第二十一話 第一回イベント 2
まだまだイベント編です。
どうぞ、本作品をお楽しみください。
『こうやって上から見てみると、そんなにこの浮遊大陸って大きくないんだね?』
「まあ、そうだろうね。この大きさでも、まだ探索できていない部分もあるだろうし」
〈散華の森・最奥〉から発進した黄昏の戦乙女は、魔力の消費を抑えるためにゆっくりと始まりの街へと向かっていた。ゆっくり、と言っても戦艦での話なので、実際に徒歩で向かうよりは明らかに早いだろう。
『さて、とりあえずカノンとクラリスはブリッジに集合!』
『了解!』『了解です!』
フレンド通信を入れてすぐに二人がブリッジへとやってくる。顔に出なくても分かるよ。二人とも、そわそわしてるもん。
ま、それは私も一緒だけどね!
『とりあえずどの部隊がどこを担当するかなんだけど、西の湿地だと第三部隊の機動力が生かせないので、ホバー移動のできる第二部隊に行ってもらうことになるよ』
『うん。こっちの準備はできてるよ』
『それで、第三部隊は北のカメレオンワイバーンの群れの討伐に向かってほしい。掲示板情報で、今回北に出てきたカメレオンワイバーンは空を飛ばないことが分かったからね』
『……空を飛ばないのに、ワイバーンでいいんでしょうか?』
『ははは……まぁ、かなりの数がいるって話だし、単純に全部が全部飛び上がったら勝手にぶつかって自滅するかもしれないから飛ばないように設定されてるのかも』
『なるほどです』
『恐らく第三部隊の方が先に終わると思うから、終わったら西に向かってほしい。西にはボス級のNPCがいるみたいだからね』
『なるべくクラリスたちが動きやすいように街側に引き寄せたいところだけど……』
「ここで、追加の掲示板情報だよ。どうやらその巨大な亀は一直線に街を目指しているようだ。その場にいるタンクたちでは抑えられず、かなり街に近い距離まで来ているようだね」
『じゃあ僕たちはそこで戦うよ。ボスが出てきても、街の近くならクラリスたちの機動力でなんとかなりそうだ』
『ってことは、東はギルマスが行くんですよね?』
『まあね。うちのリアル兄さんがピンチみたいだから、ちょっくら行って救ってくるよ』
『あ、お兄さんいたんですねー』
なんて会話をしているうちに、黄昏の戦乙女は始まりの街の上空にたどり着いていた。
まずは西に向かい第二部隊から降下、次に北で第三部隊、最後に私たち第一部隊が東に降下だ。
私たちは部隊のプレイヤーを連れて後部ハッチにやってくる。黄昏の戦乙女の向きを変えながら、それぞれの戦場に向けて発進する形だ。
カノンは、ハッチから見えた光景に後退った。
『うっ、ここから飛び降りるのか……』
『なにビビってんだよ、隊長! そら、行くぞ!』
『待ってマーカスさんまだ心の準備がぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!』
マギアグライダーを装備した第二部隊が西の湿地に向けて降下する。ここからでも分かるくらいには西の亀は巨大で、あんなものが街にやって来たらひとたまりもない。是非カノンたちには頑張ってもらいたいね。
第二部隊の降下を確認後、北に向かい第三部隊の降下が始まる。
『さ、みんな行きますよ! 楽しい楽しいスカイダイビングです!』
『行きましょうクラリス隊長!』
『俺たちゃもう我慢できねぇよ!』
『おっけーです! 第三部隊、出撃します!』
『『『ヒャッハァァァァァァァァっ!』』』
だいぶ……と言うよりかなり心配になるテンションで出撃していくクラリスたち。まぁ、分かるよ。いつもアニメで見たり、漫画で読んだり、ラノベで読んだり……そんな光景が目の前に広がってたら、自分たちが体験したら、そりゃテンションも上がるよね。
ちなみに、黄昏の戦乙女を直してくれた整備班のプレイヤーのみなさんもテンションが天元突破していた。もはやこの艦に興奮していないプレイヤーなんて一人もいない。
私の後ろに並ぶ第一部隊のプレイヤーのみんなも、どこか期待にそわそわしている感じがする。かく言う私もそろそろ興奮を抑え切れそうにない。
ブリッジクルーを急かして、黄昏の戦乙女を東の草原へと進めてもらう。
『さぁみんな! この空が! この大地が! 私たちの戦場だよ!』
『うおおお、燃えてきたァ!』
『まさかこんなこと、自分の身で体験できるなんて……』
『ガハハ、ドラゴンがなんぼのもんじゃーい!』
『あ、ここで悪い情報だ。東のドラゴンはその場のプレイヤーがなんとか倒したものの、その後に出てきた四体のドラゴンと人型のNPCのせいで彼らは瓦解寸前だ。このままだと、足止めされていない三体のドラゴンが街を襲うことになる』
ヴィーンからの情報が入る。一体を足止めしてるのって……間違いなく兄さんだよね。
確か、イベント中のデスペナルティは、現在ステータスの二割減少。そして始まりの街の門の前に復活……だったっけ。
でもここで兄さんたちが死に戻ったら、ステータスの減少のせいで私たちが降りても止められない可能性がある。
なら、なるべく死に戻る前に助けるしかない!
