第十八話 第一回イベント(ユージン視点)2
今回も主人公の兄、ユージン視点でのお話になります。
引き続き本作品をお楽しみください。
「はぁぁぁぁぁっ!」
俺はそれぞれの手に持った両手剣を振り回し、街に近付くモンスターを片っ端から倒していた。首を、腕を、足を斬られた動物型モンスターが断末魔の叫びを上げ、血飛沫のエフェクトを弾けさせながら光の粒子となる。もしこのゲームが魔物の死体が残るゲームだったとしたら、今頃この辺りには血の臭いが充満し、死体の山が築かれていたことだろう。
「ユージン、飛ばしすぎんじゃねぇぞ!」
ウルフの噛みつきを華麗に避け、急所を片手剣で一突きしながらヒビキが言う。その隙に背後から襲いかかったラビットはヒビキの盾に阻まれ、その首と胴体がおさらばする。
「この程度のモンスター、いくら来ても問題にはならない!」
まずは序盤戦。東の草原に出てくる低レベルモンスターが群れを成してやってくる。俺たちはPTメンバーやギルドメンバー、臨時で参加している他のギルドのメンバーと協力しつつ戦線を上げていた。
さすがにこのレベルのモンスターに苦戦しているプレイヤーはおらず、どんどんと先に進んでいく。戦っている間に後ろへすり抜けるモンスターも無くはないのだが、その尽くは後衛の魔法攻撃の餌食になっている。
「んー、小物ばかりで撃ち足りないわぁ」
「アイリーンさんはすぐ大技を使ってしまう癖を治した方がいいかと……」
「あら、生意気な口はこれかしらー?」
「ひょっほはひひーんはん! ははひほふひへはほははいへふははひ!(ちょっとアイリーンさん! 私の口で遊ばないでください!)」
「おほほ。ごめんなさいね。ハルの顔、弄りがいがあるから……」
「どういうことですか!?」
「君がそういう反応をするからアイリーンも面白がって君を弄るんだよ。アイリーンも、抜けてきたモンスターを倒すのに集中するんだ」
「もう。アルこそちゃんとやってよ」
「僕はあくまでもサポート役だからね。僕が出るのは、君たちがピンチになってからさ」
「いや、アルゲンビストさんもどうせなら手伝ってくださいよ……」
まぁ、ちゃんと仕事をしているならいいだろう。俺はヒビキと苦笑いをしながら、進軍してくるモンスター共を狩っていく。このレベル帯だと、経験値すら貰えないからな。さっさと次のWAVEに進んでほしいものだ。
と、思っていたら第二WAVE。東の草原の中部辺りのモンスターが混ざり始めた。と言っても、東の草原の奥地にある守護者の領域で戦っている俺たちからしたらまだまだ楽勝な相手だ。他愛ない話をしながらでも戦える。
そして何事もなく第三WAVE。ここからは、東の草原の東側に出てくるモンスターは一切出なくなり、中部と奥地に生息するモンスターが混ざり始める。
とは言うもののそこまで苦戦することも無く、このWAVEも乗り切った。
他の三方向の状況も同じくらいらしい。しかし、南側の敵が他の三方向より少ないと言う情報が気がかりだ。なにか、南側の森で起こっているのだろうか?
