第二十六話 第一回イベント 決戦
今回を含めてイベント編の本文は2話、幕間を含めて4話の予定です。
それでは本作品をお楽しみください。
「そらそらそらそらそらそらそらそらそらそらァ!」
『ぐっ……!』
連続で繰り出される炎の爪による攻撃。振り下ろし、薙ぎ払い、振り上げるその攻撃の数々を、私はマギアサーベルで、時にはスラスターを噴かせて回避していく。
マギスティアライフルの取り回しが悪いせいで、幾つかの直撃を許しているけど……あの炎は魔法攻撃扱いらしく、そこまでの重傷にはなっていない。
このまま攻撃を受け続けるのはまずいと、私はマギスティアライフルを腰部のジョイント部分に固定し、左手にマギアサーベル、右手にマギアソードを握る。マギアソードはいざと言う時にだけ使うとして、炎の勢いで加速している今の悪魔の猛攻を受け流しきれるかな……!?
「そらそらどうしたよォ! 手も足も出てねぇじゃねぇか!」
『くっ……確かにその状態の君は強い。でも、それはいつまで続くかな?』
「ふんッ!」
『よっと……』
大振りの一撃を半身にして避ける。距離を離すために振り切った後の腕を蹴り、後ろへ跳躍した。炎に触れたことによる多少のダメージが脚部の耐久値を奪っていくけど、これくらいは必要経費だね。
そして、今ので確信したよ。あの炎の鎧状態には、時間制限がある。それがどのくらいかまでは分からないけど、こっちが倒れない限りはなんとかなるかもしれない。
『ギルマス! こちら残りのドラゴンは一体です!』
『よし! ナイス!』
ギルドチャットからもたらされた福音。残りのドラゴンを倒せば、みんなを集めてこいつに集中できる!
とりあえず私の仕事は、悪魔のこの状態を一刻も早く解くこと。なら、ひたすら避けて避けて避けまくる!
時間稼ぎをさせてもらうよ!
「こいつ、動きが……!?」
『あまりこういうことはしたくないんだけど、これはタイマン勝負じゃなくて、ボス戦なんだよね!』
私はひたすら悪魔の攻撃を避け続ける。大振りの攻撃は余裕を持って避け、避けづらい連続攻撃はサーベルとソードで切り払う。
明らかに悪魔の表情が焦っている。ロボットの粘り強さ、見せてあげるよ!
「クソが、当たらねぇ!」
『当たってやるものかよ!』
「ふざけやがって……当たりさえすればァ!」
『当たらなければ、どうということはないってね!』
「クソがクソがクソがァァァァァッ!」
『それでは当たらんよ!』
ついつい三倍の速さの赤い大佐のような物言いをしてしまう。いや、こういう時って言いたくなるじゃん?
しかし、こっちも地味にきつい。攻撃のキレがよくなって、余計にスラスターを使わされてる。ENが切れる前に、みんな頼むよ……!
少しずつ、少しずつではあるけどこっちの動きについてこようとしてる。なら、もう少し速さを上げるか!
私は大きくバックステップをしつつ、インベントリからマギアグライダーを取り出す。
『マギアグライダー! 合体フォーメーション!』
「空から降ってきた時のやつか!」
『残りのENを使い切るつもりで……!』
「こいつ、まだ速く……!?」
『ピンチの時に速く、強くなるのはロボットの特権だからね!』
「クソッ、当たらねぇ!」
盛大に空振る炎の爪。さらに悪魔から距離を取った私はインベントリから脚部パーツ用の高速移動用ローラーを取り出し、脚部ジョイントに装着する。ローラーを地面に下ろし、ENを込めて回転させた。
「なッ……!?」
『こんなこともあろうかと、ってやつだね!』
「なんだよそりゃあ……!」
悪魔も炎の出力を上げて加速するものの、縦横無尽に動き回る私の姿を捉えることはできない。地上戦はやっぱりローラーアクションでしょ!
