第百十九話 予選バトルロイヤル、開始!②
投稿が遅れてすみません。なるべく投稿曜日に合わせられるように頑張ります……!
引き続き本作品をよろしくお願いします。
『さぁさぁ予選を続けていくぜ! お次はCブロックだ! 魔機人と熊獣人に続くのは一体どいつだ!?』
『Cブロックには私が個人的に注目しているプレイヤーが何人かいますね。ミオンさんやカンナヅキさんはどうですか?』
今私がいるのは、予選ブロックを勝ち抜いたトーナメント出場者が座る特別席。私の隣には実況用のものと思われるマイクを差し出してくるGMの一人、才羽さんがいた。
その隣の少し暑苦しい実況をしているのはGMの来瀬さんだ。
『そうですね……』
話を振られた私は、改めて個人戦予選バトルロイヤルの会場であるフィールドを見渡す。
私自身がフィールドにいた時はなんとも思わなかったんだけど、こうして上から見ていると驚くことがあった。
予選参加プレイヤーはコロシアム中央のフィールドに集められ、全員が集まった段階で特別なフィールドに転移することになる。私の場合は、《草原》フィールドに飛ばされて、カウントダウンがゼロになるまでその場に待機って感じだ。
で、誰もいなくなったコロシアムの中央にいくつもの場面を映したモニターが展開される。観客席に座るプレイヤーは、そのモニターの映像を見ることになるわけだ。
そして、実況席にいるGMの人と、予選突破プレイヤーは小さなウィンドゥで好きなプレイヤーの行動を見ることができるようになっている。一ブロック1000人近くだから、名前一覧から知ってる名前をピックアップして見ていくわけだ。
Bブロックには知り合い以上のプレイヤーがカンナヅキさんしかいなかったため、ずっとカンナヅキさんの様子を見ていた。
そして、そのBブロックを勝ち抜いたカンナヅキさんは、顎を擦りながら口を開く。
『そうだなぁ。やっぱ一番はユージンじゃねぇかな? あいつの持ってるEXスキルは反則に近い。最近はさらに、腕を磨いてるって話だ。Cブロックの他の連中にどうにかできるとは思えねぇ』
『ですね。身内贔屓って言うにはユージン兄さんは強いです。ただ、今回のフィールドは《山》……非常に高低差のあるフィールドですから、他プレイヤーのスキルや装備によってはどう転ぶか分からない部分もあります』
見晴らしのよかった《草原》フィールドとは打って変わって、《山》フィールドはその名の通りいくつかの山を中心としたフィールドになっている。
各山はそれぞれ高低差があり、中央に在る山が一番標高の高い山となっているようだ。
またそれらの山を繋ぐある程度の視界を確保できる山道と、その周囲にある木々が生い茂った視界の悪い森。
山に至っては、斜面と呼ぶには急すぎる岩壁がいくつも顔を見せている。これらの地形をどう活かすかが、Cブロック勝利への鍵となるだろう。
特にCブロックには、【自由の機翼】のメンバーが多い。全員が全員空を飛べるわけじゃないけど、それでもそれぞれが最高峰の魔機人プレイヤー。最も特殊な種族故に、一筋縄ではいかない相手だと思う。って、それこそ身内贔屓になっちゃうかな。
才羽さんが私たちのコメントに頷くと、『なるほど。ありがとうございます』とマイクを手元に戻した。
『観客のみんなも待ちきれねぇようだし、そろそろ始めていくぜ! 予選Cブロック、開始だぁ!』
『『『うおぉぉぉぉぉぉっ!!!!』』』
コロシアム内を包む大歓声。そして、各々が応援しているプレイヤーの名前を叫ぶ。
一番人気はやっぱりというか、ユージン兄さんだ。そりゃ、トップギルドの最前線プレイヤーだからね。戦闘スタイルに憧れを持っている人も多いという。
私も手元のウィンドゥを操作して、何人かのプレイヤーをピックアップする。まずはユージン兄さんだ。
ユージン兄さんは、それぞれの手に大盾を装備して視界の広い山道を駆けていた。大盾装備なのは、どこから襲撃されてもいいように防御を固めているためだろう。
ユージン兄さんの戦い方は、至ってシンプルだ。両手剣や両手斧、大盾などの重量装備を相手に合わせて戦う。本来であれば装備するのに両手が埋まる装備を片手で装備できるようになるEXスキル、《重量装備制限解除》の効果だ。さらに副次効果で、重装の類の重さも半分になるという。
だからだろうか。重そうな鎧を装備しているのにも関わらず、まるで重さを感じさせない足取りで山道を駆けているのは。
あとは、様々な行動によって減っていくスタミナ量を軽減するEXスキルも持ってたはずだ。他にも私の知らないスキルを多数持っていることだろう。
ユージン兄さんが向かっているのは、中央の山の山頂。このフィールドで最も高い場所で、戦うつもりだ。
景色を置き去りにせんとばかりに駆けるユージン兄さんに、周囲のプレイヤーからの遠距離攻撃が向かっていく。色とりどりの魔法に、矢の嵐。
ユージン兄さんはそれを最小限の動きと両手の大盾で防御、回避していく。
そのまま、まるでついてこいと言わんばかりに山道を駆け上っていった。
