第百八話 レジーナ・ストラ
おまたせしました。今回は少し長めです。
今回から新章になる予定です。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
私は翌日から親方たちと協力して、新しい形の魔機装を作ることにした。
必要な素材はクリムちゃんから貰った素材に、魔導黒銀・インゴット。魔導黒銀はまだ数ができていないので、それが揃うまでの間に設計図を完成させることに。
私が考えた新しい魔機装の形とは、用途に合わせて変形する魔機装だ。
移動に特化した飛翔形態と、戦闘に特化した強襲形態。その二つの形態を使い分ける可変魔機装を作りたい。やっぱり、可変機ってのはロマンの塊だと思うからね。
そう私が言った時の、みんなの笑みが頼もしかった。
もちろんこれは私専用に作る予定ではあるけど、機構を簡単にすればランクが下がる素材でも十分に作れるんじゃないかと私は思ってる。さすがにみんなにクリムちゃんの素材や魔導黒銀を用意しろって言っても難しいと思うしね。可変機構をオミットするか、可変機構を残したままにするのかは、親方たちの腕の見せどころなわけだけど。
形状としては、魔機人が乗り込むロボットタイプじゃなくて、魔機人がまとう武装タイプの魔機装を考えている。
これなら移動特化の飛翔形態と戦闘に特化した強襲形態を作ることも簡単なんじゃないかってね。普通にロボット作るよりも素材も少なくて済みそうだし。
攻撃用の武装は、大型のマギスティア・ライフルにマギスティア・サーベル。欠点となるチャージ時間は、大量の量産型魔導石で作った大型マギアコンデンサを使用することである程度カバーする。
ビーム系は基本光属性として扱われるから、属性鉱石を利用した属性攻撃も可能にするみたい。機構はこれから考える。
あとは物理兵装として、クリムちゃんの爪を使った強化型ソードフレンズを搭載するみたい。
あとは飛翔形態時に使う小威力のマギアバルカン砲なんかを積む予定だ。
全体的な形状として、使用する素材がクリムちゃんの素材ってことで、翼竜をモチーフにするみたい。仮決めの設計図では、小さい翼竜みたいな感じだったね。
カラーリングは、今の私の機体であるブランシュヴァリエに合わせた白系統の色で作るみたい。
細かな設計を見直しながら、できた素材で少しずつパーツを作っていく。
親方たちが本気になったおかげで必要なパーツ数が多くなっちゃったけど、その分かっこよさと性能が抜きん出てるからいいかな。私一人じゃここまでの設計図は作れなかったし。
それに、この設計図は後々簡略化させて【自由の機翼】の戦力向上に繋げるからね。ここで精細な設計図を書くことにも意味がある。
どこをどう削ってもいいのか。逆に削っちゃいけないのかは、実際に設計図を書かないと分からないからね。
なので、私の専用魔機装を作りつつ、簡略化したメンバー用の魔機装の設計図も作っていく。と言っても、ここら辺は親方たちが全部バババッとやっちゃったんだけどね。
親方曰く、設計をしてる時が一番充実してる気がする、とのこと。
そんなこんなで、魔機装本体を作り終わるまでにリアル時間で三週間が過ぎようとしていた。
私たちがものづくりをしている間に、北の玄武はカンナヅキさんたち【もふもふ帝国】と、ユージン兄さんたち【極天】が協力して倒したとのこと。
暗黒世界からの者については共有してあったので、結構な人数の死に戻りを出しながらも暗黒世界からの者を撃破。玄武を元の姿に戻すことに成功したようだ。
私がナインさんたちと朱雀を元に戻した時と同じように、玄武のいた浮遊大陸の権利は二つのギルドと、その二つのギルドに協力した小中規模のギルドが獲得したみたいだ。
玄武がいたところには豊富な食材アイテムが眠っているみたいで、地上で採れる野菜や肉、地底湖で採れる魚や海草――湖なのに海草でいいのかはさておいて――はレア度も品質も高く、その分味も効果もいいみたい。
また、東西南北全ての四神を倒したことで、中央のゴールデンマウンテンにも変化があった。
まず、採れる鉱石の品質が上がったこと。そして、採れる鉱石の種類が増えたこと。
今まで採れていた属性鉱石に加えて、少しではあるもののミスリル鉱石なども採れるようになった。ただ効率は元イベントフィールドの浮遊大陸の方がいいので、移動時間を取るか効率を取るかでプレイヤーたちの動きも変わっているようだ。
ただ、当初予想されていた四神を倒すことで中央のゴールデンマウンテンに黄龍が現れる、みたいなことは起こらなかったみたい。
ただ、意味深な名前には変わりないので、検証好きなプレイヤーたちは色々と調べているみたいだ。
とまぁ外ではそんなことが起こってたけど、私たちはそんなの知らねぇ! とばかりに魔機装製作に精を出していた。
たまに息抜きで、ギルドで使う素材を掘りにゴールデンマウンテンにやってきたくらいで、基本的に黄昏の戦乙女かガレージの中にいたんだよね。
そのおかげで、リアル時間約三週間で新しい魔機装(武装抜き)が作れたわけなんだけども。
