第二十三話 第一回イベント 〜それぞれの戦場2(クラリス視点)〜
今回は北に向かったクラリス視点でのお話になります。少し長めとなります。
それでは、本作品をお楽しみください。
『ひゃっはーーーーーーー!』
『風が気持ちいいぜぇーーーーっ!』
『隊長! カメレオンワイバーンがまるでゴミのようですね!』
『そう! 今の私たちなら、カメレオンワイバーンなんて敵じゃない! その事を証明してやりましょう!』
『『『ひゃっはーーーーーーーー!』』』
私たち第三部隊はその高いテンションのまま、北のフィールドに向かっています。そこにはカメレオンワイバーンが大量に発生しているということですけど、空を飛ばないカメレオンワイバーンなら敵じゃありませんね。
やがて戦場が近付き、地上の様子が見えるようになってきました。北を担当しているギルドは、確か【モフモフ帝国】という獣人とモフモフを愛するプレイヤーで構成された大規模ギルドと、その他の中小ギルド。
地上では一体のカメレオンワイバーンに大体1PTで挑んでいるようですが、カメレオンワイバーンの数が多すぎて身動きが取りづらいようですね。……約一名、一人で大立ち回りしてる人がいますが、あの様子なら大丈夫でしょう。ならば。
『各自、最低でも一匹は倒すこと! 今の私たちなら、一人でもあのモンスターを倒せるはずです!』
『おっけー隊長! みんな、聞いたね!?』
『おう!』
『むしろ、もっと倒してもいいんすよねぇ!』
『当然!』
『っしゃあ! やぁってやるぜぇ!』
私たちは空で散開し、それぞれの標的を定めます。私の相手は……あいつです!
『せいっ、やぁぁぁぁぁぁぁっ!』
マギアサーベルを抜き、バーニアで着地の勢いを殺しつつカメレオンワイバーンの翼膜を切り裂きます。どうやらイベント用で通常の個体より弱いのか、その一撃で片翼をもぐことに成功しました。
叫び声を上げるカメレオンワイバーンに向かってマギアダガーを投擲、怯んだところでマギアサーベルで滅多斬りです。
あっという間にHPバーは削れていき、その身体を光の粒子に変えました。その間にマギアグライダーをインベントリへしまいます。
「なっ、あんたは!?」
そこで、近くで戦っていたクマの耳を持つ獣人プレイヤーが声をかけてきました。先ほどの大立ち回りをしていた人ですね……って、よそ見したら危ないですよ!
私は彼の背後で襲いかかろうとするカメレオンワイバーンに向かって拾ったばかりのマギアダガーを投げます。その刃がカメレオンワイバーンの右目を貫き、その場で動きを止めつつ叫び声を上げました。
「うお、危ねぇ。助かったぜ」
『話はとりあえず、こいつを倒してからです!』
「違いない!」
クマさんが重そうな巨大メイスを振りかぶり、カメレオンワイバーンの頭にぶち当てます。そのままカメレオンワイバーンはよろけてその場に倒れ込みました。
頭部……脳を揺らしたことによるダウン判定です。このクマさん、やっぱり強いですね?
