第百五話 クリムとファン
2回ぶりの更新ですね……遅れてしまい申し訳ありません。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
『ひゃあああああああ!?』
『ちょ、悪魔のあなたがなんでそんなに高いところを怖がってるんです!?』
『わっ、私は別に高いところが怖いんじゃ――速い速いぃぃぃっ!?』
『だって仕方ないじゃないですか! あなたの速さに合わせてたら時間が足りませんよ!?』
『ひゃう……そうだ! あ、あなた変形できたよね!? 私が乗っかれるように変形してよ!』
『残念ながらブランシュヴァリエには変形機構は搭載してません!』
『そんなぁ〜!』
無事にグレモリーを機械の身体に召喚することに成功した私は、結晶翼を翻し、山脈区域の奥地へと向かっていた。
え? 飛行練習も兼ねて飛んでいくのはどうしたのかって?
あー、うん。その、私の思った以上に、ブランシュヴァリエとデビルロイドに性能差があったみたい。
機械の身体に慣れてないっていうのと、飛行速度の遅さがね……練習はまた今度にして、今は速さを優先してる感じ。
最初は背中におぶって行こうと思ったんだけど、それだと結晶翼と干渉しちゃうみたいで上手く飛べなかったんだよね。
で、色々試した結果私の足にグレモリーがしがみついて飛んでいくって形になったんだ。
誤算だったのが、グレモリーが高度と速度に慣れてなくて絶叫してるってところかな。
こんなに景色は綺麗なのに……。
『どんなに綺麗な景色でも、見る余裕がなければ意味ないんですけど!』
『そっか! なら早くクリムちゃんのところに着くように急ぐね!』
『あ、え、ちょっと待ってこれ以上速度を上げるのは私的にキツいっていうかできればもう少しゆっくり進んでもらえると助かるっていうか悪魔の話聞いぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?』
私は数分間その速度を維持して、グリムちゃんの住む山脈区域の奥地にたどり着いた。
私が速度を落として地面に着地すると、どさりとグレモリーが尻もちをつく。機械の身体のはずなのに、その表情はなぜか青く見えた。
『やっと、地上、だ……』
『……少し休憩しようか』
さすがに私も、ここまでグレモリーがグロッキーになるとは思ってなかった。でも、これから先もっと速く移動したり、もっと高いところに行く可能性もあるしなぁ。
うん、私に召喚されたのが運の尽きだと思ってもらうしかないかな。その分、デビルロイドの性能はきちんと上げるつもりだしね。
今はいい素材がないからある程度のスペックしかないけど、素材が集まればブランシュヴァリエ以上のスペックにできるかもしれないし。
グレモリーが落ち着くのを待っている間、私は周辺の岩場を確認する。
前に来た時は、ここでミスリルやブラックミスリルとかを手に入れたんだよね。いや、ブラックミスリルはこの辺りからちょっと離れた山だったかな。
でもミスリルなんかはかなりの量が掘れたっけ。えっと、採掘ポイントは……この辺りの岩場にはなさそうだ。
『……そういえば、ここに来るまでに翼竜の姿を見かけなかったね。どこかに移動しちゃったのかな。まぁ、イベントの最後には助けられたし、狩る気もなかったからいいんだけどね』
『うっぷ……ふぅ。翼竜は本来、臆病なモンスターなの』
『臆病?』
さっきまで座り込んでいたグレモリーが、私の隣に立つ。どうやら落ち着いたみたいだ。
私の投げた質問に、グレモリーは虚空を見ながら答える。
『そう。ただ、たまにある上位種に率いられてる群れとかだと、好戦的になることが多いわ。多分、気持ちが大きくなってるんでしょうね。虎の威を借る狐……みたいな感じ?』
『それもDDBの情報?』
『当たり。ま、この辺りの翼竜がやたらと好戦的だったのは、クリムちゃん様……紅蒼翼竜、上位翼竜【氷焔の翼竜女帝】の庇護下にあったからって感じかな』
『ふむふむ』
『それで……あの洞窟がそうなの?』
グレモリーが指さす先。そこにぽっかりと大きな口を開けている巨大な洞窟だ。
『うん。イベントの時にあそこの奥でクリムちゃんと会ったんだ。その時に言われたんだよね、元の世界でここに来いって』
『ふぅん……それって、私が一緒に来てもよかったの?』
『クリムちゃんにはなるべく一人で来てくれって言われたけど……今のグレモリーは私の一部みたいなものだから、大丈夫だとは思う』
『はぁ。ま、ここまで来たらもうなるようにしかならないか……マスター、いざと言う時は守ってくださいよ?』
