第百一話 VS朱雀戦⑤
朱雀戦、ラストです。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
『まずはナインさん、お願いします!』
『お願いされました!』
まずは私とアンドラスが偽朱雀と距離を取り、偽朱雀の視線をこちらに向ける。
次に、ナインさんたちのヘイトがなくなったのを確認した後に、ナインさんとカヴィザさんの魔法攻撃を発動、これを偽朱雀に放つ!
「いきますよ、カヴィザ。タイミングを合わせて」
「はい!」
「「……【二重詠唱】【アクアピラー】!」」
『がっ!?』
偽朱雀の真下、影となってる部分に四重の魔法陣が展開される。
重なり合った魔法陣から巨大な水の柱が四本、お互いを飲み込み、大きくなりながら偽朱雀へと迫っていく。
私たちにヘイトを向けていた偽朱雀は、直前にその水の柱に気付いたものの、時すでに遅し。
爆発的なまでに威力を増した弱点属性の水魔法攻撃が偽朱雀の見えざる炎を、ダメージを与えながらかき消していく。
『機姫さま!』
『分かってる!』
私は【アクアピラー】に囚われている偽朱雀を、《魔力視》スキルで確認する。
水魔法である【アクアピラー】で視界が覆われているものの、《魔力視》スキルは魔力を色で捉えるスキルだ。だから、【アクアピラー】の魔力は青く見えるし、朱雀が本来持つ魔力は赤く、偽朱雀の魔力は黒く見える。
【アクアピラー】越しに黒く見える魔力があれば、それが偽朱雀の魔力源だ。朱雀の魔力は全て【アクアピラー】で流されてるからね。
頭……なし。胸……大きい。腕……違う。足……いい御御足です。
って、そんなことを思ってる場合じゃない。【アクアピラー】が解ける前に、さっさと見つけないと。
『……あれか!』
朱雀の左脇腹の辺り。そこに黒い魔力が集まっている! 【アクアピラー】に邪魔されて、朱雀の赤い魔力をコーティングできないでいるみたいだ。
私はブランシュヴァリエソードを構えて、結晶翼とスラスターに魔力を回す。
『飛翔せよ、我が翼!』
一度真上に大きく飛び上がり、大きく旋回するようにして速度を上げていく。
さらに速く、速く! もっと先へ、一撃で偽朱雀の核を貫けるように!
『ミオンさん……さすがにそろそろ……魔力が……!』
『おい機姫さま! マスターがもう持ちそうにねぇぞ!?』
『もう少、し!』
私は残りのENを使い切る勢いで加速をかけていく。まだ【転神】を使うわけにはいかないからね。【転神】を使わずに、一番ダメージの出る方法を取らないといけない。
私の中にも、逸る気持ちはある。でも、まだ、もう少し、速く……!
『っ、魔力、が……!』
『このスピードならっ!』
最大限の加速をかけ、翡翠色の軌跡を残し、一筋の流れ星と化す私とブランシュヴァリエ。
このフィールドの最も高い場所から、朱雀の元へと突き進む。
『いっけぇ! 機姫さま!』
『穿け! 翡翠煌めく流星剣!』
『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
【アクアピラー】が切れ、私と朱雀が交差する一瞬。《魔力視》スキルで見えた黒い魔力の大元へブランシュヴァリエソードを突き立て、勢いのままに斬り穿つ。
瞬間、朱雀の頭上のHPバーが削り切れ、男のものと思われる断末魔の叫びが響き渡る。
その後、私は速すぎる自分のスピードを制御しきれずに、大きな音を立てて地面に激突した。
勢いが強すぎたのか、ブランシュヴァリエソードごと腕が地面に突き刺さっている。これは、ちょっとやそっとじゃ抜けそうにないなぁ。
『が、が、ば、バカな……俺の、計、画が……こん、な、やつら、に……』
朱雀の身体全体から、黒いモヤのようなものが噴き出していき、人の形を取ったかと思ったら、そのまま霧散していった。
気を失っている朱雀の身体から力が抜け、そのまま地面に向かって落下していく。
『よっと』
落ちていく朱雀をアンドラスがキャッチし、そのまま地面へと降ろす。私は未だに、片腕が地面に突き刺さった間抜けな姿を晒したままなんだけどね。
〈レイドボス:朱雀に取り憑く暗黒世界からの者を討伐しました〉
〈戦闘の貢献度に応じて報酬をインベントリへ送ります〉
〈戦闘貢献度が同値のため、同じアイテムを送りました〉
〈戦闘貢献度が一位のミオンに特別なアイテムを送ります〉
〈暗黒魔球を手に入れた〉
〈南の守護者を暗黒世界からの者から救いました。これにより、南の宮殿が解放されます〉
〈初回討伐報酬として南の宮殿の所有権をギルド【唯我独尊】ならびに【自由の機翼】が獲得しました〉
〈南の守護者の全てが攻略されたため、北の守護者が弱体化しました〉
〈EXアーツ【シューティング・スターソニック】を習得しました〉
おう、唐突なアナウンスが。ログが流れる……流れる……。
えっと、あの黒い魔力の持ち主は暗黒世界からの者っていう名前なのか。暗黒からのって言うくらいだから、どこかに暗黒世界なんてものがあるんだろうか……まぁ、これは今考えることじゃないね。
戦闘貢献度が同じ、ってことはナインさんと同じなのかな。アンドラスやナインさんの水魔法にはかなり助けられたから、さもありなんって感じだ。
暗黒魔球に関しては後で確認するとして、南の宮殿……つまりはこの炎の宮殿を私たちのギルドと【唯我独尊】の二つのギルドで管理できるってことなのかな?
