第百七話 新たな隣人
続きです。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
第二の浮遊大陸に戻った私たちは、ギルドハウスの転移ポータルを経由して黄昏の戦乙女へと戻っていた。
私と一緒にポータルを通り抜けてきたグレモリーを見たみんなは驚いていたけど、彼女が悪魔であり、色々あって今は仲間になったことを伝えると、これからよろしくと挨拶を交わしていく。
それどころか、グレモリーのために作った身体をジロジロと観察し始めたり、ぺたぺたと直接彼女の身体に触れるメンバーの姿も。
最初はどう対応したらいいか分からなさそうだったグレモリーも、段々とここの空気に慣れてきたようで、どさくさに紛れてお尻を触ろうとしていた女性プレイヤーを綺麗なフォームの回し蹴りで撃退していた。
あ、男性プレイヤーはさすがにそんなことはしてないよ。直接的な手段に出てるのは全員女性プレイヤーだ。
楽しそうにしているみんなを尻目に、私は転移ポータルの接続を追加していく。
えっと、クリムちゃんのホームのポータルとここを繋げて……よしっと。これで、向こうからこっちに来ることができるようになったね。
『ふぅ』
「よぅ、ミオン。転移ポータルなんか弄ってどうしたんだ?」
『ん、親方』
私がポータルの接続を終わらせて一息ついたところで、グレモリーを遠巻きから見ていた親方が私のところにやってくる。
『新しい接続先を増やしてたんだよ。グレモリーの他にも、あるNPCと……ある人となかよくなってね』
「なるほどなぁ。こっちに遊びに来るのか?」
『来ると思う……ってか、確実に来るね。これから向こうに飛んでポータルが使えるようになったことを伝えてくるよ』
「そうか。じゃあ連れてきたら紹介してくれ」
『はいはい。っと、そうだ。この後……じゃ、時間が足りないか。リアル時間で明日の夕方辺りって暇だったりする?』
「ん、そうだなぁ。そのくらいの時間なら日課の《鍛冶》スキル上げでもしてると思うが、なんかあるのか?」
『ちょっと協力してほしいことがね。できるなら、親方と数人の力は借りたいかな』
私がそう言った瞬間、親方の雰囲気が変わった。
強面な顔ににんまりとした笑みを浮かべて喜色を表している。正直、ちょっと怖い。
「へぇ。またなんか大きなものでも作ろうってか? いいじゃねぇか。楽しみにしてるぜ」
『作るのはまだ先なんだけどね。私の《製図》スキルだとまだ正確な設計図を作るのは難しいから、親方たちに協力してもらおうと思って』
「設計図が必要って言ったら……おいおい、とうとう作る気かよ」
『ふふっ。今日、いい素材が偶然手に入ってね。ボックスで増やしてるインゴットの数が揃うまでに、ちゃんとした設計図を作っておこうとね』
「分かった。こっちでもめぼしいやつに声掛けとく……おっと、そうだった。カノンとクラリスだが、しばらく外で活動するって言ってたぜ。次ミオンに会った時に驚かせてやる、って二人とも息巻いてた」
『そりゃ楽しみだね。じゃ、頼んだよ』
「おう、頼まれた」
親方との会話を切り上げた私はポータルに触れ、転移先をクリムちゃんのホームに設定して起動させる。
すると視界が瞬時に切り替わり、黄昏の戦乙女にいた私は特異浮遊大陸のクリムちゃんのホームの中、転移ポータルの前に立っていた。
私の目の前には、「ほぅほぅほぅ」と何度も頷くクリムちゃんの姿があった。頭の動きに合わせて踊るツインテールが可愛い。
ちらっと見てみたところ、ルドちゃんの姿はなさそうだ。ほっ。
「お主がそこから出てきたということは、ぽーたるとやらは繋がったのかの?」
『うん。これでいつでも私たちのギルドホームであり機動戦艦である黄昏の戦乙女に来れるよ』
「ほぅ、黄昏の戦乙女とな。かっこいい名前じゃのぅ。心が滾るわ」
『喜んでもらえたならなによりです。じゃあ早速で悪いんだけど、ギルドのみんなにクリムちゃんのことを紹介したいからついてきてくれる?』
「うむ。これからはわらわの隣人になるからの。きちんと挨拶はせねばなるまいて」
