第百二話 特異浮遊大陸-シンギュラー・ファンタジア-
続きです。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
ナインさんたちと別れ、マップとにらめっこしながら飛ぶこと少し。
消費したENを《自動供給》で回復させながら、私は南の港町、レッドハーバーへと戻っていた。
いやー、改めてこの機体の性能の高さにびっくりだよ。前のブラッドライン・フリューゲルの飛行形態でも、ここまでの距離を飛び切るのは不可能なはずだからね。
本来の魔機人の性能をひしひしと感じる。あ、でもブランシュヴァリエは結構な魔改造をしてるから、本来の魔機人とも呼べないね。
港町へ戻ったあとは安全な場所で一時ログアウトして、再びログイン。
ギルドのメンバーから来てた要望やメッセージに返信しつつ、ナインさんから貰ったマップデータと、追加で来ていたメッセージを確認する。
ふむふむ、名前は特異浮遊大陸で、訪れるプレイヤーによっていくつかのサーバーに振り分けられると。これは、イベントで参加していたそれぞれのサーバーごとに分けられるみたいだね。
採取ポイントなどはイベントの時と変わらないけど、レイドボスの配下だったモンスターはいなくなっている。
ほら、あの蟻だったり蜘蛛熊だったり。
で、私がその特異浮遊大陸でやるべきことは、主に二つ。
一つ目は、手に入れたアイテム、グレモリーの書を完成させること。
二つ目が、イベント中に山脈区域で出会った紅蒼翼竜のクリムちゃんと会うことだね。
グレモリーの書は私自身には使えないけど、アンドラスを見てたらそれだけが使い道じゃないような気がしてきた。なんとかして、活用できないかな。
まぁ、それも全ては特異浮遊大陸に行ってからだね。
ブランシュヴァリエならそのまま飛んで行けるから、特に準備するものはないかな?
っと、カノンやクラリスからメッセージが……ふんふん、なるほど。
【黒の機士団】とPvPね……くぅ、私も参加したい。したいけど、私はやることがあるから今回は辞退だね。次回があれば、是非参加したいなぁ。
みんなの魔機人を見て想像を膨らませたいというか、参考にしたいというか。
とりあえず私はやることがあるから参加できないことを伝えてっと。
えっと、パーツの耐久値ヨシ。装備ヨシ。アイテムヨシ!
じゃあ早速特異浮遊大陸に向かうとしますか。
位置的には、南から行くよりも西から行った方が近いみたい。
私は一度ホワイトハーバーへと向かい、そこからブランシュヴァリエを飛び立たせる。
距離はそこそこ離れてたけど、速度を飛ばしたおかげでかなり早く着くことができた。その分ENも消費したけど、《自動供給》で回復可能なレベルだ。
特異浮遊大陸の上空を通過しようとした時、なにか膜のような、柔らかいなにかを通り抜けた感覚がした。今のがサーバーの選別だろうか。
とりあえず、私たち第十一サーバーのみんなが暮らしていた大森林区域の拠点跡地へと降り立つ。
ここにあった建物なんかは全部回収したり取り壊したりしたからなにも残ってないけど、ところどころに生活の後が残っている。ここは、やっぱりあの時過ごした場所なんだね。
で、だ。どっちから行くべきかな。
私としてはまずはグレモリーの書を完成させてから、時間のかかりそうなクリムちゃんの住む山への訪問をしたいなって思ってるんだけど。
だって、簡単に帰してくれそうにないし……あの感じだと結構な年数生きてそうだから、この世界の昔の出来事とか知ってるかもしれないしね。
そういった情報もゆっくりと聞きたいから、クリムちゃんは後回しだ。
……さすがに、それで拗ねるとかないよね? 大丈夫だよね? なんか、心配になってきた……。
『えっと、グレモリーの書を完成させる場合、どこに行くべきかな?』
とりあえず、一番目の候補はグレモリーと戦ったあの平原だろうか。ボスを倒した場所に時間を置いて行くとなにかが置いてあるってのは、ゲームでも見たことあるし。
二番目の候補は、グレモリーが映った工場というか、コクーンの置いてあった施設だね。
私としては、ほぼ一番目だろうなとは思ってるんだけど。
というわけで、ENの回復を待つ間のんびりと休憩した後に、グレモリーとの戦闘のあった平原に向かう。
