第百十一話 (ギルドハウスに)集う者たち
毎回投稿間隔が空いてしまって申し訳ありません。
しばらく水曜日は投稿できない可能性がありますので、申し訳ありませんがご了承ください。
さて、気を取り直して。サラマンドラ編続きです。
引き続き本作品をお楽しみください。
私たちが購入したギルドハウスは、炎都サラマンドラの鉱山にほど近いそこそこの立地の場所にあった。
それは全体的に切り出した石で造られているようで、所々にアクセントとして木材が使われている古くも立派な石造りの建物だ。
建物の形としては、居住区として使えるL字型の建物と、工房として使える豆腐型の二棟の建物が建てられている。
ふむ。資料で見せてもらったものより、少し大きく見えるね。このサイズだと、ホワイトハーバーのギルドハウスよりも大きいかもしれない。
敷地内はあまり手入れがされてなかったのか、かなりの量の雑草が伸び放題となっていた。建物の古さも相まって、いかにも出そうな雰囲気が漂っている。
これは少し早まったかもしれないと、私は苦笑いを浮かべながらインベントリからギルドハウスの権利書を取り出し、入口と思われる木製の扉に押し当てる。
瞬間、うっすらと権利書が輝き、クルクルと丸まって私の手元に戻ってきた。これでこのギルドハウスは私たち【自由の機翼】の所有となったわけだ。
私は戻ってきた権利書を再びインベントリにしまい込み、目の前の扉を開け放った。
まずはポータルを設置することになる居住区から確認しようと扉の中に入ったところで、勢いよく開け放った扉の内側からかなりの量の埃が舞い上がる。
どうやら外どころか中もろくに手入れをしていなかったようだ。こういうところ、無駄にリアルだよね……中古物件だから仕方ないんだけどさ。
埃まみれになった私を見て、アイちゃんは口笛を吹きながらギルドハウスの敷地内のギリギリまで後退する。あの、そこまで下がらなくても……。
私が地味にショックを受けていると、ひょいっとヴィーンがギルドハウスの中を覗いていた。
「やれやれ。すごい埃だね。これは一筋縄ではいかなそうだ」
『ホワイトハーバーのギルドハウスが綺麗だったから、ここもそうかと思ったんだけど……そうは問屋が卸さないってことかな』
「掃除を済ませておきたいところだが、私には掃除ができるようなアイテムの持ち合わせはないね」
『んー……あ、もしかしたらあれが使えるかもしれない。ギルドハウスの壁って破壊不能オブジェクトだし、多少勢いが強くても……』
「ミオンが何を取り出すつもりかはなんとなく分かったよ。内装が全てなかったのは、幸運かもしれないね」
『じゃじゃーん! 高濃度圧縮水圧レーザー砲〜!』
『おー』
ギルドハウスの掃除のために取りだしたのは、人の腕の長さほどもあるノズルが取り付けられた、小型の銃のようなもの。これは私が試験的に作った水鉱石を使った武装なんだけど、使い勝手の悪さからインベントリの肥やしになっていたものだ。
性能としては、簡単に言えば高圧洗浄機みたいなもので、モンスターを相手にするには少し物足りない威力の水圧レーザーが発射される。ぶっちゃけ、産廃品だ。
あとアイちゃん。感心した声を出すのはいいけど、距離が遠いよ? 物理的に。
「高圧洗浄機だね。リアルでは絶対に家の中では使っちゃダメだよ?」
『さすがに高圧洗浄機をリアルの家の中では使わないよ……っと、じゃあこれで隅から隅まで綺麗にしていこう!』
『がんばって』
『……はい』
アイちゃんに応援された私は、早速水鉱石を高圧洗浄機もどきに投入し、家の中の壁に向かってトリガーを引く。
すると、ノズルの先から高濃度に圧縮された水が石造りの壁を削り取る勢いで発射された。
