第二十四話 第一回イベント 〜それぞれの戦場3(カノン視点)〜
今回はカノン視点での対悪魔戦となります。
それでは、本作品をお楽しみください。
「そらそらそらそらァ!」
「くっ、なんという密度の魔法攻撃……! 防ぐだけで精一杯とは……!」
『チッ、いい加減マガジンの在庫もなくなってきたか……!』
『せめてクラリスたちがいればな……!』
「北はどうやら終わったようです。【モフモフ帝国】のプレイヤーや、そのクラリスさんとやらもじきにこちらにやって来るとは思いますが……」
『それまで耐えられるか……!?』
僕たちプレイヤーと悪魔との戦いは、ある意味膠着状態を生み出していた。
悪魔の放つ魔法攻撃の威力も然ることながら、その連射性能と的確にこちらの攻撃の出だしを潰してくる観察眼は恐ろしいの一言に尽きる。
実際、合間合間に攻撃しようとしていた第二部隊のプレイヤーに回避するか撃ち落とさないと確実にダメージを受けるレベルの魔法を放ってきているのがその証拠かな。ちなみに【唯我独尊】のメンバーは的確に魔法攻撃を跳ね返しているようだった。さすがと言わざるを得ないね。
はっきり言えば、森で戦ったアンドラスとかいう悪魔よりずっと強い。あいつは僕たちを舐めきってた上に配下頼みでアンドラス自身のステータスがそこまで高くなかったから倒せたにすぎない。ボス単体としてのステータスは圧倒的にこっちの方が強い。
目の前のこいつは、ボスと呼んでいい強さだというわけだ。もちろん、素直にやられてあげる義理もないけどね!
耐久値やHPが自動修復で徐々に回復していっているとは言え、無茶できるほどに回復したわけでもない。このイベントが終わったら是非ともパーツや武装を強化したいところだ。
「いい加減鬱陶しいんだよ! ゴミ共がッッッ!」
一向に倒せない僕たちに痺れを切らしたか、魔法攻撃の密度を減らしてまで特大の火球を用意する悪魔。おかげで攻撃の迎撃に余裕はできたが、目の前の特大火球をどうにかしないことには意味がないだろう。
「あれを撃たせてはいけません!」
「分かってらぁ! ……くそっ、全然効いてねぇ!」
「火属性の魔法にあれだけの規模の魔法はなかったはず……ってことは、もしかして」
「上位魔法スキルか!?」
「さすがにあれはシャレになんねぇぞ!?」
「分かっています! 分かっていますが……!」
どんどん大きくなっていく悪魔の火球。現れた時には人の頭ほどだったのが、今では一軒家一つくらいなら丸ごと入ってしまうような大きさに成長している。この溜め時間の長さ、とんでもない威力の魔法が飛んでくるか……!
『マーカス!』
『カノン、どうするつもりだ!』
『お前のマガジンを全部寄越せ! そして僕が撃ったらすぐにリロードしてくれ! 僕の分のマガジンは今落とす!』
『それで止められるのか!?』
『やってみなきゃ分からねぇが、やるしかねぇ! あれは魔機人でもやばい!』
僕は、悪魔に対してド正面に立ち、インベントリ内にしまってある残りのマガジンを全て後ろに落とした。マーカスも自分の持っている分を全部地面に落として、膝立ちで待機している。
「なにを……まさか!」
『あれを防ぎ切ったらすぐに攻撃にうつってくれ! あれだけの大技だ、消費MPとクールタイムはとんでもないはずだ!』
「……分かりました! ご武運を!」
『ああ!』
「なにやらごちゃごちゃとやっているようだが……この俺の"取っておき"をくらって身体が残ると思ってんのかァ!?」
『そうか、取っておきか……!』
最悪、このヴォルカニクを犠牲にしてでもあの魔法だけは止めてみせる!
悪魔はニィ、と口元に笑みを浮かべ、高笑いしながらその魔法を放つ。
「ハーッハッハッハ! 一片残らず消え去れェ! 終末の炎、灼滅の業火! 【アポカリプス・フレア】ーーーーーーッ!!!!!」
悪魔の頭上で燃え盛る特大の火球がその姿形を変えていき、灼熱の巨鳥になって突撃してくる。視界いっぱいに広がる炎に後退りしそうになるけど、すんでのところで踏みとどまった。一度深呼吸をして心を落ち着かせる。
――ふぅ。さぁ、やるぞ!
『マガジン切らすなよ、マーカスゥゥゥゥ!』
『こうなったら一蓮托生だぜコンチクショォォォ!』
改良型マギアライフルでのチャージショット。それをマガジンを使い切った瞬間にリロードして再び放つ。一瞬でも動作が遅れれば、勢いと威力を下げられずに灼熱の鳥に全てを燃やし尽くされてしまうだろう。
チャージショットの反動で腕の耐久値が削れていくが、気にせずに撃ちまくる。一撃が当たる度に灼熱の鳥の勢いも落ちていくようだが、この程度ではまだまだだ。
それでも、僕は!