もちろん私たちがその隙を逃すはずもなく、哀れカメレオンワイバーンは光の粒子になりました。
「ふぅ、助かったぜ。俺はカンナヅキ。ギルド【モフモフ帝国】のギルドマスターをやってる」
『なんと、ギルマスさんでしたか。私はクラリス。ギルド【自由の機翼】の第三部隊を任せられています』
「【自由の機翼】って言うと……なるほど。あの人のギルドか」
『ギルマスを知っているんですか?』
「実際に会ったことはないけどな。俺たちの中じゃとんでもない善人だ、って話になってるよ。ああそうだ、カノンってプレイヤーは知ってるか?」
『カノンさんなら、第二部隊を任されてますね』
「そうか。それは良かった。掲示板での付き合いとはいえ、知り合いがちゃんとやれてるならいいんだ」
『……カンナヅキさんはいい人ですね』
「よせよ。さ、話はここまでだ。さっさとこいつら片付けないとな。西もやばいが、東も大概やばいみたいだし」
『西にはカノンさんが、東にはミオンさん……ギルマスが向かっていますね』
「なら大丈夫そうか……大丈夫そうだな。掲示板にちゃんと情報が来てる」
『戦いの中でも掲示板を見ているのですか?』
「掲示板やりながらの戦闘なんて慣れればどうってことないからな。むしろ、こういう場合は各地の情報が集まるから行動の指針を取りやすい。俺みたいなやつが、大抵色んなところにいるからな」
『なるほど。では、私はあのトカゲの数を減らしてくるとします!』
「ああ。気を付けてな!」
『お互いにです!』
カンナヅキさんと別れた私は、早速近くのカメレオンワイバーンの懐に潜り込み、マギアサーベルで執拗に足を攻撃します。ダウン値が溜まり、その場に倒れ込んだところで一キルですね。
ローラーで戦場を走り回りながら、カメレオンワイバーンに喧嘩を売っていきます。さっさと倒さないと、カノンさんの応援に行けませんからね。
『ひゃっはーーーー!』
『誰も俺を止めることはできない!』
『速さが足りねぇっ!』
『切り捨てぇっ、ごめぇぇぇぇん!』
……第三部隊のみんなはちゃんと仕事してるみたいですね。テンションが上がりすぎてやばい人になってるのが数人いますが、まぁ大丈夫でしょう。それに最後の人、それは水先案内人になってしまうのでやめましょうね。結局生きてましたけど。
「殲滅機姫から送られてきた援軍がやって来たぞ! 態勢整えて押し返せぇ!」
「「「「「おぉーーーーーーっ!!!!!」」」」」
物騒な二つ名ですね。さすがはミオンさんです。私もいずれそういう名前が付くといいのですが……。
完全に勢いを取り戻した【モフモフ帝国】他、北を担当しているプレイヤーのみなさん。明らかにカメレオンワイバーンの殲滅速度が上がっています。
しかし、カメレオンワイバーンですか……その素材があれば、ミラージュ〇ロイドみたいに透明になれるパーツとか作れませんかね? 頑張れば作れそうな気もします。今のうちに素材を集めておきましょう。
こうして周回感覚でカメレオンワイバーンを倒していると、先ほどよりもカメレオンワイバーンが湧く数が少ないように思えます。そろそろおしまいでしょうか?
そんなことを考えていると、戦場に今まで聞いた事のないほど大きな咆哮が聞こえてきます。見れば、カメレオンワイバーンをさらに大きくして、翼の枚数を増やした明らかに上位種であることが分かるモンスターがそこにいました。
上位種とは言いましたが、どちらかと言うと奇形っぽい感じがしますね。亜種の方が近いでしょうか?
しかし、カメレオンワイバーンの群れによる波状攻撃の後に本命のボスとは……かなり厄介ですね。
カメレオンワイバーン亜種が一際大きい咆哮を上げると、その頭上に六本のHPバーが現れました。
「本命が来たぞ! タンクは前へ、弓や魔法攻撃メインのやつはアレの攻撃範囲に入らないように注意しろよ!」
カンナヅキさんの指示が飛びます。では、私たちもお祭りに参加するとしましょう!