ユージン兄さんを狙っていたプレイヤーたちが、息を合わせてユージン兄さんを追いかけていく。どうやら、同盟のようなものを組んでいるようだ。なるほど。まずは厄介なプレイヤーから潰していこうってわけか。
足を止めずに山道を駆け上っていったユージン兄さんが、山頂にたどり着く。するとそこには、一人の魔機人プレイヤーが大剣を肩に担いで立っていた。
『よぉ、ユージン。ここにいれば、お前と戦えるんじゃねぇかと思ってたぜ』
『君は……ミオンちゃんの』
『ああ。ギルド【自由の機翼】が一人、レンだ』
『ギルド【極天】のギルドマスター、ユージンだ』
大剣を担いだ魔機人、レンが、その切っ先をユージン兄さんに向ける。
『あたしからの挑戦、受けてもらうぜ』
『望むところ』
ユージン兄さんはそう言うと、持っていた大盾をそれぞれ大剣……両手剣に変更する。スキル宣言はなかったけど、メニューを動かしてたわけじゃない。おそらく、宣言なしに装備を換装させられるスキルかなにかを持ってるんだろう。
『おおっとぉー! 《山》フィールドの最も高き場所にて、フリファン最強プレイヤーとの呼び声が高いユージンがっ、剣を抜いたぁ!』
『対するは【自由の機翼】のレンさん。どんな戦いを見せてくれるのか、楽しみです』
ごくり、と。誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
静寂。あれほど騒がしかった観客席が、嘘のように静まり返っている。
みんな、ユージン兄さんの一挙手一投足を見逃さんとばかりに、目を見開いてモニターを注視していた。
私としても、どちらも決勝トーナメントで戦うかもしれない相手。少しでも情報はほしいところだ。
ユージン兄さんとレンが、各々の得物を構える。そして――
『っそだろ、おいっ!』
瞬間、レンが吹き飛ばされた。
『――っ!』
辛うじてユージン兄さんの連撃を大剣でガードしたレンだったが、そのあまりの威力に剣ごと後方に吹き飛ばされていた。迫る兄さんの追撃を、レンはスラスターを左方向に噴射させることで躱す。
なおも迫る銀閃。レンはその一撃をも大剣で弾くものの、ユージン兄さんの持つ剣はもう一つある。
『ぐあっ!?』
左肩から胴体にかけて一筋の剣閃が煌めき、レンの分厚い装甲を軽々と切り裂いていく。今の一撃で、かなりの耐久力を持っていかれたことがわかった。
分かっていたことだけど、強い。
第一回のイベントの時とは、動きもなにもかもが違う。
あの時とは、違う。
今のブランシュヴァリエでも、勝てるかどうか。
一撃が重くて鋭くて、尚且つ速い。アーツも使ってないのに、あの破壊力か。やっぱり、兄さんは強い。
『はっ、まだまだぁ!』
『――シッ!』
打ち合う剣と剣。火花が散り、軌跡が残る。
だがしかし、届かない。
扱う得物は同じ大剣。だが、圧倒的に手数が足りない。速さが足りない。力が足りない。
二本の大剣と、一本の大剣。勝敗は、火を見るより明らかだった。
『ははっ、やっぱ、つえーわ。つえーよ。今のあたしじゃ、あんたには勝てない』
銀閃の乱舞。徐々に、だが確実に、レンの装甲が、パーツが、弾け飛んでいく。
それでもレンは、立つことを止めない。抗うことを、止めない。
やがて大剣を振るっていた両腕もちぎれ飛び――
『だから、今回はあたしの負けだ。でも――』
――銀の煌めきが、交差する。
『――次は、負けねぇ』
『――次も、勝たせてもらう』
レンの胴体を、X字に切り伏せたユージン兄さんは、光の粒子に変わっていくレンを一瞥し、山道から続々とやってくるプレイヤーたちを睨みつけた。
『数を揃えれば、勝てると……そう、本気で思っているのか?』
そう、それは、威圧感。
ユージン兄さんの身体からほとばしる圧力が、ユージン兄さんを囲むプレイヤーたちにのしかかる。
その圧力の中、兄さんを取り囲んでいたプレイヤーの一人が口を開く。
『あ、ああ! 勝てるさ! このCブロックに参加しているプレイヤーの半分、500人がここを目指してる! お前のいる、ここをな!』
『さっきの魔機人との戦いで、少しは消耗してんだろ!』
『500人の力を合わせて、最強を倒させてもらう! 卑怯と言ってくれるなよ! これも作戦よ! 最強を引きずり下ろすためのな!』
こうして話している間にも、プレイヤーたちは続々と中央の山頂を目指している。ユージン兄さんは己に武器を向けるプレイヤーたちを見回し、大剣から大鎌に装備を変えた。そして、腰を落として構えを取る。
『ならば、来い。お前たちが最強と呼ぶ俺の首がほしければ、命懸けで殺しに来い!』
大地を踏み締め、駆ける。最も近くにいたプレイヤーに瞬時に接近し、その大鎌を振るう。
振るわれた刃が命を刈り取り、首を狩る。
クリティカルヒットで即死したプレイヤーが光の粒子に変わっていく中、ユージン兄さんが口を開く。
『俺も、全力を以てお前たちの首を殺しに行く』
そして、1対500の戦いが始まった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
続きもどうぞ、お楽しみください。