まぁ、守るのが楽なことに越したことはない。俺の気のせいだろう。
俺は顎を伝う汗を拭って呟く。
「しかし、さすがに休み無しで戦い続けるのは疲れるな」
「俺は充分休ませてもらったし、ギルマスも少し休んだらどうだ?」
「そうさせてもらうか……」
と、後衛のいる位置まで戻ろうとしたその時。
《危機感知》スキルが警鐘を鳴らす。
俺はすぐさまアーツ【瞬時換装】で両手剣二つを大盾二つに変え、振り向きざまにアーツ【大金剛】を発動する。
【大金剛】は《大盾》スキルで覚えるアーツで、その場から動けなくなり著しく視力が落ちる代わりに、自身の防御力と各種耐性を五倍にしてくれるという強力なアーツだ。対人戦では使えないものの、対モンスター戦において、それも、ボスモンスター戦に於いてはしばらく戦線を支えられるスキルとして有名だ。
その瞬間、感じる衝撃。チリチリと燃える感触がするので、恐らく火炎系の攻撃だろう。それを俺はひたすらに受け止める。
防御力を五倍にしてもなお、少しずつ減り続けるHPバー。つまり、それほどに強力な攻撃だということだ。
「ギルマス! 回復します!」
ハルから回復の光が飛んでくる。それにより減り続けたHPが全回復した。
それと同時に感じていた熱が収まる。どうやら、敵の攻撃も収まったようだ。
【大金剛】を解除し、辺りを見回すとそこには灰しか無かった。
草原とは名ばかりの、灰の積もる土地だ。大方、今の火炎で全て燃え尽きてしまったのだろうが。
「状況報告!」
「はっ、【極天】各PTに損害無し! 他ギルドのメンバーにも今の炎で脱落したものはいないとのことです!」
「了解した。さて、さっきの炎はどいつの仕業だ?」
俺はメニューを操作して大盾から長槍に持ち替え、それをそれぞれ片手で持つ。
視線を火炎が吹き出した方向へ向けると、そこには見たことの無いモンスターがいた。
いや、見覚えはある。だが、それがこのフリファン内にいるという情報はなかった。恐らく、この先の浮遊大陸で出るのだろうモンスターが、そこにいた。
「マジかよ……」
「それはぁちょっとぉ……予想外ねぇ」
「あれ、ドラゴン……ですよね?」
「まぁ……あれで翼竜でした、なんて言われたらこの運営を殴る自信があるよ、僕は」
大地を踏みしめる、強靭な爪を持つ足。その一振りで人間なんて吹き飛ばしてしまうような極太の腕。
ゆらり、ゆらりと揺れる尻尾は、静かに獲物を見定めているように思える。
その翼はかなり小さく、その翼で飛べるとは到底思えない。その時点で、翼竜ではないのは確かだ。
なによりも、遠くにいるはずなのに見上げるほどの巨体。いくらなんでも、いきなり難易度上がりすぎだろ……!
燃えるような赤い瞳は俺たち全員を見ていて、その双眸を、まるで嘲笑うかのように歪めた。
なんだ、こんなものか。目の前のドラゴンに、そう、言われた気がした。
ギュイーン、とHPバーが伸びていく。俺たちの視界内に、五本のHPバーがセットされる。
「灰色の皮膚……グレイドラゴンと言ったところか」
「鑑定でもそうなってるな。ってかカズマはなにやってるんだ?」
ヒビキがそう言った瞬間、カズマからPTチャットが入る。
「どうしたカズマ」
『少しまずいことになった。ドラゴンだ。ドラゴンが現れやがった!』
「それはこちらでも確認している。今、目の前にいるぞ」
『なんだって!? ってことはこのドラゴン、ここにいるやつだけじゃねぇのか!』
「どういうことよカズマ!? ドラゴンがまだいるって言うの!?」
『……アイリーンか。ああいるぜ。それも、複数だ!』
「……具体的な数は?」
『ギルマスたちの前に一匹いるって言うなら、東側は全部で五匹。それに、そのドラゴンを操ってるテイマーがいやがる』
「プレイヤー……ではないよな」
『ああ。マーカーはNPC……現地人だ。ただ、人間じゃあなさそうだがな。とりあえず、このままここにいるのはヤバそうだからギルマスたちの方へ戻るぜ』
「ああ。気をつけてくれ」
カズマとのチャットを終え、軽く息を吐く。
「総員に通達だ。俺たちのやることは変わらない。灰色のドラゴン如き、俺たちの手で倒すぞ! アイリーンを筆頭に魔法攻撃役は威力重視の魔法を使え。ハルたち回復役は前衛のHPを見ながら予測で回復魔法を撃て。アルゲンビストたちサポート役は、それぞれの足りない部分を補ってくれ」
「「「「了解!!!!!」」」」
「他ギルドメンバーにも伝えてくれ。我、ドラゴンに挑む。総員、戦闘開始!」
「「「「「オォーーーーーーーーっ!!!!!!」」」」」
こうして始まりの街防衛戦、第四WAVEの火蓋が切られた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きは明日投稿予定となっております。
それでは、続きをお楽しみください。




