第十三話 ギルドクエスト
集いし仲間編の本編はこの次で終わりになる予定です。
それでは、本作品をお楽しみください。
『ここが始まりの街か!』
FreedomFantasiaOnlineがサービスを開始して現実時間で約三週間。私は初めて始まりの街へやってきた。
街の外観はよくライトノベルなんかにあるような中世ヨーロッパ風の街並みで、所々に魔導具と呼ばれる魔力を消費して使用することのできる道具が設置されている。代表的なのは魔導街灯かな。もちろんこれらは全て住民NPCのために用意されたフレーバーであり、ゲームの攻略自体には関係ないらしい。
今更(三週間も森にひきこもってたのに)始まりの街を見て回るのもあれなので、付いてきてもらったヴィーンとカノンに主要な施設を聞きながら目的地へと歩いている。
私たちの目的地はギルドクエストが受けられるという始まりの街の酒場。私はもちろん〈ブラッドライン〉装備で、カノンは〈ヴォルカニク〉装備だ。ヴィーンだけは装備が変わっている様子はない。細かくアップデートはしているよ、とは本人の談。
ジロジロとプレイヤーたちから見られている気がするけど、錆び朽ちていない魔機人が珍しいからだろう。
「おい、見ろよあれ」
「黒に紅……例のやつか」
「あれが殲滅機姫なのか?」
「ああ。あの背中の棒がとんでもない武器らしいぜ」
「魔機人の成功者か……」
……ブラッドラインに変わって強化されている聴覚デバイスにコソコソ話の内容が入ってくるが、私は気にしない。
っていうか誰が殲滅機姫なんて言い出したんだろうか。カノンはあれ以来掲示板には書き込んでないって言ってるけどね。これで私も有名プレイヤーの仲間入りかな?
目的地である始まりの街の酒場は、昼は普通の飲食店として、夜は荒くれ者や仕事終わりの男連中が集まる酒場として営業しているみたいだ。ギルドクエストを受けられるNPCはこの酒場を経営しているマスターなので、昼に行っても夜に行っても変わらない。
ギルド設立のために必要なギルド証が手に入るのが、このマスターから受けられるギルドクエストというわけだ。
ちなみに、クラリスとカイル、ヤマトはお留守番だ。さらに仲間に加わった魔機人プレイヤーと整備班プレイをしたい生産職プレイヤーを彼らに預けて、必要な知識を教えている。
カイルとヤマトはパーツ作成ができる程度には成長しており、彼らが装備しているパーツは彼らのお手製だ。そんな彼らに教わりつつ、魔機人プレイヤーたちは自身のパーツを作るために生産スキルのレベリングをしているらしい。
どうやらあの二人は量産機が好きらしく、私たちのギルドで量産機部隊を作るんだと意気込んでいた。新しくやってきたプレイヤーの中にも同志がおり、そのプレイヤーたちと相談して量産機パーツの規格を決めたそうだ。量産機を希望する者はその規格に沿ってパーツを作るという。
デザインを見せてもらったけど、量産機らしさと魔機人らしさが両立していて、いいデザインだと思ったよ。クラリスのために作ったローラーパーツと、これから作る予定のウイングパーツを装備できるようにしてあるらしい。拡張性の高さも量産機にとっては必要だと熱弁してたね。むしろ拡張性の高さと、コストの安さこそ量産機の魅力だと語っていた。私はワンオフも量産機もどっちも好きだから彼らの気持ちは分かるよ。
彼らは量産機にかける情熱は誰にも負けないと燃え上がっていた。私としても部隊の完成が楽しみなので頑張ってほしいところだ。
そんなことを思い出しつつ、私たちは件の酒場にたどり着く。
西部劇に出てくるようなウェスタン風ではなく、ごく普通の飲食店という見た目で、看板には分かりやすくジョッキに入ったビールのイラストに酒場とだけ書いてあった。
店の前で止まっているのもあれなので、早速店の中に入ることにする。木製のドアを開けた私たちを待っていたのは、ガヤガヤとした人々の声と、注文を取ったり料理を運んだりする店員の忙しそうな様子だった。
内装はいたってシンプルで、突き当たりにバーカウンターがある以外は普通のレストランのように見える。
『なんか、酒場って感じがしないね』
「お昼時だからかレストランの面が強いようだね。夜には酒場らしさも出てくるさ」