『カノンを援護だ!』
『マガジン全部使い切るつもりで撃ちまくれーーー!』
「あいつばっかにかっこいいところを持っていかせるなよ!」
「【唯我独尊】の意地を見せろぉぉぉぉ!」
色とりどりの遠距離攻撃が灼熱の鳥に着弾する。微々たる差だけど、少しずつ、確実に勢いは落ちている!
「ふ、ふざけるなよゴミ共が! お前らに俺の【アポカリプス・フレア】を止められるわけねぇだろうが!」
『どうした、焦ってるのか?』
「どこまでもバカにしてぇ!」
『ぐっ……!』
魔力を込めたのか、先程よりも大きく燃え盛る灼熱の鳥。だが、これ以上はあいつもきついはず!
だから、我が身砕け散っても……ここは絶対に通さない!
『マーカス!』
『これ以上の速さは無理だ!』
『ちっ……!』
灼熱の鳥は徐々にではあるがこちらへと近付いている。この身体に皮膚はないけど、チリチリと装甲の端が熱を持ち始めたのを感じた。圧倒的なまでの熱量か……!
『マーカス、代わるわよ!』
『リリー! すまねぇ!』
『ちょうどいい! マーカスは僕と代われ。リリーはマーカスのリロードを頼むぜ』
『ちょ、ちょっと待て! カノンはなにをする気だ!?』
『奥の手……ミオンさんに作ってもらったマギアソードの《魔力収束》を使う!』
『お前、それは!』
『ここで全滅なんてできねぇんだよ! 誰かが残れば、クラリスたちが来るまで持ちこたえられるし、今ならあいつの魔力もかなり削れてる。そのまま押し切ることも可能だ!』
『でも!』
『とにかく、ここは任せたからね!』
『ちょっ!』
無理やりマーカスに改良型のマギアライフルを握らせ、インベントリを漁る。わりと奥底に眠っていたそれを取り出し、構えた。
……うん。《刀剣》スキルでもなんとか扱えそうだ。
推進力確保のため、込めたENがまだ残ってるマギアグライダーを取り出し、背部パーツに合体させる。
僕はマギアソードを構えたまま、その時が来るのを待つ。
こちら側の攻撃の頻度が減ったことで、勢いを取り戻した灼熱の鳥が鳴き声を上げて僕たちに突っ込み――
「消え去れぇぇぇぇぇぇ!」
『うぉぉぉぉッ! 《魔力収束》ざぁぁぁぁぁぁんッ!』
全身のスラスターとマギアグライダーのスラスターを噴かせて、灼熱の鳥へ接近する。火傷ダメージとは違う種類の継続ダメージを受けながら僕は駆け、マギアソードを振り抜く。
ぶつかり合う刀身とくちばし。ジリジリと減っていくHPを横目に見ながら灼熱の鳥とぶつかり合い――
バキィン!
という音と共に僕の両腕とマギアソードが砕け散り、灼熱の鳥は僕の身体を燃やしていく。だが、その威力はかなり減衰しており、僕のHPを数ドット残して炎は消え去った。
「な……アァ!?」
驚愕に顔を歪ませる悪魔。今のうちに攻撃を、と口にしようとしたところで、先程の継続ダメージが僕以外の全員にも入っていたことに気付く。魔機人以外のプレイヤーには継続ダメージに加えて火傷のダメージも入っており、全員がまともに動ける状態じゃなかった。くっ、あの炎にはこんな効果があったのか!?