武装が抜きな理由は、純粋に武装に使うための素材が足りないから。イベントでゲットしたボックスを持ってる人たちで魔導黒銀・インゴットを複製してたんだけど、やっぱり数が足りてない。
レア度的にも性能的にもこれを超えるインゴットはまだ見つけられてないから仕方ないんだけどね。まだ暫くは時間がかかりそうだ。
また、いくつかのギルドメンバー用の魔機装も完成している。私の魔機装と同じタイプの魔機人用魔機装に、非魔機人用の乗り込むタイプの魔機装も何種類か作られていた。
そのうちの一つがヴィーン専用の魔機装で、見た目もすごくかっこよかった。動きもよく、廉価版とは思えない性能だった。親方の凄さが留まるところを知らないね……まぁ、私のと同じく武装はお預けだったわけだけど。
ヴィーンやメンバーたちの魔機装に関しては、また改めて説明するよ。今はまだその時ではない……ってやつだね。
「おいミオン。気付けばもうver.3.0のお知らせが来てるぞ」
『えっ、嘘!?』
今日も今日とて作れていない武装部分を作ろうと集まったところで、親方が口を開いた。集まった私たちみんなで運営からのお知らせを開く。
見てみれば、今回のお知らせは動画になっているみたいで、拡大してみんなで見ることも出来そうだ。
私はお知らせを開いたあと動画をクリックして、みんなで見れるように拡大させる。
そこに映ったのは、胸のネームプレートに平田、と書かれている男性だ。
[運営からのお知らせ]
いつもFreedomFantasiaOnlineをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。広報担当、平田です。
さて、堅苦しい挨拶はここまでにして、現実時間で二週間後に行われる大規模アップデートについてお話させていただきます。
今回のアップデートでバージョンがver.2.0からver.3.0となり、新たな要素が追加となります。
大きな要素の一つとして、新たな浮遊大陸の追加です。大小様々な浮遊大陸が追加されますが、その中でも一番の目玉が、三大国家の治める浮遊大陸ですね。
今まで出てきた浮遊大陸には町はあれど国はなかった。しかし、今度追加される浮遊大陸にはなんと国が存在します。
一つの浮遊大陸に三つの国家がそれぞれの領土、領空を持っています。さきほどは大小様々な浮遊大陸と言いましたが、その中には国が所有している浮遊大陸もあるでしょう。
その国が所有している浮遊大陸に入るためには、その国の許可が必要です。
ではどのようにして国から許可を得るか。それは、その国の所属になること。
ver.3.0では、各プレイヤーの皆様には三つの国家のいずれかに属してもらい、その国の領土領空内で冒険していただきます。
もちろん、他国家の領土に赴くことも可能です。役所で手続きをして関所を通る……まぁ、パスポート作って海外に行くみたいな感じですね。ただし、自分が所属していない国家での行動は結構制限されるので、自分がどの国家に所属するのかはよく考えた方がいいですね。
もしかしたら、自分の行動で国家の運命が変わってしまうかも……しれませんね?
ではここで、三大国家について軽く触れておきます。
詳しいことはゲーム内で調べていただきたいので、どんな国家があるのかくらいの説明になりますね。
新しい浮遊大陸、第三の浮遊大陸を治めている三つの国家。
一つ目が、炎と鉄の国、サラマンドラ。鍛冶技術の高さが有名な国ですね。NPCのお店に並んでいる鍛冶製品の半分は、このサラマンドラ製のものになります。
二つ目が、水と糸の国、ウンディネス。裁縫技術の高さが有名な国で、NPCのお店に並んでいる裁縫製品の半分がウンディネス製のものになりますね。
三つ目が、風と木の国、シルフィード。木工技術の高さが有名な国で、NPCのお店に並んでいる木工製品の半分がシルフィード製のものになります。
こんな感じで、三つの国家にはそれぞれ特色があります。これ以上の情報に関しては、頑張ってゲーム内で探してみてください。本や人々の噂話なんかで、それぞれの国がどんな国が分かるようになっていますので。
それ以外の細かなアップデートの内容については、アップデート一週間前に改めてお知らせいたしますので、その時をお待ちください。
あとは、ver.3.0公開後に第三陣がやってきます。大々的なキャンペーンなどは行いませんが、新たにこの世界にやってくる同胞には優しくしてくださいね。あまり行き過ぎた行いをしているようなら、アカウント停止処分もありますので。
ああ、それと、次のイベントは待ちに待ったPvP……つまり、プレイヤーとプレイヤーが戦う舞台を用意しています。
詳しい内容に関してはイベント前にお伝えいたしますので、その時をお待ちください。
……あ、もう時間ですか。そうですか。
えー、長々と語ってしまいましたが、ver.3.0では様々なファンタジーがプレイヤーの皆様方を待っています。この自由な世界をどう楽しむのか、それはプレイヤーの皆様次第です。
どうか、実りある選択を。今回のお知らせは広報担当の一人、平田がお送りいたしました。それでは、よきフリーダムライフをお送りください!