埃まみれの石壁にぶち当たった水は綺麗に汚れを削ぎ落とし、綺麗な石造りの壁に生まれ変わらせる。
『結構綺麗になるもんだね。うーん、くせになりそう』
『びゅー、びゅー』
『アイちゃん……その擬音はちょっと止めようか』
『? わかった』
時たま挟まるアイちゃんの合いの手に調子を狂わされながらも、私はそのまま玄関、廊下、各部屋と高圧洗浄機もどきを使って綺麗にしていく。汚れを削ぎ取った後の汚い水が地面を濡らし、新たに追加される水によって押し流されていった。
床まで石造りだったことが幸いして、高圧洗浄機もどきの力により汚い水も全て玄関から外に流れ出していくのが見える。
その間ヴィーンはハウジングメニューを色々と弄っていたようで、私の掃除が終わるのと同時にギルドハウスの中に様々な家具が出現していく。
『ふぃーっ。疲れたぁ』
「お疲れ様。内装はこんなものでいいかな?」
『んー、まぁ、とりあえずはいいんじゃない? 気に入らない部分があったらいつの間にか家具を作ってる人もいるみたいだし』
「そうだね。ホワイトハーバーのギルドハウスも、いつの間にか見違えるように綺麗になっていたよ」
『じゃあ早速ポータルを設置してっと……これでいつでも黄昏の戦乙女に戻れるね』
「こちらの掃除に結構時間を使ってしまったね。工房棟の方も見に行こうか」
『だね。向こうも汚いようなら同じように掃除しないと』
効力が切れてクズ石と化した水鉱石を排出し、新しい水鉱石をセットする。
そんな私の様子に微笑ましい笑みを浮かべたヴィーンととてとてと歩くアイちゃんを連れながら、工房棟に向かった。
先程ちらっと見た通りの、石造りで豆腐型の四角い形状の建物が私たちを出迎える。
今度は埃を浴びないようにと、ゆっくりと扉を開けていく。しかし中は予想よりも綺麗で、少なくとも居住棟のように埃まみれ汚れまみれというわけではなさそうだった。
「ふむ。こちらは綺麗なものだね。確かに少し埃が積もっているようだが……向こうとは大違いだ」
『きちゃなくない』
『んー、これなら高圧洗浄機もどきを使う必要もないかな?』
「……ちなみに、それは威力を絞ったりとかはできるのかい?」
『できてたら産廃品にはならないんじゃないかと』
「それもそうだね。ま、こちらはそのままでも特に問題はなさそうだね。埃が気になるようなら、ここを使う人に掃除してもらうことにしよう」
『メインは居住棟のポータルだからね』
と、そんな話をしながら工房棟を離れると、ギルドハウスの前に十数人のプレイヤーが立っているのが分かった。
私は駆け足でその人たちに近寄りながら声をかける。
『親方! 早かったね?』
「おう。ま、そんなに目を引かれるものもなかったからな。そっちはどうだ?」
『とりあえず居住棟の方は綺麗にしたよ。工房棟の方はそこまで汚れてなかったから、綺麗にするなら工房棟を使う人に任せようと思って』
「なるほどな。よし、お前ら! 工房棟を軽く掃除してセッティングしてこい!」
『「『はい!』」』
親方の指示に従って、整備班のプレイヤーたちが駆け足で工房棟へと向かっていく。彼らのその足取りは思いのほか軽やかだ。
私は親方に向き直ってこれからの予定を聞く。
『親方、これからどうする?』
「ん、そうだなぁ。特にやることがなければ、アイツらと一緒に新しい工房でなにかを作ろうと思ってたが……なにかあるのか?」
『いや、ある程度の人がこっちに来たら、あそこに行こうと思って』
「なるほど、サラマンドラ大鉱山か」
『サラマンドラ大鉱山?』
「おう。職人街で聞いてきたんだが、サラマンドラの所有している鉱山を全てひっくるめて、サラマンドラ大鉱山って言うらしいぜ。確かに全体的な規模を考えたら、大鉱山って言いたくなる気持ちも分かるんだが」