『各機、無事ですか?』
『おう!』
『当ったり前でしょ!』
『この程度で倒されるほど柔なパーツ使ってませんよ!』
『よし。なら、私たちも参戦します。弓や魔法攻撃の射線に入らないように気を付けながら、近接戦闘に入ります!』
『『『『『了解!』』』』』
私たちはローラーを全力で回転させつつスラスターを噴かせてカメレオンワイバーン亜種に肉迫します。
近くを通り過ぎる私たちを鬱陶しそうにしながら尻尾の薙ぎ払いがやって来ますが、落ち着いてそれを姿勢を低くして回避し、逆にマギアダガーでカウンター気味に切り付けます。
大したダメージは与えられていませんが、どうやら今ので私を脅威とみなしたようですね。カメレオンワイバーン亜種のタゲが私に向きます。
ですが。
「タゲをとれーーー!」
「タンクの意地見せろよぉ!」
タンクプレイヤーによるヘイトコントロールにより、私に向いたタゲを取り直しました。これで攻撃を受ける可能性がグッと減りますね。装甲……というより、防御力は本当に紙なので助かりますよ。
脚部のENを回復させるために一度ローラーをしまい、スラスターを噴かせながらマギアサーベルでチクチクとダメージを与えます。まぁ、一回の固定ダメージ3000がチクチクとしたダメージなのかは放っておきましょう。
カメレオンワイバーン亜種が私や第三部隊のみんなにヘイトを向けた瞬間にタンクプレイヤーの方々がタゲを取り直してくれるので、私たちとしては非常に戦いやすいです。被弾を気にしなくてすみますからね。
もちろん、魔法攻撃や弓矢による攻撃に当たるなんて真似はしません。射線管理ってやつですね。
しかし、マギアライフルとまではいかないですが、なにかしらの遠距離武装を作ってもらうべきでしょうか。せめて、バルカンくらいはあってもいいような気がしてきました。このイベントが終わったら相談ですね。
順調にHPバーが削れていき、その残りが二本になった時。
咆哮を上げたカメレオンワイバーン亜種が空へと飛び上がりました。しかも、透明化のおまけ付きで。
「ちっ、厄介な!」
『これではどこから攻撃が飛んでくるか分かりませんね……各機、散開しつつカメレオンワイバーン亜種が見えた瞬間に攻撃してください』
『って言っても、俺たちに空に対する攻撃手段なんてないっすよ?』
『なにを言ってるんですか? 空に対する攻撃手段がないなら、私たちが空に行けばいいことです。……カンナヅキさん、頭上へ吹き飛ばす系のアーツをお願いできますか?』
「は、え、そりゃいいけどよ……?」
『では、カメレオンワイバーン亜種が現れる兆候が見えたらお願いしますね』
「おい、もしかしてマジでやる気か? ――ああもう。いいぜ、やってやるよ!」
『ありがとうございます』
『クラリス隊長!?』
私は打ち上げに備えて準備を行います。インベントリへしまったマギアグライダーを取り出し、再び背部パーツに合体させました。
その後マギアサーベル二本を右腕の手首パーツに取り付けます。ミオンさんには内緒で、手首パーツにはENを注ぐことで高速回転させることができるギミックを仕込んでいますからね。試運転では動きましたが……本番でどうなるか、です。
「メイスで吹っ飛ばすってまじかよ」
「そんなことできるのか……?」
「はん、あんなやつらに」
「よしてよ。私たちは彼女たちに助けてもらったのよ?」
「なに言ってんだよ。こいつらに助けてもらわなくてもなんとかなったさ」
「あーもう、まったく……」
私は準備を整えながら、周囲のプレイヤーの視線を感じとります。好意的な視線もあれば、蔑むような視線があるのも分かりました。その視線を気にしないようにしながら各部の調整をします。
……私たちが周りからどういう風に言われてるか、知らないわけではないんですよ。
金魚のフン、ならまだマシな方ですか。成功者に集る寄生虫、なんて呼ばれてたこともありますね。掲示板を見ないミオンさんは知らないことです。そして、これからも知らなくていいことです。これは、私たちの問題ですから。
たしかに、他の人から見たら私たちはそうなのかもしれません。ミオンさんに群がる寄生虫。私自身、あの時に下心がなかったかと言えば嘘になります。今思えば、かなり図々しかったですね。
でもミオンさんは、嫌な顔一つせず……というより、とても嬉しそうな声音で私の相談を聞いてくれました。ああ、この人は本当にロボットが好きなんだなって、そう思ったんです。
……私たちが周りによく思われていなくても、私はあの人の助けになりたい。あの人の元で、楽しく笑っていたい。だから、せめてアレを倒すことで私があの人の助けになるんだって、なれるんだって、証明してみせます!
