第九十九話 VS朱雀戦③
朱雀戦続きです。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
『そらそらそらそらぁっ!』
『ふっ……!』
前門の虎後門の狼ならぬ、前門の魔機人後門の悪魔ってところかな。
朱雀もこの状況をなんとかしようと炎をまとったり、私たちから逃げようとするものの、炎は私のウォータービームガンや、アンドラスの攻撃、ナインさんやカヴィザさんの魔法攻撃で尽くが消火されていっている。
そもそも空を飛んで逃げようにも私とアンドラスが制空権を握ってるから、朱雀は満足に空を舞うこともできない。朱雀は私たちを睨みつけながら苦々しげな表情を浮かべている。
さて、と。パターン入ったから朱雀の行動パターンが増えたり、朱雀自身が強化されたりしない限りはこのままダメージを入れることはできるけど……HPバーが残り一本になってからが勝負かな。
ここまでは私たちが優位に戦いを進めてるけど、戦いの行方はまだまだどう転ぶかは分からない。朱雀の手札次第で、状況が二転三転してもおかしくないよね。
『まだまだいくぜぇっ!』
『そこっ!』
アンドラスと息を合わせながら、朱雀にダメージを入れていく。このまま行けば、残りHPバーが一本になるまでそう時間はかからないけど。どう行動パターンが変わることやら。
『……!』
『おわっと……あっついね!』
朱雀が苦し紛れに放った炎がゴウ! という音を立てて私の装甲を掠めるものの、大したダメージは入らない。仮に入っても、《自動修復》スキルの効果ですぐに耐久値が回復していく。
……よくよく考えたら、朱雀にとってこれほど戦いづらい相手もいない、か。
直接相対してる二人のうち、一人は炎のダメージをものともしない装甲と回復能力を持ってて、もう片方はそもそもの相性が悪い水で身体ができてるんだもんね。朱雀からしたら災難以外の何物でもない。
戦いづらそうに動く朱雀を視界に入れながら、ウォータービームガンとブランシュヴァリエソードを使ってダメージを重ねていく。
このままダメージを入れ続けるのが正しいのか分からないけど、なにか動きがあるとすれば残りHPバーが一本になるか、半分になるか、瀕死になるかのどれかだ。
もしかしたらHPを削っていけば、朱雀の異常の原因になったやつが現れてくれるかもしれないしね。
朱雀がおかしくなった原因がわからないからなんとも言えないところだけど、急におかしくなったって言うなら疑うべきは洗脳、もしくは乗っ取り。それも、直接体内に入って対象をなんとかするタイプのやつだと私は思ってる。
それなら、ダメージを与え続けるのは得策なはずだ。しかも満足に戦わせないようにしてストレスも溜めている。もし朱雀の中に別のなにかが入っているなら、相当頭にきてるはずだ。
それこそ、いつ爆発してもおかしくない。
『っ、HPバーが一本になりました! 警戒を!』
『分かってるさ!』
『了解です。そちらも気を付けてください』
アンドラスとナインさんたちに注意を促す。朱雀の残りHPバーは一本。さて、どう出る?
HPバーが一本になった瞬間に、動きを止める朱雀。そして、"それ"は現れた。
『ふっっっっっっざけやがってぇぇぇぇぇぇっ! どうして俺様に気持ちよく戦わせない!? せっかく上等な入れ物を手に入れたってのによぉぉぉぉぉっ!?』
朱雀が、吼える。
その声は見た目通りの女性のものだけでなく、男のような声と二重になって聞こえてきた。
"それ"の怒りに呼応するように、激しく噴き出す炎。
『それに、てめぇ!』
『あん?』
ズビシ、と効果音が鳴りそうなほどの勢いでアンドラスに指さす朱雀の中にいる"なにか"。
当のアンドラス本人はなんで指をさされたのか分かっていないようで、きょとんとした表情を浮かべている。
『てめぇだよてめぇ! 悪魔のくせして、なんで人間の味方してやがんだよおい!』
『いや、悪魔だからだろ?』
『はーーーーっ、意味わかんねぇ……聞いてた話とちっとばかし違うんじゃねぇかなぁ……悪魔が敵対するなんて聞いてねぇぞ……』
その場で頭を抱える朱雀の中の"なにか"。この際、偽朱雀でいいかな。
そして、偽朱雀は結構な情報を落としてくれたね。
悪魔のくせして、なんで人間の味方を、か。確かにアンドラスも最初は人間の敵だったけど、本になってナインさんと契約したことによって今のアンドラスになったんだよね。
