第二十八話 大型アップデートに向けて
今回から新しい章に入ります。
それでは、本作品をお楽しみください。
「大型アップデート、パッシブスキルの説明に第二陣の参戦……か」
昼前に起きた私は、兄さんがご飯を作ってくれている間にFreedomFantasiaOnlineの公式サイトを眺めていた。
[FreedomFantasiaOnlineをプレイしている皆様へ]
一週間後の九月八日にFreedomFantasiaOnlineは大型アップデートを行います。
それによりいくつかの新たな浮遊大陸や、新要素などを追加いたします。その詳細については、実際にその目で確かめてください。
また、パッシブカテゴリーのスキルの仕様について分かりづらいとのお声が多かったのでこの場でパッシブカテゴリーのスキルについて説明いたします。
パッシブカテゴリーに属するスキルは、同じカテゴリーのスキルが多ければ多いほどそれぞれのスキルの補正が下がる仕様になっています。
例を出せば、《敏捷強化》のみを取得してるプレイヤーと、《敏捷強化》《筋力強化》の二つを取得してるプレイヤーでは、それぞれのスキルによる上昇値が変わってきます。
前者が5%上昇するとすれば、後者はそれぞれが3%ずつ上昇するといった形です。
また、獣人種族のみ例外となり、パッシブスキルの%減衰がありません。これは、身体能力に最も秀でている獣人の特徴となります。
この仕様の公開に伴い、全プレイヤーにスキルのリビルド券をお配りいたします。有効期限はありませんので、使わない方はそのまま取っておくことが可能です。また、売買や譲渡は不可になっておりますので、ご了承ください。
そして、このFreedomFantasiaOnlineに第二陣がやってきます。大型アップデート完了後から現実時間で一週間後、さらに五万人のプレイヤーが増えます。
その際に第一陣用にキャンペーンを行うつもりなので、発表されるまでお待ちください。
それでは、これからもFreedomFantasiaOnlineをよろしくお願いいたします。
パッシブカテゴリーってそうなってたのか……正直、《敏捷強化》以外を取る気がなかったからこの仕様でも問題はないかな。やっぱり速ければその分敵の攻撃を避けられるし、近接攻撃の密度も上げられる。
とりあえず今日はブラッドラインの作り直しからかな。一度作ってるからそんなに時間もかからないだろうし。追加ギミックはそこまで手間にはならないから、今日中には作り直せるかな。
「紫音ちゃーん、ご飯できたよー!」
「分かったー!」
私は見てたスマホをポケットにしまい込み、階段を降りてリビングへと向かう。そこには、美味しそうな匂いを漂わせる昼食の姿があった。
つやつやの白米に、いい感じに柔らかくなった大根に豆腐、わかめの入った我が家のお味噌汁。ゲームをしている間に身体が夏バテしないように、豚の生姜焼きとニラと薬味がたっぷり乗った冷や奴も置いてある。
美味しそうな匂いにお腹がぐぅ〜と鳴り、私はそそくさと冷蔵庫から自分用のジュースを取り出して食卓につく。
兄さんと、向かいあわせに座り、手を合わせる。
「いただきます!」
「いただきます」
美味しい料理を食べている間に時間は過ぎ、私は食後のお茶を飲みながら兄さんと大型アップデートの話を始めた。
「新しい浮遊大陸が楽しみだよ。新しい素材とか、珍しい素材とかあるかもしれないし」
「しかも紫音ちゃんたちは自前の艦を持ってるもんね。俺たちはまずは港に行って飛空艇に乗るためのクエストをこなして……って感じかな」
「あー、本来はそんな感じなんだ」
「そそ。その分紫音ちゃんたちはリードできるから、結構有利だね」
「そうだね。あとは、この文面からすると追加される浮遊大陸は一つじゃないっぽいから、黄昏の戦乙女で色々見てみるのもいいかもしれない」
「あー。それは楽しそうだね。空の旅かぁ」
「そこはみんなと相談してからだね。あとは第二陣用に色々準備しないと……」
「あ、そう言えば、にっこりチューブで公式が動画出してたよ。第二陣向けのFreedomFantasiaOnlineのCMだったね。そこに紫音ちゃんも映ってたよ」
「そうなの? ちなみにどのシーン?」
「えっと、空からドラゴンに切りかかるシーンと、最後のビームぶっぱのシーンだね」
「あー。まあ、映えるシーンだろうからね……」
「でも【自由の機翼】は大変じゃない? この映像を見たら、結構な人数が魔機人を選ぶんじゃないかって思うんだ」
「それもそうなんだよねー。だから、新人さん用の準備もしないと」