『おお、結構ボコボコだね』
あの時は周囲の景色がどうなったのかよく見てなかったけど、思った以上に荒れてるね。特に、ゲロカスビームが発射された時になぎ払われた遠くの大地がボッコボコ。
必死で避けてたけど、あの攻撃はブラッドラインじゃ受けきれなかったからなぁ……ブランシュヴァリエなら、《魔力防楯》とか機体のスペックとかで耐えられなくもないだろうけど、危険な賭けだからやりたくないね。
『さてと。目的の品はどこかな〜っと』
私は平原の上を低空飛行しながら、《遠視》スキルで地面を見ながら移動していく。どこになにがあるか分からないからね。しっかり確認しないと。
そのまま探索することしばらく。書物というか、なにかの欠片のようなものが落ちているのが見えた。
私はその地点に降り立ち、その欠片のようななにかを確認する。
[アイテム・大事なもの]グレモリーの欠片
不完全なグレモリーの欠片。本人の前に持っていけばなにかが起こる気がする。
……欠片、ね。で、グレモリーの書と同じで本人の前に持っていく必要があると。
これは、もしかして二番目の選択肢だったりするのか?
ほら、一応グレモリーは私たちが完膚なきまでに倒したわけだけど、それまでグレモリーは封印されてたのにも関わらず私たちに接触してたよね。PCというか、モニターというか、あの施設の……工房の機械を通して。
つまり、グレモリーは電子化というか、そういった能力があると? 巨大化したりビームを吐くだけの悪魔じゃなかったんだね?
そうなると、ちょっと話が変わってくるかな。
グレモリーが現在電子上の存在なら、もしかしたら私が考えてることができるかもしれない。もしそれができたら、またこのゲームでロマンの一つが完成することになるんだけど。
まぁ、それはちゃんとできてからの話だね。取らぬ狸の皮算用にならないようにしないと。
私はその欠片以外にめぼしいアイテムがないことを確認した後に、親方たちと共に試作魔機装を作った工房へと飛び立った。
親方たちへのお土産用にビールの実をいくつか採取して、攻略済みになっているダンジョンを進んでいく。
そういえば私、このダンジョン自体はちゃんと攻略してないんだよね。ボス部屋まですっ飛んでって、そこでボスと戦っただけだから。
そんなことを思い出しつつ、機体が壁に当たらないように速度を調整してダンジョンの奥へと進む。
最奥のボス部屋を通り過ぎて、コクーンが立ち並ぶ工房へと足を踏み入れた。
試しにコクーンに触れてみたけど、どうやらもうここのコクーンは使えないようだ。
いや、使えないというより、必要な電力……もとい、魔力が足りてないように見える。パネルなんかは反応してるっぽいんだけど、表示できるほどの魔力が供給されてないとか、そんな感じ。
これはいよいよ本命かもしれないね。つまり、ここの工房にここの工房の魔力を消費してるなにかがいるってことだからね。
私は動かぬコクーンを通り過ぎていって、工房の最奥へとたどり着く。
『……見つけた』
その最奥にあるモニターには、身体の半分ほどがポリゴン化してるグレモリーの姿があった。
でも、私が近付いても特に反応がない。
ふむ……これは、アイテムを取り出せばいいのかな?
私がインベントリからグレモリーの書とグレモリーの欠片を取り出すと、その二つが輝きを放つ。
その二つはやがて一つの輝きとなり、グレモリーが表示されているモニターに吸い込まれていく。
瞬間、眩いばかりの光が視界を覆う。
私は思わず目を背け、光が収まったあと、それは私の前に現れた。
[どちらのアイテムを獲得するか、選択してください]
・グレモリーの書(完全版)
・グレモリーのメモリー(完全版)
モニターの中にいた傷付いたグレモリーはいなくなっており、私の目の前にはこのようなウィンドウが表示されている。
これは面白くなってきたぞと、私は小さく笑みを浮かべるのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞ、お楽しみください。
追記:現在新しい作品を考えているので、今までのように投稿が間に合わない日が来るかと思いますが、ご了承ください。




