第二話 錆び朽ちた身体
バディコンプレックス、もう一度スパロボに出演してくれてもいいのよ……?
『な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!』
機械的な補正が入った女性の叫び声が聞こえる。……あ、これ私の声か。
ゲームを開始した私、琴宮紫音ことミオンは薄暗い整備場のような場所にいた。恐らく、これが〈ガレージ〉の内部なのね。
って、ちっがーーーう! そんなことよりこれ! これよ! 私の身体!
アバターエディット時の白と蒼と紫のかっこ美しい色合いがあら不思議。全身が錆び付いて見る影もありません。いや確かに壊れかけのロボットとかも好きだけどさ。エク〇アリペアとか最高よ。ボロボロの機体にマントとか興奮しちゃうわ。でもこれは違うじゃん?
しかも、微妙に動かしづらいし……なんか視界も変な感じ。ロボット的な補正が入ってるのは分かるんだけど、視界の端が見えにくい。これも目のパーツが錆び付いてるから……なのかな。
と、とりあえず装備を確認しよう。今装備してるパーツの説明かなんかがあるはず!
[パーツ・頭部]錆び朽ちた頭部 レア度:EX
DEF▽ MDEF×
長い年月を経て錆び朽ちてしまった頭部。かつての優美な姿とはかけ離れている。視界が悪く、各種耐性も軒並み最低である。
[パーツ・胴部]錆び朽ちた胴部 レア度:EX
DEF▽ MDEF×
長い年月を経て錆び朽ちてしまった胴部。かつての優美な姿とはかけ離れている。非常に脆く、各種耐性も軒並み最低である。
[パーツ・腕部]錆び朽ちた腕部・右(左) レア度:EX
ATK▽ DEF▽ MDEF×
長い年月を経て錆び朽ちてしまった腕部。かつての優美な姿とはかけ離れている。仕込まれたギミックは辛うじて作動するもののその動きはぎこちなく、各種耐性も軒並み最低である。
[パーツ・腰部]錆び朽ちた腰部 レア度:EX
DEF▽ MDEF× AGI▽
長い年月を経て錆び朽ちてしまった腰部。かつての優美な姿とはかけ離れている。非常に脆く、各種耐性も軒並み最低である。
[パーツ・脚部]錆び朽ちた脚部・右(左) レア度:EX
DEF▽ MDEF× AGI▽
長い年月を経て錆び朽ちてしまった脚部。かつての優美な姿とはかけ離れている。非常に脆く、各種耐性も軒並み最低である。
なるほど。錆び付いていたわけじゃなくて、錆び朽ちていたわけね。納得。
……いや、悪化してるんですけど!? おのれ、謀ったな運営!
『魔機人を選んだプレイヤーの皆さんは、まずはその状態を脱却することから始めましょう』
と、目の前にそんなメッセージウィンドウが浮かび上がる。ちくせう……そうか、これが魔機人が不遇種族だという一番の理由なわけか。そりゃ、これだけ酷い初期装備な上に自分の作り上げたアバターをむちゃくちゃにされたらこのまま魔機人で遊ぼうと思うプレイヤーも少なくなっちゃうよね。この錆び朽ちたパーツを変えようにも、変え方も分からないわけだし。
ま、私を舐めてもらっちゃ困るよ。こんなことでへこたれるもんですか。むしろ、俄然やる気が出てきたね。やってやろうじゃん!
残念な初期装備の確認を終えた私は、ガシャンガシャンと音を立てながら〈ガレージ〉の中を見て回る。驚くことにその大きさは高校の体育館ほどの大きさがあった。高校によっては狭い体育館もあるかもしれないけれど、少なくとも私の通ってる高校の体育館と同じくらいかな。つまり、かなり大きい。
そうだ、《鑑定》で〈ガレージ〉について調べられるかな。
[アイテム・ホーム]ガレージ レア度:EX
魔機人を整備したりパーツを作成するための道具が揃っている古代文明の遺産。簡易ホーム扱いで、ほんの少しの広さの平地があれば設置が可能。内部はかなり拡張されており、かつては多くの魔機人が戦闘に向けて待機していた。
譲渡不可。売買不可。破壊不可。
簡易ホーム扱いってことは、ここで安全にログアウトができるってことか。こんな序盤からこんなアイテムが貰えるんだから、確かに魔機人を選ぶ唯一のメリットって言われるくらいはある。ま、整備するための道具が揃っている云々はフレーバーテキストっぽいね。
そう言えば、このガレージもレア度EXなんだね。魔機人以外は持ってないだろうから、たしかに珍しいかも。
このゲームにおいてレア度とは、珍しさや手に入れにくさ、強力さなどで設定される。
基本レアリティは下からC、U、R、SR、SSR、URとなっていて、それぞれに-と+の段階が存在する。基本レアリティに関してはわかりやすく親しみやすいようにソーシャルゲームのレア度を参考にしたらしい。
希少レアリティはEX、G、UNの三種類で、EXは種族専用のアイテムに、Gは神が遺したと言われる伝説級のアイテムに付けられる。UNにいたってはこのゲーム内で一つしか存在しないアイテムに対してつけられるレアリティだ。
つまり、種族専用のガレージやパーツなんかは基本的にレア度はEXになるわけだね。
さて、と。ガレージの中も大体見て回ったし、いつまでもここにいてもしょうがない。一回外に出てみますか。
『えっと、出口は……』
幸いなことに出口はすぐに見つかった。どうやらここは地下らしく上へと続く階段と、その先に閉じられたシャッターが見える。ガシャンガシャンと階段を昇っていき、近くにあったボタンを押してシャッターを開く。
大きな音を立てて開ききったシャッターの向こう側には、緑が広がっていた。
見渡す限り木々が生い茂っており、空は伸びた枝と葉により見ることはできない。辛うじて陽光は入ってくるらしく、木々が生い茂っている割には視界は悪くない。ま、頭部が錆び朽ちているせいでちょっと見えにくいけどね。
『はは……あれだけ大きな音だったから、それもそっか』
そんな私の目の前には、一匹のモンスターが現れた。緑色の肌にボロボロの皮鎧。錆び付いた剣にヨダレを垂らした不快な面構え。第一村人ならぬ第一モンスター、ゴブリンが現れた!