「あと、これはお兄ちゃんからの意見なんだけど、第二陣のプレイヤーの受け入れはちゃんと条件を設けた方がいいよ? 今のギルドメンバーみたいに、無償で配った素材を、きちんと還元してくれるプレイヤーっていうのは、実は珍しいんだからね。聞いた話だと、ギルド抜けるのも自由って話だし」
「あー……」
そこらへんは確かにちゃんとしないとね。改めてヴィーンたちと話し合って決めた方がいいかも。
こっちとしても、素材は有限だからね……なにかしらの基準を設けるべきかも。
「まあまだ第二陣までには時間があるから、それまでに決めればいいと思うよ」
「そうだね。そうする」
「それで、紫音ちゃんはちゃんと夏休みの宿題やった?」
「もちろん! フリファンが始まる前に終わらせてるよ」
「よかった。そろそろ二学期が始まる頃だからね。ゲームもいいけど、学業もきちんとね」
「はーい」
「それじゃあ俺は食器片付けちゃうから、紫音ちゃんは先に部屋に戻ってていいよ」
「そう? ありがとう兄さん!」
私は兄さんにお礼を言って自分の部屋へと戻る。そのままベッドにダイブしてフリファンを起動した。
私はミオンとなり、黄昏の戦乙女の中の自室で起き上がる。
『さて、と。まずはパーツを作り直しますか。新しい素材も手に入ったことだし、どんなギミックを追加しようかなー』
現在黄昏の戦乙女は〈散華の森・最奥〉で待機している。そこが私たちの拠点になっていて、周りの森に素材を取りに行ったり、艦内の格納庫にガレージを設置して、そこで生産活動をしたりしているわけね。
「この部分はこうした方がもっとマッシヴになってかっこいいんじゃねぇか?」
『なるほど。さすが親方! デザインがしっくりきたよ』
「それとこんな感じの武装があれば……」
『それを作るには素材が足りないなぁ。アップデートが来たら新しい浮遊大陸で探してみようかな……』
「俺の方もインスピレーションは湧いてるんだが肝心の素材がなぁ……」
格納庫に向かうと、どうやら親方とギルドメンバーが魔機人について話し合っているようだ。邪魔をしないようにそそくさと空いている場所に陣取り、ガレージを設置する。
とりあえず、腕にはトンファーをくっつけたいな。ユニ〇ーンみたいにブォン! って出せたらかっこいいし、咄嗟の防御や攻撃にも使えそうだしね。
腕部パーツをパーツ作成用のパーツに切り替えて、《パーツクリエイト》を起動する。トンファー自体はマギアサーベルを流用するだけなので簡単に作ることができた。
違いは魔導石をはめ込む部分にマギアコンデンサを使用している点だね。常時使うわけでもないし、パーツスキルの《魔力自動吸収》と《自動供給》でこと足りるだろう。
でも、両腕にトンファーってのも芸がないよね……前から作りたかった盾でも作ってみようかな?
私はインベントリから使えそうな素材をピックアップして、いつもの工程に入る。いやー、最初はこの魔力を流す作業だけで時間がかかったことを考えると、成長してるって感じがするね!
今回使う素材はいつものアーティファクト・インゴットに、イベントで入手したドラゴンの素材と悪魔の素材、ユージン兄さんたちに貰った浮遊大陸の守護者の素材。
今では定期的に周回しているらしく、素材があまり気味だということで、悪魔の書を売った時にいくつか貰っているものだった。
まずはコアとなる部分を作ろうかな。研磨した魔導石を中心にして、悪魔の翼膜とドラゴンの翼膜で包み込んでいく。その上からアーティファクト・インゴットを加工して六角形の宝石のようなデザインのコアを作る。悪魔とドラゴンの素材は魔力伝導率がいいから、わざわざケーブルで繋げなくてもいいのは助かるね。
その周りに攻撃を受ける部分として、守護者の素材とアーティファクト・インゴットを合金化させたもので作っていく。そこにENを注ぐと可動するギミックを加え、基本である小盾形態と可動部分が展開して大きな魔力の盾を生み出す大盾形態への変形を可能にした。
[武装・小盾]マギユナイト・シールド レア度:EX 品質:A+ 魔力伝導率:A+ 魔力保有量:2500/2500 耐久値:15000/15000
魔力障壁の展開時無効ダメージ量:10000
スキル:《魔力自動吸収》《変形ー大盾》《魔力障壁》
《変形》:指定された種類の装備に変形する。その際、扱うのに必要なスキルカテゴリーは元々のカテゴリーになる。
《魔力障壁》:内蔵された魔力により障壁を張ることができる。必要な消費魔力量はダメージ量の四分の一。
うんうん。いいものが作れた!
