第二十二話 第一回イベント〜それぞれの戦場 1(カノン視点)〜
今回は西の湿地に降りたカノンの視点になります。
それでは、本作品をお楽しみください。
『ああああああああああああ!?』
『ったく、世話の焼ける隊長だな! とりあえずライフル持って構えといてくれ!』
僕たちはギルド【自由の機翼】のギルドメンバーとして、フリファンの第一回イベント「始まりの街防衛戦」に参加することになった。
ミオンさん……ギルマスが見つけた黄昏の戦乙女という機動戦艦。それの修復作業にかなりの時間を取られて、僕たちがこのイベントに参戦したのはプレイヤー陣営がピンチになってからだった。
現在僕たちは空から目的地へと降下しており、目の前には広大な湿地帯とその湿地帯をものともしないで進む巨大な亀の姿があった。
銃を持ったことで落ち着き、一息ついたところで鑑定をすると、亀の名前はどうやらミリオントータスというらしい。
実際に百万年も生きているわけではないと思うけど、その魔法耐性と防御力の高さは筋金入りだろう。
実際、西の湿地を受け持っていたトップギルドの一つ、【唯我独尊】のメンバーでも亀の歩みを抑えることができないというのだから驚きだ。
僕も掲示板を確認し、目の前の亀に光属性以外の魔法攻撃が効かないこと、防御力が高すぎて物理攻撃が効かないことなどを再確認する。でも、これならマギアライフルの出番かな。
『っしゃあ! お前ら、あの亀野郎に目にものを見せてやれ!』
『銃持つと性格変わるのが難点なんだが……ま、こういう時にはありがたいか。お前ら聞いたな! 目標はあのバカデカい亀だ! ちゃんと狙って撃てよ!』
『狙い撃つ……狙い撃つぜぇ!』
『別に、あれを撃ってしまっても構わんのだろう?』
『『それはやめろ!』』
部隊のみんなは元気があるね。僕も両腕でそれぞれ一丁ずつマギアライフルを構え、ミリオントータスに狙いを定める。ミオンさんに改良してもらったこのマギアライフル・改は、マガジン内の魔力を一度に全て使うことにより一撃の威力を上げることができるんだ。
『しっかり狙えよ……撃てぇーーーっ!』
僕の号令と共に発射されるビームの雨。幾つもの光が上空からミリオントータスを狙い、その全てを着弾させる。
咆哮を上げるミリオントータスの頭上に浮かぶHPバーがごっそりと削れた。全部で五本あるうちの、一本分のバーがその攻撃により削り切られるが、あくまでも今まで攻撃してくれたプレイヤーたちの奮闘あってこそだ。このまま、上から狙えるだけ狙うよ!
『マガジンのリロードタイミングは任せる! 全弾撃ち尽くすつもりで、撃ちまくれ!』
『っしゃーーーーっ!』
『撃て撃てぇーーーーっ!』
『亀がなんぼのもんじゃーーーーい!』
『亀の頭を執拗に狙ってやるわ!』
『その言い方はなんかおかしくないか!? いや狙うんだけどさ!』
ゆっくりと降下しつつ放たれる光の雨。ミリオントータスはその痛みに歩みを止めており、地上のプレイヤーたちが体勢を立て直しているのがよく見えた。もう少し時間を稼げばプレイヤーたちも攻撃に加わってくれるだろう。
『しっかし、マガジンの消費量がちょっとヤバいか……』
『カノン隊長は改良型を使ってるからな。チャージショットはそれなりに消費するってことだろうさ』
『これが一番火力が高いから仕方ないけどな……ま、なくなったらサーベル抜いて突撃するかァ!』
『それは第二部隊の戦い方じゃなくないか!?』
『細けぇことは気にすんな! ほらほら、撃ちまくれよォ!』
『ああもう! 死に戻ったら隊長のせいだからな!』
『僕のせいにしないでくれないかな! やっぱり僕は、マガジン温存で落下の勢いを乗せてサーベルで!』
『ちょっ、隊長! カノン! くっそ、とりあえずカノンをサポートすんぞ!』
マギアグライダーの推進方向を操作し、真下に直進するように変更する。他の機体を置き去りに僕だけが突出してしまう形になるが、亀の攻撃には対空攻撃がないことは掲示板で確認済みだ。このまま頭を、できれば攻撃が通りやすい部位を叩く!
