第百六話 ファンを名乗る神(AI)
久しぶりの投稿になります。すみません。
なるべく投稿時間は守っていきたいと思ってはいるのですが……。
それでは引き続き本作品をよろしくお願いします!
『……はい?』
えっと、今この人なんて言ったの?
ぽかんと口を開けた私は、目の前のクリムちゃんと、布を纏った姿の少女を見る。
透き通るようなさらさらの銀髪。炎のように揺らめく紅の瞳。少しばかり朱のさしたもちもちの頬。そして、薄手の布で隠しきれないほどの豊満なお乳……って、これ以上はいけない! なんだかいけない道に進んでしまう気がする!
私はブンブンと頭を振って煩悩を捨て去り、改めてルドと名乗った女の子を確認した。
……うん、文句なしの美少女。いや、ゲームだからキャラクリエイトを頑張ればこのレベルのアバターを作ることも難しくはないと思うんだけど……何時間、何十時間使えばここまでのアバターを作り出せるんだろうか。
それに、ちらちらと見えているルドちゃんの関節が、人形とかに使われている球体関節なのが気になった。つまり、この身体は生身じゃないってことだよね。カテゴリとしては、私たち魔機人と同じ?
「驚くのも無理はないがのぅ。このお方がお主に会いたいとうるさくての。本当なら別の用事でお主を呼んでいたのじゃが……」
「セイリュウオーや……えっと、うんと、あー……ウン・エーから話は色々と聞いてい、ます。一度会いたいと、思っていました」
『セイリュウオーさんのこと知ってるの!?』
「はい。何度か話し相手になってもらっています」
にへら、とぎこちなく笑うルドちゃん。うん、可愛い。身体付きは大人な感じだけど、表情はあどけないというか、成長途中というか、無垢な子供みたいな感じでそのギャップがたまらない。
っと、話を戻そう。セイリュウオーさんから私の話を聞いてるっていうのは、まぁまだ分かる。どこでどうやって話してたんだって疑問はあるけど……それよりも、ウン・エーって……どう考えても運営だよね?
てことは、このルドちゃんは運営側の人間……人間?
なんだろう、この違和感。人間っぽい感じもするんだけど、どこか違うような……そう、このゲームのNPCみたいな感じって言えばいいのかな。
人間味が溢れてて、本当の人間と遜色ない思考ができるAI……みたいな?
クリムちゃんがこの世界の真の神って言ったのも、そこが関係してるのかも。例えば、このゲームの運営の一部をAIに任せてるとしたら、クリムちゃんが神って言ったのにも頷ける。
で、もしそうだと仮定して。
わざわざ私に会いに来る理由が分からないというか……なぜに? って感じだよね。
あー、頭がパンクしそう……とりあえずグレモリーに話を……グレモリー?
『あばばばばばばばばば』
ダメだこいつ、フリーズしてやがる……っ!
うう……ダメだ、私も混乱してきた。とりあえず、私はなにをしたらいいの? 話し相手になればいい感じなのかな?
私は内心で苦笑いを浮かべながら、クリムちゃんとルドちゃんに話しかける。
『それで、私になにか用でもある感じ……ですか?』
「わらわの方の用事は、あまり大したことはないの。いべんととやらで活躍した褒美と、あとは悪魔を黒の呪いから解放してくれた祝いくらいじゃ」
「私は、機姫ミオンとお話が、してみたかったんです」
『……なるほど。あ、ならルド……ルドちゃんでいいかな?』
「はい」
「本来なら不敬であると言いたいところじゃが……本神がよしとしているならよいじゃろう」
『私のことは機姫とか付けなくてなくて、普通にミオンでいいよ』
「そんな……恐れ多い、です」
『私としてはそっちの方が恐れ多いですからね! ほんと、頼みますよ!?』
「は、はい。では、ミオンさん、と……」
『ん、んー、まぁ、そっちの方がマシかな……』
なんだろう、今のやり取りだけでどっと疲れた気がする……別に、ルドちゃんが悪いわけじゃないんだけど……うん。
っていうか、ルドちゃんはここにいてもいいんだろうか。運営の人が探してたり……?
