第二十五話 第一回イベント それぞれの戦場4
今回は主人公視点でのお話になります。
それでは、本作品をお楽しみください。
『さて、と』
私は用済みになったマギアグライダーを外し、インベントリの中へとしまう。後でENをチャージすればまた使えるからね。再利用は大事!
さっきぶった斬ったドラゴンに目を向けると、片腕を押さえながら叫び声を上げており、その視線は確実に私に向いていた。体勢を立て直す前に、叩くっ!
『はっ!』
隙だらけのドラゴンをマギアサーベルで滅多切りにする。ドラゴンは反撃をしようと残った腕や尻尾を振るってくるものの、大振りの攻撃のため避けるのは簡単だった。分かりやすい攻撃を避けつつ反撃を繰り返し、そのHPバーを削り切る。
HPの尽きたドラゴンの身体が光の粒子となって消えていく。
……討伐のアナウンスが流れないってことは、このドラゴンは通常モンスター扱いなのかな? やっぱりあの悪魔が大ボスか。
まぁいいや。そんなことより、ドラゴン素材ウマウマだね! もう少し集めれば新しい武装が作れそうだよ!
と、手に入れた素材の使い道に思いを馳せていると、フラフラとおぼつかない足どりで重装備のプレイヤー……悠人兄さんが歩いてくる。ゲーム内で私のリアルネーム知ってるの兄さんしかいないしね。
「えっと、ありがとう……でいいのかな?」
『……兄さん。本名で呼ぶのはマナー違反だよ』
「あー、ごめんね。つい……」
『それで、兄さんの名前は?』
「……そうだよね。し……君は掲示板とか見ないもんね。俺はこっちではユージンって名前だよ」
『じゃあユージン兄さんだね。私はミオン、でよろしく』
「よろしくミオンちゃん」
『というわけで。とりあえずこれ飲んで』
「ポーションか。ありがとう」
とりあえずそのままだと簡単に死に戻りかねないので、インベントリから整備班が生産したポーションを渡す。念のために持っていたけど、魔機人としては持っていても意味のないものだったので、消費できてよかった。
ポーションを飲んだユージン兄さんの身体が一瞬緑色の光に包まれ、そのHPが回復していく。
『それにしても、結構ボロボロだね』
「【ダークネスバインド】っていう防御力を減少させながら相手を拘束できるバインド技で動きを止められて、その上でドラゴンの攻撃をまともに受けてたからね……正直、装備の耐久値がやばいよ」
『戦えそう?』
「バインドされなきゃ大丈夫。耐久値の方も大幅に減ってるのは鎧だけだから、俺はミオンちゃんのギルドメンバーに助けられたらしい相棒のところへでも行って加勢するよ」
『あのボス……悪魔はどうする?』
「この装備だと俺は厳しいけど……ミオンちゃんなら一人でも結構持ちこたえられるんじゃないかな?」
『んー、多分? ま、やってみてからかな。じゃあ兄さん残りのドラゴン倒したら死に戻ってないメンバー集めてこっちに来てね。それまでは私がなんとか食い止めるよ』
「ここで倒してしまってもいいのだろう? とは言わないの?」
『そんなあからさまなフラグは立てないよ』
「そっか。じゃあ、待っててくれ」
『うん。待ってる』
兄さんを見送った私は、ドラゴンと戦っていても比較的余裕そうなギルドメンバーを探す。そのPTはすぐに見つかった。
とりあえずそのドラゴンをちゃちゃっと狩って、戦ってたPTには残りのドラゴンの討伐に加わってもらおう。兄さんが向かった方とは違うドラゴンをお願いしようか。それでドラゴンは全部倒せるはず。
私は駆け出す瞬間にスラスターを噴かせて、走る速度を上げる。そのまま目標に向けてマギアサーベルを抜き放つ。
『チェェェェェストォォォォォォォォッ!』
「グォォォォッ!?」
テンションを上げる掛け声とともにマギアサーベルを振り抜き、振り下ろそうとしていたドラゴンの腕を切り付ける。本当はマギアソードを使いたいところだけど、この後に本命のボス戦が残ってるからね。ここでENを使い切るのはいただけない。
『んー。なんか物足りないわね』
『チリンが足りないっすかね?』
『鈴って作れるのかな……?』
『あれって鈴じゃなくね?』
『そうだっけ……?』
このドラゴンと戦ってたギルドメンバーは私が乱入した途端にだらけた様子でお喋りを始めた。おいおい君たち随分と余裕そうだね!
