第百二十話 予選バトルロイヤル、開始!③
バトルロイヤル続きです。
引き続き本作品をよろしくお願いいたします。
投稿が不定期になりかけてるのは、リアルが忙しいからです……すみません……。
それは戦闘ではなく、まさに蹂躙と呼ぶべきものだった。
もしも今、目の前で起こっていることが現実なら、きっとそこには屍山血河が築かれていたことだろう。
ユージン兄さんが大鎌を振るう度に、相対したプレイヤーの首が飛んでいく。文字通り、飛んでいくのだ。
両手にそれぞれ大鎌を持ち、向かってくるプレイヤーの首を刈り取っていくその様を表すなら、無慈悲な死神か戦神か。
踏み込み、大鎌を振るう。それだけで、プレイヤーのHPが吹き飛んでいくのだ。
稀に二度三度と打ち合えるプレイヤーもいたが、本来であれば両手でしか扱えない武器である大鎌の、ありえない連撃を受けて沈んでいく。
集まったプレイヤーたちも必死で、みんな覚悟を持ってユージン兄さんに向かっていった。
『やはり、多人数戦闘だと大鎌が便利だな。うん、白虎に作ってもらったかいがあるというものだ』
……なんか、ユージン兄さんがとんでもないことを呟いた気がする。え? あの大鎌って白虎が作ったの?
確か白虎って、ユージン兄さんたちのギルド【極天】が解放したんだっけ。白虎はメイドさんって聞いてたんだけど……《鍛冶》スキルでも持ってたのかな。
『これは強い! 強すぎるぅ〜〜〜っ! ミオンの時も圧倒的だと思ったが、こちらも圧倒的ぃ! まるで周りのプレイヤーが相手になっていないっ!』
『あの大鎌はギルド【極天】が獲得した白虎によって作られたものみたいですね。しかし、現時点で白虎が武器を作るほどに好感度を上げているとは……さすがはトッププレイヤーの一人、と言うべきでしょうか』
『ミオンとはまた違った意味でバケモンだなあいつは。ま、だからと言って負けてやる気はねぇけどな』
『なんかその言い方だと、私が化け物って言われてる気がするんですけど……』
『『『まぁ、事実だろう(でしょう)(だな)』』』
『ひどいっ!』
いやまぁ、最初の出番だからってちょっとはっちゃけたところはあるんだけど……うーん、でもいちいちプレイヤーを探して戦うのも面倒だったしなぁ。
うん。化け物扱いは甘んじて受けよう。別に、私だけが化け物扱いってわけじゃないし。
と、そんな話をしている間にもユージン兄さんは次々にプレイヤーたちを屠っていく。
『くっそ、止まんねぇぇぇぇっ!?』
『レイドボス以上に強いんじゃねぇかあいつ!』
『あながち否定もできねぇ……』
『魔法支援どうなってんだ!?』
『撃っても撃っても当たらねぇよ! なんなんだあいつは! 360度見渡せるセンサーでも持ってやがるってのか!?』
『喋ってる暇があるなら詠唱する! 私たち魔法使いにできることなんてこれしかないんだから!』
『わかってるけどよ……!』
ユージン兄さんに向かっていくプレイヤーたちは、悲壮な表情を浮かべながも退くことはない。退く意味がないからだ。
前に進むしかない。たとえ、進んだ先にあるのが死神の審判だったとしても。その死神から、死の宣告を受けることが分かっていても。
『ふむ、少し鬱陶しいな』
そう言うと、ユージン兄さんは大鎌の一つを巨大な金属のブーメランに換装した。ググッ、とそれを力を込めるようにブーメランを構え、それを魔法を撃っていた後衛に向けて投擲する。
ブォン! と風切り音を立てて突き進むブーメランを見て、魔法使いプレイヤーたちが涙目になりながらも、ブーメランを撃墜するために詠唱を始める。
『あいつと戦わなきゃいけないなんて不幸だぁぁぁぁっ!』
『どこぞのつんつん頭みたいなこと言ってんじゃないの! とにかくあれを撃ち落とさないと、私たちがやばい!』
『分かってますよ……ったく!』
『命中と威力を重視して……!』
『今よ! 合わせて!』
『『『『【フレイム・ボール】!!!』』』』
魔法使いプレイヤーたちが合わせて発動したのは、《火魔法》スキルの上位派生スキルである《火炎魔法》スキルの魔法だ。
《火魔法》スキルの【ファイアー・ボール】とは違い、威力が高く命中率もいい魔法だ。
《火炎魔法》スキルの中では最も使い勝手がよく、使い手の多い魔法と言える。
まぁ、《火炎魔法》の他のスキルは、基本的に範囲魔法だからね……個人相手に使うなら、《フレイム・ボール》しか選択肢がない。
まぁそれだけ人気で使うプレイヤーが多い魔法ってことは、その属性に対しての対策があるわけで……。
『なっ、あのブーメラン、《フレイム・ボール》が効いてないのか!?』
『全く速度が落ちねぇ……!』
『《火耐性》……いや、《火炎耐性》付きのブーメランかっ!』
『でも、耐性なら少しはダメージが入っても……!』
『悪いがそれには、《火炎無効》スキルが付与されている。だから、《火炎魔法》では撃ち落とせんぞ』
『『『『そんなのありかよぉっ!!!!』』』』
いやほんと、その通りだよ。《火炎無効》ってことは、《火魔法》と《火炎魔法》の二つのスキルの魔法が効かないってことだ。まぁ、《火炎魔法》のさらに上位の派生スキルを持ってれば話は別だけど……火炎の上が見つかったって話は聞かないなぁ。仮に見つかっても、秘匿されてる可能性は高いけどね。
