第九十七話 VS朱雀戦①
朱雀戦の続きです。
それでは引き続き本作品をお楽しみください。
さて、改めて現状の確認といこう。
ナインさん率いる私たちのPTは、この炎の宮殿の最奥で恐らく最後のボス、朱雀との戦闘に入っていた。
今までの(と言っても私は青龍攻略にしか関わってないけど)四神攻略とは少し違う形での戦いなることは間違いない。
なぜなら、私の知っている限り、四神の名を持つボスは基本的にその名の通りの姿かたちをしているからだ。
その姿の四神と戦い、一定条件を満たすことで真なる姿を現し、それを打倒することでそのダンジョンを真にクリアしたことになる。
が、今回の朱雀はどうやら最初から真の姿を現しているようだ。それも、正常ではないというおまけ付きで。
どうやって正気に戻すのか、そもそもこのまま戦うのが正解なのか分からないところだけど、まずはHPバーを削って朱雀の様子を見るしかないね。
『で、機姫さまは俺をどう扱うつもりだ?』
『どう……か。とりあえず、朱雀の身を守っている炎をなんとかしないとまともに攻撃が入らないのは確かだよね』
私の隣に浮かんでいる、全身が水で作られたナインさんの契約悪魔……って言っていいのか分からないけど、ナインさんをマスターと呼ぶ悪魔アンドラス。
水魔法を供給することで、MPが枯渇するまでほぼ無限に戦えるその力を活かさない手はない。
あの炎さえなければこっちの攻撃が通るのは確認済み。もしアンドラスの水を使い果たしてしまったら再召喚まで三十分もの時間がかかってしまう。待てないほどではないけど、現状あまり時間を無駄にしたくないのも事実だ。
『つまりとりあえずの役割としては、あの邪魔くさい炎をなんとかするだけってことか?』
『まあね。隙を見て攻撃もしてほしいところだけど、下手に攻撃して水魔法の供給が届く前に消えられても困るし』
『ははは。まぁその可能性は否定できないな。いいぜ、ひとまずは機姫さまの作戦に乗ってやるよ』
『助かる。なら、タイミングは全部そっちに任せるよ』
『へぇ……ま、それでいいならいいけど』
アンドラスはなにか面白いものでも見つけたように私に視線を向けてくる。
私はその視線から逃れるためにアンドラスとは反対側……つまり、朱雀の背面、翼側へと回り込んだ。
正気を失っている朱雀は目の前のアンドラスと背後の私を見回し、アンドラスに集中することに決めたみたい。ヘイトはなるべく私に向けておきたかったけど、こればっかりは仕方ないか。
「カヴィザ、アンドラスから少し離れた場所にアクアボールを浮かべてください」
「分かりました。【二重詠唱】【アクアボール】!」
地上ではアンドラスに水魔法を供給するために、カヴィザさんの【アクアボール】を空中に留めておく作戦に出たようだ。
【二重詠唱】アーツを駆使しての連続詠唱。いくら初期魔法である【アクアボール】とは言え、これだけの数を生み出して維持するのはそれだけでMPが尽きてもおかしくないはず。さすがはトッププレイヤーのギルドってところかな。
『んじゃあ、早速行かせてもらうぜ!』
アンドラスは水の翼を翻すと、凄まじい速度で朱雀の正面から突撃する。
朱雀側もそれに慌てることなく、アンドラスの動きを読んで炎の塊を連続で放っていく。さっき私に向けた豪炎球よりかは威力の劣る豪火球だけど、それでも視界を埋め尽くすほどのその数は脅威だ。
『はっ、しゃらくせぇ!』
だが、アンドラスは自らの身体が水でできていることを活かして、その豪火球の嵐をぬるりぬるりと避けていく。なによりも恐るべきは、速度を落とさないまま全ての豪火球を避けたところだろうか。
改めて、どんな形であれ悪魔とは戦いたくないなと思いつつ、今は味方であるという事実に感謝する。
朱雀の眼前まで肉迫したアンドラスは、その身を守ろうとする炎の盾に向けて拳を振るう。
その拳の威力は思った以上にあったみたいで、朱雀のHPバーが目に見えて減少する。そして、朱雀の身を守っていた炎の盾が消滅した。
減ってしまった自身の体積を元に戻そうとアンドラスは展開済みの【アクアボール】に触れようとし、朱雀はそれを防ごうと右腕に炎を溜める。
『そこっ!』
だけど、その好機を逃す私じゃない。