体勢を立て直すついでにみんなのところへと下がる。
『みんなも戦ってほしいんだけど!』
『あ、ごめんギルマス』
『ギルマスなら一人でも倒せそうだなって』
『倒せるとは思うけど、その分大変だし時間もかかるから手伝ってほしいな!』
『はーい』
随分としまらない様子だけど、各々マギアライフルやサーベルを取り出して攻撃を仕掛けた。光の乱舞でみるみるうちにそのHPバーが削られていき、まともな反撃を許すことなくその身体を光の粒子へ変えていく。ここまで来るとちょっと可哀想かな……?
私はその場で一息ついて、ギルドメンバーに指示を出した。
『とりあえず、みんなはまだ戦ってるところへ応援に行ってね』
『ギルマスはどうするんだ?』
『私は……ずっとこっちに向かって殺気を飛ばしてるあの悪魔を削るよ』
『いや、あれボスじゃないっすか』
『そうだよ? だから、みんなには先にドラゴンを倒しておいてもらいたいんだ。倒したらまとめて応援に来てほしいけど』
『んー……うん、分かったわ。ギルマスも気を付けてね』
『うん。ま、秘密兵器もあるしみんなが来るまでは持ちこたえられると思うんだけど』
『秘密兵器……気になるけど、なんか怖いな……』
『同感。とんでもないもの作ってそうよね』
『ギルマスだから驚かないっすけどね』
『みんな結構余裕あるね……』
『まあ、ギルマスのおかげで余裕ができたからな』
『私が来なくても余裕だったと思うけど……じゃ、よろしくね』
短く息を吐き、私はボスだと思われる人型NPC……悪魔の元へと向かう。
私が近付いてきたのに気付いたのか、その不機嫌そうな表情に笑みが浮かぶ。
「誰かと思えば俺の邪魔をしてくれたスクラップ野郎じゃねぇか」
『お生憎様。私は女だから、野郎じゃないよ』
「関係あるかよ。俺の【ダークネスバインド】をレジストしちまうお前には、たっぷりとお礼をしてやらねぇといけないからな」
『【ダークネスバインド】? いつの間に?』
「……チッ、どこまでもバカにしやがってよォ」
悪魔は苛立ち気に舌打ちをすると、その背中から4枚の翼を生やし、羽ばたかせて空へと昇っていく。両手を広げると、空に浮かぶのは幾つもの魔法陣。その魔法陣の一つ一つに魔力が注ぎ込まれ、私を標的にその魔法が発動する。
「くらえ! 【多重詠唱】【フレアレイン】!」
一つ一つの魔法陣から洪水のように炎が溢れ、私に向かい雨となって解き放たれた。さすがにこの量を避けきるのは無理だね。
でも、私のブラッドラインの魔法耐性を舐めたらいけないよ! 多少耐久値が減っていたところで!
私はスラスターを噴かせて地面を蹴り、悪魔に向かって突撃する。肩や足などに炎が着弾するものの、目立ったダメージはない。数の多い魔法っていうのは、その分一発一発の威力が低いって相場が決まってるからね!
「こいつ、炎の雨の中を!?」
『魔機人を舐めるな!』
「チィッ!」
多少のダメージは自動修復で回復させつつ、すり抜けざまにがら空きの胴を薙ぐ。すんでのところで身を翻され切っ先がカスった程度だけど、マギアサーベルは当たりさえすれば固定ダメージが入るからね! それに、悪魔にだったら光属性のダメージはさらに増えるってわけ。
結果切っ先がカスったにしては多すぎるほどのHPを削り、私は制動をかけつつ着地する。やっぱり空を飛ぶ手段がほしいな……もう少しコストが軽くできれば空中戦も夢じゃないんだけど……現状だとちょっと多めにENを消費して、少しの間跳び上がるくらいしかできないんだよね。
とにかく、まずはあの悪魔を空から引きずり下ろすのが先か……翼を集中して狙えば部位破壊でなんとかなるかな?
私はマギアライフルに持ち替えて、悪魔を中心に円を描くような動きでトリガーを引く。常に悪魔の翼を照準に捉えつつ、悪魔の放つ魔法攻撃を避ける。
「ちょこまかと!」
『そっちこそ!』
お互いがお互いの攻撃を避け続けるよくない状況だけど、私はどれだけ時間がかかってもいいのに対し、悪魔には制限時間がある。
兄さんや【自由の機翼】の第一部隊のみんな、それに生き残った兄さんのギルドメンバーや他ギルドのプレイヤーなど、彼らが応援に来てくれればそれだけでこっちが有利だ。
まぁ、そもそもの話をするとレイドボス相手に一人で戦ってる私がおかしいんだけど……ね?