私は拳を握り、みんなを振り返る。
『時間の猶予はないよ! 私たちは東の草原にいるプレイヤーを救い、ドラゴンたちを排除する! あわよくばボス級の人型NPCも倒す! 第一部隊、出撃!』
『『『『『『了解!!!!!!!!』』』』』』
私は床を思い切り蹴飛ばし、ハッチから外へと飛び出す。飛び出した瞬間に身体を包む浮遊感。空から地上へと落ちているという恐怖を興奮で塗りつぶして、マギアグライダーを起動させた。
『っ、すごい!』
マギアグライダーを起動する前と後では、身体に感じる負担が桁違いだ。それも、滑空とはいえ空を飛んでいる。空を飛ぶのって、こんなに気持ちいいんだね!
振り返れば、第一部隊のみんなも同じ気持ちのようで表情は分からないものの、楽しそうな雰囲気は伝わってきた。
ある程度地上に近付いた辺りで、マギアライフルを構える。遠距離狙撃のために《遠視》スキルを取得し、スキル上げを行っていたためかなりの距離を見通すことができるようになった。
スキルで地上を確認すると、今まさにドラゴンの一体がプレイヤーを押し潰そうとしているところだった。私は急降下をかけながら、マギアライフルでそのドラゴンの腕を狙う。
ちなみに今私が装備しているマギアライフルは改良型で、マガジンの魔力を大幅に消費することで一撃の威力を上げられるようになっている。両手で構えてしっかりと狙い、トリガーを引く。
ゴゥ、と撃ち出された光の一撃が空気を切り裂き、ドラゴンの身体に命中する。腕を狙って僅かに着弾点がズレたものの、ドラゴンは痛みで腕を一度引いた。だが、再び倒れているプレイヤーに向けてその腕を振り下ろす。
みんなもライフルを撃ってくれているようで、他のドラゴンにもビームが突き刺さっている。
私は素早くマガジンをリロードすると、マギアライフルをしまいジョイントから切り離したマギアソードを構えた。
その人は、やらせ、ないっ!
『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』
マギアグライダーの残りの全ての魔力を使い急加速し、ドラゴンに肉薄。そのまま《魔力収束》で出力を上げたマギアソードを振り抜き、ドラゴンの腕を両断する。
その後地面にぶつかる前に全身のバーニアで制動をかけ、なんとか勢いを殺すことに成功した。ふぅ、危なかったね……。
「……紫音ちゃん、か?」
驚きのあまり本名で呼んでくる兄さんに呆れつつ、親指を立てて肯定した。
私は地面に着地し、マギアソードをドラゴンに向けて宣言する。
『ギルド【自由の機翼】、遅ればせながら、参戦します!』
光の雨に貫かれるドラゴンたち。次々に降りてくるのは白と灰のカラーリングの第一部隊のプレイヤー。
今この時より、私たちの戦いが始まった。
[所持スキル]
《魔機人》Lv.59(4up↑)《武装》Lv.53(6up↑)《パーツクリエイト》Lv.--《自動修復》Lv22《自動供給》Lv.42(3up↑)《片手剣》Lv.27(8up↑)《鑑定》Lv.-- 《感知》Lv.25《直感》Lv.31《遠視》Lv.26(New)《敏捷強化》Lv.41(4up↑)《採掘》Lv.21《鍛冶》Lv.51《裁縫》Lv.25
残りSP102
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回はカノン視点でのお話になります。
続きもどうぞお楽しみください。