ゴゥ、と噴き上げるスラスター。本来はホバー移動を助ける用途で使われるそれを、僕は降下速度を加速させるために使う。両手にそれぞれマギアサーベルを握り、重心を変えながら降下位置の微調整を行った。
ちゃんと《刀剣》スキルを取得しているので、片手剣扱いのマギアサーベルでもダメージを与えられる。
『そこだァァァァァァァ!』
ミリオントータスに接触する瞬間、刃を出現させたマギアサーベルを突き出し、ミリオントータスの右目を貫く。
ごっそりとHPバーが削れ、痛みで暴れ回るミリオントータス。
マギアサーベルを突き刺した瞬間に衝撃で両腕の耐久値がかなり持っていかれたものの、バーニアを噴射させることでその後の降下の勢いを抑え、なんとか地面に着地することができた。
急いでミリオントータスの近くから離れ、バチバチと火花を上げる両腕でマギアライフルを構える。もちろんリロード済みだ。
『心配させないでくれよ隊長! 心臓に悪いぜ!』
『悪ぃな。ま、上手くいったんだからいいだろうよ』
『結果良ければ全てよし、って言葉はあるけどよぉ……って、腕バチバチ鳴ってるぞ!』
『とりあえず第二部隊全員の降下確認後、あのデカブツを徹底的に叩くぞ。あいつのHPバーはかなり削れてるからな』
『はいはい……』
僕たちが攻撃を始めた時にはまだ五本残っていたHPバーが、今では一本半程度になっている。光属性が弱点でよかったね。
着地に微妙に失敗してパーツが若干破損した者はいるが、動けない者はいない。みんなを見回して、配置につく。
とりあえず亀の攻撃がくるまでは間隔をあけつつ適当に撃っていく感じでいこう。
『各機、攻撃開始!』
僕の指示で放たれたビームがミリオントータスの全身を貫く。光を嫌がって攻撃を避けようとするものの、その巨体のせいで避けることもままならず、着実にそのHPバーを減らしていった。
そこに体勢を立て直したプレイヤーたちが各々の持ち場についていく。タンクは光属性の攻撃をできるものを守るためにミリオントータスの前に立ちはだかり、ミリオントータスに対して攻撃手段のあるプレイヤーはありったけの攻撃をぶつけていった。
「クゥォォォォォォォ!!!」
僕たちの攻撃がミリオントータスのHPバーを削り切ると、ミリオントータスは最後に大地を震わせる咆哮を上げ、その身体を光の粒子に変えていった。
まるで召されたかのように光の粒子が天へと昇っていく。
〈レイドボス:ミリオントータスを討伐しました〉
〈戦闘の貢献度に応じて報酬をインベントリへ送ります〉
〈戦闘の貢献度一位のカノンに特別なアイテムを送ります〉
〈ミリオンシェルを入手しました〉
ミリオントータスを倒したことによるログが流れたことで、僕たちの戦いは終わりを告げた。僕はログを確認すると一度深呼吸をして(中の人的に)、その場に座り込んだ。
休んでいる僕の元へ、マーカスがやって来た。
『隊長……そんなとこに座り込んだら泥がつくぞ』
『後でちゃんと洗うから大丈夫だよ。それより、ちょっと疲れた……』
『俺たちに魔力兵器があるって言っても限度があるからなぁ。それこそ、光属性に耐性があったり、そもそも効かないなんてモンスターが出てきたらどうにもならないぜ?』
『そこは僕も同感だけど、あのミオンさんがそんなこと考えてないとも思えないんだよね』
『あー。まぁ、ギルマスならなんとかしちまいそうな気もするが……』
『とにかく、武装のグレードを上げるにも、パーツを強化するにも、素材が必要だ。このミリオントータスの素材が使えればいいけど』
『だな。っと、そうだ。こっちにはボス級のNPCがいるって話だったが……』
『今のところ、影も形も――』
瞬間、《直感》スキルが発動し、僕のいるこの辺り一帯が危険であることを示す。僕はマーカスに目配せして、ホバー移動ですぐさま危険域を脱する。
直後、先ほどまで僕がいた辺りを極大の火炎が襲う。現在のプレイヤーにこれだけの魔法攻撃ができる人は少ない。そもそも、火属性魔法トップのプレイヤーは東の担当だ。こんなところにいるわけがない。
つまり、これをできるのは――
「ちっ、いい勘してやがるぜ」
頭上から聞こえる男の声。気だるそうに後頭部をかく捻れた角の生えた男は、ゆっくりと地面に降り立った。伸びたHPバーは、三本。
着ている服に違和感はない。少なくとも、始まりの街のNPCが着ていてもなんら不思議じゃないごく普通の服装だ。
しかし現状において、その普通がとてつもなく異常に感じる。あんな魔法攻撃ができる人間が、こんな服を着て、こんなところにいるわけがないからね。
『隊長、あいつは……』
『うん。森でも同じようなのと戦ったからね。そうだと思うよ』
『ボスと連戦ってのは厳しいが……ま、今度はデカブツじゃないだけマシか』
『的が小さい分戦いにくいかもね。とりあえずあいつの存在を【唯我独尊】や他の西担当プレイヤーにも伝えといてほしい』
『今ので相当混乱してるみたいだからな。そっちは俺が行ってくるさ』
『頼んだよマーカス』
『隊長こそ、すぐにやられんでくれよ?』
マーカスと別れ、僕は一人で目の前の……森の時も悪魔みたいな見た目だったし、もう悪魔でいいかな。悪魔と対峙する。右手にマギアライフル、左手には接近されても返せるようにマギアサーベルを持つ。自動修復でもまだ回復しきれてないけど、やるだけやってみるかな。
悪魔は一人で対する僕を見て嘲笑うように鼻で笑った。
「ハッ、俺も舐められたものですね。お前みたいなクズ鉄一人で止められると思ってるんですか?」
『むしろ、止められないとでも?』
「……舐めてやがるな。チッ、クズ鉄風情が亀を倒したくらいで調子に乗りやがって」
悪魔は俺に右手を向けると、人の頭ほどの火球を連続で放ってくる。無詠唱の【ファイアーストーム】か……!