『それで、マスターはどこにいるんだろうか』
「あれじゃないかな。ほら、バーカウンターにいる」
ヴィーンに言われて見てみると、お店の一番奥にあるバーカウンターで一人の男性がコップを拭いていた。
頭髪を完全に剃り上げたスキンヘッドの大男で、サングラスを掛けているためより威圧感がすごい。着ている服もピチピチで、今にも弾け飛びそうだ。
思わず『海坊主?』と言ってしまった私を許してほしい。目の前にいるマスターには髭なんかは生えていなかったしロケランなんてこの世界にはないけどね。
……魔機人用ならあるかもしれないけど。
『すみません、ここでギルド証を発行していると聞いてきたのですが』
前に出たカノンが筋骨隆々のマスターに向かって話しかける。どうやらギルドクエストを受けるためには一定の条件があるらしく、話しかける内容次第で変わってくるのだという。そういった面倒くさいクエストや取得に特別な方法が必要なスキルなどの情報を調べ、集め、取り扱っている情報屋ロールをしているギルドがあるらしく、プレイヤーからはシンプルに〈情報屋〉と呼ばれているようだ。
彼らが無償で提供している情報の中にこのギルドクエストの情報もあった。
一パーティー以内の人数でマスターに話しかけ、尚且つその内容がギルドに関することならばフラグが立ち、クエストを受けられるようになるという。
どうやらこのマスターがギルド管理協会の会長で、彼が認めた者にのみギルド証を発行するのだという。これも、情報屋が調べたフレーバーの設定だ。
フリファンにはこういった隠しクエストなどが多く存在し、レベル上げをして最前線で攻略だけしているプレイヤーでは見つけられないようなクエストがいくつも見つかっているという。
寄り道も立派な攻略ってところかな。先に進むことだけがゲームじゃないって感じがするね。
目の前のマスターがその見た目にピッタリの低音ボイスで返答した。
「ああ。なんだ、お前さんらギルドを設立したいのか?」
『はい。ギルド管理協会の会長である貴方に言えばギルド証発行してもらえると』
「そうだな。普段なら二つ返事でギルド証を渡したいところなんだが……」
拭きかけのコップをカウンターに置くと禿頭の後頭部をぺちりと叩き、弱りきった表情を浮かべるマスター。
『何かあったんですか?』
「いやな、ギルド証を作るためには特別な紙が必要でな……お前さんら、見たところ冒険者のようだが、この街が四つのフィールドに囲まれてるのは知ってるよな?」
この始まりの街の東西南北には、それぞれモンスターが出現するフィールドが存在している。北の山、東の草原、南の森、西の湿地の四つだ。南の森の正式名称は〈散華の森〉。私たちのホームグラウンドでもある。
どうやらギルド証に使う特別な紙というのは別の浮遊大陸から仕入れているものらしく、北の山を越えた先の港町から運ばれてくるらしい。
しかし、その北の山にあるモンスターが住み着いてしまい、物の行き来ができなくなってしまったそうだ。
このままでは物流に影響が出てしまうどころか、港町が食料不足で大変なことになってしまうというので、そのモンスターを討伐してくれる者を探しているという。
倒しても倒しても定期的に住み着いてしまうらしく、どちらの街でも頭を抱えているという。
ちなみに、マスターの言っている冒険者とはプレイヤーのことを指し、NPCでモンスター等を狩る人たちはハンターと呼ばれている。
『分かりました。僕たちが、そのモンスターを討伐してきます』
「おお、受けてくれるか。助かるよ」
その外見に似合わない朗らかな笑みを浮かべるマスター。見た目が怖いだけで性格はいい人なんだろう。
「そのモンスターなんだが、普段は表には出てこないんだ。隊商……荷馬車なんかが通る時だけ姿を現しやがる。そこで、あんたらにはこっちから向こうの港町に物を運ぶ荷馬車の護衛をお願いしたいんだ」
『護衛ですか』
「ああ。護衛をして、そのモンスターが出たら確実に息の根を止めてほしい。その分報酬も弾む。よろしく頼むよ」
『分かりました』
がっちりと握手をするマスターとカノン。
早速行動開始だ、と私たちは護衛する荷馬車のところまでやってくる。準備は既にできていたようで、あとは護衛待ちだったという。