異なるギルドメンバーを入れて攻略するとこういうことになるのか。私はただ攻略を手伝っただけだから、所有権の半分も貰ってもいいのか悩むところなんだけど。
それで、残る北の守護者が弱体化されたと……いや待てよ?
この朱雀も弱体化してなきゃおかしいよね? でも、強さ的にはセイリュウオーさんとどっこいどっこい、暗黒世界からの者も含めるとセイリュウオーさんより強かったと思うんだけど。
セイリュウオーさんと戦った時は今よりも機体が弱かったからなんとも言えないけど、それくらいの差はあるはず。弱体化なんて……。
『あ』
これは、そういうことなのか?
朱雀は確かに弱体化していた。そして、その弱体化した隙をついて暗黒世界からの者が朱雀に取り憑いたとか?
そう考えるなら、おかしいことはない。というよりむしろ、最後の北の守護者……玄武が心配になるレベルだ。
だってこれ、絶対玄武にも暗黒世界からの者が取り憑いてるよね? で、今朱雀を完全開放したからさらに玄武が弱くなって、暗黒世界からの者に乗っ取られやすくなると。
これは……【モフモフ帝国】のプレイヤーたちには伝えておいた方がいいね。後でカンナヅキさんとフルールさんにこの情報を渡しておこうか。
で、最後に新しいEXアーツか……ただ、このアーツはしばらく使うことはないと思う。
だって、使う度にこうやって地面に突き刺さってたら世話ないもんね。他のEXアーツみたいにスラスターで制御とかできそうにないもの。
できるとすれば、【転神】中……いや、【転神】中はステータスの上昇値がえげつないことになってるからさらに酷いことになりそうだ。まさに流れ星、だね。
『……あー、抜くの、手伝うか?』
『……オネガイシマス』
一通りログの内容について確認した後、アンドラスやダグザスさんに手伝ってもらってなんとか右腕を地面から引き抜くことに成功した。
右腕パーツの耐久値がかなり削れてたけど、完全に壊れてないならスキルで自動修復できるね。ブランシュヴァリエソードも耐久が1だけ残ってる。まぁ、壊れないからね。不壊だからね。
「ミオンさんも無事に抜け出せたということで、今回の攻略はなんとかなりましたね」
『今回のボスは、ナインさんたちがいなかったら倒せない強敵でしたよ』
「それを言うならこちらもですよ。ミオンさんの火力があったから一PTでレイドボスを討伐できたんです」
改めて感謝を、と頭を下げられてしまう。ダグサスさんや他のPTメンバーにも頭を下げられてしまった。お礼を言いたいのはこっちの方なんだけどね。
それに、攻略の手伝いだって元々の約束のうちに入ってたことだ。イベントフィールドの場所を教えてもらうのとの交換条件でね。
だから、頭を下げられるようなことじゃないんだけど……。
私は頬をコツコツと掻きながら、話を先に進める。
『私の方も、攻略を手伝うのが約束でしたから』
「おお、そうでした。では、例のものをお渡しします」
ナインさんからトレードの要請が来たので、受諾する。
私からはなにもなしで、ナインさん側からは一つの地図が送られてきた。
「それがイベントフィールドの場所を記した地図です。こんなものしかお渡しできないのが心苦しいですが」
『いえいえ』
『んでよ、機姫さま。この後はどうするんだ?』
話が一段落したところで、アンドラスが話しかけてくる。
そうか、君はまだ送還されてなかったのか……いやまぁ、過去はどうあれ、今では頼れる仲間だと思ってるけどね。でも君、召喚獣的な扱いだと思ってたから……。
『ナインさんから貰った地図の場所に行こうと思ってたけど……』
『じゃあ、そこで寝てる朱雀はどうするんだ?』
『あ』
そうだった。それもあったね。
