第百十六話 PvPイベント、前日
続きです。若干短めです。
それでは、引き続き本作品をお楽しみください。
『細かな調整はこんなもんでいいかな……あとは、本番しだいって感じだね』
鍛冶道具である鎚を台に置き、ほっと一息つく。
あれから私たちは、毎日サラマンドラ大鉱山に足を運んではひたすら鉱石を掘り、帰って色々な装備を考える生活を送っていた。
途中、息抜きで他の国に行くことも考えたけど、どうやら所属している国とは違う国に行くためには専用の通行証明書が必要みたいだ。
その通行証明書を手に入れるには少し面倒なクエストをクリアしないといけなくて……PvPイベントが近かったから、時間のかかる面倒なクエストは後回しにしたんだよね。
そうそう。PvPイベントについては1週間前に詳細が発表されたんだよね。
場所は、第三陣の人たちも観戦できるように、始まりの町から特設フィールドに行けるようになっているようだ。
で、肝心のイベント内容なんだけど、今回のPvPイベントは個人戦とチーム戦の二つに分けられている。
特設フィールドは第二回イベントと同じように時間の進みが遅く設定されてるみたいで、ゲーム内で何日間かかけて行われるらしい。
イベント前半は個人戦になっていて、後半がチーム戦となっている。参加者は事前にメニューから登録しておくか、当日に受付で登録するかの二択になっている。事前に登録された参加者は、名前が参加者一覧の欄に載るため、この一覧を見て参加するかどうするか決めることもできるようだ。
個人戦は、まず予選であるバトルロイヤルから始まる。参加者が少ない場合そのまま決勝トーナメントから始まるようだけど、まず間違いなく予選から始まるだろう。
決勝トーナメントに進めるのは、予選を勝ち抜いた十六名のプレイヤーのみ。どれだけ予選の参加人数が増えても、勝ち抜ける人数に変わりはないようだ。
そして、個人戦が終わったら次はチーム戦だ。こちらは事前に登録したチームのみが参加可能となっている。
参加者一覧に載るのもチーム名だけで、そのチームに誰がいるのかは想像することしかできない。
一チームの人数は、通常のPTと違い五人まで。また、このチーム戦は異なる国家、異なるギルドに所属しているプレイヤーともチームを組むことができる、言わばドリームチームが組める仕組みになっている。
チーム戦は個人戦とは違い、予選の段階から一チームVS一チームの形らしい。どんな勝負内容になるのかは当日になってからのお楽しみ、だそうだ。
私は個人戦もチーム戦も出るつもりだ。個人戦の方はすでに登録を終えている。ただ、チーム戦の方がね……。
その、メンバーをどうしようかなって思ってて。未だにメンバーが決まっていないんだよね。
今日はイベント前日で、チーム登録の締切までそこまで時間が残されていない。
『はぁ。誰と組もうか悩んでる間にもう前日だよ』
「ふむ。随分と悩んでるじゃないか」
ため息をつきつつ、私のガレージから黄昏の戦乙女の工房へと戻る。
そこで声をかけてきたのは、麗しのエルフ、ヴィーンだ。今日も綺麗だね。
『まぁね。ヴィーンはチーム戦はどうするの? って、今更か』
「もちろん出るつもりだよ。で、だ。ちょうどあと一人枠が余っているんだが……」
ヴィーンはそう言うと、チラリ、と私に視線を向けた。
なるほど、そういうことか。これは、随分と待たせちゃったのかもしれないね。
思わず私は苦笑いした。
『ヴィーン様。どうかこのぼっちな私をチームメイトに入れては貰えないでしょうか?』
「うむ。苦しゅうない。よきにはからえ」
『ふふっ。なにその言葉遣い』
「なに。随分と待たせられたんでね。これくらいはさせてくれよ」
『ごめんって。ヴィーンはすでに他の人と組んでると思ってて、誘えなかったんだよ』
「この私が、君を置いて勝手に誰かとチーム登録をするとでも?」
『ほんとごめんって! それで、チームメイトは誰なの?』
これ以上この話をしてるとまずいと思った私は、強引に話を切り替えた。
ヴィーンは軽く肩を竦め、楽しそうにその口を開く。
「レンにアイ、フルールに私と君を加えた、五人のチームだ」
『……ん、もしかしてその五人って』
「そう。我が高校のVRゲーム同好会のメンバーさ。これほどぴったりなチームもないだろう?」
『ホントにね。って、よくフルールさんがおっけー出したよね。いくら他のギルドのプレイヤーともチームを組めるからって、フルールさんは【モフモフ帝国】のサブマスなんだから、引っ張りだこだったんじゃない?』
「みたいだね。でも、この五人でチームを組もうって最初に言い出したのは、彼女だからね」
『フルールさんが?』
「ああ。だからこうして、最後の一人である君を勧誘しているわけだ。君は一度ガレージにこもるとなかなか出てこないからね」
『あはは……ごめん』
「今日のミオンは謝ってばかりだね。ま、ちゃっちゃとチーム登録をしてしまおうか。そうそう。遅れた罰として、リーダーは君で登録させてもらうよ」
『はいはい』
「それで、チーム名はどうしたものかな。フルールたちからは、私たちに任せたって連絡が来てるんだが」
『チーム名かぁ』
チーム名ねぇ。高校の名前を出すのは、リアルバレの恐れがあるから却下だね。VRゲーム同好会……も、なんか違う気がするし……うーん、どうしようかな。
ヴィーンも一緒に考えてくれているけど、いい案は浮かんでこないようだ。
私の方も、ロボットアニメの組織の名前しか出てこないや。ソレスタ〇ビーイングとか、ロ〇ド・ベルとか、M〇Pとか……どうしたものかなぁ。
「ふむ。いっそシンプルに考えてみるのはどうだろうか」
『シンプル?』
「ああ。私たち五人は女性だ。WWとかどうだろう?」
『女たちの戦争……って、ちょっとあれだね』
「ふむ。そこそこいい名前だと思うんだけどね」
『そうだなぁ。シンプルっていうなら、私たちの名前の頭文字を取るのはどう?』
「頭文字か。ミオンのM、ヴィーンのV、レンのR、アイのA、フルールのFで、MVRAFかい?」
『なら、チームMVRAFにしよっか。ちょっと名前的にギリギリだけど』
「ああ。確かにあの作品に名前が似ているね。ま、いいんじゃないかな。早速その名前で登録してしまうことにしよう」
スッスッ、とヴィーンの指が虚空に走る。メニューのイベント参加の欄にチームを登録しているんだろう。
その作業も数十秒で終わり、「じゃあ私はそろそろ失礼するよ。少しリアルで用事があるからね」とヴィーンはログアウトしていった。
『よし。これで個人戦もチーム戦も出られるようになった。明日のために、なにか作業でもしようかな』
「あ、ギルドマスター! お疲れ様です!」
『お疲れ様です! 明日のイベント、絶対に観戦に行きます!』
『ありがと。二人も始めたばかりで大変だろうけど、頑張ってね』
「『はい!』」
ガレージに戻る直前に第三陣からやってきた新人プレイヤーたちと挨拶を交わし、再びガレージの中へと入っていく。
『んー、調整って言っても時間が限られてるから大掛かりな作業はできないし……思いつきで色々作ってみようか』
幸い素材は潤沢……ってほどあるわけじゃないけど、いくつか試作品を作るくらいの量はあるはずだ。
私は、明日の戦いに使えそうな武装を考えては、一つ一つの形を作っていくのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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