チラッとクリムちゃんの方を向くと、苦笑いで返された。ああ、無断でこっちに来てるのね、ルドちゃんは……。
いやでも、もしかしたら許可を取って来てるかもしれないし、確認だけしておこうかな。
『で、ルドちゃんはここに来ても大丈夫なの? 許可とか必要だったんじゃない?』
「はい。本当はウン・エーが連れてきてくれる予定だったんですが、どれだけお願いしても一向に連れてきてくれないので、自力で来ちゃい、ました」
そう、満面の笑みで言うルドちゃん。
そっかーーー! 来ちゃったかーーー!
ああ、これ大丈夫だよね……? 大事なAIを連れ出したってことでアカウント停止とかならないよね……? 私、なにもしてないもんね?
クリムちゃん、その、「うんうん、お主のその気持ち分かるよ?」みたいな感じで何度も頷くのやめてもらえないですかね? まるで他人事みたいに……いや、他人事なのか。いやでも、元はと言えばクリムちゃんがルドちゃんを招き入れなきゃよかっただけの……うん、無理だね。こんな可愛い神様を拒絶できるわけないよね、知ってた。
で、グレモリーはいつまでフリーズしてるんだろうか……本当にこのグレモリーは私たちが激戦の後に倒したグレモリーなんだろうか。いや、黒の呪い……暗黒世界からの者の魔力に侵されてたってのは分かってるんだけどね?
もう少ししゃんとしてほしいというか、なんというか。
私は内心のため息を漏らさないようにして、ルドちゃんとの会話に戻る。
『それで、ルドちゃんは私とどんな話をしたかったの?』
「そうですね……聞きたいことはいっぱいあった、はずなんですけど、こう、目の前にすると、なんというか……言葉が出ません」
あー! ズルいです、それ! 瞳をうるうるさせてそんなこと言われたらもう文句なんて言えないじゃないですか!
ルドちゃんの可愛さに悶えそうになっていると、横からクリムちゃんが咳払いをして会話に入ってくる。
「ルド様。よろしければわらわの用事を終わらせてしまいたいのですが……」
「ああ、ごめんなさい。クリムの用事に、割り込んでしまって。私はミオンさんに会えて、話して、満足できました。あとは、後ろで見ていますね」
と、ルドちゃんと入れ替わる形でクリムちゃんが私の元へとやってくる。
えっと、クリムちゃんの用事は……そうそう、ご褒美だっけ? 一体なにがもらえるんだろうなぁ。
上位竜種ってくらいだから、それなりの素材は期待してもいいんだろうか?
そんな風にワクワクしながら待っていると、私の方に伸ばしたクリムちゃんの手のひらの上に、一枚の大きな鱗……竜鱗が現れた。
クリムちゃんはそれを穴が空くんじゃないかと思うくらいに確認し、私に手渡してきた。
「わらわの鱗じゃ。今は一枚に見えるかもしれんが、いんべんとりとやらに入れればちゃんとした個数で表示されるから安心せい」
『あ、ありがとうございます!』
私は待ちきれないとばかりに鱗を受け取り、インベントリの中へと収納する。そこには、[氷焔の翼竜女帝の鱗×30]と表示されていた。
こ、これは、想像以上の素材アイテムをもらってしまったのでは……? 明らかに、現時点で手に入るアイテムとは思えないんですが。
それに、種族名じゃなくて二つ名で書かれてるってことは、つまり目の前のクリムちゃんからしか取れない素材なわけで……目の前の女の子を素材のために倒せるかと言われれば、無理なわけで。
レアどころか、ユニークと言っても差し支えないレベルのアイテムを貰ってしまった。
ああ、ソロでダンジョンを攻略して魔導石をインベントリの中に入れてる時のあの気持ちを思い出す……! つまり、早くガレージの倉庫に入れて保管したい!
「それと……あとはこれとこれかの?」
『へ?』
思わず差し出されたアイテムを受け取り、インベントリの中へと入れてしまう。くっ、慣れた動作だから無意識のうちにやってしまった……!
鱗だけでもめちゃくちゃなアイテムなのに、他にもくれるんですかっと……うえぇ!?