「は、ははは! 驚かせやがって……俺の最強魔法をくらって、無事でいられるわけねぇだろうが!」
悪魔が驚いていたのも一瞬。僕たちの現状を見て笑みを浮かべた。
このままじゃ、負けてしまう。
そう思った時。
『ギリギリ間に合いましたっ!』
聞き覚えのある女性の声。視界に映るのは、灼熱の鳥に負けないほどに紅い、頼れる僕たちの仲間。
ローラーを全力以上に回し、湿地に足を取られないように走るその姿が見えた。
僕は、彼女の名前を呟く。
『ク、ラ……リス……!』
『ギルド【自由の機翼】第三部隊及び、ギルド【モフモフ帝国】他北側担当のプレイヤー、現時点を以て西側防衛戦に参戦します!』
「お前ら! 気合い入れていけよ!」
クラリスの隣では見たことのないクマの耳を持った獣人プレイヤーが指示を出していた。恐らくあの人が【モフモフ帝国】のギルドマスターなんだろう。
「ちっ、ゴミ共が増えやがったか! だがなァ!」
悪魔は応援に来てくれたプレイヤーたちに向き直ると、先程も使っていた高密度で連射性能の高い魔法攻撃を行う。だけど……。
『はっ、せいっ、こんなものっ!』
クラリスたち第三部隊は動きにくい湿地でもその動きを止めることはせず、紙一重の回避や、回避しきれないものはマギアダガーで弾くなど、その速度を落とすことなく悪魔に接近していく。
他のプレイヤーたちも同様で、彼らにいたっては魔法を弾くどころか逆にカウンターまでしている。そのカウンターは的確に決まり、悪魔のHPを削っていく。
「なっ……! なんなんだお前らはァッ!?」
『最初から全力全開で行きますよ!』
クラリスは両手に握っていたマギアサーベルを右手首のパーツに接続し、刀身を出現させた状態で高速で回転させた。
ゴゥ、とクラリスのスラスターが噴く。
させないとばかりに魔法の弾幕がクラリスを襲うが、それらの攻撃は全て応援に来てくれたプレイヤーのみんなが撃ち落とした。それでも抜ける攻撃は、その腕の……ビームのドリルのようなものが全て弾き返しているようだ。
「ば、バカなッ……!」
『これが全身全霊、粉骨砕身のっ! 【マギアドリル! ブレイクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!】』
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
高速回転した刀身がドリルのように悪魔の身体を貫き、そのHPバーをガクンと減らす。ガードしようとした右腕が千切れ吹き飛び、右半身から血飛沫のエフェクトが飛び散る。
ただし、クラリスの方も相当の無茶をしていたのか、悪魔の身体を貫いた際に右腕のパーツがフレームごと砕け散っていった。
『腕なんていくらでもくれてやります!』
残った左手でマギアダガーを逆手に握り、バーニアで制動をかけつつ再び悪魔に接近する。痛みで呻くだけの悪魔にすり抜けざまにダガーが振り抜かれ、さらにHPバーを減らす。
「ナイスだ嬢ちゃん! こいつでとどめだぁ! 【グランドインパクト】ォ!」
「僕も忘れてもらっては困りますよ! 【ライトレイ】!」
いつの間にか肉迫していたクマの獣人の巨大メイスが輝きを放ちながら振り抜かれ、ナインさんの放つ魔法のビームとともにぶち当たり、残っていた悪魔のHPを完全に削り切った。
「ハ、ハハハ……ゴミ共、がよ……やるじゃ、ねぇか……サブナック……先に、行ってる、ぜ……」
〈レイドボス:ブエルを討伐しました〉
〈戦闘の貢献度に応じて報酬をインベントリへ送ります〉
〈戦闘の貢献度一位のカノンに特別なアイテムを送ります〉
〈ブエルの書を入手しました〉
〈西側の防衛に成功しました〉
身体の半分を潰されながらも悪魔は俺たちに向かってニヤリ、と笑い、ボソボソと呟いて光の粒子となっていく。最後まであいつの態度は変わらなかったようだ。
『カノンさん!』
右腕が欠けて、バランスが悪そうにしながらクラリスは僕の元へと向かってくる。まあ、僕も随分と酷い状態だから、人のことが言えないけどね。
『クラリス……ありがとう。おかげで助かったよ』
『いいえ。カノンさんが頑張ってくれなかったら、私たちは間に合いませんでした』
『そうかな……』
『そうだぜ、隊長!』
見れば、マーカスとリリーがお互いに肩を貸し合いながらこちらへ向かっているところだった。
自分で言うのもなんだけど、みんな満身創痍だね。
『マーカスもありがとう。僕の無茶を聞いてくれて』
『無茶を言ってる自覚があるならもうやめてくれよ。無茶ぶりされる方にもなってほしいぜ……』
『あら、マーカスの貧乏くじ体質はゲームでも健在かしら?』
『うるせぇぞ、リリー』
『あれ、お二人はリアルでも面識があるんですか?』
『面識があるって言うか……』
『夫婦だからね、私たち』
『『えぇ〜〜〜っ!』』
こうして、僕たちの戦いは終わった。北と西を守りきり、始まりの街を防衛することに成功したんだ。
……え、東がまだ終わってないだろって?
ふふ、大丈夫。なにも心配することはないさ。
なぜかって?
なぜなら東には、とっても頼れる僕たちのギルドマスターが向かっているの「バキンッ」だから、ね。
『あ、足が折れました……』
『うん。とりあえず、錆び朽ちたパーツでも付けとこうか……』
……たまにはこんな終わり方も、いいんじゃないかな。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回は主人公が大暴れします。
続きもどうぞお楽しみください、




