第百九話 ver.3.0アップデートと三大国家
またもや遅れてしまい申し訳ありません……。
ver.3.0編の続きになります!
それでは引き続き本作品をお楽しみください!
そんなこんなで時は過ぎ、二週間後。
秋も深まってきた今日、ver.3.0へのアップデートが行われた。
深夜から続く大規模なメンテナンスは終わり、アップデートを済ませたプレイヤーたちは我先にとログインしていく。
かく言う私もメンテナンスが終わる前にご飯を済ませ、現在ログイン待ちの状態だ。
メンテ終わりが土曜日の昼ということもあって、数多くのプレイヤーが同時にログインしているようで、私はお気に入りのロボットアニメの主題歌を聴きながら順番待ちをしている。
やがて順番が来たのか、私の意識は現実の身体から抜け出して、仮想世界の身体へと入り込んでいく。
黄昏の戦乙女内の自室で目覚めた私は、早速とばかりにメニューのメモ帳を開いた。
私たちはこの二週間、新しい浮遊大陸の情報を集めつつ、レジーナ・ストラの武装を完成させるために動いていた。
そのかいもあって無事にレジーナ・ストラは完成。これでも一応、秘密兵器だからね。セイリュウオーさんのダンジョンで一度試運転した後は、インベントリの中で眠ってもらっている。
さて。三大国家について分かったことは、いくつかあった。
まずは炎と鉄の国、サラマンドラ。
サラマンドラの首都は炎都サラマンドラと言って、資源が豊富な鉱山と火山に囲まれている。
三大国家の中では唯一温泉が湧き出しているようで、温泉を主軸にした観光業でも賑わいを見せているようだ。
しかし、その立地から食料自給率は高くなく、必要な分の食料を隣国のウンディネスやシルフィードから輸入していると町の人は言っていた。食べ物目当てなら他の二国に向かった方がいいとも教えてくれた。
次に、水と糸の国、ウンディネス。
ウンディネスの首都は水都ウンディネスと言って、豊富な水産資源が特徴的だ。
また、人の生活に欠かせない水や塩を比較的安価に売買しているらしい。ただ、ここら辺はプレイヤーにはあまり関係ない部分かもしれないね。料理人ロールをしている人とかだと関係あるかも?
漁業が盛んで、美味しい魚を食べたいならウンディネスに行きな、とは町の人の談。ただ、その分鉱物資源や森林資源に乏しく、良質な武器や鎧を求めるなら他の二国に行くべきだ、とも言っていた。
最後に、風と木の国、シルフィード。
シルフィードの首都は風都シルフィード……なんか、二人で一人のライダーがいそうな名前だね。
三大国家の中でも一番自然に溢れており、その広大な森には様々な生き物が生息している。その森を荒らす魔物は駆逐対象であり、森の奥に行くほど魔物のレベルも上がっていくようだ。その分、取れる素材のランクも上がっていくらしいけど。
また農作や畜産業も営んでおり、様々な食料が他の国へと輸出されている。食材アイテムを買うならシルフィードに行くべきだとは、美味しい料理を出してくれる料理人さんの談。ただ、鉱物資源や水産資源に乏しく、金属武器やローブなどをもとめるなら他の二国に行った方がいいかもしれないとも言っていたね。
私たちは各々で情報を集めた後、ギルドメンバー全員を集めて、どの国に所属することにするかを話し合った。もちろん、簡単に話がまとまる訳もなく、それぞれの国に所属するメリットデメリットを踏まえた上で改めて何度も話し合った。
私たちのギルドとしては、炎と鉄の国であるサラマンドラが魅力的だろう。ただ、他の国にも目を見張るものがある。
長引いた話し合いの結果、私たち【自由の機翼】はサラマンドラへと向かうことにした。
一番大きな理由としては、サラマンドラが所有している鉱山に入るためには、その国に所属している必要があるかもしれないってところかな。
これは町の鍛冶職人の人に聞いた話で、サラマンドラの鉱山にはかなりの量の鉱石が眠っているらしく、日夜炭鉱夫たちが鉱石を掘っている。
そして、サラマンドラに所属していない人間が鉱山に入るためには、厳正な審査が行われるらしい。