ふむふむと、親方の話に相槌を打つ。
工房棟に向かった人たちが掃除を一通り終えたら、サラマンドラ大鉱山に行くか聞いてみようか、などと話していたところに、またまた聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『よっす大将! 戻ったぜー』
『ただいま戻りました、ミオンさん』
『こうやって直接話すのは久しぶりな気もしますけどね』
『レン! それにカノンにクラリスも!』
新たに敷地内に入ってきたのは、街の外にMOB狩りに行っていたレンと、他のギルドメンバーとPTを組んでサラマンドラを見て回っていたカノンとクラリスだった。
私は三人の姿を見て、親方と頷き合う。
その様子を見ていた三人は首を傾げていたが、私がこの後サラマンドラ大鉱山に向かいたい旨を話すと二つ返事で了承してくれた。
『本当は後日行こうかなって思ってたんだけど……気になったらソワソワしちゃってね』
「ま、今なら人員も集まってるし、サラマンドラ大鉱山のレベルを確認するにはちょうどいいんじゃねぇか?」
「では、工房棟の方に向かった人たちに声をかけてこよう。きっと彼らも喜んで来てくれるはずさ」
ふふ、と笑みを浮かべながら工房棟へと向かうヴィーン。
その様子を横目に、親方が私に問いかけてくる。
「んで、サラマンドラ大鉱山のどの鉱山に行くとか決めてるのか?」
『いや? ぜーんぜん』
「おいおい……ったくよぉ。じゃ、軽く説明してやるぞ?」
親方の説明だと、サラマンドラ大鉱山はいくつかの鉱山で構成されている鉱脈の集まりだという。
その採掘目的によって、いくつかの鉱山に区分けされているようだ。
銅や鉄など、武器や防具だけでなく人々の生活に密接している鉱石を掘り出せるサラマンドラ下級鉱山。これは、基本的にどの国の人間でも入ることの許された鉱山らしい。
次に、ゴールデンマウンテンのように属性鉱石やより質のいい鉄が取れるサラマンドラ中級鉱山。ここから、サラマンドラによる審査が入るみたいだ。でも、ここも許可さえ下りればサラマンドラに所属していなくても採掘可能らしい。
次に、ミスリルやヌルタイト鉱石などの魔法鉱石や特殊鉱石が掘り出せるサラマンドラ上級鉱山。この鉱山にはサラマンドラに所属している炭鉱夫だけが入れるという。私たちの目的でもあるね。
このような鉱山が、ちらほらと存在しているのがサラマンドラ大鉱山だ。
「あとは、ごく一部の者にのみ許可されたサラマンドラ極級鉱山なんてものもあるみたいだが、噂話の域を出ねぇな。信ぴょう性が薄い」
『火のないところに煙は立たないとは言うけど……ま、その極級鉱山とやらは行けそうなら行くってことで』
「だな。お、ヴィーンがあいつらを連れて戻ってきたな」
親方の声に工房棟の方を向くと、ヴィーンが工房棟に向かった整備班のプレイヤーたちを引き連れてこちらに戻ってくるところだった。
私は周囲を見渡して、集まったギルドメンバーたちを見る。
親方と一部の整備班のプレイヤーたち。カノン、クラリスに彼らと共に行動していたPTメンバーたちに、レン、アイちゃんとヴィーン、私を加えた計二十八人の【自由の機翼】所属のプレイヤー。
『じゃあ、これからここにいるメンバーでサラマンドラ大鉱山に向かうよ! 目指せ上級鉱山! 沢山掘って、沢山素材を集めよう!』
『「『「はい!(おう!)」』」』
みんなの声が一つに重なる。
私たちはお互い頷き合うと、サラマンドラ大鉱山を目指して鉱山街に向けて歩き出すのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




