第百十話 炎と鉄の国ーサラマンドラー
なんとか更新できてほっとしています。
続きです。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
『ここが、炎と鉄の国……!』
黄昏の戦乙女で飛び続けること、ゲーム内時間でおよそ三時間ほど。
三角形のような形をした第三の浮遊大陸に降り立った私たちを出迎えたのは、むわっとするほどの熱気と、鎚と金属が織り成す絶妙なBGM。
太陽が傾きつつあるこの町には、未だに妙な活気がある。
炎都サラマンドラに着いた私たちは、黄昏の戦乙女の中で解散し、各々好きなPTを組んで解散することになった。
今日の私のPTメンバーは、ヴィーンにレンにアイちゃん。それと親方だ。カノンやクラリスたちは、他のメンバーと約束があるという。
港の周りには職人たちが仕事をする職人街があるらしく、職人街から左側に向かうと貴族街とお城、右側に行くと商業街や住民街があるみたいだ。
もちろんこの町にもギルド管理協会があるから、まずはそこに行って購入できるギルドハウスの確認だね。
「活気があって、実にいい町じゃないか。城下町、というのはこのゲーム内では初めて見たよ」
『てか、副大将じゃなくても初めてなんじゃないか? だって、国ってのはこの浮遊大陸からの実装なんだろ?』
「れんはやぼ」
『えぇ?』
「がはは。ま、そう言ってやんなよ。しかし、そこかしこから心地いい音が聞こえてくるじゃねぇか。今すぐ混ざりたいくらいだ」
『はいはい。親方の言いたいことも分かるけど、私たちのPTはとりあえずこの国のギルドハウスを探すのが目的なんだから、そこは間違えないでね?』
「分かってらぁ。あー、この音聞いてると鎚がうずうずするぜ……」
『腕じゃねーのな』
「どっちでもいいんだよ。生産活動がしたくなるってことだからな」
『ん、とてもいいおと』
「おっ、アイはこの音のよさを分かってくれるか!」
『まさにこのくにをしょうちょうするおと。きいててここちがいい』
『そうかぁ? 私はただカンカンうるさいだけだと思うんだけどなぁ』
「ま、どう感じるかは人それぞれさ。確かに、炎と鉄の国の名に相応しい場所ではあるね」
『職人さんの工房とかを見て回りたい気持ちはあるけど、まずはギルドハウスからだよ。えっと、ギルド管理協会は商業街の方だね』
「じゃ、このまま右の方に真っ直ぐ歩いていけばいいのか」
『ちゃっちゃとギルドハウス買って、色々歩き回ろうぜ! しゅっぱーつ!』
元気なレンを先頭に、私たちは職人街を進んでいく。
炎と鉄の国なだけあって、すれ違う人々にはドワーフが多い。
体感だけど、すれ違う人の半分がドワーフで、残りの半分が人間や獣人、エルフなんかの他種族って感じだね。
工房が立ち並ぶ職人街の通りでは、腕のいい鍛冶職人を求める冒険者と、お得意さんになってくれる冒険者を求める鍛冶職人の間で熾烈な戦いが繰り広げられていた。
「この剣なんだがよ、少しランクの高い素材で補修とかできたりしないか?」
「んー? ……あー、こりゃあれだね。もうそろそろ寿命だよ。これを補修するくらいなら新しいのを作った方がいいね」
「そうか……こいつも長かったからな。分かった。実を言うとな、一つ前に見てもらったところだと、こいつはまだまだ現役だって言われたんだ。でも、俺自身そうは思わなくてよ……正直に言ってくれたあんたなら信用できる。新しい俺の剣を打ってくれないか?」
「はっ……そんなこと言われて突っぱねたら、鍛冶屋の名が廃るってもんさ。いいよ、お前さんの新しい相棒……このあたしが作ってやるさね!」
「本当か!? ありがとう……!」
「それくらいお安い御用さ」
なんていうドラマが、目の前で起こっていたり。いやほんと、この世界がゲームの中だなんて思えないよねぇ。
おっと、リアルドラマを見てる場合じゃなかった。あれはあれで気になるけど、まずはポータルで転移できるようにするためのギルドハウスを買わないと。