こうなるとハーケンなんかも作りたくなるね……ううん、イベントが終わったあとはやることがいっぱいだなぁ。
「チッ、【ソニックフレア】!」
『……速い!』
悪魔は【フレアロード】による強化に加えて、炎系加速魔法と思われる魔法を重ねがけした。それによって悪魔の速度は劇的に上昇し、私の懐に入ってくる。そしてその炎の爪を突き立てようと振りかぶった。
「この距離なら当たるよなァ!」
『まだまだ!』
私はマギアソードを地面に突き刺し、それを足場にして跳躍する。振りかぶった悪魔の一撃はマギアソードに当たり、激しい音を立てながら刀身が砕け散った。
これでもう、ENをチャージしないとマギアソードは使えないけど!
『ブーストキック!』
「ぐっ……!」
跳び上がった勢いを殺さないように、スラスターで加速させた蹴りを悪魔にぶち込む。炎によるダメージがHPと耐久値を削るけど、悪魔はその蹴りをいなしきれずに派手に吹っ飛んだ。
その隙に落ちているマギアソードを回収してインベントリへしまう。ありがとう、マギアソード。君のおかげでまだ戦える。
そして。
『ドラゴンの完全撃破を確認! これよりそちらへ援護に向かいます!』
『よくやった!』
「クソが、時間切れかよ……!」
ギルドメンバーからのドラゴン撃破の報告。それと同時に悪魔の身を守っていた炎の鎧が霧散する。【フレアロード】の効果時間が切れたようだ。
私はマギアサーベルの切っ先を悪魔に向ける。
『時間稼ぎは成功したみたいだけど、どうする?』
「クソッ……あー、はァ……こんな辺境に、なんでこんなやつがいるんだ……」
『私としては、どうしてあの街を狙ったのか聞きたいんだけど?』
「理由? そんなもん、決まってんだろ。魔王サマの復活のためだよ」
『魔王……』
基本的にファンタジーもののRPGのラスボスは魔王って相場が決まってるけど、フリファンだと魔王って封印されてたり、死んでたりするってこと?
うーん、どうにも分からないけど……とりあえずみんなが来るまではもう少し時間稼ぎをさせてもらおうかな。
「アンドラスくんもブエルくんも倒されて……俺もボロボロだ。クズ鉄……魔機人、だったか。お前らに邪魔されてなければなァ……」
『アンドラスにブエル……だとすると、あなたはサブナック?』
「あ? なんで俺の名前知ってんだよ」
『え、いや、マジで?』
シャ〇、ク〇ト、と同じ名前だったから残りは〇ルガかなって思ったんだけど、本当にそうだったの? 運営にあの三馬鹿が好きな人がいるのかな?
まあでも、元ネタは悪魔だったっけ。確か、ソロモン七十二柱だったような気がする。鉄の血の機体もその名前が付けられてたっけ。本編に出てきたのはわずかだけどね。
って、今はそんなことどうでもいい。悪魔は軽く舌打ちすると、ニヤリ、と意味深な笑いを浮かべた。
「まァいいか。これだけは使いたくなかったんだがなァ……」
『うっわー。その言葉、すっごい嫌な予感する』
「アンドラスくん、ブエルくん……君たちの力、借りるぜ」
『死んでいった仲間の力を得るとかそれなんて主人公? え、これって私が悪役なの?』
「俺の魂と共に! 【レゾナンスデビルズソウル!】!」
『ぐっ……!』
悪魔……サブナックが魔法名を唱えた瞬間、あいつの周りに真っ黒い霧のようなものが集まっていく。それらは人の形を作り、サブナックの身体へと吸収されていった。
辺り一面の黒い霧が全てサブナックに吸収されると、その身体が一回り……いや、二回り以上大きくなる。
腕や足は筋骨隆々と化し、その上半身に着ていた服が破れてその筋肉質なマッスルボディがお目見えした。
目算、三メートルを超える高さにまで成長したサブナックが、その巨大な腕を振りかぶる。
「ココカラガ……最終ラウンドダ!」
『がッ――』
凄まじい速さで打ち込まれた拳が私の胴に当たり、かなりの飛距離を出しながら吹っ飛ばされる。一撃でHPの半分と耐久値をごっそり持っていかれて、何回か地面をバウンドしたあとにようやく止まった。
いきなり、強くなりすぎじゃないかな……!
