第二十話 第一回イベント 1
今回から主人公の視点に戻ります。
それでは、本作品をお楽しみください。
私たちが機動戦艦、黄昏の戦乙女を発見してから、現実時間で四日。
イベント当日になっても尚、黄昏の戦乙女の修理は終わっていなかった。
ちなみに、修理は主に整備班プレイヤーに任せている。親方って呼ばれてるプレイヤーを筆頭に個性の高い面々がその力を振るっており、残りの魔機人プレイヤーたちはイベントに向けて各々の装備を整えていた。
私は修理の進捗状況を確認しながら、ギルドメンバーから寄せられた報告を聞いている。
『第二部隊、各員準備完了しました!』
『第三部隊も準備完了です!』
カノンとクラリスが慣れない敬礼をしながら報告する。カノンにいたっては装甲が厚すぎるためにまともな敬礼になっていなかった。
『ふふ、ありがとう。でも敬礼なんてしなくていいのに……』
『いやぁ、なんかやりたくなるんだよね』
『こう、気持ちがビシッと入ります!』
『そ、そう……?』
第二部隊はカノンを隊長とした砲兵部隊。マギアライフルを主軸に戦う遠距離戦を得意とする部隊だ。
カイルやヤマトたち量産機部隊の中で、希望する役割によって部隊を分けている。カノンの部隊は、遠距離戦をしたい! という人たちで構成されているわけだ。
逆に第三部隊はクラリスを隊長とした白兵部隊。マギアサーベルやダガーを主軸に戦う近距離戦を得意とする部隊だ。
そこに所属するプレイヤーはクラリスのように可動式ローラーを装備していて、敵の攻撃は全て回避する! というちょっと変態的な人たちで構成されている。
残りの第一部隊は私を隊長とした部隊。得意距離はなく、オールラウンダーに戦う部隊だ。私のブラッドラインのように近距離武装と遠距離武装をバランスよく使う魔機人プレイヤーによって構成されている。
各部隊の調整が終わり、準備が完了した報告を受けた私たちの前にぽん、とスーツを着てデフォルメされた男の子が現れた。
時間的に見て、イベント関係の演出かな?
『どうもー。GMの日下部でーす。僕は、イベントに途中参加する人たちのもとに現れてまーす』
『あ、どうもー。ミオンですー』
『存じておりますよー。イベントの途中参加を希望した貴方たちは、イベントが終了するまでに防衛戦に参加していただければ大丈夫ですー』
『あ、わざわざありがとうございますー』
『んー、この喋り方疲れますねー。まぁいいかー。イベント待機中でもイベントモンスターが襲いに来ることがあるので、その場合はぜひ倒しちゃってくださいー』
『了解ですー』
『それではー』
現れた時と同じようにぽん、と音が鳴るとGMの日下部さんはその場から綺麗さっぱりいなくなっていた。
やがて視界の端でイベント開始のカウントダウンが始まる。
私はそれを後目にみんなに向き直った。
『GMの人が言ってたと思うけど、もしかしたらイベントのモンスターがこっちを襲ってくるかもしれないから、その時は容赦なくヤッテヨシ!』
「ミオン、ここでじっとしているのも暇だろうし、第二部隊と第三部隊から数名を森のモンスターの排除に向かわせてもいいんじゃないか?」
『あー。それもそうだね。街の四方からモンスターが襲って来るって言うなら、森のイベントモンスターを少しでも間引いて置けば南側の人が楽になるね』
「そういうこと。私は整備班の様子を見てくるよ。また親方がハッスルして変なことになってないといいけどね」
『あはは……』
親方は生産スキルの高さとセンスの良さ、生産までの速さはいいんだけど……周りの人たちと一緒によく分からない物を作っている時がある。
今ヴィーンの背中に下げられている弓なんかも親方作成の品だ。私の作った魔力兵器を見てインスピレーションが湧いたらしい。
自身のMPを使って無属性の矢を生成でき、さらには通常の矢も射出可能だと自慢げに言っていたのを覚えている。
その他にも、魔機人用に作ったものをなんとかしてその他の種族でも使えるようにできないかと試行錯誤しているようだ。私としては、うちのギルドの戦力が上がるので大歓迎だよ。