通りを歩いて職人街を抜けると、先ほどまでの熱気が一変した。
通りを歩く人を呼び止める光景は職人街と同じだけど、その内容が違っている。こちらでは日用品に食料品、雑貨品なんかを主に取り扱っているようだ。
それもそのはずで、私たちは職人街を通り抜けて商業街までやってきていた。
「なんだか、さっきまでとは大違いだね」
『鎚と怒号が聞こえないだけでここまで変わるのかって感じだな。客引きの声とかは変わらないのに』
『ん、こっちのくうきのほうが少しいんうつ』
「陰鬱……ま、活気があったのは職人街の方なんだろうけどね。さて、お目当てのギルド管理協会はどこら辺かな」
『商業街の中心あたりだから……もうしばらく歩いた先を左だね』
『んじゃ、さっさと終わらせようぜ〜。疲れてきちまったよ』
「ギルドハウスが買えたらどうするんだ? 各自で別れるのか?」
『どうしようねぇ。みんなで練り歩くってのも悪くは無いけど、みんな行きたい場所とか違うもんね?』
『そりゃな』
「まぁな」
『うん』
「私は、今日のところはミオンについて行くつもりだよ」
『そう? じゃあギルドハウスを買うところまでは一緒に行こうか。そこから先は自由にPTを組んでもらう感じで』
『「はーい(おう)」』
私はギルド管理協会に向かいながら、周囲をチラチラと覗いてみる。
職人街にあったものより豪華な装飾の武器や鎧、それなにに使うんだろうと思わんばかりのアイテムなど、多種多様なアイテムが売ってるね。さすがは商業街ってところかな。
あとは……お、あの串焼き美味しそう……でも、ちょっと値段が高いね。やっぱりサラマンドラだと食料品店の類は割高になっちゃいそうだ。
炭火焼きで焼いた串焼きとか美味しそうなんだけど……お金に余裕はあるし、また今度買ってみようかな。
それ以上は特に特筆する点もなく、あっという間にギルド管理協会の入っている建物の前までやってきた。どうやら一階と二階がギルド管理協会で、そこから上はビジネスホテルみたいな素泊まりのできる宿屋になっているみたいだ。
一瞬、みんなには待っていてもらおうかと思ったけど、どうせならみんなの意見も聞いてみようということで一緒にギルドハウスを見ることになった。
一階がギルドの設立関連で、二階がギルドハウス関連の窓口らしい。私たちは建物に入ってすぐ右手にある階段を登り、二階の窓口に向かう。
ぞろぞろとやってきた私たちに対しても、受付のお姉さんは笑顔で迎え入れてくれた。
「こんにちは。本日はどうされましたか?」
『はい。ギルドハウスの購入をしたくて。この国に来たのは初めてなので、どんな物件があるのかなと』
「ギルドハウスのご購入ですね。かしこまりました。ご希望の場所などはありますか?」
『ってことらしいけど、みんなはどんなところのがいいとかある?』
私が四人に聞いたところ、みんなからはこんな返事が返ってきた。
「そうだな。職人街に近ければいいが、町の外に近いのも捨てがたい。職人街と町の外のちょうど中間あたりにあれば移動が楽だな」
『あたしは断然町の外に近い方がいいな。狩りとかしやすいし』
「そうだね。私としても町の外に近い方が色々と捗りそうだ」
『こうざんのちかく』
ふむふむ、とみんなの意見をお姉さんに話して相談してみる。
するとお姉さんは少し悩んだ素振りを見せて、「少しお待ちください」と席を離れていった。
「鉱山の近くってのは盲点だったな。えっと、サラマンドラ所有の鉱山ってどこにあるんだ? 町のマップには載ってねぇんだが……」
『だよな。あたしも一通り見て見たけど分かんなかった』
「アイちゃんは場所が分かっているのかい?」
『ん、さっきしょくにんがいできいてきた』
『おお、いつの間に!』
ゴソゴソとアイちゃんが取り出した地図には、町の中だけでなく町の外、国境の辺りまでが描かれていた。これは、メニューのマップじゃなくて、この世界のマップそのものってことかな?