『守ってって……クリムちゃんには襲われないと思うけどなぁ。まぁ、了解』
『絶対ですよ! 絶対ですからね!』
何度も念押ししてくるグレモリーをあしらいつつ、私は洞窟に向かって足を進める。
グレモリーも観念したのか、ぶつぶつ文句を言いつつも私の後ろについてきてくれているようだ。
この洞窟には一度足を踏み入れているので、迷うことはない。壁面にずらりと等間隔に並ぶ松明の明かりを頼りに、私たちは奥へと突き進んでいく。
やがて洞窟の中でも一際大きな空間に出る。あまりの広さに、《遠視》スキルを使わないと端が見通せないほどだ。
私は注意深く周囲を《遠視》スキルで確認しながら、奥へと進む。
どうやら今回はクリムちゃんのお出迎えはないらしい。ビクビクしているグレモリーと共に、この大部屋の奥の方まで歩いた。
すぐに壁際までたどり着き、私はゴツゴツとした岩でできた壁面を確認する。
えっと、確かここら辺に隠し扉があったような……うーん、見た目じゃ全然分からないな。ただの岩でできた壁面にしか見えない。
さてどうしようかと目の前の岩に触れていると、不意にその岩が音を立ててスライドしていく。
そして、聞き覚えのある女の子の声が聞こえてきた。
「ふわぁ。なんじゃ、一体。ここが紅蒼翼竜、クリムの住処だと知って……おや、お主はいつぞやの」
クリムちゃんは寝ぼけまなこを擦りつつ、欠伸をしながら隠し扉から出てきた。着ている服は寝巻きのようで、赤と青の二色のパジャマ姿だ。
『久しぶり、クリムちゃん』
「おお、やはりお主であったか。見た目が変わっていたから一瞬誰かと思ったぞ。む、後ろのそやつは……ほほう」
クリムちゃんは可愛らしいパジャマ姿のまま、私の後ろに控えるグレモリーに近付いて行った。
自らが恐れている上位翼竜に興味を持たれたからか、グレモリーの肩がぴくりと跳ねる。
グリムちゃんはグレモリーの身体をジロジロと見回すと、とてとてと私の前まで戻ってきた。
さっきまでのおねむなクリムちゃんではなく、真剣な表情でグレモリーを見ているようだ。
「黒の呪いが解かれておる……ふむ、つまり元の在り方に戻ったと言うことか……」
クリムちゃんは顎に手を置き、ぶつぶつとなにかを呟いている。うっすらと聞こえてきた黒の呪いという言葉。これはやっぱり、暗黒世界からの者の放つ魔力のことを指しているのかな。
「なれば……それをなしとげたこやつに、あれを託すべきかのぅ……?」
クリムちゃんはまだ、思考の世界から帰ってきてはないようだ。
私は仕方ないとばかりに肩を竦めて、適当なところに椅子を出して座ることにした。もちろんグレモリーの分も出してあげたよ。
しばらくぶつぶつと呟いていたクリムちゃんは、ハッと顔を上げて私たちを見た。
「いやぁ、すまんのぅ。わらわは考えごとを始めると周りが見えなくなってしまうようじゃ」
『大丈夫ですよ。それで、私を呼んだ理由ってなんです?』
「ああ、そのことじゃがのぅ。とりあえず、わらわの部屋に来てくれんかの。このままここで話す話でもなかろうて」
『ありがとうございます。じゃあ、お邪魔します』
『……お邪魔します』
椅子をそれぞれインベントリにしまい、私たちはグリムちゃんの後に続き隠し扉の先へと歩みを進める。
私たちが中の通路に入った途端、背後の岩が動いて入り口を隠していく。
どうやらこの通路には松明のような明かりはないらしく、魔機人の暗視機能を使ってクリムちゃんの後を遅れずについて行った。
しばらく進むと、通路の奥に扉が見えてくる。その扉からは、うっすらと明かりの光が漏れていた。
『詳しい話は、中でしようかの。ようこそ、わらわの部屋へ』
クリムちゃんはドアノブのついていないドアに手をかざし、ドアはピピッという音を立てて開いていく。
それはまるで、なにかを認証した時の音のようで。
こちらを振り返ってにんまりと笑うクリムちゃんの笑顔が、妙に頭に残った。
そして、すたすたと歩いていくクリムちゃんに続いて私たちは部屋の中へと入り――
「まずは彼女を紹介しようかの。彼女は、この世界で最も尊きお方。この世界における、真の神とも呼ぶべき存在じゃ」
「初めまして、機姫ミオン。私は……ルド。あなたの、ファン、です」
『……はいぃ!?』
――薄手の布を纏った、私のファンだという神さまと出会った。
えっと……これは、どういうことなの?
どうやら、とんでもないことが起きているのは間違いないみたいだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