『巨大化は、特撮の様式美だけどさ……!』
「ウォォォォォォリャァァァァァァァ!」
『何度も当たってたまるかよ!』
ローラーを走らせ、巨大な腕から繰り出されるラリアットを躱す。魔法攻撃主体だったやつが、強くなって近接攻撃主体になるなんて聞いてないよ!? しかも威力がシャレにならない!
「すまない! 遅くなった!」
『ユージン兄さん!』
私はサブナックから距離を取り、応援に来てくれたユージン兄さんたちの元へ移動する。
「で、あれは?」
『あの悪魔……サブナックが、南と西で倒した悪魔の力を吸収した姿』
「見たところ、近接攻撃主体か」
『うん。完全に近接攻撃主体になってる。今のところ魔法攻撃は使ってきてない』
「よし、それなら俺が前に出よう。新しい盾も持ってきてもらったしな」
『大丈夫?』
「任せろ。これでも俺たちのギルドは強いんだ……ヒビキ、タンクの連中に連絡は任せた」
「あいよ。任せな。連絡したらすぐ行く」
「頼む」
兄さんは自身のギルドのプレイヤーと話した後、その両手に大盾と、新しい鎧を着てサブナックの元へ向かう。話を聞いたタンクプレイヤーの人たちも、装備を整えてサブナックの元へ向かっていった。
「私たちは援護攻撃! デスペナでステータスが減っていても、攻撃の手を緩めてはダメよ!」
「前衛の回復は任せてください!」
「バフデバフをかけられるやつは片っ端からかけていけ! あいつになにが効くか分からないからな!」
「根性見せろよ!」
タンク以外のプレイヤーも自分のやるべきことをやっている。さっきまでは一人で戦ってたけど、誰かと一緒に戦うのは、やっぱり安心するね。
私は軽く息を吐いて、マギスティアライフルを構える。
『各機、ENの残りは?』
『僕は半分くらいですかね』
『私は三割くらい』
『俺は一割だな……』
『六割は残ってますわ』
次々に報告が飛んでくる。私はそれを聞いてメンバーを厳選する。
『五割以上残ってる人はユージン兄さん……タンクたちのフォローをお願い。それ以下の人は、ここでやることがあるから残ってね』
『『『『『了解!』』』』』
私の指示に従って動いてくれるギルドメンバー。大体ここに残ってるのは十五人くらいか……。
私はマギスティアライフルの拡張マガジンを外し、ケーブルを取り出す。マギスティアライフルとケーブルを接続し、そのケーブルを十六本に分割させた。
『あの、ギルマス……』
『やりたいことは分かったんだけど……』
『それ、反動とか大丈夫?』
『私の腕であれが倒せるなら安いものってね。あ、みんなももしかしたらケーブルを接続した部分が壊れるかもだから気を付けといてね』
『ですよねー』
なんて言いながらも各自ケーブルをそれぞれのコネクタへと差し込む。もちろん私も腕部コネクタにケーブルを差し込んだ。
一応、マギスティアライフルのバレルにはかなりのENを溜めてから発射できるようには作ってるけど……ぶっつけ本番でやるしかない。
私はローラーをインベントリへ戻し、代わりに別のパーツを脚部に取り付ける。
『悪魔……サブナックと戦闘中のギルドメンバーへ。ユージン兄さんにサブナックの動きを止めるように伝えて!』
『了解!』
魔機人の一人が兄さんに近付き、私の伝言を伝える。一瞬私の方を向いた兄さんが、サムズアップした。
「みんな! あいつの動きを止めるぞ! ミオンちゃんがなにかするようだ!」
「聞いたかお前ら! ギルマスの妹ちゃんがなにかやるつもりらしいから、死んでもあいつの動きを止めろよ!」
「「「「「オォーーーーーーーーー!」」」」」
「クソガ、コノゴミ共ガァァァァァァ! 邪魔ダァァァァァァァァァア!!」
『さて、こっちはチャージ開始だ!』
私は《遠視》スキルでサブナックの胴体に照準を定めて、マギスティアライフルにENを注ぎ込む。ありったけ、パーツのENも全部持ってけ!