その審査に時間を取られ、また基準に満たないと判断された人はサラマンドラの鉱山に入れないため、サラマンドラの鉱山が目当てならサラマンドラ所属になっておいた方がいいとのこと。
この話が決め手となり、私たちはサラマンドラに向かうことになったわけだ。
今日ログインできる人間でまずはサラマンドラを目指し、後日しかログインできない人は改めてサラマンドラへと向かうことになる。
とりあえずは炎都のどこかのギルドハウスを購入して、そこにポータルを繋ぎたいね。ギルドの共有財産も、ポータルを買うくらいのお金はあるし。
メンテ明けすぐにログインできない人もいるから、リアル時間で二時間後の三時が集合時間となる。
早めにログインした私は、黄昏の戦乙女の工房へと足を運んだ。
そこには私と同じく早めにログインしてきたギルドメンバーたちが、それぞれ思い思いのことをしていた。
私はその中から図面とにらめっこしている親方を見つけ、近くに駆け寄る。
「ん、おう。ミオンか。おはようさん」
『おはよう、親方。なんの設計図見てるの?』
「ああ。どうやらver.3.0から戦艦の武装の設計が可能になってな。それで、どんな設計図を引くか考えてたんだ」
『戦艦の武装!? 本当に!?』
「本当だ。恐らく戦艦を持っているプレイヤー、ないしはギルドがまだ少ないからだろうな。お知らせの片隅にちょろっと書いてあったぜ」
『なるほどねぇ。でも、戦艦の武装かぁ……夢が広がるね!』
「だな。この黄昏の戦乙女に似合う武装を考えてやらねぇと」
『それで……必要な素材の数ってどう?』
「とんでもねぇよ。一つの武装を作るのに、少なくともレジーナ・ストラの数倍の量は必要だろうな」
『うへぇ……なんか、エンドコンテンツって感じがするよ』
「こんなのまだ序の口だろうなぁ。常日頃から多くの素材を持っとかねぇとあっという間に干上がっちまいそうだ」
『ゴールデンマウンテンで採掘してくれてるメンバーも多いけど、獲得量に比べて消費量も馬鹿にならないからねぇ』
「どいつもこいつも遠慮なく使ってくからな。ま、一番の筆頭は俺なわけだが」
『まぁまぁ、そのおかげでうちの戦力も整ってきたし、第一回イベントの時のドラゴンなんか、楽に倒せるんじゃないの?』
「だろうよ。あの時とは比べ物にならないくらい強化されてるしなぁ」
『三大国家に第三陣、オマケにPvPイベント……これからも忙しいね』
「ああ。だが、この忙しさは悪くねぇさ。なにより、楽しいからな」
『言えてる』
『よぉーっす、大将!』
『おはよ』
『あ、レンにアイちゃん。おはよー』
「お前はいつも元気だな、レン」
『まぁそこが取り柄みたいなもんだし? それより大将見てくれよこの大剣!』
挨拶もそこそこに、レンが自慢げにインベントリから取り出したのは、身の丈ほどの刀身のある両手剣だ。
刀身にはうっすらとではあるもののいくつかの線が走っており、傍目から見ると電子回路のような見た目であることが分かった。
でも、見た感じそれだけだ。レンがふんす、と鼻息を荒くさせるほどの大剣には見えないけど……?
「ん、回路の刻まれた大剣……か? 【自由の機翼】じゃあ珍しくもなんともないウェポンじゃねぇか」
『おやおやぁ? 親方ともあろうお方が、この大剣の素晴らしさに気付かないと?』
「おう、言うじゃねぇか。ただの大剣ってわけじゃねぇみてぇだが……」
私と一緒に大剣を眺めていた親方に対して、いやらしい笑みを浮かべながら挑発するレン。
対する親方はその挑発に乗ったと言わんばかりにレンの持つ大剣を凝視する。
ふむ、じゃあ私もちゃんと見てみようか。
レンの身の丈ほどもある刀身。そこに刻まれた電子回路を思わせる線。その線の発生源は、ちょうど鍔になってる辺りからだ。
あとは特徴的なものといえば……お、これはなんだろう?
鍔と持ち手の間になにか……これは……引き金? それに、柄頭の部分になにか捻れそうなスイッチが……。
ってことは、あの線の正体は……!