『さっきしんせつなおじさんにおしえてもらった。みなとのそばのしょくにんがいのはんたいがわに、こうざんにむかうためのみちがある』
「ふむふむ。港の真反対だね。商業街を通っていけば住宅街を通らずに行ける道のりだ」
『へぇ。こんな感じになってんだなぁ』
「それなら……いや、待てよ? 思ったんだが、わざわざ職人街の近くにギルドハウスを建てる必要もないんじゃねぇか?」
『お。お気付きになられましたか』
「だよなぁ……これでもうち、生産系のギルドだからなぁ」
『生産系……って言っていいのか分かんねぇけどな』
『ん、せんとうぎるどでもつうじる』
「なら、戦闘系生産ギルドというのは?」
『なにその本末転倒な感じ……まぁでも、私たちらしくていいか』
「んで、どうするよ。受付のねーちゃんはまだ戻ってこねぇが」
『戻ってきたら、とりあえず鉱山の近くにもないか聞いてみましょう。それ次第って感じで』
しばらくすると数枚の資料を持ってお姉さんが席に戻ってきた。そこで私が条件の設定し直しを告げると、お姉さんは笑顔で再びギルドハウスの資料を探しに行った。ほんとごめんなさい。
それからそんなに時間も経たずにお姉さんが戻ってきた。鉱山の近くのギルドハウスだと、よさそうな条件のギルドハウスは五件くらいだという。
一枚目……なにこの豪邸。あっ、昔は貴族が住んでたけど、賄賂やら横領やら違法奴隷の所持やらが発覚して死刑に……ちょっと事故物件臭くないですか、これ。さすがにこんな高そうな建物はいらないよね。比較的安くなってるとはいえ。
二枚目……うん、普通だ。外観は普通なんだけど……え、飲食店の経営に失敗した一族郎党が首を吊った屋敷……ってこれは完全な事故物件ですよねぇ!?
いや、いくらお値段が安くても……いえ、聖魔法の使い手は何人かいますが……はい、ちょっと遠慮させてください。マジで。
気を取り直して三枚目。これは……ちょっとせまい、かな。っていうかただの一軒家では?
なるほど、少人数ギルド向けのギルドハウス……はい、うち結構人が多いギルドで……すみません。
で、四枚目……元工房ですか。少し広めなのにこの金額でいいんですか? ああ、借金の取り立てで工房の道具や内装一式がないからこの金額なんですね。
ふむ、大きさも申し分なし、工房の道具は自分たちで用意できる……ここ、結構いいかもしれない。
一応五枚目も確認っと。あーはいはい。ここも事故物件ですね。えっと、とあるハーレムギルドが所持していて、痴情のもつれで大規模な戦闘に……死傷者多数、生き残ったのはハーレムギルドのリーダーに興味がなかった女性好きの女性二人……ってほぼ全滅じゃないですかこれ。こんなの怖すぎて住めませんよ。
はい、はい……そうですね。私たちとしては四枚目の物件にしたいなと……はい、お金は持ってきてます。はい、はい、こちらです。
……はい、分かりました。これが権利書ですね? 大切に保管しておきます。はい、案内は……大丈夫そうです。はい、はい、ありがとうございました。
「またのお越しをお待ちしております」
『どうも』
ギルド管理協会での手続きも終わらせて、みんなのマップに新しいギルドハウスの位置を記載する。
『じゃあここからは別行動ってことで。大将たちは?』
『とりあえずギルドハウスに行ってポータルなり内装なりのチェックかな。あまりにも殺風景ならなにか置いておくよ』
「俺はとりあえず職人街を見てくらぁ。鉱山の方はまとまって行った方がいいだろうしな」
『ん、ぎるますについてく。そしてわがやにかえっていろいろつくる』
『親方が職人街で、アイちゃんはポータル設置待ちね。レンは?』
『ちょっくら外で戦ってくるわ。サラマンドラ近辺の敵MOBがどんなもんか確認しておきてぇし』
『おっけー。じゃあ二人とも、またあとでね!』
「おう!」『じゃあなー』
ギルド管理協会の前で親方とレンと別れ、残りの私たちは購入したギルドハウスに向けて歩き出した。
……途中、商業街の出店で買った串焼きを食べつつ。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




