第十六話 自由の機翼と黄昏の戦乙女 2
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
この話が終わって、掲示板回を挟んでからイベントが始まる予定です。
それでは、本作品をお楽しみください。
「確かにこれは、船と呼ぶには機械的過ぎるね……まさに、艦、だ」
あれから数分後。機動戦艦黄昏の戦乙女の前で待っていた私の元へPTメンバーが集まった。
その姿を見たカノンとクラリスは興奮し、ヴィーンはほう、とじっくり黄昏の戦乙女を観察している。
『そうだ、ミオン。これに鑑定は使ってないのか?』
『……あっ』
そう言えば忘れてた。私としたことがなんといううっかりを……。
ごほん、と咳払いのフリをし、目の前の艦体に鑑定を使う。もしなんらかのアイテムであるなら反応があるはずだ。
[武装・ホーム]黄昏の戦乙女 レア度:U
かつてこの空を支配していた機動戦艦。魔機人の開発者である稀代の天才発明家、マギアーノ・クライスドーラ博士が提唱した「魔機人を効率よく戦場で運用する方法」に則り製造されたもの。
大昔に大戦で使用され、この浮遊大陸の大地に沈んだ。
再び、空を飛ぶ日は来るのだろうか。
インベントリ不可。譲渡不可。移動不可。
ビンゴ。やっぱりと言っていいのか、このマギアーノっていう博士がこの黄昏の戦乙女を造ったんだ。
持ち運びができず、受け渡しができない。でも、アイテム扱い。
つまりこれって、直せるってことじゃないのかな?
フレーバーテキストにも、空を飛ぶ日が〜ってあるし、やってみる価値はあるのかもしれない。
『どう?』
『ビンゴだね。みんなも鑑定してみて』
「ふむ」『了解』『分かりました!』
それぞれの返事。しばらくして鑑定の内容を見終わったのか、視線をこちらへ戻す。
『と、言うわけで……私たち、ギルド【自由の機翼】の初の大仕事だよ!』
『まぁ、そうなるよね』
『ですね』
「君ならそう言うと思っていたよ」
私の宣言に苦笑いを浮かべる三人。だってさ、機動戦艦だよ、機動戦艦!
種類もホームになってるし、つまりコレってギルドホームになるってことだよね!
完全に修理することができれば、空飛ぶギルドホームが手に入るかもしれない。
このフリファンの世界にはいくつもの浮遊大陸が存在し、私たちプレイヤーはその浮遊大陸を冒険する。
その世界をみんなで……【自由の機翼】のみんなで旅ができたら、とっても楽しいよね!
そうと決まれば即断即決。私はサブマスのヴィーンに、今どれくらいのプレイヤーがうちのギルドにいるのかの確認を取る。
『ヴィーン、今うちのギルドのプレイヤーの内訳ってどうなってる?』
「ん、そうだね。……魔機人プレイヤーが八十名ほど、彼らを共に助けたい、または整備班志望の生産職プレイヤーが三十名ほど、かな」
『全員ログインしてる?』
「さすがに全員は……今、最後の一人がログインしてみんなログインしているよ」
『よし! 早速みんなをここに連れてくるよ!』
『魔力兵器の配備状況は半分ほどだけど……あの威力なら大丈夫そうだ』
「魔力兵器配備済みの魔機人で一人、ないしは二人を護衛しながらこの場所に来るように指示出しをお願いするよ」
『わざわざギルドチャットを使うのは、まだ慣れてない人もいそうだからやめておきたいですね。カイルとヤマトに私から連絡を入れておきます!』
「ふふ、なんだか文化祭の準備段階の興奮を思い出させるね」
『文化祭か……懐かしいな』
『あれ? カノンって学生じゃなかったんだ』
『学生だけど、大が付くよ』
『なるほど』
私たちは笑い合いながらも準備を進めていく。とりあえず私とカノン、クラリスのガレージを展開。生産設備の準備をしつつ、クラリスにはヴィーンと一緒に〈散華の森・中層〉の奥地へと向かってもらった。いくら地図にマッピングされてるとは言え、道案内がなくて迷ったなんてことになるのはアレだからね。
準備を進めていると、クラリスからPTチャットが入る。
『すみません! 持ってきた素材が足りなくなった場合、街まで買いに行くのはとてもダルいということで、事前に買い集めておきたいとのことですが』
たしかにそうだね。みんなには機動戦艦を直してもらわないといけないし、それに並行して魔力兵器の作成も続けてもらいたい。
素材をわざわざ街に買いに行くのは時間のロスになっちゃうか。
でも、今のギルド資金にあんまり余裕はないし……。
『なら、街に行くついでに私たちのギルドハウスを売ってきてはどうかな? どうせ今でも使っていないし、これから使う予定も無さそうだ』
『それもそうだね。うん。じゃあ希望者とその護衛は街で素材を買う前にギルドハウスを売却してきてほしい。そのお金で必要な素材を買ってきて、って伝えてほしい!』
『了解!』
PTチャットが切れる。私はガレージから外に出て、カノンと合流した。
『とりあえず、みんなが来るまでにこの黄昏の戦乙女をよく見ておきたいんだけど……』