流れていた動画が止まり、元の大きさへと戻っていく。
私がウィンドウを閉じると、周りのギルドメンバーたちはそれぞれ堰を切ったように話し始めた。
『おいおい聞いたかよ今の!』
「いやみんなで見てたから聞いてたって!」
「色々気になる情報があったなぁ!」
「国家……一体どんなところなんだろう……」
『炎と鉄、水と糸、風と木……くぅ、燃えてきた!』
「「『『まぁそれはそれとして、魔機装作っていくか!!!!!!!!!』』」」
うん、どんな時でもブレない君たちが私は大好きだよ。
確かにver.3.0やPvPイベントは気になるけど、まずはこいつを完成させないとね。
「あ、そう言えばギルマスー。この専用機って名前あるの?」
『んー、いや、名前はまだ決めてないよ?』
「なら、本体ができあがったことだし決めちゃわない? 名は体を表すって言うし、ブランシュヴァリエみたいなかっこいい名前をつけてあげたいじゃん」
『さんせー!』
「よっし、ミオン。そうと決まればみんなで名前を決めるぞ!」
「「『『おー!!!!!』』」」
うん、もう少しブレてもいいかもしれないね。
しかし、この魔機装の名前かぁ。一体どんなのがいいかな?
クリムちゃんの素材を主に使ってるから、かっこ悪い名前にはしたくないよね。
「滅神機姫の駆る機体だからなぁ。下手な名前は付けられねぇぞ?」
『いっそのことプリンセスからクイーンに変えちまうか?』
『なら、クイーン……いやクイーンだとなんかな……』
「それなら、レジーナってのはどうだ? ラテン語で女王って意味なんだが」
『いいねいいね! じゃあ、女王の……ティアラ?』
「レジーナ・ティアラ……んぅ、なんか違うな」
『身にまとうものなんだから、ストラってのは? レジーナに合わせてラテン語でドレスって意味だ』
「レジーナ・ストラ……いい響きじゃねぇか」
「女王のドレスってんじゃ味気ないから、文字を当てるとしたら竜機女王の魔装って感じになるのか」
「なんか、姫から女王にランクアップしてより強そうになったな」
『クリムちゃんの竜が入ってるのも高得点だ』
『ってことで、ギルマスの専用機の名前はレジーナ・ストラがいいと思うんだけど……ギルマスはどう思う?』
『え、あ、うん。そうだね……』
こういう時の連携は本当にいいんだよねぇ……。
んー、でもまぁ、レジーナ・ストラかぁ。普通にかっこいいし、なんかそれっぽいし、私としてもアリな名前だ。
ブランシュヴァリエ-レジーナ・ストラ-……うん、いい響き。気に入った。
『うん。私もいいと思う!』
「っしゃ! じゃあこいつの名前は、今日からレジーナ・ストラだ!」
「量産型レジーナ・ストラの名前はどうする?」
『さすがにそのまま竜機女王の魔装って名前を使うわけにもな』
「兵士……ソルジャー?」
「ラテン語だとミーレスだったか」
『やけにラテン語を推すな? しかし、響きはかっこいいな……』
「ミーレス……なんだ?」
『ドレスじゃおかしいだろ』
「鎧? アーマー、メイル、プレート……」
「出番だぞラテン語博士」
「博士ってほど知ってるわけじゃないんだけどな。創作に使えそうだったから覚えてただけで。っと、鎧だったか。確か……アルマだ」
『ミーレス・アルマか』
「それっぽくていいじゃねぇの」
「量産型ならルビは考えなくていいな」
『んじゃ、量産型レジーナ・ストラは、ミーレス・アルマに決定ってことで』
「「『『異議なし』』」」
こうして、【自由の機翼】に配備されることになる魔機装シリーズの名前が、ミーレス・アルマに決定した。私自身かっこいい名前だと思ってるし、ロボットっぽい名前は大歓迎だ。
さて、バージョンアップまで残り二週間。レジーナ・ストラは完成させることができるのかな……?
「量産型はやっぱ整備性と拡張性を追求するべきだろ?」
『それは分かるが、既に本体はある程度完成してるしなぁ』
「今からでも、改良できるところは改良しておくべきか。幸い、まだ武装には手をつけてねぇしな」
『親方……言いづらいんですけどね、既に結構やることが溜まっちゃってるんですけど……』
「うるせぇ! 生産職が作りてぇ物作ってなにが悪い! そっちもちゃんと片付けるが、こっちもこっちで大事だろうが!」
『……っ、そうでした! 自分が浅はかでした!』
「いいかお前ら! 鉱石に逢うては鉱石を掘り! インゴットに逢うてはそのインゴットを作る! 掘りたいから掘り、作りたいから作る!』
「「『『俺たちに大義名分などないのさ!』』」」
『……ま、みんなとなら、大丈夫かな』
そのセリフは、もう少しかっこいい感じに言ってほしかったけどね。それじゃあただの鍛冶職人だから……。
やいのやいの言い合うギルドメンバーたちを横目に見ながら、私はレジーナ・ストラに取り付ける武装の設計図を引いていく。
今日も今日とて、整備班の工房は騒がしい。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