『お、大将は気付いたみたいだな』
「むむむ……そうか、これは可変式の大剣だな。柄頭のスイッチで形状を変化させるんだろ?」
『あったりー! その名もサテライトブレード! ガンフォームに変形時は鍔の部分がXの形になって刀身が可動、変形。一つの大きな銃身になるってわけよ! 私の手で作りあげた相棒さ』
『いいねいいね! ロマンを感じる武装だよ!』
「だが、その分耐久性は低くなっちまうだろ? そこはどうカバーしてるんだ?」
『あー、そこね。素材の質がまだよくないからね。予備をいっぱい作ることで解決しました』
そう言ってレンが取り出したのは、何本ものサテライトブレード。見た感じ十本くらいは入ってそうだ。
「ま、それはそうなるか。サラマンドラでいい素材と巡り合えるといいな」
『いやマジでそう思います。ゴールデンマウンテンの素材も悪くはないんだけど……やっぱあれを見ちゃうと物足りなくなるから』
『あー』
レンがあれと言ったのは、間違いなく魔導黒銀・インゴットのことだろう。みんなに協力してもらって、毎日毎日魔導黒銀・インゴットをボックスで増やしてるからね。報酬は魔導黒銀・インゴットの一部でいいって言ってくれている。
ふと、レンの表情が翳る。レンは私と同じように生体パーツを使用してるから、表情が分かりやすいんだよね。
『それにしても、このゲームで初めて国らしい場所に行くんだよな……ちょっと心配だ』
「心配?」
親方が聞き返すと、レンは重そうにその口を開いた。
『ほら、このゲームってファンタジーだけど結構リアルだろ? 町に住んでる人とかさ。だから、もしかしたらそういうのも起こるのかなって』
『起こる?』
『ああ。戦争、とかさ』
「それは……」
レンの言葉に、私はハッと考えさせられる。
そうだ。一つの浮遊大陸に三つの国があるんだから、その可能性も有り得なくはない。
この世界には、思った以上に驚異が存在する。モンスター然り、暗黒魔力に侵された存在然り、暗黒世界からの者然り。
そんな世界だから、人と人とは無条件に手を取り合えると思ってたけど……国と国が相手だと、そうもいかないかもしれない。
仮に、三大国家同士で領土を巡って戦争が起きた場合。
所属しているプレイヤーたちは、どうすればいいのだろうか。
戦争に参加する? それとも逃げる?
分からない。その時に私がどんな選択をするのか。
でも、これは考えすぎなのかもしれない。
だって、これはゲームなんだから。
みんなが楽しめるようにするゲームで、そんなことが起こり得るのだろうか。
……起こり得る、よねぇ。このゲームなら。
ただまぁ、私としては。
国を守るために立ち上がる展開って、すごく燃えるよねってことかな。
親方にレン、アイちゃんたちの表情を見れば、丸分かりだろう。
「そうなったらそうなったで面白そうだな。ま、NPCの人たちには悪いが」
『ぷれいやーだけをねらえばいい』
『そうだな。仮にそうなっても、私たちには力がある。他のギルドがどの程度他の国家に散らばるかにもよりそうだけどな』
『【極天】、【もふもふ帝国】、【唯我独尊】あたりは手強いね。あとは【黒の機士団】や、【漆黒の翼】も要注意かな』
「ま、プレイヤーの奴らとは遅かれ早かれ、PvPイベントで戦うことになるかもしれねぇんだ。情報を集めておくに越したことはねぇな」
『そっちのイベントも楽しみだよねぇ。ほら、私たちって基本PvEだから』
『そうだよなぁ。少し前に大将と黒の大将が戦ってるの見て、プレイヤー同士で戦ってみてぇ! ってなったんだよな』
『あのたたかいはあつかった。もえた。たぎった』
「ダリベの旦那とのPvPか。あの戦いは確かに面白かったな。俺も、次のPvPイベントに参加させてもらうか」
『親方が戦うの?』
「あったりめぇよ。戦えねぇ親方は、ただの親方さ」
『って、結局親方じゃねーか!』
「がはは!」
私たちはお互いに笑い合う。
さて、どうやら今日ログインできる人はみんな集まったみたいだね。みんな、目がキラキラと輝いてるように見えるよ。そりゃ、新しい場所ってのは興奮するもんね。私もしてる。
私は親方たちと別れて艦橋へと向かう。そう言えば、ここに来るのも久しぶりかもしれない。
艦橋へ入った私を出迎えてくれたのは、艦長席に座った美麗なエルフだった。随分と、その席に座っている姿が似合ってきた気がする。
「さぁミオン。発進と行こうじゃないか」
『この感じも久々な気がするね。さてさて。各員、確認始め!』
『魔力結晶炉、出力上昇!』
「魔力結晶炉より魔力の供給開始!」
『各機関、正常に稼動!』
『魔力結晶炉の稼動値、正常値です!』
「よし、各員に通達。これより我らが乙女が飛翔する。総員、衝撃に備えよ!」
『各部正常、問題ありません! いつでも行けます!』
『じゃあ艦長さん。後はよろしく!』
「やれやれ。そのままスラスターに火を入れて微速前進! 港を出港後、90度回頭し北を目指す!」
『港からの出港を確認。90度回頭、前進します!』
「港から離れたらスラスター出力を上昇。目的地は炎と鉄の国、サラマンドラ!」
『了解!』
そして、私たちの乗せた黄昏の戦乙女は、その翼を優雅に翻しながら、目的地へと飛び去っていくだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回は日曜日に投稿出来たら……いいですね。すみません。
続きもどうぞお楽しみください。