「ああクソッ、アンドラスくんに引き続きブエルくんまでこんな辺境で倒されるなんて……!」
そう、吐き捨てるように言いながら、頭を抱えつつもマギアライフルのビームを的確に避けていく。随分と器用なことするなぁ……。
でも、そうか。みんなはやってくれたんだね。
じゃあ私もとっておきの一つ、見せちゃおうかな!
『ジャーン! マギアライフル専用拡張バレルあ〜んど拡張マガジ〜ン!』
さて、インベントリから取り出しますは、私が空き時間にせっせと作っていたマギアライフル用の拡張パーツ!
先端が四つに分かれてる特殊な形状のバレルをちょいと銃口に取り付けまして、マガジンと拡張マガジンを交換すればあら不思議。
マギスティアライフルに大変身!
バレル追加により一撃一撃の基本固定ダメージを2500から3500に増やし、拡張されたマガジンによって弾数も増加! さらに長時間チャージすることで極太のビームを発射できる優れもの!
……ま、チャージしてる間はライフルが使えないし、チャージショット時の反動がデカすぎてまともに使えないんだけどね。それに、拡張マガジンにはマギアコンデンサを使用していて、魔導石を組み込んでないから使い切りってところと、通常射撃にも若干の溜めが入るのが欠点かな。
『ドーン!』
「ッ、威力が上がってやがる……!」
バチバチと音を立てながら放たれる、威力と範囲が広がったマギスティアライフルのビームを躱し損ねる悪魔。カスっただけでも大ダメージだぜ! ロマン武器は最高だぜ!
そして、ライフル自体にも無理をさせてるのが分かるね。無理やりくっつけた拡張セットだからなぁ。
『どんどんいくよ!』
「クソがッ!」
『……そこっ、もらった!』
「チィッ!」
牽制の一撃を避けたところに追加のビームを放ち、悪魔の翼の一枚を貫くことに成功した。残り三枚になったからか、若干バランスが悪そうに飛んでいる。このまま残りも叩く!
拡張マガジンをリロードし、再び狙いを悪魔の翼に定める。
『いっけぇ!』
「クソが……舐めるなァ!」
『なっ!』
あろうことか、悪魔はマギスティアライフルのビームに自ら突っ込んできた。放たれた光は悪魔の翼を二枚持っていくが、悪魔はその右手に炎の爪を出現させ、私に肉迫する。さっき私がしたことを返されたわけね。そして、その狙いは……マギスティアライフルか!
「そらァ!」
『ぐっ……!』
「チッ、外したか!」
私はマギスティアライフルを庇い、炎の爪撃を背中で受ける。その一撃はHPと背部パーツの耐久値を削り、さらにはマギアサーベル一本を使用不可能にした。
痛い、けど……マギスティアライフルを失うわけには!
悪魔は後頭部をかきながら残った一枚の翼で器用に滞空し、着地した。
「あークソ、俺の翼二枚とお前の剣一本じゃあ割に合わねぇなァ」
『マギスティアライフルをやらせるわけにはいかないからね!』
「ハッ、しょうがねぇ。こうなったら、第二ラウンドといくかァ! 【フレアロード】!」
そう叫び、その目が光った瞬間、悪魔の翼が引っ込み、その全身を炎が包む。先ほど私を傷つけてくれた爪や、尻尾のようなものも見える。
その全てが炎の鎧に包まれ、凄まじい熱を持つ。恐らく今の悪魔に近接攻撃は悪手かな。《直感》スキルが悪魔の全身に反応してるからね。
私は右手にマギスティアライフルを持ち、左手に残りのマギアサーベルを握る。近寄られた時に迎撃する手段を持っておかないと、ヤバそうだ。この際マギスティアライフルの反動は無視する。腕の耐久値にはまだ余裕はあるから、大丈夫だとは思うけど。
『……来る!』
「さっきは散々撃ちまくってくれたよなァ。今度は俺のターンだぜェ!」
『くっ、この勢いはちょっと、まずいかもしれない……!』
炎の鎧を纏った悪魔が、地面を蹴る。同時に私は地面を蹴って悪魔から間合いを離した。
しかしあっという間に間合いを詰められ、その爪の一撃をマギアサーベルで切り払う。
それが、この悪魔との戦いの第二ラウンドの始まりとなった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
イベント編の本文はあと2話で終了の予定です。
幕間を含めればあと4話です。
続きもどうぞ、お楽しみください。