「グギャアッ!」
ガレージから現れた私を見つけたゴブリンは、一目散に剣を振りかぶってくる。ってやば!
私は全力で横に飛び、身体を地面に擦り付ける。無様な姿を晒しているけど、なんとか初撃は避けられた。振りかぶった一撃を躱されたゴブリンは怒り心頭のご様子。先ほどよりも鋭い殺気が私を襲う。その殺気に一瞬身体が固まってしまう。
……これが、リアルの戦闘。モニターを見ているだけじゃ分からない、生の臨場感! ゲームだけどゲームじゃない……確かな現実がここにある!
私は立ち上がると大きくバックステップし、インベントリを漁る。《刀剣》を取ってるから何かしらの武器はあるはず!
『武器は……錆び朽ちたソードにブレード、これだけか!』
すぐさま錆び朽ちたソードを右手に、錆び朽ちたブレードを左手に装備する。瞬間、手に感じる重み。私の身体と同じように錆び朽ちた武器が現れる。性能の確認は後回し。まずはこいつを倒す!
『せぇぇぇぇぇぇいっ!』
音を立てながらゴブリンへと近づき、右の剣を振りかぶる。それをゴブリンは粗末な剣で受け止めた。
ギャリィン! という耳障りな金属音が鳴り響く。私はそのまま押し込もうとしたけど、ゴブリンも足に力を込めているのか動く気配がない。
鍔迫り合い。でも、それに馬鹿正直に付き合ってあげる必要はないね。私は残った左の刀をゴブリンの首元目掛けて突き刺した。
「グギャァァッ!」
さしものゴブリンもこの攻撃は予測できていなかったのか、驚いた表情を浮かべる。モンスターなのに、表情が豊かね。これもフルダイブゲームだからかな?
そのまま私の刀はゴブリンの首元に吸い込まれていき、赤い血を模したゲームエフェクトが飛び散る。その一撃で身体を仰け反らせるゴブリン。このまま押し切る!
突き刺した刀を捻りつつ抜き、剣でがら空きになった心臓部分を突き刺す。
ゴブリンは断末魔の叫びと派手な赤い血飛沫のエフェクトを撒き散らし、そのまま光の粒子へと変わっていく。
戦闘終了とドロップアイテムを示すウィンドウがポップアップされ、私の初戦闘は終わった。ふぅ、と軽く息を吐く。
『これは、かなり疲れるな……』
それが私の正直な感想だった。たった一回の戦闘。それも、わずか数十秒の出来事だ。それで、この疲労感。ま、慣れてくしかない。どんなゲームだって初心者の時は大なり小なりこんなもんよ。
数分かけて休んだ私は、改めて両手に持つ武器を眺める。《鑑定》さんお願いします!
[武装・剣]錆び朽ちたソード
ATK△
長い年月を経て錆び朽ちてしまった武装。剣の形をとっているが、元々は違う用途で使われていた。今では鈍器としての使い道しかなさそうだ。それでも、丸腰よりはマシだろう。
[武装・刀]錆び朽ちたブレード
ATK△
長い年月を経て錆び朽ちてしまった武装、刀の形をとっているが、元々は違う用途で使われていた。今では鈍器としての使い道すらなさそうだ。それでも、丸腰よりはマシだろう。
分かってはいたけど散々な説明文ね。でも、元々は違う用途で使われていた、と。それがどんなものかは分からないけど、いつかはそれを作り出すのも一興ね。ま、今はそれどころじゃないけど。
休憩するまでにあと何匹かはモンスターを倒しておきたい。スキルレベルを上げなくちゃいけないし、もしかしたら私以外にも魔機人で始めたプレイヤーがいるかもしれないし。どの道、じっとしていては駄目ね。危険覚悟で森を探索しないと。
幸いなことにこのゲームには自動マッピング機能がある。それによるとここは、〈散華の森〉……始まりの街の近くの森にしては物騒な名前ね。
『さて、行きましょうか』
忘れずにガレージをアイテム化させインベントリへとしまう。ちなみに、剣と刀は私の両腕の中へとしまってある。
そう、アバターを作成した時に作った開閉ギミックがここで役に立った。明らかに腕に入らない大きさの武装が入ったのは、とてもゲームらしい。好きに取り出せて、手の甲から刀身だけを出すこともできる。これは是非とも活用せねば。そして、腕部パーツの情報が更新されたというメッセージウィンドウ。これは後で確認ね。
カション、という音と共に右腕の装甲が開閉し、剣の刀身だけが現れた。ブンブンと腕を振り、重さを確かめる。
んー、しばらくはこのまま進みますか。この状態の剣にも慣れておかないといけないしね。
私は未だ違和感の残る身体を動かし、次のモンスターを探して歩き始めた。とりあえずマップを埋めつつ、目に付いたモンスターは殲滅する方向で。
『よーし、やったるぞー!』
私のフリファン初日は、始まったばかりだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもお楽しみください。