マギスティアライフルの先端がバチバチと火花を上げる。その四つの先端から光が溢れ、小さいながらもエネルギーの塊を生み出した。
『よし、俺も!』
『なんか、元〇玉みたいだな』
『あ、それ私も思った』
『これ、パーツの分も入れていいのかな?』
『いいんじゃない? どうせこれでしとめきれないなら終わりでしょ』
『注ぎ込むぞ注ぎ込むぞ……!』
みんなと繋がったケーブルから溢れんばかりのENが送られてくる。それは全てマギスティアライフルの先端へと集まり、その輝きを、大きさを増していく。
私はさっき取り付けたパーツ……アンカーを起動させて地面に打ち込んだ。これで反動で吹っ飛ぶことはないはず。
『エネルギー充填200……300……450……600……!?』
ちょっと待って、こんなに溜めて大丈夫!?
心配になってマギスティアライフルを見るけど、全体から火花が上がっている以上におかしなところはない。これならギリギリまで溜めても大丈夫そうかな? しなやすしなやす!
『ギルマス! こっちは準備完了です!』
『そっちのタイミングで動きを止めて! 私が合わせる!』
『了解です!』
「お前ら、動き止めるぞ! せーのっ!」
「止メロ! クソ、動ケナイ!?」
サブナックの足を、タンクプレイヤー全員で押さえ込む。サブナックの腕が振るわれているけど、意地か覚悟か、誰もその身体を離すことはなかった。
サブナックは明らかに私の方を向いて怯えている。こいつが自分の命を奪えるだけの力を持っていることに気付いたわけね。
その反応で充分!
『800……980……1000%! エネルギー充填完了! これで決める! マギスティアライフル、マキシマムオーバーシュート!』
照準を定めて、トリガーを、引く。
瞬間、世界が真っ白に染まり、私の腕を、足を、全身を衝撃が襲う。ぐっ……この強烈な反動に耐えてみせる!
マギスティアライフルから発射された圧倒的な光はサブナックの上半身にぶち当たり、そのHPバーを奪っていく。
『ギルマス!』
『俺たちも押さえます!』
『撃ち切ってください!』
反動でぶっ飛ばされそうな身体をみんなが支えてくれる。これで勝たなきゃ、ロボットが廃るってものよ!
「ソンナ……ソンナバカナァァァァァァァァァ!?」
溢れんばかりの光を浴びたサブナックはそのHPを削り切られ、上半身を消滅させる。
そのまま突き進んだビームは東の草原の一番奥にぶち当たり、大きな爆発を起こした。
〈レイドボス:サブナック(最終形態)を討伐しました〉
〈EXアーツ【ブーストキック】を習得しました〉
〈戦闘の貢献度に応じて報酬をインベントリへ送ります〉
〈戦闘の貢献度一位のミオンに特別なアイテムを送ります〉
〈サブナックの書を入手しました〉
〈東側の防衛に成功しました〉
〈東西南北全ての防衛に成功しました。これにより、第一回イベントは終了します〉
〈イベント順位などの詳細は、後日発表されます〉
戦闘終了とイベントの終わりを告げるログが流れた後、浮遊大陸を震わせるほどの威力を上げたマギスティアライフルは、ビームを撃ち終わった瞬間に爆発した。
同じくその反動を支え続けたブラッドラインの両腕と両脚もバラバラに砕け散り、私は地面に投げ出される。幸い魔導石は無事だから、また作り直せばいいだけだね。
倒れ込む私を、背中を支えてくれたギルドメンバーが受け止めてくれる。
『みんな、ありがとう……』
『なに言ってるんですか。こっちこそですよ』
『あのボスを倒せたのは、間違いなくギルマスのおかげですよ!』
『まぁ、私たちが参加しなかったらもう少し優しい難易度になってたかもしれないけど……』
『それを言ったらおしまいですよ……』
『だよね……』
私はメニューを操作してとりあえずの応急処置として、錆び朽ちたパーツを取り付ける。動きづらいけど……ま、仕方ないかな。
私はその場に立ち上がって、こっちへと走ってくるユージン兄さんたちを見つめる。
……私たちは、勝ったよ。守りきったんだ。
胸いっぱいの達成感と心地よい疲労感とともに、私たちの第一回イベントは終了した。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は久々の掲示板回となります。
都築もどうぞお楽しみください。