待ちきれないとばかりに身体を揺すってツインテールを踊らせてるクリムちゃんに、ふふっと笑いそうになる。こういうところは見た目相応なのに、本来の姿は下手な竜よりも上位の上位翼竜なんだもんね。まさにファンタジー。
不慣れな手つきのクリムちゃんをサポートしつつ、私たちは黄昏の戦乙女に帰ってきた。
戻ってくる私たちを待っていたのか、転移してきた私たちの前には親方を含めた数人のプレイヤーが立っている。
「へぇ、その子がミオンの言ってたなかよくなったってやつか。俺は親方ってんだ。よろしくな、嬢ちゃん」
「うむ。親方だな。覚えたぞ。わらわは上位翼竜、紅蒼翼竜のクリムじゃ。氷焔の翼竜女帝とも呼ばれておる。これから隣人になる間柄じゃ。気軽にクリムちゃんと呼んでくれて構わないのでな。こちらこそ、よろしくの」
親方が自己紹介しながら差し出した手を、グリムちゃんも自己紹介をしながら握り返した。なまじクリムちゃんがちっちゃいから、体格差でお父さんと娘みたいになってるのが面白い。
クリムちゃんの自己紹介を聞いた親方はビクッ、と身体が跳ねた。顔には笑みを浮かべたままだけど、私に視線を向けてどういうことだと聞いているようだった。あはは、さすがにビックリするよね。
『はい、というわけでこれからはクリムちゃんが【自由の機翼】に遊びに来るから、なかよくしてあげてね。あと今日はいないけど、人形のような女の子のルドって子もたまに遊びに来るから、なかよくするのはいいけどいじめないでね?』
「いじめるかよ。ったく、なかよくなった人がいるって聞いてみれば上位翼竜だとはなぁ。さすがはミオン、ってところか?」
『むぅ。なんだろう、褒められてる気がしない……』
「ははは! さて、クリムの嬢ちゃんにこの戦艦のことを教えといて置かねぇとな。てめぇら、ちゃんと自己紹介しろよ!」
「大丈夫ですよ!」『うーん、可愛い。百点』『ロリキャラ……もしかして、キャラかぶった?』『安心しろアイ。お前とはかぶってねぇから』「ツインテールってのがいいよな。ビバツインテール」
どうやらみんなも、クリムちゃんと仲良くしてくれるみたいでよかった。よかったんだけど、クリムちゃんより前にもみくちゃにされてたグレモリーはどこに?
ふらふらとグレモリーを探していると、片腕を巨大なら砲塔に改造している魔機人のギルドメンバーが話しかけてくる。
『あ、ギルマス。グレモリーなら話の合う数人と一緒にガレージに入っていきましたよ。なんでも、これ以上ギルマスに頼らずに戦えるようになりたいだとかなんとか』
『そうなんだ……ふふ、ありがと。教えてくれて』
『いえいえ。あ、そう言えば聞きました? もうそろそろver.3.0が公開されるかもしれないって話』
『ううん。二回目のイベントが終わったばっかなのに、もう次の大型アップデートなんだね』
『どれくらい後になるかはまだ公開されてないんですけどね。いやぁ、楽しみですね! 新しい浮遊大陸に新しい素材! 私も新しい武装を作るために日々努力してますから!』
『みたいだね。その砲塔は前は付けてなかったと思うけど、新しい武装?』
『はいっ! 第二回のイベントで火力不足を実感しまして、自分の持てる技術を詰め込んで作り上げた腕部用換装砲塔、ネガオーバードキャノンです! 第一回イベントの時のギルマスのマギスティアモードを参考にして作ったんですよ!』
『ほうほう!』
『あ、ギルマス! 僕の武装も見てください!』
『私も私も!』
それから何人かのギルドメンバーと武装談義に花を咲かせ、時間がやってきたのでログアウト。ご飯を食べて明日の学校の準備を終わらせて就寝する。
明日からはクリムちゃんから貰った素材を使った新しい魔機装作りが始まる……くぅ、興奮して眠れないよ。
このまま寝れないと明日の学校とフリファンに支障が出るかもしれないから、無理矢理にでも瞼を閉じて寝る体勢になる。
目を瞑ってベッドに潜り込み、どこからともなくやってきた睡魔にその身を委ねるのだった。
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