第十五話 自由の機翼と黄昏の戦乙女 1
今回から新章です。
そろそろイベントも始まりますね。
いつも最後に主人公のスキルを乗っけていますが、上下構成のためスキルが載っかるのは下が終わってからになります。
それでは、本作品をお楽しみください。
魔機人のためのギルドを作るために始まりの街にやってきた私たちは、無事にギルドクエストをクリアしギルド【自由の機翼】を作った。
ガレージで作業しているカイルやヤマトたちにもギルドに入ってもらい、人数は小規模というには多く、中規模というには少ないくらいのギルドになった。もちろん、まだまだギルドメンバーは募集中だ。
ちなみにギルド設立時に貰える小さいギルドハウスだけど、生産設備もなにも整ってないので放置している。ギルドメンバーは全員〈散華の森・上層〉で複数のガレージを設置し、そこを拠点としていた。
現在は私、カノン、ヴィーン、クラリスの四人でPTを組んで〈散華の森・中層〉の奥地にいた。
ギルド設立時に手持ちのお金をほとんど使い切ってしまったので、今日は中層でスキル上げ兼狩りの予定だ。
しかし、中層のモンスターでは私たちの相手にならず、素材は貰えるもののスキル上げとしてはあまり宜しくない。
私は軽く伸びをして話を始める。
『んー、中層の奥地までは楽に来れたね』
「やはり君たちのその武器はとんでもないね」
『魔力兵器……これでも最低限の性能なんだよね?』
『素材の品質が低いから、ダメージも低いって言いますけど……』
「完成品を見るのが怖くなってしまうね」
『ははは。ま、一回その話は置いておこう。で、私はこのまま下層に行ってもいいと思うんだけど、どうかな?』
『下層ですか……』
『中層でも、僕やクラリスは少し適正レベル外かなって思ってたんだけど……』
『その分武器が強いから行けるって!』
「一度行ってみて、いけそうなら行く、でいいんじゃないかな? 引く判断はそれからでも遅くないさ」
『うーん、そうしようか』
『じゃ、〈散華の森・下層〉にしゅっぱーつ!』
前衛を私とクラリス、後衛をヴィーンとカノンに任せて私たちは下層へと足を踏み入れた。
中層までは陽の光が差し込んでいて視界に困ることは無かったが、下層からは陽の光も届きにくく、視界はとても暗い。
私たち魔機人は暗闇の中でもある程度の視界を確保することができるけど、エルフであるヴィーンにとっては辛いはずだ。
『ヴィーン、大丈夫?』
「問題ないさ。これでも、《暗視》スキル持ちだからね」
『なら大丈夫そうだね。先に進もう。モンスターが出たらとりあえず私とクラリスで対処。二人は周囲警戒をお願い』
「分かったよ」『了解!』『分かりました!』
三者三様の返事が返ってくる。ふふ、頼もしい限りだね。
私たちは周囲を警戒しつつ、木々の生い茂る暗い森の中を進んでいく。すると、突如木の影が膨れ上がり真っ黒な狼が現れた。
『黒い狼型モンスター!』
「ふむ。影から出てきたところを見ると、《影魔法》スキル持ちかな。さすが下層、厄介だね」
名前を鑑定すると、シャドウウルフと出る。名前のまんまだけど、ヴィーンの言う通り《影魔法》を使うウルフなのだろう。
シャドウウルフはぐるる、と鳴くと一瞬の後にその姿がかき消える。
『シャドウダイブだ! 周囲の影から不意打ちをしてくるよ!』
『厄介だね!』
『なら、私が動き回って注意を引きます!』
クラリスは脚部のローラーを回転させ、ギュゥン、という音と共に森を駆け出す。クラリスは私たちの周囲を回り、シャドウウルフの意識を自身に向かわせる。
私たちはその間に装備を取り出し、いつでも使える状態にした。
瞬間、《感知》スキルに反応がある。クラリスの背後の影だ。
『クラリス! 横に!』
『了解です!』
バッ、とクラリスが右に飛び退く。私とカノン、ヴィーンはタイミングを合わせ、クラリスを喰らうために全身を出したシャドウウルフに攻撃する。
シャドウウルフは三丁のマギアライフルと矢の一撃をその身に受け、断末魔の叫びを上げることなく光の粒子へと変わっていった。
下層での初戦闘を終え、ふぅ、と息を吐く。
『いきなり魔法持ちかぁ』
『見たところ敏捷もかなり高そうだ』
「クラリスのローラーがなければ被弾していたね」
『やっぱ速く動けるのはいいですね。私、KMF好きなので』
『最低野郎は?』
『むせますね』
ロボトークをしつつ、私たちは下層を進む。出てくるモンスターは先程のシャドウウルフに、シャドウトレント、ダークヴァイパー、ブラックゴブリンなと闇や影属性のモンスターが多いようだ。つまり、何が言いたいかと言うと……。
『いやー、魔力兵器無双ですね』
『魔力兵器は光属性の攻撃だから、光弱点のここのモンスター相手にぶっ刺さるんですよねー』
『僕たちとしては楽ができるからいいけど……』
「ま、素直に喜ぼうじゃないか。闇属性や影属性の素材を使えばまだ別の武装も作れるかもしれないじゃないか。作れなくても、出回ってない属性付きの素材だ。お金にはなるよ」
『それもそうだね』
闇や影って聞くと、マントかな?