ちなみに、【自由の機翼】に入った後に抜けたプレイヤーはまだいない。みんな楽しそうに日々生産活動や狩りに出ている。私としては、半分くらいは抜けるんじゃないかと思ってたんだけどね。
ヴィーンと別れた私は、第二部隊と第三部隊が待機しているところへ足を運ぶ。そこでは各自が自分のパーツのメンテナンスをしていたり、決闘機能を使ってPvPを行っていたりする。
『あれ、ギルマスじゃない』
『どうしたの?』
『ちょっと第二と第三の有志に手伝ってもらいたいことがあってね』
『おけおけ。とりあえず話聞くよー』
PvPをしていたりメンテナンス等をしていないだべってるプレイヤーに声をかけた。集まってくれたのは、両部隊合わせて二十人程度だ。
『そろそろイベントが始まるんだけど、南の森にもイベントのモンスターが出てくると思うから、なるべく間引いてほしくて』
『あー。まぁ、作業してる中に襲ってきても困るし?』
『準備運動くらいにはなるかな』
『よぉーし、やったるかい!』
『準備ができた人から、そうね……五人ずつのPTを四つ作って、森の中を巡回してほしいかな』
『あいあーい』
『んじゃ、準備できたPTから行くかー』
どうやらみんな乗り気らしく、数分も経たない内に全員が森の中へと入っていく。これで南側の防衛が少しでも楽になってくれるといいんだけどね。
カウントダウンが進み、イベントが始まった後は、魔機人用の新規拡張パーツのマギアグライダーの最終的なバランス調整などを行った。
機動戦艦から飛び降りて備え付けのバーニア等で制動をかけて地面に着地すると、とんでもない量のENを食うことが分かったので、その対策だ。
バランスを取りながらゆっくりと下降することができ、前に進むだけなら空を飛ぶこともできる(もちろん少しずつ高度は落ちていく)ので、滑空機の名前をつけた。
マギアグライダー自体には魔導石は使っておらず、事前にENをチャージする形で運用することになる。毎回毎回魔導石を使ってたら量が足りないからね……カットできるところはカットしていきたい。
このマギアグライダーは基本的な加工は整備班の非魔機人プレイヤーに任せ、組み合わせなどの仕上げを整備班志望の魔機人プレイヤーが行っている。もちろん私は自分の分は自分で作りましたとも。
これを現在戦闘に参加できる全員に配備し、いつでも空からの降下ができるようになっている。
マギアグライダーを元に、飛行用のパーツを作れるといいね。やっぱり空中戦ってのもしてみたいし!
と、いろいろな作業をしていると、第二部隊の副隊長を務めてるマーカスに声をかけられた。どうも、良くないことが起こったようだ。
『ギルマス。森に出てたやつらから連絡だ。なんか妙に強いキメラみたいなモンスターが現れ始めたらしい。それ自体はなんとか倒したそうなんだが、ボス級のやつがいるとかで支援要請が来てる』
『キメラ? うーん、ちょっと待ってね』
私はマーカスに断りを入れて、フレンド通信でカノンとクラリスに連絡を取る。
二人に事情を説明して、それぞれの部隊を率いてそのボスの討伐に向かってもらった。少なくとも、これでボスを取り逃がす……なんてことはないだろう。
実際、そんなに時間も経たずに二人はみんなを連れて帰ってきた。
所々装甲が歪んでいたり、人によってはパーツが千切れたりしていて、それほどの相手だったのかとすこし心配になる。
『おかえり。二人とも、大丈夫?』
『ただいま。いやほんと、こんな序盤に出るボスじゃないですってあれ……』
『少なくとも、僕たちは魔力兵器がなければ負けてたかもしれない』
なんと。魔力兵器は正直に言ってぶっ壊れ武器だ。それがないと負けてたかもしれない相手って……。
そこで私は、あ、と思い至る。
『そう言えば今回のイベントの難易度って、参加表明したプレイヤーの強さを見て決める……とか言ってなかったっけ』
『……あ、もしかして?』
『あー。そうなる?』
『やっぱり……そうだよね?』