だけど、僕のヴォルカニクは重装甲に加えて魔法耐性の方も強化されている。無詠唱でいくらか威力の下がった【ファイアーストーム】くらい……!
燃え盛る火球が僕の身体を襲い、その全身を炎で染め上げる。衝撃で少しよろけるものの、僕のHPは二割も減っていない。生身ではないため火傷による継続ダメージもなく、減ったHPとパーツの耐久値は徐々に自動修復スキルで回復していく。
……なるべく、腕で受けるのはやめた方がいいね。ボディで受けよう。
「チッ……どうなってやがる。たかがクズ鉄が、俺の魔法を受けきっただと?」
『今のが全力なのか? なら、お返しに見せてやるよ!』
お返しとばかりにマギアライフルのトリガーを引き、やつの左腕に光の一撃をくらわせる。悪魔はその光に反応しきれずにまともにライフルの一撃をくらった。頭上のHPバーの一つが一割ほど削れた。
マギアライフルのダメージ量は固定値で2500。悪魔の弱点属性がなにかは分からないけど、少なくともHPバー一本につき25000以上は確定か。少なくとも森で戦ったやつよりは強そうだね。
最低でも75000のHP……一回目のイベントにしてはかなり強い……と言うより、強すぎる。僕たちが参加したことでイベントの難易度が上がったって言うなら、その分僕たちが頑張らないと、ね!
続けて放った一発はすんでのところで避けられ、ダメージを与えることはできなかった。自身のHPを削った僕のライフルに対して、驚きの表情を浮かべる悪魔。
「な、なんだそいつは……クズ鉄がどうしてそんな強い武器を持ってやがる……!?」
『悪いが、その隙を逃すわけには!』
「ちぃぃぃぃぃっ!」
左手にもマギアライフルを握り、ビームの連撃をくらわせる。悪魔はその威力を身をもって知ったからか、必死に避けようと動く。そこへ視覚外からの光の一撃が悪魔の脇腹を掠めた。
「ぐぁっ」
『隊長! 無事だな!』
『当ったり前だろうが!』
マーカスが部隊のプレイヤーと【唯我独尊】や他のギルドの生き残りのプレイヤーを連れてきてくれた。これで物量で押すことができる!
悪魔を警戒しながら包囲網を整えていると、僕の元に一人のプレイヤーがやって来る。
「貴方が、この魔機人プレイヤーたちのリーダーでしょうか」
『ああ。僕はカノン。ギルド【自由の機翼】でこの第二部隊の隊長を任されてる』
「なるほど、殲滅機姫の……」
やっぱりミオンさんにはとても物騒な二つ名がついているようだ。でも、あながち間違ってもなさそうなところがね……。
「私はナイン。ギルド【唯我独尊】のギルドマスターをしています」
『……え?』
「ふふ。皆さん同じような反応で笑ってしまいますね」
コロコロと猫のように笑う目の前のプレイヤー。いや、ナインさん。
いやだって、【唯我独尊】って言えば実力はピカイチだけど性格に難のあるプレイヤーが集まったギルドで、そのトップはめちゃくちゃにヤバいやつだっていう話だったけど……本当にこの人が?
「ま、その話はおいおい。まずは、あの人型ボスを倒してしまいましょうか」
『そうだな』
僕たちと西担当のプレイヤーたちで悪魔を包囲する。その間、悪魔はどこかに連絡を取っているようだったが、なにか企んでいるのか……?
「クズ鉄に生ゴミどもか。ハッ、この俺がゴミ掃除とはね。だが、そこのデブ鉄は俺を傷つけやがった……許せねぇよなぁ!」
『重装甲なだけで太ってはないけどな!』
「やつの行動を許さないでください! 各員、包囲して攻撃開始!」
『各機、攻撃開始!』
僕たちの砲撃と、ナインたちの魔法攻撃、悪魔の火炎による撃ち合いが始まる。できれば、クラリスたちが来る前には終わらせたいところだけどね!
こうして、僕たちと悪魔の戦いの幕が切って落とされた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回投稿は金曜日になります。
続きもどうぞお楽しみください。