『ちょ、これ!』
「そっちは悪魔を解放してくれた祝いじゃよ。まさか、こんなに早く呪いが解けた悪魔が現れるとは思ってなかったものでの」
いやいやいや! 労力と報酬が釣り合ってないですって!
悪魔の解放なんて、ボコボコにして貢献度報酬でアイテム貰って、それを使って召喚契約するだけですよ!?
それだけで、[氷焔の翼竜女帝の爪×20][氷焔の翼竜女帝の翼膜×15]なんてアイテムをもらうのは……いや、もらえるものはもらっておきますけど。
「とまぁ、わらわからの用事はそんなもの……っと、そうじゃ。忘れおった。この部屋とお主のほーむを繋いではくれんかの? わらわもずっとここにいるのは退屈でのぅ。ぽーたるとやらを設置すればよいのじゃろう?」
『へ? まぁ、転移ポータルが置けるなら大丈夫ですけど』
「ルド様や。この部屋はその、てんいぽーたるとやらは置けるかの?」
「はい。クリムの部屋はハウジング可能なので、転移ポータルも置くことが可能です」
『あ、ハウジング可能なんだこの部屋』
「そうと決まれば早速、てんいぽーたるとやらを置いてほしいのじゃ!」
クリムちゃんがそう言うと、目の前に半透明のメッセージウィンドウが現れる。えっと、[クリムからハウジングメニューの操作権を移譲されました。使用しますか?]……はいはい、もうこれくらいじゃ驚きませんよっと。
私ははいをタッチして、ハウジングメニューを開く。どうやら使用するお金はクリムちゃんの手持ちかららしく、その桁数がとんでもないことになっている。まぁ、とりあえず転移ポータルを買いますか。
クリムちゃんの部屋の奥を指定し、転移ポータルを設置する。ただ、このままだとただの置物になってしまうので、黄昏の戦乙女に戻ってポータルの設定を済ませないといけない。
私はそのことをクリムちゃんに伝えると、「ならばさっさとすませてほしいのじゃ」と、興奮気味に言われてしまった。
『……はっ、私は今までなにを?』
『おかえり。じゃ、そろそろ私たちは戻るけど……大丈夫?』
「はい。今日は、ありがとうございました」
ぺこり、と頭を下げるルドちゃんに、私は苦笑いしながら返す。
『うん、まぁ、今度からはちゃんと許可を取ってから来てね。その、怒られちゃうと思うから』
主に私が……いや、怒られるって決まったわけじゃないんだけどね。その、私の精神衛生上というか、なんというか。
分かりました、とぎこちない笑みを浮かべながら私たちを見送ってくれるルドちゃん。
『またね』
「はい、また」
「ぽーたるの設置を待っておるからの〜」
『分かりました。それでは』
その場でぽかんとしているグレモリーを引きずって、『え?』私はクリムちゃんの部屋を『あの』出ていく。
そのまま洞窟の外に出て、『ちょっ』グレモリーの腕を掴んだまま結晶翼を展開して、『すみませーん』この浮遊大陸から第二の浮遊大陸へと戻るルートに向けて飛翔する。
『ぎゃあああああああ!?』
『ほらほら、もっと速度上げていくよ!』
『ちょっ、待って、待ってください〜!』
『クリムちゃんに急かされてるからね。急いで戻らないと』
『いーーーーーーやーーーーーー!』
蒼空に響き渡るグレモリーの絶叫を聞き流しながら、私は空を飛び続けた。
クリムちゃんからもらったアイテムで、色々作れそうだけど……これだけのアイテムがあれば、強化外装なんかも作れちゃいそうだ。まぁ、魔導黒銀・インゴットをボックスで増やしてからになりそうだけどね。
それにしても、ルドちゃんか……あの子とは、これから先何度も会うような、そんな予感がしてる。
クリムちゃんの部屋にポータルを繋げたら、そのままこっちに来ちゃったりして……まさか、ね。
そんな一抹の不安を胸に、私は第二の浮遊大陸へと向かっていく。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
恐らく運営側のお話をしてから次の章に移る予定です。
あくまでも予定なので、どうなるかは書いてみないと分からないって感じですかね……。
えー、それでは、続きもどうぞお楽しみください!