うーん、ボロボロの装備とマントを作ってリペアごっこしたいね。後で考えとこうかな。
それはともかくとして。私たちは下層のモンスターをサーチアンドデストロイして、スキルのレベルも順調に上がっていた。
そして、散華の森の下層、その奥地と思われる場所にたどり着いた。
「ふむ。街があるのは北のみで、残りの三方向はより難易度の高いフィールドになっているという話だったか」
『東の平原、西の湿地、南の森、ですね』
「そして、私たちは今、その南の森の最南端の辺りにいるわけだね」
『でも、何かおかしくない?』
『おかしい?』
『うん。私たちはここに来るまで結構戦ってたと思うんだけど、ここに来てから全くモンスターを見てないんだよ』
「ここに……最南端に、何かあると?」
『分からない。でも、探す価値はあるんじゃないか?』
『まぁ、フリファンの運営なら何かあっても不思議じゃないよね』
『ですね』
それに、さっきから《感知》スキルが……いや、これは《直感》スキル? なにかが反応している。
ともかく、私のスキルがこの先を示している気がするのは間違いない。この先に、何かあるの?
『とりあえず手分けして探してみよう。もしモンスターが出てきたらPTチャットで連絡。何か見つけてもチャットで連絡して』
「とりあえずの合流地点はここでいいかな。マップに記しておくよ」
『なんか、こういうのってワクワクしますね』
『未知の森を仲間と探検……うん、いいね』
『じゃ、みんな気をつけて!』
私たちは四手に分かれて〈散華の森・最下層〉を探索する。私は何らかのスキルが反応している最奥を目指して歩く。
……やっぱりモンスターがいないのが気になる。それに、中層には徘徊ボスがいたのに、下層にはいなかったのも気になるところね。なにか理由があるのか……あるいは、この先で待っているのか。
万が一を考えてマギアサーベルを右手に持ち、先へ進む。周囲を警戒しながら進んでいたので時間はかかったものの、私は無事に本当の最深部にたどり着いた。
『……嘘、でしょ?』
そこにあったのは、残骸。いや、見た目はボロボロに見えるがよく見ると表面の塗装がはげ落ちているだけでそれそのものは残っているため、残骸と呼ぶにはあまりにも大きい。
艦首だけで三階建て一軒家ほどの大きさ。そこから伸びる艦体はさらに巨大で、蔦や木の根などが絡みつき、苔むした外装がこの艦が長い時をここで過ごしたことを教えてくれている。
私はみんなにチャットを送ることを忘れ、恐る恐るそれに近づく。入口だったのであろう長方形の装甲板にはなにか文字のようなものが書かれており、泥のような、汚れのようなものを拭うとそこにはこう書かれていた。
『機動戦艦、黄昏の戦乙女……?』
しばらく艦体を眺めていた私はハッ、と我に返り、PTチャットを送った。
『みんな、地図で言うところのこの地点に来て欲しいんだけど……』
『どうしたんだい? 声が震えているようだけど』
『もしかして、ボスモンスターか?』
『えっ! それなら急いで向かわないと!』
『ち、違うの! モンスターじゃないの……』
『なら、なにがあったと言うんだい?』
ヴィーンの問いに一つ深呼吸をして答える。
『……艦が、あったの』
『船? こんな森の中に?』
『昔はこの浮遊大陸も海にあったということでしょうか?』
『ふむ? そんな設定があるのかな?』
『その船じゃなくて! ああもう! あったのは戦艦! それも、機動戦艦なの!』
『……』
『……』
『……』
場を包む沈黙。その沈黙を破ったのはカノンだった。
『えっと、本当に、戦艦なのか?』
『うん。私の見間違いでなければ、ね』
『まぁ……見間違いってことは無いだろうね。戦艦なんてバカでかいものを見間違える方がおかしい』
『とりあえず、向かってみますか?』
『そうだね、そうしよう』
そこでPTチャットが切れる。私は大きく息を吐いて(中の人的に)近くの岩に腰をかけた。
みんなが来るまでの間、私は黄昏の戦乙女という名前の付いた廃戦艦を見つめる。
魔機人のスタート地点である散華の森……その森にある魔機人専用ダンジョンに、魔機人の製作者と思われる者の研究所。そして、その森の一番奥にあった機動戦艦。
これは……偶然じゃ、ないの?
フリファンにメインとなるストーリーはない。これは、ベータテスターである兄さんが言っていたことだ。種族ごとのストーリーがあるようだが、開放条件が分からないとボヤいていたのを覚えている。
これが、そうなのだろうか。
目の前にある、この朽ちてなおその存在感を誇る、この艦が。
私たち魔機人のストーリーに関わってくるのだろうか。
私はみんながここに集まるまで、そんなようなことを思っていた。
ここまで読んでくださりありがとうございます、
続きもお楽しみください。