魔導石を使った変形する武装は、マギアじゃなくてマギユナイトになるんだね。かっこよくていいと思うよ!
変形かぁ……ライフルとか、変形させたらかっこよさそうだよねぇ……こう、スイッチ一つでガション! ってバレルが伸びたり、砲身が変わったりして……。
っと、それはまた後にして、まずは腕パーツに取り付けるところからだね。作ったのは左腕用だけだから、今度右腕用にもなにか作ろうかな。
私はブラッドラインを作った時の工程を思い出しながらパーツを作っていく。
[パーツ・腕部]ブラッドライン-RA-(-LA-) レア度:EX キャパシティ:5/5(5/5) 魔力伝導率:A 魔力保有量:2500/2500(2500/2500) 耐久値:10000/10000(10000/10000)
ATK△△△ DEF△△△ MDEF△△△
スキル:《魔力自動吸収》《属性変更》
追加武装:マギアトンファー、マギユナイト・シールド
なんとかキャパシティ内で収まってくれてよかったよ。これでオーバーしてたらどこをどう削ればいいか分からなかったからね……。
マギユナイト・シールドを使うために《盾》スキルを習得して、調子を確かめる。
……うん、大丈夫そうだね。
さて、お次は足かな?
と言っても、脚部パーツには特に付け足したいものもないんだよねぇ。ローラーは拡張パーツでこと足りるし、ホバー機能を付けるためには足を太くしないといけないし。あ、アンカー機能くらいは標準にしておこう。
それと……あっ、そうだ。余ってるマギアダガーを利用して隠し武装にでもしようかな?
蹴った時につま先が展開してマギアダガーが伸びれば、威力が上がるかも?
あー、でもそれだとまた《刀剣》スキルを獲得しないといけないのか。それはちょっとダルいなぁ。
隠し武装……隠し腕……っと、そう言えばこれがあったね。
趣味で付けたこのツインテールのパーツ。これを可動できるようにしてマギアサーベルを仕込ませれば隠し腕っぽくなるんじゃないかな?
思い立ったが吉日とばかりに、さっさと脚部パーツを作成し、隠し腕の作成に入る。
とりあえず根元を360度動くようにして、小さいスラスターなんかも組み込んでみようかな。こう、ギュン! って隠し腕が迫ってくるイメージかな?
使用するENは内蔵するマギアサーベルからでいいとして、可動する部分をドラゴンの翼膜で保護することにしよう。丈夫で魔力の通りもいいし、使う量も少量だから大きな問題にもならないしね。
関節を二つほど作り、ある程度自由に動かせることを確認した私はブラッドラインの頭部パーツに可動式ツインテールを取り付けた。
[パーツ・頭部]ブラッドライン-H-レア度:EX魔力伝導率:A 魔力保有量:2500/2500 耐久値:10000/10000
DEF△△△ MDEF△△△
スキル:《魔力自動吸収》《属性変更》《変形》
追加武装:マギアサーベル×2
なるほど。隠し腕は《変形》スキルとして表示されるわけね。隠し腕っていうパーツスキルはないと。
結構時間も経ってるし、あとは壊れたマギアライフルを作り直して、一度ログアウトかなー。
ちゃちゃっとマギアライフルを作り直した私は、格納庫へと戻る。そこでは親方とカノン、クラリスがなにか話しているようだった。多分、壊れたパーツについて相談でもしてるのかな?
親方の生産職としての能力は半端ないからね……ロボットに対する熱量も人一倍で、魔機人以外にも扱える魔力兵器を作ってやる! っていうのが親方の口癖になってるね。その第一号がヴィーンの弓なわけだけど。
話の内容は気になるけど、そろそろログアウトしないと長時間ログインのペナルティを受けちゃうからね。少し現実で休憩してまたログインすることにしよう。
私は新しくなったブラッドラインをニヤニヤと眺めながら、現実世界に帰還した。
[所持スキル]
《魔機人》Lv.69(10up↑)《武装》Lv.65(12up↑)《パーツクリエイト》Lv.--《自動修復》Lv31(9up↑)《自動供給》Lv.50(7up↑)《片手剣》Lv.38(11up↑)《盾》Lv.1(New)《鑑定》Lv.-- 《感知》Lv.28(3up↑)《直感》Lv.36(5up↑)《遠視》Lv.31(5up↑)《敏捷強化》Lv.49(8up↑)《採掘》Lv.21《鍛冶》Lv.56(5up↑)《裁縫》Lv.41(15up↑)
残りSP131
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




