深夜から昼にかけて半日に及ぶ大規模なメンテナンスが終わり、FreedomFantasiaOnlineはver.2.0となった。
既に夏休みは終わっていて、今日はちょうど日曜日。
昼過ぎにメンテが終わったので、兄さんとご飯を食べた後に急いでゲームにログインする。
艦内の自室で起きた私は、みんなが集まっているだろう格納庫へと急いだ。メンテが明けてから三十分くらい経ってるから、もうほとんどの人が集まってるだろうなぁ。
『っと、ごめん! 遅くなっちゃった!』
「問題ないよ。さて、我らがギルマスが来たところでこれからの私たちの話をしようか」
格納庫の扉を開けると、ヴィーンやカノン、クラリスを始めとしたギルド【自由の機翼】のメンバーが集まっていた。来れない人からは既に連絡を貰っていたらしく、私待ちだったとのこと。いやー、申し訳ないね。
「これからやることだが、とりあえず新しい浮遊大陸へと行こうと思う。そこでの行動に制限を付けるつもりはないから、各自自由に探索してほしい。素材関連は、見つけたら報告してくれると助かるね。あとは、行ってみないと分からないかな」
『新しいモンスター、新しい素材、新しい街……とってもワクワクするよね!』
「ふふっ、ミオンは待ちきれないようだね。この浮遊大陸でやり残したことがある人はいるかな?」
『大丈夫ですよ!』
「俺らも早く新しい大陸に行きたいんでさぁ!」
「一番乗りだー!」
『おー!』
「OKだ。早速ブリッジクルーはブリッジに集合。ミオンもどうせこっちに来るんだろう?」
『もっちろん』
ヴィーンの問いに即答する。発進シークエンスを見逃すなんてとんでもない!
私と同じ考えの人が何人かいるのか、ワクワクした雰囲気でブリッジに向かっていった。
さてと。私も行きましょうかね。
「よっと。この艦長席にもだいぶ慣れた気がするよ」
『よくよく考えたら、機動戦艦の艦長がエルフってすごいよね』
「まさにファンタジーだね」
『ロボットの整備班にドワーフや獣人がいる時点でかなりファンタジーだよねぇ』
「それもそうだね。さ、みんなも待ちきれないようだし、そろそろ出発しようか」
『それもそうだね。じゃあ、行ってみよー!』
動力炉である巨大魔力結晶炉には満タンに魔力を込めてある。空の上で動力が切れて墜落とかシャレにならないからね!
「魔力結晶炉、起動。各部に魔力供給開始」
『魔力の流れ、正常。オールグリーンです』
「推進機関に異常なし。魔力結晶炉の稼働率、正常値」
「現在ログインメンバー全ての収容を確認」
『黄昏の戦乙女、各機関正常に稼働』
「目標設定、第二の浮遊大陸」
『発進、いつでも行けます!』
『では艦長さん?』
「ふふ、そうだね。【自由の機翼】旗艦、黄昏の戦乙女。新たな大陸へ向けて発進する! 上昇後、前進微速!」
若干の浮遊感と衝撃の後、黄昏の戦乙女は〈散華の森・最奥〉を飛び立った。外の光景はモニターで見られるため、徐々に小さくなっていく森を、この大陸を確認できる。
「いやー、何度やってもこの感じはたまんねぇなぁ!」
『未だに感動します……!』
「今度はこの艦に武装付けてあれやりたい。うちーかたーはじめ! みたいなやつ」
「『やりたいねぇ』」
「艦隊戦とかできるのかな?」
『他にも戦艦ありそうだし、それを他のギルドが見つけてくれれば……って感じか?』
「あー」
などという話をしながらしばらく空の旅を楽しんでいると、突然の揺れが私たちを襲う。
「なにごと!?」
『この艦レーダーとかないから分からないです!』
「とりあえずモニターで周辺を確認しよう!」
『確認取れた! これは……モンスター!』
「やっぱり空の上にもモンスターはいるか……!」
モニターに映し出されたのは、猛禽類を思わせる鋭い爪を持った鳥型のモンスター。十羽くらいの群れが艦体に体当たりしたり、引っ掻いたりしてこの黄昏の戦乙女を襲っているようだった。
「この艦にはまだ武装はないって言うのに……!」
『とりあえず艦を一回止めて!』
「ミオン、なにを?」
『私が出る!』
『待ってよギルマス! まだ飛行用のパーツはできてないんでしょ!?』
『短時間ならマギアグライダーでも空中戦は可能だよ。一応、万が一のために私が出たら黄昏の戦乙女の高度を下げておいて』
「……分かった。でも、無理はしないように」
『当然! カノンとクラリスは?』
『ごめんなさいミオンさん! 私の右腕はまだ完成してなくて……』
『僕は出れるよ。ただ、空を飛ぶのは厳しいから、艦の上に出て砲台になるくらいしかできないけど』
『充分よ。あの鳥たちに魔機人の強さを見せてやるんだから』
カノンとクラリスとのギルドチャットを切り、私はハッチへと向かう。イベントの時に使った後部ハッチではなく、一人ずつ出撃が可能な前部ハッチの方だね。そっちなら、発進時に勢いも付けられるからそうそう墜落することはないと思うけど。
格納庫に着くと、そこでは親方が待っていた。
「おう、ミオンか!」
『親方!』
「このマギアグライダーを調整しておいた。完成品なら俺たちでも弄れるからな。これで少しは持つはずだが……」
『ありがとう!』
「おうよ! さっさと行ってこい!」
親方からマギアグライダーを受け取り、背部パーツと合体させた。前部ハッチに通じる扉を開き、各武装の最終確認を始める。
……よし。腕部のギミックも、ツインテールの隠し腕もちゃんと動くね。
鳥相手に近接攻撃は厳しいから、マギアライフルで削って行くしかないかな。あとは、攻撃のために近付いてきたところをカウンターか。
どちらにしても、空の上での戦いはそう簡単に済ませてくれそうにないね。
準備を整え、前部ハッチの前にたどり着く。私は足をカタパルトに固定して、少し腰を落とした。やっぱり、カタパルトって言ったらこの体勢よね!