暗黒世界からの者に取り憑かれていた朱雀。彼女から詳しい話を聞いておきたいところではあるけど……どれくらいの時間で起きるか分からないしなぁ。
ちらっと時計を確認すると、ログインしてからそこそこの時間が経っている。もうしばらくしたら連続ログイン時間に引っかかるから、どこかでログアウトしないとか。
「ミオンさんもログアウト時間が近いでしょうし、この宮殿には今も攻略を続けているギルドメンバーがいるはずです。というより、もう攻略の必要はないので、じきにここにやってくると思いますから、ミオンさんは戻っても大丈夫かと」
「ですねぇ。元々このダンジョンは俺らだけで攻略するつもりだったんだ。協力者であるミオンが先に帰っても、問題はないだろうよ」
「だなぁ」
「あなたには随分と助けられた。その強さ、フリーだったら僕たちのギルドに勧誘してたところですよ」
「はは。ミオンさんがうちのメンバーに、ですか。そうなっていれば……いえ、なんでもありません。今のミオンさんの強さは、今までのミオンさんの行動で培ってきたものです。私たちのギルドに入っていたら、今のように強くなることはなかったでしょう」
「それもそうですね。失言でした」
『いえいえ。気にしてませんから。それに、他のギルドの人と遊ぶのも、結構楽しかったですし……これからも機会があれば、また遊びましょう』
「ですね」
と、私たちの話が一段落したところで、このバトルフィールド――恐らく玉座の間とかそんな感じの部屋――に、ドタドタと足音を立てて誰かが入ってきた。
入ってきた人物は寝かせてある朱雀に気付くと、ほっと胸を撫で下ろして立ち止まった。
それは、ここに通じる門を守っていた近衛兵だ。
『ああ、朱雀様だ……私たちの知る、朱雀様だ。本当に、本当にありがとう。これも全ては、お前たちのおかげだ』
「いえいえ。あなたの声に私たちが応えた。それだけの話です」
『いいや。いくら感謝してもしきれないさ。このお礼は、後ほど必ずお前たちに送らせてもらおう。朱雀様も、しばらくは起きそうにないしな』
「起きるまで、どのくらいかかりそうですか?」
『そうだな……魔力の消耗が激しい。少なくとも、一日か二日は目を覚まさないだろうな』
「ですか……」
『そうだ、まだこの宮殿内にいたお前たちの仲間をあの門の先に集めている。詳しい話は朱雀様が起きてからだが、この宮殿内の部屋は好きに使ってくれて構わない。だが、無断で朱雀様の部屋には入るなよ?』
「ありがとうございます。助かります」
『では、私は朱雀様をお部屋へと連れていかねばならぬのでな。さらばだ』
そう言うと、炎をまとった女性は朱雀をお姫様抱っこして部屋から出ていく。
さて、しばらく朱雀も目を覚まさないようだし、予定通りログアウトしてこの地図に描かれてる場所に向かうとしますかね。
私はナインさんやアンドラスに別れを告げて、宮殿の外へと出る。
南の港町、レッドハーバーまで送って行こうかと言われたけど、それは丁重に辞退させてもらった。
ブランシュヴァリエなら、ここから第二の浮遊大陸まで飛んでいけるからね。わざわざ貴重な飛空艇を使ってまで送ってもらう必要はない。
私は宮殿の外でガレージを取り出し、その中で一度ログアウトした後、再度ログインしてガレージをしまう。
そのまま結晶翼を広げて、雲一つない大空に向かって飛び出した。
視界の傍らに、第二の浮遊大陸までの地図を表示させながら。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回は久々の掲示板回、そしてその次はイベントフィールドだった浮遊大陸へとむかうことになると思います。
それでは、続きをどうぞお楽しみください。