私とクラリス、カノンは分かったようにうんうん頷く。そうだよ、私たちもイベントに参加してるってことは、私たちの強さがこのイベントの難易度を上げているのかもしれない。
そこで、黄昏の戦乙女を見ていたヴィーンが話しかけてくる。
「ミオン、悪いことが起こったよ」
『どうしたの?』
「掲示板を見ていたんだが……どうやら、各方面でボスの大量発生だ。それに、人型のNPCの目撃もある」
『人型のNPCは、多分ボスです。角が生えてて、悪魔みたいな感じでしたね。私たちが戦って、なんとか倒せました』
「ふむ。ちなみに西の湿地に光属性以外の魔法が効かない物理防御の高い巨大亀。北の山にはみんなも知ってるカメレオンワイバーンが群れで現れている。最も大変なのは東だね。灰色のドラゴンが現れたそうだ。ちなみに人型のNPCは西と東で確認されている」
『あー。確かに、やばいね……』
『幸い、南側のボスと取り巻きは僕たちがほとんど間引いたので、南側の門が落ちることはないかと』
『ヴィーン、黄昏の戦乙女は?』
「もう少しだね。今は整備班と我々以外はガレージを畳んで中に入っているよ」
『なら、私たちも向かおう。早速、マギアグライダーの出番がやってきたね』
『僕、高いところ苦手なんだけどな……』
『気持ちいいですよ、空。整備班の仕事が終わったらすぐ動けるように私たちも準備を進めちゃいましょう!』
『それもそうだね……』
高いところが苦手なカノンを引きずるようにして、クラリスが上機嫌で黄昏の戦乙女に向かう。第二、第三部隊のプレイヤーも各々の荷物をインベントリにまとめて戦艦の中へ入っていった。パーツの修復が間に合わないプレイヤーには艦でお留守番をしてもらうつもりだ。
「さ、私たちも行こうじゃないか」
『そうだね!』
私たち全員が中へと入り、事前に割り振った人員でブリッジに向かう。ヴィーンたち非魔機人のプレイヤーや、艦を動かしたいという魔機人プレイヤーたちがこの艦の基本人員となる。私たち部隊は、基本的に出撃メンバーだね。
艦長席に座るヴィーンに、インベントリからある物を渡す。
「これは……帽子?」
『艦長ならそれがあった方が盛り上がるでしょ?』
「ふふ、それもそうだね」
ヴィーンは深く帽子を被り、周りのプレイヤーに確認を行う。各部のチェックが終了し、動力炉となる巨大な魔力結晶炉から魔力を艦の推進部に流していく。
幸いなことに、この艦の魔力結晶炉は壊れておらず、単なる魔力切れという事だったので、人員を交代しつつ、魔力を流し込み続けた。そのため、現在でも何人かのプレイヤーがEN、またはMP切れを起こしている。
それだけ、この艦を飛ばす魔力の量は半端ないという訳だ。一応、EN、MP切れを起こしてるのは整備班のプレイヤーなので部隊のプレイヤーが戦えないとなることはないと思う。
一応、航行用の魔力のストック自体は作ってあり、魔導石をふんだんに使用した魔力結晶コンデンサに溜め込んである。艦の魔力が一気になくなった場合でも、どこかに不時着できるくらいには溜め込んであるよ。
この艦を飛ばすためなら、魔導石の消費は仕方ないよね!
「推進機関に異常なし。魔力結晶炉の稼働状況、正常値です」
『整備班、及び第一から第三部隊までの全ギルドメンバー収容を確認』
「黄昏の戦乙女の各機関、正常に稼動。システムオールグリーン!」
『艦長、ギルマス。行けますぜ』
ノリノリで各部の確認を終えたブリッジクルー。ここまでノリノリだと、私も嬉しくなっちゃうね。
『じゃ、艦長。行こっか』
「ああ。……【自由の機翼】旗艦、黄昏の戦乙女。始まりの街の防衛のため、発進する! 上昇後、前進微速!」
『了解! 全乗組員は、発進時の衝撃に備えてください。黄昏の戦乙女、発進します!』
ゴゴゴ、と大きな音を立てて浮かび上がる戦艦。
――さぁ、遅ればせながら、防衛戦に参加しに行こうか!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