目の前のハッチが音を立てて開け放たれ、そこから空が見渡せる。強い風が吹き込んでくるけど、カタパルトに固定されてる私はビクともしない。
『ハッチ開放、射出システムとのエンゲージ確認。カタパルトへの接続を確認、射出角度調整。進路クリア、発進のタイミングをミオン機に譲渡します!』
『くぅ〜……了解! ミオン、ブラッドライン……出る!』
カタパルトにENを流し、起動させる。動力を得たカタパルトがもの凄い速度で動き出し、私を空へと誘った。
ハッチから飛び出した私は勢いを殺さないように大回りでターンして、艦を攻撃している鳥を視認する。なるほど、確かに十羽いるわね。
『さて、私たちに手を出したことを後悔させてあげるわ!』
《遠視》スキルで照準を合わせ、マギアライフルの一撃を翼にぶち当てる。バランスを崩した鳥型のモンスターは鳴き声を上げながら墜落していく。その攻撃で私に気付いたのか、鳥型のモンスターが耳障りな鳴き声を上げた。それにより、十羽全ての視線が私に向く。
……やってやろうじゃん!
「クェー!」
『そこっ!』
背後を取ろうと接近してきた鳥型モンスターに向けてツインテールに仕込んだマギアサーベルで対応する。虚をついた一撃はクリティカルヒットし、その片翼を奪うことに成功する。
翼を片方失い飛ぶことのできなくなった鳥型モンスターが落下し、光の粒子に変わった。
うん、実践でも問題なしだね。思った通りに動いてくれるから結構便利かも。
さっきの攻撃を見たからか、露骨に距離を取る鳥型モンスター。でも、そこにとどまってると……。
「クェッ!?」
『さすがに止まってる的相手に外すつもりはねぇぜ!』
上部ハッチから出撃したカノンが、チャージしたマギアライフルで鳥型モンスターの翼を貫く。鳥型モンスターの視線が一瞬そちらに取られた隙に、私は一匹に接近する。
『よそ見は厳禁!』
「クェェェェ!?」
マギアソードを一瞬だけ使い、鳥型モンスターの翼を切り落とす。ボスでもないただのモンスターがその一撃を受けて無事でいられるわけもなく、その場で光の粒子に変わった。
『そらそらそらぁ!』
『えぇい!』
「クェッ、クェェェ!」
カノンと私の砲撃で鳥型モンスターはその数をどんどん減らしていき、最後の一羽も一刀の元に切り伏せられる。しばらく周囲を警戒し、後続のモンスターがないことを確認して一息つく。
『ミオンさん、そのまま黄昏の戦乙女の上部ハッチへ降りてきてください』
『了解。ミオン、帰投します』
その後は落ちることもなく艦の上部ハッチに迎えられ、大型アップデート後初の戦闘は幕を下ろした。
マギアグライダーを親方に預けて、カノンとともにブリッジへと向かう。
ブリッジへの扉を開くと、クルーであるプレイヤーたちから歓声を浴びることになった。
「いやー、一時はどうなるかと……」
『空中戦楽しそうだったなぁ。やっぱり空を飛ぶ手段がほしいよなー』
「この艦が落ちなくてよかったよ」
『みんなありがとう! またあいつらが襲ってきたら返り討ちにするよ!』
『僕は結構遠慮したいかも。やっぱり高いところは苦手だ……』
『カノンも援護ありがとうね』
『あれくらいならね。さすがに僕も一緒に空を飛べって言われたら断るけど』
『ないない』
「少し遅れてしまったけど、航路も修正したし、あとは快適な空の旅になる……と思うよ」
という話をしたものの、結局新大陸にたどり着くまでに二回ほど鳥型のモンスターの襲撃があった。鑑定した結果判明したんだけど、あのモンスターの名前はオイコンドルって言うらしい。ぶっちゃけ名前は完全にネタだよね。
どうやら港町セカンディアで飛空艇の護衛クエストを受けた時に戦うモンスターらしく、私たちは同じ航路を取ったために出会ってしまったようだ。
『おぉ……』
「これが次の浮遊大陸か……」
私たちの眼前には、始まりの浮遊大陸よりもさらに大きな浮遊大陸がその姿を見せていた。
大陸の端から流れ落ちる巨大な滝。大陸上に点在するいくつかの街々。そして中心に聳える巨大な山。
掲示板情報だと、東西南北のうち西南北に飛空艇、及び艦の発着できる港があるらしい。護衛クエストでは南の港にしか行けないそうだけど。
「さて、どうする?」
『んー……降りるならとりあえず南が安牌だけど……』
「せっかく自前の艦があるなら、それ以外にも降りてみたいね」
『みんなはどう思う?』
「どうせなら西か北に行きたいですね」
『北は遠回りになるから西でいいんじゃない?』
『ギルマス、西に行きましょう!』
『というわけで、私たちは西の港に着艦します!』
「左に60度回頭。西の港へ向けて前進!」
『了解!』
こうして私たちは、新たな大地を踏むこととなった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