偽朱雀サイドだと悪魔は人間の敵で、悪魔サイドだと悪魔は人間の味方……いや、この場合は契約した悪魔サイドって言うべきなのかな。
悪魔と他の種族の関係はまだイマイチ理解しきれてないけど、今のアンドラスの状態が本来の悪魔の在り方なんじゃないかなって思う。
つまり、人間の味方ってわけなんだけど。
でも、今の悪魔は人間の敵だ。どうしてそうなってるのかは分からないけど、今はそういうものだと納得するしかないね。
まぁ、その話は置いておこう。今は、戦いが優先。朱雀をおかしくさせた元凶である偽朱雀が表に出てきてくれたんだ。これで心置きなく戦えるってもんだよね。
偽朱雀は頭を掻きむしりながら変な声を上げていたけど、ふっとその動きが止まる。
そして、ゆらりと感情を感じさせない顔を私たちに向けた。
『まぁ、いい。いいんだ。ああ、いいさ。悪魔が敵でも関係ない。どうせ悪魔はその程度の存在だ。我々の足元にも及ばない。その存在を考慮するだけ無駄だ。我々のやるべきことは、我々の城に侵入してきた不届き者を消去すること。悪魔であろうが人間であろうが、関係はないのだ』
偽朱雀はぶつぶつと感情を感じさせない言葉を呟きながら、ゆっくりと、ゆっくりと両腕を天に翳す。しかし、その手のひらから炎は噴き出していない。
なにをするつもりなのか。私やアンドラスが警戒しながら偽朱雀の様子を確認して――
不意に、眼前が真っ赤に染まった。
『――っ!?』
突然《直感》スキルが発動したようで、私は何も考えずにその赤い警告に従って身体を逸らす。
そこには何もない。何もないはずなのに、炎が通り過ぎたような熱気を確かに感じた。
『ぐっ!?』
その不可視の攻撃はアンドラスにも届いたようで、突然アンドラスの左肩が爆散して水蒸気に変わっていった。
私はこのままここにいると危険だと判断して、偽朱雀から距離を取る。
アンドラスも同じ判断なのか、水魔法を供給しやすいようにナインさんたちの方へと下がっていた。
ちらりと眼下を見れば、ナインさんを守るようにして吹き飛ばされたダグザスさんの姿がある。ダメージはそこまで大きくなかったのか、それとも手にした両手剣で弾いたのか。
ペルベルさんが回復魔法を使っているから、死に戻ることはないだろうけど……。
『消去する。消去、消去、消去だ』
偽朱雀がぶつぶつと言葉を呟く。
そして再び、不可視の炎と思われる攻撃が襲いかかってくる。
《直感》スキルの警告に従って偽朱雀の攻撃を避けていくものの、全てを避けられるわけじゃない。どうしても避けきれない攻撃が増えていった。
どうやら不可視の炎の攻撃は通常の炎よりも威力が高いようで、掠っただけでもそこそこのダメージを貰ってしまう。ブランシュヴァリエでこのダメージ量だと、DFFやMDEFが低い人はかなりのダメージをくらうことになるかな。
まぁ、偽朱雀の攻撃が物理なのか魔法なのかっていうところではあるんだけど……十中八九魔法攻撃扱いだと思ってる。
自身のパーツの耐久値が《自動修復》スキルで回復していくのを尻目に、私はアンドラスと並び立つ。
アンドラスは近付いてくる私の姿を認めると、話しかけてくる。
『おい、シャレになんねぇぞあの攻撃は。機姫さまは大丈夫か?』
『まあね。これでも防御力には自信があるから。でも、今以上にあの攻撃をされたら厄介かな。スキルでも見切りきれないし……』
『ちっ。魔法攻撃だとは思うんだがな……見えないってのが厄介だぜ。せめて、魔力が見える瞳さえあればなぁ』
『魔力が見える瞳ねぇ……ん?』
魔力が見える瞳? あれ、どっかで聞いたことがあるような……って、ああ! 思い出した!
使う機会がなさすぎてすっかり忘れてたけど、あるじゃん、魔力を見えるようになるスキルが!
そんな、何かを閃いたような私の様子を見て、アンドラスは口を開く。
『何かあるんだな? なら、あの不可視の攻撃は機姫さまに任せるぜ。このままだと攻撃をくらい続けてジリ貧だからな。頼んだぜ?』
それだけ言うとアンドラスは、翼を翻してナインさんたちの元へと戻っていった。
さて。なら私は私ができることをやりますか。
私は偽朱雀に向きなおって、一つのスキルを発動した。
『《魔力視》スキル、起動!』
――この戦いの終わりも、着々と近付いている。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
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