私が内心で覚悟を決めたその時、動きがありました。
カメレオンワイバーン亜種が姿を現し、その口いっぱいに腐食属性を持つ溶解液や毒液を溜め込んで地上に向けて吐き出しました。落下地点にいるプレイヤーは余裕を持って回避し、飛び散る飛沫にも当たりません。
ここしか、ありませんね。
『カンナヅキさん!』
「ああ、やるぜ! 【ストライクアッパー】!」
カンナヅキさんが巨大メイスを振りかぶり、捻りを加えながらアーツを放ちます。私は軽くスラスターを噴かせて跳び上がり、メイスが振り切られる前に足を着け、振り抜かれた瞬間にメイスを蹴り、空へと飛び上がりました。
『ぐっ……!』
足と本体に少なくないダメージを受け火花を上げますが、これくらいは必要経費ですよ。足りない速度をアーツでぶっ飛ばそうとしているわけですからね。無理を通して道理を蹴っ飛ばす、です!
私はマギアグライダーとスラスターを思いっきり噴かせて、勢いのままカメレオンワイバーン亜種に接近しました。
攻撃を終え、空間に溶けるように消えるカメレオンワイバーン亜種ですが、それでは間に合いませんよ!
私は右手首パーツに取り付けたマギアサーベルを起動させ、手首パーツにENを流し込みます。瞬間、ガチャリという音とともにパーツが伸び、マギアサーベルの刀身の先端を合わせます。バチバチという音を立てながら回り始める手首パーツを構えました。
生み出された光の刃は高速回転し、ドリルのような形状を作り出します。
……さあ、気合いを入れますよ! 全身全霊を賭けて、アレをぶち抜くっ!
打ち上げられた勢いをマギアグライダーとスラスターでブーストし、カメレオンワイバーンの元へたどり着き――
『これが私のっ! マギアァ! ドリルゥ! ブレェェェェェイクゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!』
「グァッ!?!?!?」
――左の翼全てと、左足を消し飛ばしました。
驚愕の声を上げながら地面に落下していくカメレオンワイバーン亜種。地上に落ちた後は周りを取り囲んだプレイヤーたちにフルボッコにされて、その身体を光の粒子へ変えました。
〈レイドボス:ツインウィング・カメレオンワイバーンを討伐しました〉
〈EXアーツ【マギアドリルブレイク】を習得しました〉
〈戦闘の貢献度に応じて報酬をインベントリへ送ります〉
〈戦闘の貢献度一位のクラリスに特別なアイテムを送ります〉
〈擬態双翼竜の逆鱗を入手しました〉
〈北側の防衛に成功しました〉
ボス討伐のログが流れますが、私はあの一撃にENを使いすぎて姿勢制御もままなりません。そのまま背中から落ちていく私は、私を打ち上げてくれたカンナヅキさんに受け止められました。
「っとと……おつかれさん。よくやってくれたよ」
『ありがとう、ごさいます。ちょっと、疲れました……』
「休め休め。北側はこれで終わりだからな」
『そうですか……少し休んだら、西側に行かないとですね』
「西……っと、西側もやべぇことになってるな。人型のボス級NPCか……」
『カノンさん……うっ』
「まだ動くんじゃねぇ。パーツにヒビが入ってんぞ。えっと、回復魔法の類は効かないんだよな」
『はい。HPや耐久値は自動修復で回復できるので大丈夫です』
「足は動くか?」
『なんとか。無茶をしない限りは大丈夫だとは思います』
「俺の方はもう二度とごめんだがな」
『すみません』
「はは、謝ることじゃないさ。しかし、そうだな。北はもう大丈夫だし、俺たちも準備を整えたら西に向かうことにしよう」
『いいんですか? ……ありがとうございます』
「気にすんなって。幸いこっちの消耗はそこまでだからな。あんたがある程度回復したら出発しよう」
『お手数をおかけします……』
自動修復である程度HPと耐久値を回復させた後、私たちは【モフモフ帝国】のみなさんと有志のみなさんと一緒に西の湿地へ向かいました。
カノンさん、私が行くまで無事でいてくださいね……!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回は西の最終決戦です。カノン視点になります。
次次回から主人公の視点に戻ります。
続きもどうぞお楽しみください。