『ま、ここにはなぜかモンスターがやってこないし、直そうにもどうやって直せばいいのか分からないし……探検ってのは、いいね』
私たちは頷きあい、黄昏の戦乙女へと向かっていく。入口らしき装甲板は既に外れかかっており、少し持ち上げるだけで簡単に外すことができた。
そのまま艦内を覗くとかなり薄暗く、電源は生きていないように思える。この場合の電源は、電気じゃなくて魔力なわけだけど。
そのまま私たちは艦内を進む。意外と中は綺麗なのか、汚れがあまり目立たない。
内装はシンプルで、余計なものは一切置いていないようだ。途中にある部屋を一つ一つ見ていくが、この艦の居住区画らしく、中には硬そうな金属製のベッドしか無かった。おそらくここら辺は大昔の魔機人が寝ていた場所なのだろう。人間じゃこの硬いベッドで寝ることはできないし、生活感もない。
様々な部屋を見ていく中、オートマッピングされる地図を見ながら歩いていた私は、あることに気がついた。
『カノン、この艦、見た目よりもかなり大きい気がする』
『なんだって……確かに、外から見た時よりも明らかに長く歩いている』
『内部が拡張されてるってことは、ホームとしての機能は生きてるのかな?』
『メタ的に言えばそうだろうね。そう言えば、外装は確かにボロボロだけど、穴が空いていたり、区画が潰れていたり……中が見えるような破損はしていないように思えるね』
『うーん……こうも広いと、どこを直していいか分からないね……』
『そろそろ戻ろうか。時間的に、もうすぐみんなも集まる頃合だ』
『そうだね』
私たちはそこで探索を切り上げ、黄昏の戦乙女の外へと向かう。外に出た私たちを待っていたのは、ワイワイガヤガヤといった人々の話す声だ。
「お、大将が戻ってきたぜ」
『ギルドマスター!』
『おかえりなさい!』
「よくもこんなバカでかいもの見つけたなぁ! 直し甲斐があるってもんだぜ!」
そこにいたのは、ギルド【自由の機翼】のメンバー、およそ一一〇人ほど。みんながこっちに手を振ったり、声をかけてくれたりする。
それだけのことが、とても嬉しい。
『ギルドメンバーのみんな、集まってくれてありがとう! 早速で悪いけど、みんながここに集められた理由は聞いてるよね!』
私が聞くと、周りからは「分かってるぜ! 大将!」『やってやりましょう!』『私たちの手で!』などの言葉が聞こえてくる。
みんなの熱量に負けないように、私も声を張り上げて続けた。
『よし! じゃあみんな! イベント開始までにこいつを仕上げるよ!』
「イベント開始までにだとぉ!?」
『そりゃないぜギルマス! リアルであと四日しかないじゃんか!』
『さすがに無理ですよ!』
『おやぁ? ここに集った皆さんにはその自信はないって言うんですかぁ?』
私がみんなを煽ると、面白いくらいに食いついてくれる。
「はーあ? やってやろうじゃねぇか大将!」
『ここまで言われちゃしょうがない! 全力出してやってやるかぁ!』
『やってやろうじゃん!』
『って、それ俺が言いたかったんですけど!?』
その様子に、また笑う。みんな、私に付いて来てくれるんだ。
隣のカノンが苦笑いするのを後目に、私はみんなに指示を出していく。
『とりあえず生産職班……ええい、整備班は護衛の魔機人とともにマップにある生産素材が取れる場所に向かってひたすら素材を集めて! 生産スキル持ちの魔機人は魔力兵器の作成! 整備班はヴィーンの、魔機人はカノンの指示に従って動いてね! クラリスは私と一緒に黄昏の戦乙女の探索よ!』
「「『『『了解!!!!!!』』』」」
『じゃあみんな動いてね! イベントまで時間はそうないよ!』
みんなはそれぞれの持ち場に着くと、テキパキと指示通りに進めていく。私はカノンをみんなの元に送り出し、クラリスを呼ぶ。
『中は安全だとは思うけど、警戒だけは怠らないようにね。はい、これマッピングデータ』
『ありがとうございます! では、行きましょう!』
『そうだね。頑張ろう!』
私はクラリスと一緒に黄昏の戦乙女の中へと入っていく。周囲の喧騒は、未だ聞こえ続けていた。ヴィーンの言った通り、文化祭前の賑わいによく似ている。みんなが楽しそうに、笑顔で自分のやることをやっている。
『……ふふっ』
この艦がまた大空を飛ぶ様を、その中で私たちみんなが笑顔で包まれている様を夢見て、私はそっと笑った。
[所持スキル]
《魔機人》Lv.55(8up↑)《武装》Lv.47(6up↑)《パーツクリエイト》Lv.--《自動修復》Lv22《自動供給》Lv.39(5up↑)《片手剣》Lv.19(9up↑)《鑑定》Lv.-- 《感知》Lv.25(6up↑)《直感》Lv.31(4up↑)《敏捷強化》Lv.41(4up↑)《採掘》Lv.21《鍛冶》Lv.51《裁縫》Lv.25
残りSP89
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