馬車は全部で十台で、八台が野菜や肉などの食料で二台が鉱石や布などの生産素材らしい。
三人じゃ十台も守れないよ、と思っていたのだが、そのモンスターを倒すための護衛が私たちで、荷馬車自体を守る護衛は他にいるという。もちろん、NPCのハンターたちだ。
人数も揃ったので、港町へ向けて出発する。この時間からだと夕方くらいには港町へとたどり着けるらしい。
私は歩きながらヴィーンとカノンにモンスターについて聞いていた。
『私、目的のモンスターについてなにも知らないんだけど……』
「ミオンはあまり外の情報を入れたりはしないタイプだからね。カノン、説明してくれるかい?」
『いいよ。僕らが倒すべきモンスターはカメレオンワイバーン、別名擬態翼竜っていうモンスターで、その名の通り身体を透明にすることができるモンスターなんだ』
うわ、聞いただけで面倒くさそうなモンスターだな。
『ギルドを設立するためのクエストモンスターだから討伐数も多くて、もちろん戦い方も確立されている。透明にすることができるとは言ったけど、実際に透明化するのは最大HPが四分の一にまで削れた時なんだ』
「本来であれば苦戦するモンスターなんだろうが……まあ、私たちには魔力兵器があるからね」
そう言ってヴィーンは私のマギアサーベルとソード、ライフルを見る。
魔力兵器とはヴィーンが付けた名前で、いちいち武器ごとにマギアうんたらと言うのがめんどくさいってことで彼女はそう呼ぶようになった。私たちもちょうどいいので、普段はまとめて魔力兵器と呼んでいる。
『まぁ、ダメージ量が半端じゃないからね……』
「透明化してもそこにいることには変わりないから、ライフルの連射でカタがつきそうだね」
『まだ作りたいものがあるから、早めに終わらせたいところだよ』
「こうして、我がギルドは手がつけられなくなっていくわけだね」
『あはは……』
ヴィーンはやれやれと肩を竦め、カノンは苦笑いを浮かべている。むむむ、理想のロボットに近づくためにはまだまだ作るものが沢山あるのになぁ。その過程で魔機人が強くなっていくのはいいことだと思うけどね。
露骨に強すぎてナーフ(※運営による弱体化、または下方修正のこと)されるのも嫌なんだけど。魔機人関係のは恐らく、というより十中八九開発の悪ふざけだと思っている。私からしたら開発グッショブ! って感じだけどね。
山道を歩き続けて数時間。そろそろ港町との中間地点だと言われた場所に着いた時、それは起こった。
――GYAOOOOOOOOOO!!!!!!
腹の底に響くような魔物の咆哮。ビリビリと空気が震える感覚。
私たちは荷馬車を巻き込まないように離れ、それぞれの得物を抜く。私は刀身を出す前のマギアサーベルを。ヴィーンは矢筒に手を伸ばし、カノンはマギアライフルを構える。
そして、それは現れた。
毒々しい派手な色をした翼。翼竜と言うにはあまりにも気持ち悪い頭部。ギョロりとした目が私たちを見下ろす。不細工な口からは長い舌を伸ばし、そこから滴り落ちる唾液は地面を溶かす。
しかして、ゆっくりと翼を羽ばたかせて空から降りてくるその姿は、まさに翼竜。
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」
地に降り立つカメレオンワイバーンが、大地を震わす咆哮を上げる。途端にカメレオンワイバーンの頭上に浮かぶ四本のHPバー。
その目は確実に、荷馬車の前に立つ私たちを敵と認識していた。
ここに、擬態翼竜カメレオンワイバーンとの戦いが始まる。
『んじゃまぁ、モンスター討伐と行きましょう!』
[所持スキル]
《魔機人》Lv.43《武装》Lv.38《パーツクリエイト》Lv.--《自動修復》Lv22《自動供給》Lv.32《片手剣》Lv.6《鑑定》Lv.-- 《感知》Lv.16《直感》Lv.25《敏捷強化》Lv.31《採掘》Lv.21《鍛冶》Lv.51《裁縫》Lv.25
残りSP73
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回、久々のボス戦になります。
続きもお楽しみください。