腰から抜き放ったブランシュヴァリエソードで、がら空きになった朱雀の背中を切り付ける。さらに返す刃で左の翼も切り上げ、私はスラスターを噴かせて離脱した。
さすがに背中を切られてそのままというわけにもいかないのか、朱雀はアンドラスへの攻撃を中断して私に向き直る。
その手のひらを私に向けるものの、朱雀の背中側にはアンドラスの笑みが浮かんでいた。
『がら空きの背中は狙わせてもらうぜ!』
先程と同じ要領で瞬時に間合いを詰め、勢いの乗った蹴りを朱雀の背中へとぶち当てる。
再び意識が背中側に向いたところで、私はすぐさま距離を詰めて朱雀の胴体に向けてブランシュヴァリエソードを振り下ろす。
ギリギリのところでクールタイムがあけたのか、炎の盾が復活して私の振り下ろしを防いだものの、ここまでの一連の流れで朱雀のHPバーは十分の一ほどが削れていた。
これだけやってもその程度なのかと思わなくもないけど、相手は本来レイドPTを組んで挑むレイドボス。
そのレイドボス相手に一PTで挑んでる時点で頭が悪いとしか思えないけど、一PTが与えたダメージとしては破格のダメージ量だろう。
アンドラスの攻撃が弱点属性だということも考えると、もっと削れてもおかしくはないけど……そこまでは高望みかな。
それに、ブランシュヴァリエソードで与えたダメージも馬鹿にならない。
魔力武器で与えるダメージは耐性を抜きにすると一定だけど、実剣であるブランシュヴァリエソードは私のステータスによってダメージが変わる。
ブランシュヴァリエソードで与えるダメージが多いってことは、それだけ私の攻撃力……ATKの値が高いってこと。
うん、やっぱり実剣タイプの武装は作って正解だね。魔力武器には魔力武器の強みが、ブランシュヴァリエソードにはブランシュヴァリエソードの強みがあるってことだ。
こうなると、今度作る予定のアレにはどっちも搭載した方がよさそうだけど……その話は今は置いておこうか。
『おらおらおらおらぁ!』
『そこっ!』
パターンに入った。私とアンドラスが前と後ろから攻めたて、着実に朱雀のHPバーを削っていく。
時折ヒヤリとさせられる攻撃を放ってくるものの、私はブランシュヴァリエの機動性に助けられてノーダメージだ。
アンドラスは多少ダメージを受けても空中に浮かぶ【アクアボール】に触れることでダメージを……身体を構成する水の量を増やせるので問題はない。
朱雀の攻撃は、苛烈だ。
パターンに入ったからといって油断はできない。ほんの少しの気の緩みが負けに繋がるのは、今までの攻撃でよく知っている。
そして何度目かの私の攻撃が通った時、朱雀の行動に変化があった。
朱雀のHPバーが削れ、一本目の半分を切った瞬間、フィールド内を熱風が駆け巡る。
『ちっ……ってぇな』
『強制的に距離を置かされたね……なにかしてくるかな』
私とアンドラスはチリチリと焼けつく熱風に思わず退避し、朱雀の様子を窺う。
すると朱雀は大きく翼を翻し、両の手のひらを左右に突き出した。それぞれの手のひらに今までで一番大きな炎が宿り、そこから極太の炎が噴き出す!
私はその炎を横にズレることで回避し、アンドラスもまた同じ選択を取った。
が、朱雀はその炎を噴き出したまま、回転を始める。
ちょっ、まさかの炎のローリングバ〇ターライフル!? あなたはどこのゼロさんですか!
あれはくらったらマズいと、私は一旦上空に避難する。アンドラスにもあの攻撃をくらったらいけないことが分かったのか、私と同じく上空に避難した。
炎の勢いは徐々に強くなっていき、ローリングの威力もまた馬鹿にならないほど上がっている。
既に空中に浮かんでいた【アクアボール】は全て壊されており、地上にいるナインさんたちもあまりの炎の勢いに手が出せない状態だった。
私たちは朱雀のローリング攻撃が終わるのを、静かに待つことを選択する。
しっかし、ローリングバ〇ターライフルもどきかぁ……優秀なMAP兵器であり頼れる攻撃技だよね。見た目はシェ〇ロンとかアル〇ロンの火炎放射なんだけどさ。
私は朱雀の腕が伸びてこないことを祈りつつ、じっとローリング攻撃が終わるのを待つのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
続きもどうぞお楽しみください。