ともかく、【フレイム・ボール】の中を真っ直ぐ突っ切ったブーメランは、後衛の魔法使いを上下に両断しながら進んでいく。
杖などで防御が間に合った者も、その杖が折られた上に大ダメージを負っていった。一体どうしたらブーメランであれだけの火力を出せるのか、不思議だ。
ちなみにユージン兄さんがブーメランを投げたあと、すぐさま大鎌を取り出して近寄るプレイヤーを両断していた。本来であれば隙になるはずの行動も、兄さんにとってはあまり隙にはならないようだ。
前衛プレイヤーが攻めあぐねているうちに、後衛プレイヤーをブーメランが蹂躙していく。こうなると、ユージン兄さんのスキル欄がとても気になってくるね。
様々な武器を使ってるってことは、ちゃんとその武器のスキルも取っているわけで……最早歩く武器庫みたいな感じになってないかな、兄さんは。
『ふっ……!』
後衛プレイヤーを蹂躙し終えたブーメランがユージン兄さんの元に戻ってくる。兄さんは大鎌を地面に突き刺し、片手でそのブーメランをキャッチすると、再び後衛に向けてそのブーメランを解き放つ。
恐るべきは、ユージン兄さんは未だにアーツや魔法を使っていないというところだろう。あれだけの武器スキルを持っているなら、魔法スキルを取ってることはないか……うーん、もしかしたら魔法スキルに【無詠唱】があるのと同じように、アーツにも【無詠唱】に近いなにかがあるのだろうか?
もしそういったものがあるなら、あの威力にも納得なんだけど……あれが素の火力だったら、その火力はまさに化け物レベルだろう。
私の装備も大概だと思ってたけど、あの戦いぶりを見ちゃうとね……なんなら、私の光属性武装は対策されてそうだ。少なくとも、《光無効》スキルを付与した武器なり盾なりを持ってても不思議じゃない。
さて。もし決勝トーナメントで当たることがあったら、どうやって戦おうか……レジーナ・ストラで戦うのは、なんだか悪手な気がする。
こう、フ〇ーダムがミー〇ィアを装備してプロヴィ〇ンスと戦った時みたいになる気がするんだよね。つまりは、レジーナ・ストラをぶっ壊される可能性が高いってことなんだけど。
ま、なるようにしかならないか。決勝トーナメントのことはその時になってから考えよう。もしかしたら、ユージン兄さんが途中でも負けるかもしれないしね。
……まぁ、あんまり負けるところは想像できないんだけど。
『ここで制限時間だぁぁぁぁぁぁっ! だがしかしっ、もうなにも言わなくても分かることでしょう! このCブロックの覇者が誰なのくぁっ! 山の頂きにたった一人で立つこの男ぉっ! 最強! 無敵! 無慈悲! 決勝トーナメント進出は、極みの天辺に立つこの男、ユージンだぁぁぁぁぁぁっ!』
『『『『『うぉぉぉぉおおおお!!!!!』』』』』
そう、兄さんは向かってきた500人ものプレイヤーの命を、一人残さず刈り切ったのだ。
もちろん同じブロックにそれ以上のプレイヤーを倒したプレイヤーがいるはずもなく。
そのまま兄さんが決勝トーナメントに進出する形となった。
コロシアムの歓声が聞こえているのか、兄さんは大鎌を持つ片手を天に翳す。俺こそが頂点だと、言わんばかりに。
割れんばかりの歓声がコロシアム中に響き渡る。思った以上に兄さんの人気は高いようだ。
その数秒後、私たちのいる決勝進出者席……つまりカンナヅキさんの隣にユージン兄さんが現れた。
先ほどまで持っていた大鎌は既にしまっているようで、その両手にはなにも持っていなかった。
『おめでとう、ユージン兄さん。凄かったよ』
「そ、そうか? ミオンちゃんにそう言ってもらえるのなら、頑張ったかいがあったよ」
「毎度のことながら、ミオンの前だとキャラが変わるんだよなぁ」
「仕方ないだろう。ミオンちゃんは我が愛しの妹なんだから」
「はいはい」
呆れたように肩を竦めるカンナヅキさん。うん、まぁ、その気持ちはよく分かるよ。
恥ずかしいというかなんというか……なんとも言えない気持ちになるんだよね。
その、愛されてるってのは分かるんだけど……限度がね?
『麗しの兄妹愛だ! このまま微笑ましく見ていたい気もするが、今日中に進行できるところまでいってしまおう! お次はDブロックだぁっ!』
『Dブロックにも、注目のプレイヤーが何人かいますね。まずは、ギルド【極天】の頼れるサブマスター、ヒビキさんに、不思議系魔機人少女、アイさん――』
才羽さんが、注目プレイヤーを紹介していく。
Dブロックも、Cブロックに負けず劣らずの戦いが見られそうだ。
まぁ、兄さんほど圧勝……とはいかなそうだけどね。
私個人としては、やっぱりアイちゃん応援かな。
ヒビキさんは強敵だけど、絶対に倒せないってほど実力差も開いてない気がする。
ま、どんな戦いになるか、ここから見守るとしますかね。
『頑張って、アイちゃん』
私の応援の声が届いたのか分からないけど、モニターに映ったアイちゃんは、ふっと微笑んでいた気がした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




